生贄
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狐面どもの襲撃を返り討ちにしつつ、竹林を進みアジトを目指す。
ジジイが文字通り斬り開いた道を辿っていくだけだから迷うことはない。
「あ、なんか光ってる竹があるんだけど」
「……中からちっさい姫にでも出てこられても困るから放っておこう」
「はぁ、しっかしずっと戦いっぱなしで些か腹が空いてきたのぉ」
「梶川君や、飯はまだかのぉ?」
「あらやだじいさん、おととい食べたでしょ」
「毎日食わせろwww」
「はっはっは、俺を耄碌扱いか。介錯したるからお主らそこになおれ」
竹林を進みながら、下らない冗談を交えつつ雑談。
ネタが通じるあたり、やっぱ吉良さんは俺の知っている日本と同じところからきたようだ。
そしてそれに対して半笑い半ギレのジジイ。悪かったから剣をしまえ。
竹林を抜けると、いくつもの鳥居が並び続く道が現れた。紅く艶のある綺麗な鳥居だな。
ただ、ジジイの斬撃のせいで全て真っ二つに斬り落とされてしまっているが。台無しである。
……それにしても、さっきから魔力や生命感知が上手くはたらいていないのはなんでだろうな。
魔力や生命力がかき乱されている、というよりもまるでどこかに吸い寄せられているようにも感じるんだが、なにが原因なんだか。
「さて、いよいよ本拠地のようじゃが、……惨いな」
「へ? むごいって、なに、が………」
スパーダのジジイが顔を顰めながら呟き、それを聞いた吉良さんがあたりを見回した後、固まった。
鳥居の周りには、遺体が積み上げられていた。
老若男女問わず皆血塗れになって、息をしている者は一人としていない。……えずきそうだ。
「う、お、おえぇぇ……!!」
目の前の惨状に耐えられなかったのか、吉良さんが吐いた。
無理もない。俺も今すぐ吐きそうなくらいだし。
「吉良よ、お主は竹林で待っておるか? 無理はせんでよいぞ」
「ゲホッ、ケホッ……! い、いや、行くよ。こういう状況で一人になるの死亡フラグだし……」
「これをやったのは、あの狐面どもかの」
「さっきの襲撃の時に生贄がどうとか言ってたし、多分この人たちもあいつらに……」
「なんの生贄だってんだよ、クソったれどもが……!」
「……一匹たりとも逃がさんぞ」
この光景を見るまで、飄々とした態度しか見せていなかった吉良さんの顔が怒りに歪んでいる。
ジジイのほうも落ち着いているように見えて、怒気を抑えきれていない。今にも剣を抜きそうだ。
鳥居を潜りながら先へ進むと、日本にもあるような神社が見えた。
ジジイの斬撃で真っ二つになって崩れた拝殿の先には、九つの鰹木が並ぶ立派な本殿があった。
本殿に祀られている丸い手鏡に、狐面どもが土下座しながら祈っているのが見える。
あの鏡が、周囲の魔力や生命力を吸い取っている大本のようだ。
「……あいつら、なにしてんだ?」
「あの鏡に向かって祈っておるようじゃが、アレは……?」
「! 奥から誰か出てくる」
目を細めながら狐面たちの様子を物陰から眺めていると、本殿の奥からひたひたと表へ歩く人影が見えた。
和風の着物、いや、中華風のドレスのような服を着た、金髪の美女だ。
ソレの姿を見ただけで、総毛立った。
あまりの美しさに、ではない。
あまりの、悍ましさにだ。
「な、なんて美しさだ……!」
「吉良? ……どうした、目が据わっておるぞ。おい、吉良!?」
フラフラと光に誘われる蛾のように美女のほうへ向かおうとする吉良さんを、ジジイが羽交い絞めにして無理やり止める。
あんなところに一人で飛び出していくなんて自殺行為だ。いくら残念な吉良さんの行動にしても、あまりに軽率すぎる。
「爺さん離してくれ、行かなきゃ」
「アホか! このまま出てったら逝くのはあの世のほうじゃっつーの! 若いの、お主も止めろ!」
んー、見た感じ洗脳に近いカタチで魅了されてるっぽいか? ステータスが確認できんから確信できんが。
殴って気絶させてもいいが、そうなると狐面たちにとっていい的になっちまう。どうしようか。
あ、そうだ。状態異常耐性付与のイヤリングを着けてみるか。俺は抵抗値がアホみたいに高いからアレぐらいの魅了効果なら無効化できるだろうし。
イヤリングを外し吉良さんの耳に着けると、虚ろだった目に光が戻った。
「おお……うつくs……あら?」
「正気に戻ったか、この助平めが」
「どうやらあの金髪の女性は、周囲の対象に魅了効果をもたらすようだ。一目見ただけでさっきの吉良さんみたいになるみたいだな」
「め、面目ない……」
「ふむ、そのイヤリングのおかげで正気に戻ったようじゃな。吉良、絶対に外すでないぞ」
「了解ー……つーかアンタらはなんで平気なんだよ」
「俺は状態異常に対する耐性が強いみたいなので」
「俺は先に逝った妻以外の女には興味ないでの」
「爺さんは単に枯れてるから反応しなかっただけじゃねぇのか?」
「ぬかせ」
益体のない会話をしつつ、再び身構える。
奥から出てきた女性が、祀られている手鏡を見て機嫌良さそうに微笑んだ。
「ふぅむ、順調に溜まってきておるな。この分ならば、あとわずかな生贄で事足りよう」
聞き取りやすくよく通る、それでいて透き通るように澄んだ声。
なのに、この声を聞いているだけでひどく不安な気分になってくる。聞いていて微塵も安心感を得られない。
こんなに穏やかで、かつ不快な声は魔王以来だ。
土下座していた狐面の一体が、顔を上げて金髪女性のほうを向いた。
恐る恐るといった様子で、口を開く。
「モ、申シ訳ゴザイマセン。我ラノ力不足デ、極上ノ生贄三体ヲ未ダニ……」
「かまわぬ。そう自分たちを卑下するな、お前たちはよく働いてくれている。わらわはお前たちの働きを評価しておるぞ、褒めて遣わす」
「モ、勿体ナイ御言葉デアリマス……!!」
感極まったように、震えながら歓喜の言葉を漏らす狐面。
……どうやら、この女性のために生贄と称してさっき見た死体の山を築き上げたようだな。
反吐が出る。
「だから、早くその木陰に隠れておる三匹を生贄として捧げるがよい。仕留めたものには、褒美をとらせるぞえ」
……バレテーラ。
仕方ない、殲滅戦開始といきますか。
今度はお前たちの死体を積み上げてやる。
~~~~~剣王デュークリス視点~~~~~
「はぁぁぁああ!!」
「……素晴らしい。歴代剣王の中でも、ここまでの使い手はお前だけであろうな」
長い。
長い、永い。1秒が長すぎる。
ネオラ君の話では、魔王は魔王城以外の場所ではたった数分しか活動できないという制約があるらしい。
一定時間を超えると身体が朽ち始めて、最後には消滅してしまう。
つまり、今私がするべきことは時間稼ぎだ。
タイムリミットまで、ひたすら魔王と攻防を続けることが私にできること。
魔王を見るまでは、そう思っていた。
「だが、それはあくまで人間にしては、だがな」
「っ!? ぐぁぁああっ!!」
魔王が、私に向かって腕を振るった。
それだけで、全身が粉々に砕け散りそうなほどの衝撃が襲ってきた。
アルマ、レイナ君、ヒヨ子君、ラディア君、アラン君、バレド君にラスフィ君。
自分で強化できない代わりに、彼らの手であらかじめ『気力強化』を受けた状態でこの戦いに臨んだ。
おかげでかつてないほどの力が全身に漲っている。能力値にしておおよそ15000ほどだろうか。
彼らの協力が無ければ、とっくに私は死んでいただろう。
だが、それほどの力があってなお、実力差は絶望的だ。
能力値に差があるだけならば、技術と経験でいくらでも埋められる。
産まれて日が浅く、強大な能力値と高レベルの戦闘スキルを取得しているだけの相手ならば、私でもなんとか戦えるだろう。
しかし、この魔王は、明らかに戦い慣れている。
剣王である私よりも、遥かに。
「燃えなさいっ!!」
ルナティが上級精霊クトゥグァを召喚し、さらにマスタースキル【パラレルマジック】により攻撃魔法を数十発同時に放った。
ルナティも気力強化により、元々とんでもない火力の魔法をさらに数倍にも威力を高めている。
命中すれば、いかに魔王といえどもただでは済まないだろう。
「ふむ、こちらの『大魔導師』も侮れぬ」
「なっ……!?」
「おそらく、お前たちが現時点での人類最強であろう。これほどの使い手は、余も俺も知らぬ」
涼しい顔をしながら、獄炎の弾幕を潜っている。
バカな、髪の毛一本すら燃えていない。全ての魔法を、見切っていなしているというのか。
「さて、もう少し楽しみたいところではあるが、あまり時間をかけている余裕はないのでな。……消えよ」
「ぐぅぅっ……!!」
「かッ……アッ……!?」
気付けば、私とルナティの首を掴まれ持ち上げられていた。
は。速すぎる、強すぎる……! こんなバケモノとどう戦えというのだ……!!
……アルマ。どうやら、私たちは帰れそうにないようだ。
「あ……なた……!」
「ああ……!!」
「……む」
だが、この災厄は、この場でなんとしてでも滅ぼそう。
お前の、これから歩く未来のために。
「く……たばれ……!」
「ああ、一つ言っておくが、自爆はできんぞ」
「……っ!?」
「『装備者の死』に反応して起爆する魔道具がお前たちの奥の手であろう? その程度、想定内だ」
床に、カランと自爆効果付きの首輪が落ちた。
なぜ、外れている、いつ、外されたのだ……!?
「悪いが、その尊い自己犠牲に付き合うほど酔狂ではない。では、さらばだ」
首を握る力が増していく。
ブチブチと、首の中の何かが千切れていくような音を感じる。
縊り殺されるまで、あと、1秒ほどかな。
………済まない、アルマ。
情けなく、なにも成し得ず死んでいく私たちを、許してほしい。
『ガァァァァァアアアアアッッ!!!』
声が、宮殿に響いた。
聞き覚えのある、竜の咆哮。
「ぐぉぁああっ!?」
「きゃあぁあっ!!」
「むっ……」
凄まじい衝撃が、私たちごと魔王を襲う。
その際に首から魔王の手が離れ、ルナティとともに壁に叩きつけられた。
先ほどの声は……。
「……ほう、そちらから来るとはな。御足労痛み入る」
『貴様こそ、魔王ならばホイホイ出歩いたりせず城に引きこもっておれ!』
「……ふ」
フィリエ王国の守護竜、ブラックドラゴンの姿がそこにはあった。
……まさか、彼に助けられる日がこようとはな。
「お前一頭で、余に敵うとでも?」
『いいや、無理じゃ。魔王なんぞと一騎打ちなど、こちとら願い下げじゃい阿呆』
「ほう、ならば……」
「お前の背に乗っている、『もう一人の剣王』が相手になるというのか?」
お読みいただきありがとうございます。
>頑張れ魔王!アルマちゃんが結婚できるかは君にかかっている!(かなり真面目に)
遠回しにアルマパパに死ね言ってて草。
まあ、下手したら本当に死にかねない状況ですが、さて。
>前勇者は魔王に転生したはいいものの、―――
現時点では、魔王の人格に前世の記憶と知識、あと戦闘経験なんかが受け継がれている状態ですね。
極稀に勇者としての精神が表に出ることもあったりなかったりですが、基本的には魔王ベースです。
あと、類は友を呼ぶというのは、今のカジカワの状況にピッタリですね。はい。
>1万超えてるのかぁ…―――
なお魔王は素で1万余裕で超えてる模様。
梶川が今向かったとしても、また返り討ちに遭うだけでしょうねー……。
>羅針盤、ジャックのコンパスかな?―――
一長一短でしょうねー。汎用性の高さはこちらが上かもしれませんが、デメリットがデカいし。
あとあのコンパスはなんというかロマンがあるので。やっぱこっちのが下位互換だわ。間違いない。
>アルマの御両親の場合、第一形態と第二形態はどちらも同じ相手が対象だった。―――
>なろう読んでる年齢層で―――
御両親の場合、同時はまだ鬼先生と戦ったことのなかったので、第一形態はタダのクッソ強いだけのドラゴンだったりします。第二形態はロリアルマ。
あと例の包帯男の元ネタ知っている人が居て謎の安心感。小さいころにあんなもん見たら普通にトラウマですよねー……(;´Д`)
>以前「再びメニュー機能を使用可能になるのはおよそ半月後」と魔王が言っていた―――
御両親たちのいる世界では、カジカワがハツ抜かれてから既に13日経過しています。
カジカワのほうは、また後のお話でどういう時間経過しているのかお伝えいたしますが、なんというか現時点では説明が難しい、非常にややこしい状況になってたり(;´Д`)




