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動き出す、それぞれの世界の状況

新規の評価、ブックマーク、誤字報告、感想をいただきありがとうございます。

お読みくださっている方々に感謝します。



いきなり斬りかかってきたジジイを、後からついてきた黒髪の壮年男性が諫めて止めた。

後頭部に手を回し、笑いながら謝ってくるジジイ。なにわろてんねん。



「やースマンスマン、ちと血気にはやりすぎたかのぉ、ははは」


「いきなり人に向かって斬りかかっといてその謝りかたはねぇだろ爺さん……」


「いや失敬。じゃが、実際この若いのが急に現れた時は肝が冷えたわい。これまで楽勝ムードで戦っとったのに、いきなり桁違いのバケモンが出てきたらそりゃ焦るじゃろ」



誰がバケモンだ。謝る気ゼロかこのジジイは。



「まずは自己紹介からかのぉ。俺は『スパーダ』。フィリエ王国っつー国で長年働いとった、ただのジジイじゃ」


「アンタのようなただのジジイがいてたまるか。……つーかどこだよそれは」


「んん、まぁお主は知らんじゃろうなぁ。『吉良』はウチんトコとは別の出身っぽいしのぉ」



フィリエ王国って、第5大陸をおさめてる国だったよな。

ってことは、元々あの国で働いていた元軍人かなにかか? 元気すぎるだろ。

いや、待てよ? 確かあの国になんか齢90超えの元剣王がいたとかなんとか聞いた覚えがあるけど、まさか……。



「吉良は知らんじゃろうが、『21階層』から来たのなら、お主は俺と同郷じゃないのかえ? 見た感じは吉良に似ておるが」


「あー、確かに日本人っぽいけど、……21階層って、なんの話だ?」


「……あの扉だらけの場所のことか? 色んな世界に繋がっているようだったけど、あそこは21階層というのか?」


「む? お主、ダンジョンを攻略してここまで辿り着いたのではないのか?」


「そのへんだが、俺にもよく分からん」



とりあえず、俺がパラレシアから来たということを易々と話していい相手か分からないので、しらばっくれておく。

いきなり斬りかかってくるサイコパスジジイなんかそう簡単に信用できぬ。



「むぅ、ということはやっぱ吉良の同郷かのぉ」


「アンタ、日本人じゃないのか? 名前は?」


「……梶川光流。残業帰りに車で仮眠してて、起きたら別の世界に飛ばされてた。アンタの言う日本と同じ場所かは分からないが、日本人だ」


「なんじゃ、やっぱり吉良んとこの世界の人間か。俺だけのけものかいな、およよ」


「ウソ泣きすんな爺さん。きめぇ」



嘘は言ってない。ただ、それは大分前の話だけどな。



「おっと、次はオレの番だな。オレは『吉良一也(きら かずや)』だ。オレも気が付いたらこの世界に飛ばされてた。つーか他にも色んなトコにいつの間にか飛んでたりして、オレ氏激しく困惑中」


「その割には随分余裕そうじゃがのぉ」


「全然余裕じゃねぇよ! 何度死にかけたと思ってんだよ! ああもう、早く帰ってグッスリ寝たいよ……」


「じゃが、お主も中々芸達者じゃないか。攻撃魔法や格闘術に体術に槍術。どれもかなりのものだったぞ」


「色んな世界巡ってるうちに、気が付いたらどんどん人間離れしていっただけだっつの。……もしも日本に戻れたら、軽く無双できそうでちょっと楽しみではあるけどな。まあ、この歳であんまりはしゃぐのも考えものだろうけども」


「せめてあと30歳くらい若けりゃのぉ」


「それならもういっそのこと生まれ変わりたいよオレぁ。イチからやり直したい。切に」



ん? この吉良ってオッサン、攻撃魔法や格闘術のスキルを持ってんのか? いやスキルとは別の力か?

ちょっとステ確認。………?


≪スタータス情報の取得に失敗。情報を遮断されている模様≫


え、このオッサンもアナライズ・フィルターみたいに、ステータス情報を他者に見せないための装備でも持ってんのか?


≪情報が遮断されているために不明≫


ふーむ、ノリが軽いからなんとなく信用しそうになるが、一応警戒はしておくか。




「さて、自己紹介も済んだことだし、今後の方針を決めるとするかのぉ」


「日本に帰りたいです。切に」


「自分でなんとかせんかボケ。若いの、お主はどうするつもりじゃ?」



真顔で帰宅を希望する吉良さんを一蹴しながら、ジジイが俺に話をふってきた。

落ち込むなオッサン。涙拭けよ。



「少し探索してみて、使えそうなもんがあったら持って帰りたい」


「使えそうなもんって、いわゆるアーティファクトやオーパーツみたいな不思議なアイテムのことか?」


「そんなところかな」


「オレもいくつか持ってるけど、どれも死ぬ思いで手に入れたもんばっかだったぞ。またさっきの狐面が襲ってくるかもしれないし危険だろ」


「そういうお主はどうするつもりじゃ?」


「なんとか帰る手段を見つける」


「その方法も分かっとらんじゃろうが」


「……どちらにせよ、あたりを探索しないことには始まらないから、ひとまず歩こうか」



俺とジジイは21階層から来てるから帰ろうと思えばいつでも帰れるけど、吉良さんはなぁ。

置いていくのも気の毒だし、一緒に行動できるところまでは同行するとしようか。




「さっきの狐面の気配はしないな。また何十体も出てこられても困るが」


「何十体って、全部倒したのか?」


「いや、逃げた。一体一体がかなり強いし、さすがにあの数相手に戦うのは無理だ。逃げ回ってるうちにあの爺さんが援護してくれてな、あっという間に全滅させちまったよ」


「ふん、肩慣らしにもならん雑魚ばっかじゃったがな」



やっぱこのジジイは相当な実力者みたいだな。

実力的には、アルマパパと同等くらいか? とんでもねぇなオイ。



「いやアンタが強すぎるだけだろ。今まで見てきた中でぶっちぎりじゃねーか」


「そうでもないぞよ。この若いのなんか、俺の剣を手刀で受け止めおったからな」


「は? あんた、さっきの狐面たちの武器をまるで羊羹でも切るようにスパスパ斬りまくってただろ? それを、手刀で?」


「若いの、お主もなにか不可思議な能力を持っておるようじゃな。それも、スキルとは別起源の」


「……色んな世界を回ってるんだ。身を守るための芸の一つや二つ身に着くさ」


「あー分かるわー。オレも世界を渡るたびにどんどん人間離れしていってるしなー。……はぁ」


「この若いのはお主の比じゃないくらいヤバそうじゃがの」



なんかオッサンが親近感丸出しで共感してきてるんですが。……嫌な共感のされかただ。

でも、身を守るために、自分の目的を果たすためにアレコレ試行錯誤しているうちに、気が付いたら周りからバケモン扱いされるくらい非常識な力を身につけてしまった気持ちはよく分かる。

……どれだけ強くなったつもりでも、魔王には及ばないんだけどな。



だが







「死ネェイ!!」



さっきから接近してきていた気配の主が、短剣を俺の首めがけて振り回してきた。さっきの狐面の仲間か。

それを軽く避けて、頭を掴む。



「お前らごときに後れを取るほど、弱くもないぞ」


「アビャバガッ!!?」



掴んだまま、至近距離で魔力パイルをぶっ放して頭を弾き飛ばす。

人型だけど、どうやら人間じゃなさそうなので特に殺すのも躊躇する必要はない。




「……他にも何体か近付いてきとるのぉ。懲りないやっちゃ」


「え、い、今、なんで頭が弾け飛んだんだ?」


「さっき使っとった不可視の杭打ちじゃろ。またけったいな技を使うもんじゃ」


「杭打ち? ……あれか、いわゆるパイルバンカーってやつか?」


「……まぁな」



どうやらこのオッサンもその手のネタが分かる人みたいだ。パイルバンカーとかドリルとかなんか惹かれるよね。

おっと、それより周りの雑魚を掃討しますかね。














~~~~~デュークリス(現剣王)視点~~~~~















「……分かった、すぐに向かう」



通信魔具のスイッチを切り、剣を抱える。

……ついにきてしまったか。




「ルナティ、教え子たちを集めてくれ。ネオラ君たち以外全員だ」


「……あなた、さっきの通信、まさか……」


「ああ。……予想より少し早かったな」



ルナティも珍しく緊張した面持ちで声をかけてきた。

……下手したら、今日死ぬことになるかもしれないのだから当然か。



「どうかしたのか?」


「アンタらが冷や汗をかくなんて、珍しいこともあるもんだね」



アラン君とヒューラ君が怪訝そうな顔で問いかけてきた。

無理もないさ。なにせ、遥か格上の相手と戦うのは本当に久しぶりのことなのだから。


恐怖からか、それとも武者震いか、ルナティが教え子たちを集めている間も、身体の震えが止まらない。

それを見かねたのか、ガナン君が心配そうな顔をして声を口を開いた



「お、おい、マジでどうしたんだよ。剣王様ともあろう人が、らしくないぜ」



少し間をおいてから、重い口を開いた。












「第5大陸のフィリエ王国、王都ペンドラゴンに、魔王が現れたらしい。……すぐに向かわなければ、また国王様が殺されてしまう」


お読みいただきありがとうございます。



> ……この狐面が魔王の前世じゃねーよな?


魔王「知らないコン。人違いだコン」

……真面目に答えるとただのモブです。失敬。


>スパーダ…ああ、ここにいたのか―――


謎の老剣士スパーダ……いったい何者なんだ……(棒


>ノブノブの次はまさかのヤッスーが登場した!!―――


ちゃんと家康のネタ分かってくださる方々がいて嬉しい限り。

……次はヒデヒデかな。


>出オチの徳川…しかしフラグ管理されてないデバッグモードみたいな階だなホント…


まるでエタったRPGツクール作品の回想モードみたいな(ry

他にもわけ分からん扉がわんさかですが、これまでカジカワが入った扉はこれでも比較的安定してる部類という事実。


>あれ?もしかして魔王の前世に遭遇した?―――


さて、どうなるのでしょうか(すっとぼけ

例によってあんまり詳しく話すとネタバレになるのでご容赦を(;´Д`)


>こいつ、アイザワを鍛えた剣王じゃね?―――

>ああなるほど。NO67Jは、化物に対する―――

>ああ、なるほど。この黒髪、前勇者で―――


3つものご感想、予想ありがとうございます。

アイザワを鍛えていますね。はい。

NO67ーJちゃんは、異世界人かつ異質異端であるカジカワの腕なんかムシャったせいで現在ステータス欄がえらいことになってます。あと侵食もガッツリされてます。

3つ目のコメントの予想は、『概ね合っています』。待て次回。いや次々回? いや次々々回くらいかな?











ネタバレすると、一人称に注目すれば……。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[気になる点] いやこっちだったわ魔王 前の話の死にかけとか黒髪女も大概怪しいけど、今こいつが1番怪しいわ……
2024/02/01 01:02 退会済み
管理
[気になる点] 師匠と微妙に名前が違う 子孫か先祖かな?
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