ジジイは何処 化物は此処
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今回始めはアイザワ君視点です。
「ふぅあっ! でぁあ! せぃっ!!」
「ぬおぉっ!? う、腕を上げたな、アラン君……!」
「違ぇよ、一時的に底上げしてるだけだ! まだまだアンタにゃ及ばねぇよ!」
「ははは、そう謙遜しなくていい! なんであれ君は確実に強くなっているぞ!」
クソ! こんだけ打ち込んでんのにまるで当てられる気がしねぇ!
現剣王の座は伊達じゃねぇってか……!
数日前までは、剣の稽古というよりまるでガキとじゃれ合うように軽くあしらわれていた。
しかし、今はようやくまともな稽古と呼べるくれぇには打ち合えるようになっている。
はたから見てりゃこれでも大分マシになったように思えるだろうが、基本的な実力差そのものはまるで埋まってねぇ。
俺がはるか格上の剣王と打ち合えているのは、『気力の直接操作』という技の恩恵あっての結果にすぎねぇ。
アルマたちに教わった、スキルとは違う技術だ。
あのバケモンが編み出した技らしいが、正直言って反則技もいいとこだ。
今の俺の能力値は高い項目でもせいぜい1000弱程度だが、気力操作を上手く使えばその何倍もの力を発揮できる。
でなけりゃ上級職の『剣聖』が特級職の『剣王』とまともに剣を交えられるはずがねぇからな。
あの武術大会で、アルマが急に強くなったのもこの技のおかげってわけだ。
負けたことに今さら文句なんざねぇが、あの時にコレを俺も使えていたら……。
数日前にアルマとレイナはあのオッサンの指示を受けて、教官二人とその指導を受けているメンバー限定で魔力と気力の直接操作を教えた。
絶対に口外しないこと、もしも教えたりした場合は厳しいペナルティを与えることも辞さないという条件付きで。
これを人類全員に習得させれば、おそらく魔族なんかものの数でもないんだろうが、それは絶対にやってはいけないらしい。
まあ、こんな力を急に広めたりしたらどんな事態を引き起こすか予測もできねぇし、納得できる。
最悪、魔族側に広まったりする可能性もあるし、それで万が一魔王がこの技を使えるようになったりしたらそれでアウトだ。絶対に誰も勝てねぇ。
これを習得できていないのは、ヒューラ、ガナン、そして教官の二人。
どういうわけか、年齢とレベルが高ければ高いほど習得するのが困難な技術なようで、いまだにコツを掴めないでいるらしい。
「ふぅ、ふぅ、ガ、ハァッ……! はぁ、はぁ、はぁ……!!」
「……さすがにバテたようだね。そろそろ休憩しようか」
「チッ……!」
スタミナが尽きて思うように動かない身体に、思わず舌打ちが漏れる。
コイツの欠点は、消耗が激しすぎてすぐに息切れしちまうことだ。
強化する範囲や時間を抑えることで消耗を少なくすることもできるみてぇだが、まだそこまで繊細な操作は俺には難しい。
その点、あのラディアとかいう野郎は器用に扱ってやがった。……もう、アイツを雑魚とは呼べねぇな。
「ふぅ。打ち合うたびに思うが、アラン君の剣技はよく洗練されているな。その若さで見事なものだ」
「お世辞なんざいらねぇよ。欲しいのは強さだ」
「いや、実際大したものだよ。私が君くらいの歳だったころはまだ中級職でね、よくルナティに文字通り引きずり回されながら死に物狂いで魔獣を狩っていたなぁハハハはハ」
「……白目剥いてんぞ」
魔族騒ぎもない時代だっただろうに、教官も教官なりに若いころから修羅場を掻い潜ってきてるみてぇだな。
……まあ、あの鬼教官がパートナーじゃ無理もねぇか。
「剣の鋭さと整った姿勢を見る限り、アラン君も相当厳しく指導されていたようだな」
「言うとおりにしねぇとあのジジイがゴチャゴチャうるせぇからな。やれ手首の角度がどうだの踏み込みと剣の振りを合わせろだのいちいち細かくネチネチ言ってきやがって」
「それだけ真剣に指導してくれているんだろう。厳しさは期待の裏返しだからね」
「どうだか。あのジジイが俺に稽古をつけてたのは単に王国の古臭い因習に従ってただけだろ」
「……そんなことはないさ、きっとな」
アイザワ家は勇者の末裔の家の一つ。フィリエ王国でも有数の名家なのは千年近く前の勇者の功績と資産が今でも受け継がれているからだ。
どんだけの資産を遺していたのかは知らねぇが、千年経ってあんだけデカい屋敷を何度も建て直しても平気なくらいには多いらしい。
アイザワの家には訳分からんルールもいくつも伝わっていて、皆バカみてぇにそれに従っている。
毎年決まった日にエホーマキとかいう変な料理を決まった方向に向かって噛み切らずに食えとか『オニワソトフクワウチ』って変なまじないを言いながら炒った豆を屋敷中にばら撒いたりとか。
他にも意味も意図もまるで理解できねぇ決まりごとが山ほどある。
……勇者ってのは異世界でどんな生活してたんだか。あのネオラとかいうオカマもそんなことしてたのか? アホか。
その勇者の遺したルールの中に『我が家で剣の才を持って産まれた子はその時代一番の剣の使い手に習うべし』ってもんがある。
勇者の血の影響か、不思議なことにアイザワ家にはその世代に必ず一人は剣術スキルを生まれつき取得している奴が産まれる。
剣術スキルを持ってる奴は、貴族としての立ち居振る舞いよりも剣士としてのありかたを優先されて、家の相続争いからも外される。
俺としちゃアイザワの権力にも遺産にも興味ねぇし、むしろうざってぇだけだから正直せいせいしてるがな。
その剣術指南役として10年前にアイザワ家にきたのが、『剣王』スパディアのジジイだった。
当時既に80を超えてる年齢なのに呼ばれたのは、あの時点でジジイよりも強い剣士がいなかったからだ。
白髪に皴だらけの顔で、それだけ見ると死にぞこないの長寿老人にしか見えねぇが、身体は筋骨隆々としていてとても老人のそれには思えないほど逞しかった。
『老後の楽しみも兼ねて、謹んでお受けしましょうぞ』とか丁寧な口調で了承していたが、穏やかな態度でも誤魔化せないくらいに強者としての威厳をジジイから感じた。
実際対峙してみると笑っちまうくらい強くて、10年近く稽古を受けてきたのにただの一度もジジイに剣を当てることはできなかった。
『いつかこのジジイから一本とってやる』と喰らいつくように指導を受け続けてきた成果か、成人するころには剣術や体術のスキルがLv6にまで達していた。
Lv6となると、普通ならかけ出しから中級職なりたてくらいのスキルレベルで、どんだけ厳しい稽古だったかを物語っている。
成人した後はレベルを上げてリベンジに備えていたが、半年前になって急に出奔して行方をくらましやがった。
『役目は果たしましたゆえ、勝手ながらお暇をいただきます』とだけ書かれた置手紙を遺して。
……普段の言葉遣いは荒っぽいクセに、親御たちには丁寧なキャラ演じやがって。
まだ終わってねぇぞ、ジジイ。
テメェは必ず俺がぶっ倒す。俺に倒されるまでが、テメェの役目だ。
いったい、どこに行きやがったんだよ、クソ……。
~~~~~バケモン視点~~~~~
『ガルァァァアアア!!』
「ていっ」
『ゲビャッ!!?』
急に襲いかかってきた毛のないゴリラみたいな生物を殴り飛ばした。
見た目の割に弱いなコイツ。ジェットボア、いやラッシュボアくらいの膂力しかなさそうだ。
さっきから変な生物ばっか見かけるけど、ここってどっかの生物兵器の研究施設かなんかなのかな。某生物災害の傘社みたいだな。
通路伝いにある部屋の中にも、生物の標本やら実験記録やらその生物の特性やらが記されている書類データなんかもあったし。
ここにいる生物たちはおかしな能力を持っているヤツばかりだ。
いや、異世界もスキルという超常現象を操る生物ばっかだけど、ここの生物はまたちょっと毛色が違うというか、……やっぱ似たようなもんか?
電気を操ったり炎を吐いたり、柔らかかった身体を硬質化したり。
共通しているのは、どれも明らかに『後付けされた能力』だということだ。
資料によると、どうやらこの施設の外にはこいつらよりずっと強いバケモンどもがいるらしく、その能力を自分たちでも扱えるように研究・調整・実用化するための実験体がこいつらの正体らしい。
……実験体、どいつもこいつも逃げまくってるんですがそれは。管理ガバガバじゃねーか。
最終的には『人間』にバケモンどもの能力を扱えるようにして奴らに対抗するつもりらしく、既に何体も完成体がいるとかなんとか。
まあ、その何十倍も失敗例がいるらしいけどな。マッドやわー。ジュリアンがマシに思えるわー。
中には、移植された器官が上手く機能せずになんの能力も得られなかった人もいるらしいが、一応経過を見るために拘束されているとかなんとか。帰してやれよ。
んー、ある程度回ってみたけど、正直あまり収穫はなさそうかな。
実験体たちの能力はどれもスキルや魔力操作で再現できる域を出ていないし、せいぜいE~Cランク魔獣くらいの強さしかない。
というか、その実験成果を持ち帰ろうにもどうすればいいかさっぱり分からん。実験体たちを連れてかえっても意味無さそうだし。
……もう帰るか。無駄足だったわー。
『D区画に異常発生! 実験体の脱走および何者かによる殺害を確認! 『ギフト・ソルジャー』No10からNo20は至急現場へ急行せよ!』
あ、ヤベ。見つかったっぽい。
D区画ってこのあたりのことっぽいし、何者かって多分俺のことやん。
さっさと戻るとしよう。走れー。
戻ろうとした通路の先で、ガシャン と嫌な音が聞こえた。
あー……シャッター閉じられたっぽいなコレ。
「なんだぁ? 実験体どもが容易くやられているからどんなバケモンかと思ったら、ただの冴えない優男じゃねぇか」
「油断するな。……見慣れぬ顔だな。誰だお前は、どこから潜り込んだ」
あ、誰か来た。
なんか近未来的なボディースーツみたいな、ピッチリとしたアーマーに身を包んだ人たちが10人くらい駆けつけてきて、俺を囲んだ。
いや、あの、確かにやったの俺だけど、アレ正当防衛だからね?
「聞くだけ無駄だろ。さっさと拘束して連行しようぜ」
「それもそうだな。じゃあ、ちっと眠っててくれや!」
そう言うや否や、いきなりこっちの頭に向かってなにか飛ばしてきた。
掌から、なんか光る弾みたいなのを撃ちおった。
魔力クッションを手に纏わせて、ペシッと弾く。
軽っ。クッソ弱いけど魔力で弾けたあたり、これって攻撃魔法みたいなもんなのか?
≪原理は酷似しており、この世界では魔力に相当する力を『M』と呼称し、スキルに近い運用をしている模様≫
んー、研究が進めばそこそこ戦力にはなるかもしれんけど、現時点じゃこの程度か。イラネ。
「……は?」
「す、素手で、ライトガンを弾いただと……?」
チャンス。呆然としてる間にさっさと包囲網を抜けよう。
魔力飛行で高速移動! サイナラー。
「なっ、逃げたぞ!?」
「は、速すぎるっ! No1でもあんなに速くないぞ!?」
包囲網を抜け、みるみる距離を離していく。彼らも追いかけてはきてるみたいだが、全然追いつけていない。
遅いわー。彼ら、なんか精鋭っぽいけどあれがこの世界の希望だったりするのかな。まあ、その、頑張れ。
お読みいただきありがとうございます。
>いや、まてカジカワもう1回その2人組の所に行って聞きなさい―――
なお戻らない模様。
……ただし、マップ画面には登録されたので、行こうと思えばいつでも―――
>ドア開けるだけで詰む扉あるな?コレ―――
さすがにそこまでヤバい扉は稀ですが、扉を開けた途端にドラ〇もんのバイバイン的なものによって滅んだ世界からなにかが流れ込んできたりする危険性もあるという。
>某ア○イさんマンションであったな、それ―――
アラマンは神。あの独特の雰囲気とセンスには毎回脱帽を禁じ得ません。
>某漫画の首吊り風船思い出しちゃったよ
首吊り気球は絵が怖い。でも全部読みたくなる不思議。
>さっさと神っぽい奴らのとこ戻りなさいw―――
いま戻っても、多分忙しくて相手にされないんじゃないでしょうか。
ちなみに後々、主人公の追体験を見て金髪ショタ神のほうが割と本気でビックリしてたりします。
>『パラレシア』の神様って勇者君召喚の時に出てきたけど―――
金髪ショタが地球の神で、黒髪眼鏡がパラレシアですねー。髪の色逆のほうが分かりやすかったかな……(;´Д`)
>scp-249-J どこにでもドアの群れが現れた―――
ジョークじゃ済まないような世界も多かったりするのですが、開かなきゃ繋がらないのでクラスをつけるとしたらSafeですかねー。
SCPだけじゃなく、怪奇現象というか異常そのものが集まる場所というイメージですね。『扉』という仕切りで封じ込められていますが、開けば容赦なく牙を剥いてくるというのがこの場所の在り方ですね。
一秒間に60回もなってたらチチチチチくらいじゃ済まないでしょうが、まあ主人公の能力値も上がってるし連続して聞こえても無理は……やっぱ無理あるか(;´Д`)




