異質オブジェクト
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ガチャリ、と木製の扉のドアノブを捻り、開ける。
ドアの先は、赤い空が広がる平原だった。
……いや、ホントに空が赤い。夕暮れ時とかそういうレベルじゃなく、赤い。
その赤い空から、一つ目の巨大な朱い鳥がこちらを睨んでいるのが見えた。
それだけで、全身に鳥肌が立っていくのが感じられた。
『ヒャァァァァァァアアアアッ!!!』
朱い鳥が、鳴き声を上げてこちらに迫ってくる。
ヤバい、やばいやばいやばいあれは関わっちゃいけないナニカだ!!
恐怖のせいか全身が麻痺しているように動かない。
咄嗟に魔力パイルを自分に打ち込みドアの内側に戻り、扉を乱暴に閉めた。
「は、はぁ、はぁ、はぁっ……!!」
ひ、ひぃぃ……!! な、なんだったんだ今の場所は……!?
心臓が破裂しそうなほど大きな音で鼓動を刻んでいる。全身から冷や汗が噴き出して、上手く息ができない。
あの鳥を見た瞬間、俺じゃ絶対に勝てないなにかであるという確信をもってしまった。
魔王すら凌ぐとんでもないプレッシャー。あんなもんと戦ったら間違いなく死ぬ。……なに? この先の扉って、あんなのがゴロゴロしてるってのか?
≪ステータスは確認できなかったが、速度とサイズからステータスに予測換算すると、おおよそ10万相当の能力値であると推測≫
勝 て る か !
ふざけんな! なんだ10万って!? 1万でも無理に決まってんだろ!
てかさっきの鳥、なんかこっちに近付くごとにどんどんでかくなってた気がするんだけど、全長何メートルくらいだったんだ……?
≪全長、およそ3kmほど≫
ああうん、無理だわ。もうデカすぎて食欲すら湧かんわ。食いでがあるとかそういう問題じゃないわ。
……もしも、もっと近くに扉が通じていたらヤバかったな。やっぱ慎重に先に進むようにしないと……。
一つ目の襖は本能寺(ノッブの最期)、二つ目の扉は赤い空の平原(ヤバい鳥在中)。
もう既に心が折れそう。次の部屋が不安で仕方がない。
でも、この扉が並んでいる廊下であと数日もの間何もせずにゴロゴロしているわけにもいかんし……。
次の扉は、プッシュ式の自動ドア。
……いざという時にすぐに開け閉めできないのはヤバそうだが、一応入ってみるか。
でも念のため、ストッパー代わりに重りをドアに挟んで開けっぱなしにしておこう。よしよし、開いたままになってるな。
ドアの先は、ハンバーガーショップだった。
……いや、ホントになんの変哲もないただの店だ。
店員もお客の姿も見えないが、それ以外は特におかしなところはなさそうだ。
もしかして、ここって日本か?
≪否定。使用されている言語が地球由来のものではないため、ジャンクフードショップに酷似した異次元か、並行世界か、別の惑星の可能性と推測≫
……要するに、日本に似てるだけの別の場所ってことか。
うわ、確かによく見たら展示されてるハンバーガーっぽい写真の横に訳分からん言語で紹介文が書かれてる。
メニューの翻訳機能で内容は分かるけれど、その内容も頭おかしい。
だって、『パンの間に挟むお肉は、お客様のものを使用させていただきます』って書いてあるもん。
よし、帰ろう。
次の扉に向かわなければ。
「ちょっとお客様、冷やかしは困りますよ」
アカン。
自動ドアに戻ろうとした時に、後ろから誰かに声をかけられた。
声からして、若い女性のようだ。
振り向くと、そこには首から上だけの若い女性が、営業スマイルを文字通り浮かべながら佇んでいた。
おぅ、バーガーショップ特有の帽子を着けてても相殺しきれないホラー感。むしろ拍車かけてる。
「せっかくいらっしゃったのですから、なにか注文していってくださいね」
「……おすすめのメニューは?」
「そうですねぇ、とりあえず首から下を余すところなく使わせていただければとっても美味しいものが作れそうです」
そう言いながら、肉断ち包丁のような刃物が生首店員の周りに現れた。てか浮いてる。
どう見ても俺の身体を乗っ取る気満々です。本当に(ry
「では、早速調理しますね。しばらくそのままでお待ちください」
肉断ち包丁が、俺の身体に向かって振るわれる。
誰がどうやって振り回してるのか知らないが、物が浮いてるのは割と見慣れた光景だからさほど驚かなかった。
包丁が、俺の身体に振れる直前で止まる。
「……あれ?」
「どうした、調理を続けろ」
「お、おかしいですね。なんで、なんで動かないんでしょうか……?」
困惑した表情で、生首店員が呟く。
魔力操作で包丁の動きを無理やりこっちで操ってるだけなんだけど、どうやら魔力を感知したりはできないようで混乱しているみたいだ。
「ふんっ、ふんん……! うぅ、動きません……」
半泣きで必死に包丁を動かそうとする生首店員。
……ちょっと可愛いとか思いそうになった。俺はグロ専じゃないけど。
しばらく様子を見ていたが、包丁がどうしても動かないので諦めたようだ。
「も、申し訳ありません。なにやらトラブルが発生してしまったようで、調理を続けられないようです……」
「そうか、残念だ。今日のところは、別のところで食べるとするよ」
「グスン。またのお越しをお待ちしておりますー……」
ションボリした表情を浮かべながら、生首店員の姿が消えた。
肉断ち包丁だけが残って、再び店内が静かになった。
……うーん、この場所には大したものはなさそうかな。
有用そうなアイテムも見当たらないし、さっさと次に行くか。
≪推奨:異質オブジェクト『肉断ち包丁』の回収≫
え? ああ、コレ?
別にいいけど、こんなもんなんの役に立つんだ?
≪解析した結果、先ほど梶川光流に向かって振るわれた包丁の攻撃力はおよそ3000程度だった≫
ぶっっ!!?
な、なんだと!? アルマの黒剣の軽く5倍近い攻撃力じゃねーか!
い、いや、リーチが短いし、実際に剣として扱えるかちょっと微妙かもしれんが、それでも強すぎだろ!
というか短剣くらいのリーチはあるし、レイナに持たせたらアタッカーとしても申し分ない実力を発揮してくれそうだ。
どうしよう。レイナの雷短剣の立場無いじゃん。
≪否定。この包丁の特性は『攻撃のたびにランダムで攻撃力が変動する』というものであり、運がよければ非常に有用な武器になり得るが、いつでも安定した攻撃力を発揮できるわけではないため、メインではなくサブウェポンとして運用することを推奨≫
ええ……? なにそのヘンテコな効果は。そんな付呪聞いたことないぞ。
なるほど、これが『持ち帰ることができるバグ』ってやつなのか。攻撃力の上限次第じゃ、もしかしたら魔王に対する切り札にもなるかもしれないな。
ふむ、リスクはあるがそれを乗り越えれば相応のリターンがある、ということか。
ということはあの鳥を倒せば想像もつかない見返りがあるかもしれないが、俺には無理だな。
というかアレを倒せるんなら魔王も普通に倒せるわあんなん。
そんな高望みは捨てて、分相応に探索してこういった異質なアイテムなんかを集めていきますかね。
お読みいただきありがとうございます。
>織田さん怒り狂ってて笑う。―――
なんか普通に金柑頭とか言ってますけど、今思うと本能寺燃えてた時点で謀反の主犯が誰か分かってたんですかね……?
主人公としては『なんか使えそうなもんがないかたー』くらいの気持ちで探索しておりまして、魔王対策の主な部分は勇者君に頑張ってもらうつもりのようで。
>魔王から逃げたのにまた魔王の相手だよもう…―――
多分、この第六天魔王もどっかの異世界の廃城あたりに飛ばされるかもしれないし放置でおk。
>本能寺ぃ…―――
あの風体でキーキー言ってる様を想像すると草生える。当時の外国人が書いた肖像画を見るとヒゲの生えたイケおじっぽいですが。
ヒカルママとの再会は、多分もうないかと。
>作者さんもどうでしょう藩士でしたか―――
個人的には安dもとい黄色いマスコットとの釣り勝負が好きです。バッテリー切って縮んだのを見て大笑いした覚えがあります。
>昔、神坂一が書いた「DOORS」という小説を思い出します。―――
呼んだことはないですが、似たような描写はやっぱ既出ですよねー(;´Д`)
セコムマサダ先生は、……アレっぽいキャラってなんだ?(困惑
>シリアスな空気消すまでが早すぎィ―――
あんまり長くシリアスを続けていると書いてるこっちも辛いので(;´Д`)
思ったより長く母親との会話が続いてしまいましたが、気にされていないという意見もあって少し安心しました。ありがとうございます。
>本当に信長出てきて草。予言者じゃん。―――
そして第二の魔王になりそうで草。スペック高過ぎんよー。
多分、そうなる前に異世界側の神が出禁くらわすんじゃないでしょうか(適当




