次に立ち上がる者の始まり
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シャッターを蹴破り、通路を進んでいく。
脆いなぁ。こんなもんで実験体たちを抑えられるのか? モンスターパニックものの映画みたいにあっさりぶち破られる気しかしない。
あ、そういえばさっきのやつらのステータスを確認しとけばよかったなー。
この世界だとどんなふうに表示されるのか見てみたかったのに
≪さきほどの『ギフト・ソルジャー』に遭遇した時点でステータスの確認を試みたが、情報の取得に失敗した≫
え、メニューさん自主的に確認しようとしてくれてたのか? 頼りになるわー。
でも取得に失敗したってことは、やっぱ世界が合わないと上手くいかないからなのかね? 俺やお袋の時も能力値全部ゼロだったりスキルが『なし』って表示されてたりしたし。
≪否定。『実験体』のステータス情報は問題なく取得可能だった。サンプルを表示する≫
生物:実験体No.234
ランク1
状態:正常
【スペック】
H(ヘルス) :80/80
M(マジカ) :27/27
SP(スタミナ):37/37
PHY(膂力):140
SPE(特殊能力):125
FIT(適合率):1%
【ギフト】
膂力強化Lv1
なんか俺たちに比べて、項目が少なくてスッキリとしたステータス欄だな。
世界が変わっても、その世界に合ったステータスを問題なく表示できるってわけか。メニューさんすげぇな。
……あれ? じゃあなんで地球人のステータスはあんな投げやりな表示だったんだ? 謎だ。
それに、さっきの近未来機動部隊みたいな人たちのステータスは、なんで表示されなかったんだ?
≪『アナライズ・フィルター』と呼ばれる装備にて鑑定・解析系の能力を無効化しており、メニュー機能も例外ではない模様。ステータス情報の解析およびマップ画面にも表示されない≫
うわ、また面倒くさいもん装備してんなー。
この世界の奴らを敵に回したらちと厄介かもな。基本的に弱いから負けることはないだろうけど。
……………………待て。
待て、待てまてマテ。メニューも例外じゃないってことは、もしかして魔王のメニューにも有効ってことか?
≪同じメニュー機能のため、その可能性は極めて高い≫
そうか
そうか……!
作戦変更! そのアナライズなんとかをなんとしてでも持ち帰る!
ふはははは! 見てろ魔王、お前をぶちのめすためのピースが確実に揃いつつあるぞ! 震えて眠れ!
~~~~~????視点~~~~~
「バケモンが暴れてやがる! 上位のソルジャー以外は近付くな!」
「な、No4がやられた! しかも指で弾いただけでだぞ!? どうなっているんだ!」
……外が騒がしい。
最期の時くらいは、静かに死なせてほしいなぁ。
もう、何日食べてないんだろう。
Sが切れて、Hももう残り少ない。
飢え死にするのも時間の問題だ。それも、あと数時間くらいかな。
私の存在は無価値。私の人生は無意味。
いつ産まれたのかも分からないし、いつから一人でゴミを漁りながら生きていたのかも分からない。
フラフラになって行き倒れていたのを、この怪しい実験施設の職員に運がいいのか悪いのか拾われた。
この施設では、このコミュニティの『外』にいる生物の能力を人間に付与させる実験をしている。
外には並の人間の数倍もの怪力をもつ猿とか、炎を纏った大きなトカゲなんかの化け物が闊歩しているらしい。
普通の重火器だけじゃもう資源が足りず対抗しきれないらしく、新しい対抗手段を開発する必要がある。
そこで目を付けたのが、その『外』の化け物たちの能力だ。その力を人間が扱えるようになれば、大きな戦力になる。
始めはその化け物たちを手懐けて、生物兵器として扱おうとしていたみたいだけど、凶暴すぎて上手くいかなかったらしい。
次は比較的扱いやすい『動物』にその能力を付与したけど、能力が大幅に劣化してしまうし凶暴性が増してしまって結局ダメだった。
度重なる失敗とバケモノへの早急な対抗手段の開発を迫られて、焦った上層部が次に目を付けたのが『人間』だった。
人間は弱い。腕力もサイズもまるで化け物には及ばない。
でも、『知能』だけはずば抜けて高い。だからこそ、これまで化け物たちを抑え込んで生きてこれたんだ。
その知能と、化け物の持つ能力をかけ合わせれば、たとえ劣化していようとも大きな成果を上げられると期待しての計画だったとか。
事実、その成果は確実に出始めている。
化け物の生きた細胞を人体に取り込んでその力を徐々に適合させていき、自分の力として扱えるようにしていく仕組みだとか。
化け物の力を取り込めるかどうかは、『適合率』によって決まる。
適合率が高ければ高いほど、安定して能力を扱えるし効果も高い。
適合率が低ければ化け物の力を上手く扱えないし、化け物の細胞に侵されて発狂したり最悪死んでしまうこともある。
適合率は、常人で大体1~3%程度。
ギフト・ソルジャーと呼ばれている精鋭たちはずば抜けて高く、適合率は20%近い。神に選ばれた、才能の塊みたいな連中だ。
私の適合率は、たったの『0.1%』だった。
異常なまでに低い数値だけど、実験に使える人間は倫理上限られていたので、私も化け物の細胞を取り込むことになった。
発狂も死んだりもしなかったけど、なんの能力も得ることはできなくて、経過観察を続けても特に変化はなかった。
私に与えられた評価は、『無価値』
放置していて餓死したら、そのまま肥料として再利用されるだけの、ただ死んでないだけのゴミ。
私って、なんのために、産まれてきたんだろう。
……もう、いいや。生きるのも疲れたし、早く死んで、休もう―――――
ボトリ、と私の目の前に、なにかが落ちた音が聞こえた。
なに、これ
人の、腕………?
「や、やったぞ! No1が空間転移でバケモノの腕を転移させて切断した!」
「今のうちだ! 一斉攻撃っ!!」
左手が一本、二の腕の根元から血を流しながら目の前にあった。
どう見ても、人の腕にしか見えないけど……部屋の外から聞こえてくる声を聞く限りじゃ、どうやらコレは『バケモノ』の腕らしい。
……ああ、お腹が空いたなぁ。
喉もカラカラだ。目の前の床に広がっていく赤い水すら魅力的に思えてくる。
死ぬ前に、これくらいはいいよね?
もう、人としての倫理観よりも、空腹を満たしたいという欲求だけが頭の中を満たしていく。
「ひ、ひいぃぃい!? う、腕が、腕が生えやがったぞぉぉおおお!!」
「さ、再生能力まであるだと!? 生やした腕でNo1が殴り飛ばされた!!」
「に、逃げろ! もう駄目だぁあ!!」
………本当に大丈夫なんだろうかと、一瞬だけ理性が働きそうになったけど、結局欲望が勝って、私は目の前の腕を―――――――
~~~~~腕の持ち主視点~~~~~
あぶねーあぶねー!
まさか外付けHPを貫通して肉体にダメージを与えてくるとは思わなかった!
弱い奴ばっかと思って油断してたわ。
まさか空間そのものを転移させる能力を持ってる奴がいるとはな。
腕まわりの空間を転移されて、そのまま切断してきやがった。生命力操作ですぐに治したけど、もしも頭を狙われてたらそれでアウトだったな。
「貴、さまは、なにもの、だ……! なんのために、なにが目的で……!」
No1と呼ばれていた青年が、俺に殴られた腹を痛そうに押さえながら喋っている。
おお、名称からして一番強そうなだけあって頑丈だな。気絶せずに口まで利けるとは。
好都合だ。ちょっと話し相手になってもらうか。
「質問に答えろ」
「っ! 喋れるのか……!?」
「当たり前だろ、いいから答えろ。……『アナライズフィルター』とやらはどこで手に入る?」
「……は?」
「聞こえなかったか? アナライズフィルターだ、知らんのか?」
「な、なぜそんなものを? 実験記録や成果が目的ではないのか……?」
「いらんわそんなもん。俺が興味あるのはお前らの持ってる装備とその使いかただけだ。それさえもらえれば、これ以上暴れたりしないしさっさと帰る。……手に入れるまではどんな手段でも使うつもりだがな」
困惑した表情で俺の話を聞くNo1。
コイツからしたら、例えるなら駄菓子屋で『お菓子の包装を寄越せ! 中身? いらん!』って言われてるようなもんだろうし当然か。……ちょっと変な例えだったな。
メニューさん、俺の持ってるアイテムの中で、こいつらにとって価値のあるものってあるかな?
≪情報検索完了。このコミュニティでは食料、燃料、その他生活に必要な物資が不足している模様。生活している人数は5000人足らず程度だが、それでもあと数年で枯渇する見込みである≫
≪基本的にはなにを渡しても物資として活用される。特に継続して活用できる物が好まれると推測≫
んー、例えば?
≪食料ならば救荒作物であるジャガイモやサツマイモなど。エネルギー燃料の変換器の触媒として属性付きの魔石などが該当。それらを渡せばこのコミュニティの状況は大幅に改善されると推測≫
ふむ、そのへんを渡してアナライズフィルターと交換してもらう方向でいくか。
しっかし、食糧問題なんかもあるみたいだしこの世界じゃ食い物には期待できそうにないなぁ、はぁ……。
お読みいただきありがとうございます。
今回の????ちゃんについて、詳しいお話は次回作にて。
この小説が一旦完結するまではほぼ出番はないし、次回作も基本的にはこの小説と繋がりのない内容の予定です。
>あ、戻れるのねw―――
はい。一応、神様のところにも行けますが行く理由が特にないので行かないだけです。
というか、あの二人が神様だということを分かってません。メニューも余計なトラブルを避けるためにあえて黙っています。
>これはメエルーンズ・デイゴンさんにでも―――
デイゴンは(アカン)
多分、あの扉のどれかにそれっぽい場所に繋がってるかもしれないですけどね。
あ、この世界で無双するのはカジカワじゃない誰かですのでご了承を。
>『剣王』スパディアってアイザワ家の人じゃなかったんだ―――
はい。アイザワ家の剣術指南役は『その時代一番の剣の使い手』ですので。必然的に剣王や剣聖が多いですね。……まあ、剣術を極められる職業は他にもいるのですが。
>もう少しで「もうアイツラだけでいいんじゃないかな」状態になるとこだった。―――
仮に御両親が直接操作を使えるようになれば、魔王には及ばないまでも鬼先生くらいなら辛うじて倒せるくらいには強くなるでしょうね。
……まあ、まだ操作のコツの糸口すら掴めないようですが。




