お前のような前座がいるか
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水晶の残骸をかき分けながら、先へ進むための扉を開く。
ちょっと時間がかかったけど、身体が自由に動くようになってからは特に苦戦することもなく倒すことができた。
中心のコアを破壊すればすぐに討伐できたんだろうけど、いつぞやのスライムのようにコイツのコアもスキル付与の装備に使えるらしいので、あえてコア以外の部分を破壊し尽くして討伐することに。
反撃に魔法を放ってきてたけど、能力値五ケタまで強化された俺にコイツの魔法なんかほとんど効果がないので一方的にボコってやった。
アルマママみたいに同時に数十発もの魔法を放ってこられたらヤバかったけど、そんなマスタースキルは取得していなかったので問題なし。
重力の影響がないとこんなに弱いのかコイツ。拍子抜けだわー。
手に入れたコアは【重力魔法】の力を秘めていて、これを加工した武具を装備した人間も重力魔法を使用可能になるらしい。
さすがにダンジョン1階層分もの広範囲を影響下におくことはできないらしいが、個人が使う分には充分過ぎるほどの効果があるとか。
ちなみに例によって俺はコアの力の恩恵を受けることはできないそうな。
レイナ用に作った攻撃魔法の首輪の時もそうだったけど、この手の装備品は装備者にスキルを一時的に取得させる仕組みだから、取得不可の俺は(ry
……装備品が出来上がったら、魔力量が多くて知能の値が高いアルマにプレゼントするとしよう。
彼女なら、きっと俺の想像以上に使いこなしてビックリさせてくれることうけあいだろう。……下手したらブラックホールとか作りそうで怖いが。
ああ、それにしても一人の時間がとにかく長い。
思えば、こっちの世界に来てすぐにアルマと出会ってから常に共同生活をしてきてたから、こんなに長い期間一人でいることはあまりなかったなぁ。
どんなに美味い飯を作っても、一人で食ってたらどこか味気ないし。
苦労して強敵を倒しても、達成感を分かち合える人がいないのは寂しい。
……もう少しの辛抱だ。膝を折らずに、先へ進もう。
19階層と20階層の間にあるセーフゾーンで一泊して、充分に疲れを癒しておこう。
メニューいわく、20階層にはトラップがほぼ無いらしいけど、生息する魔獣が特殊でボスもこれまでとは比較にならないほど厄介な相手になるだろうとのこと。
さすがに魔王クラスの相手が出てくることはないだろうけど、それでも相当ヤバいそうな。
だが、その分アイテムも有用な物を手に入れることができるし、それは今後の支えになってくれるだろうとも言っていた。
19階層だけでも相当いいアイテムを手に入れられたけど、20階層はどうだろうか。
できれば新たな大槌の素材が欲しいが、オリハルコンを超える素材なんかポンポン手に入るもんじゃないから期待はしないでおこう。……マジでどうしようかなー。
20階層は、なんというかもうここがラストダンジョンと言われても納得してしまいそうなほど雰囲気抜群な階層だった。
といっても別に肉の壁が蠢いていたり薄暗い城の中のようなつくりでもない。むしろそういった『悪の本拠地』みたいなイメージとは全く異なる場所だ。
20階層は、壁も床も天井も、全てが美しい宝石でできた超ゴージャスな階層だった。
壁のメイン素材は透き通るような水晶で、壁や床のレリーフにはルビーやサファイア、仕切りにはダイアモンドが使われているようだ。
一部屋分だけで何億エン分もの価値があるのか計り知れない。ちょっと引っぺがして持ち帰るだけでしばらく遊んで暮らせるだろう。
うわぁお。ここまでくるともう成金ぽいとかそういう感想すら湧いてこない。
ふんだんに豪華な宝石を惜しみなく使われているのに、下品さを感じない絶妙なデザインで、見ているだけで鳥肌が立ちそうだ。
まだ階層に入ったばかりだというのに、ただただ圧倒される美しさだ。……できれば、皆と一緒にこの景色を見て感動を分かち合いたかったなー。
とりあえずスマホで写真撮っとこ。ナマで見るより迫力は劣るが無いよりマシだ。
とか暢気に写メ撮ってたら、魔力反応がこちらに向かって近付いてきたのが感じ取れた。
……なんだこの反応? 魔獣の気配に近いけど、なんというか輪郭が安定していないように感じる。
輪郭が安定していないといっても、スライムとはまた違った反応だ。
なんというか、まるで今にも霧散してしまいそうなくらい、ひどく不安定な魔力のカタマリ。
だが、決して弱くないし、小さくもない。
魔力反応が通路を通って、俺のいる部屋に入ってきた時にその姿が見えた。
ボンヤリとした、白い煙の集合体。一瞬、巨大なわたあめが動いているように見えた。
な、なんだアレ。
見た目だけじゃどんな魔獣なのか見当もつかない。というか、生物なのかアレは?
≪『シェイプシフター』 遭遇した人間の『討伐履歴』の中からランダムで対象を読み取り、そのステータス全てをコピーする能力を持つ≫
≪この魔獣は20階層のボスの分身のような存在であり倒しても経験値を得ることはできず、また死骸は霧散して消えてしまうので得られるものはほぼない。戦闘はなるべく避けることを推奨≫
うーわ、なんだそのゲロマズな魔獣は。
倒してもうまみがまるでない。無駄に消耗するだけじゃないですかーやだー。
まだゴブリンでも倒してたほうがよっぽどマシじゃん。
『ギィ?』
緑肌の小さな人型魔獣に化けたシェイプシフターが首を傾げながらこちらを見ている。
いや、別にゴブリンに化けてほしかったわけじゃなくて……。
へぇ、化けると本物とほぼ見分けがつかないくらいそっくりな姿になるんだな。
魔力や生命力も、化けた対象基準のものになるのか一気に弱くなった。
これならほぼ無害だろうし、放っておこう。
≪非推奨。弱い魔獣に変化した場合、一定時間経過するとより強い魔獣へ変化し直す可能性があるので、低レベルの魔獣に変化した状態で倒したほうが消耗が少なくて済む≫
そうか。……弱いものいじめは趣味じゃないんだが、危険の芽は摘んでおかなければならん。許せ。
「てぃっ」
『パギャッ!』
……ゴブリンの頭にデコピンを打つと、頭が砕けるのと同時に全身が煙のような状態になり霧散していった。
シェイプシフターは死骸が残らないって話だったが、ホントに影も形も無くなるんだな。
本物のゴブリン相手だったら、今ごろグロ画像ができあがっていたところだろう。見せられないよ!
もう迂闊にデコピンすらできないなコレは。指を弾くだけで殺人技と化してるやん。
喧嘩売ってくる人間相手にデコピンより弱い攻撃方法が必要になるが、今後どうするか。
シェイプシフターの気配はなるべく避けて、宝箱なんかを回収しつつ先へ進むとしよう。
今まで倒した魔獣の中からランダムってことは、ゴブリンやコボルトのようなザコから極端な話さっきの重力水晶にまで変身する可能性があるってことだしな。
最悪、複数の重力水晶と戦闘になることだってあり得る。戦うことになった時はサシになるよう心がけよう。
変身する前のシェイプシフターには実体がなく、魔力で覆ったりしても捕獲できなかった。
そしてこちらを認識した瞬間に、俺が今まで倒したことのある魔獣に化けて襲い掛かってくる。
魔獣森林で見たゴブリンやコボルトに。
スタンピードで戦ったウェアウルフに。
アルマと協力して死に物狂いで倒したジェットボアに。
魔獣洞窟で乱獲していたハイケイブベアに。
魔獣草原で死闘を繰り広げたプラチナムコッコに。
その他色々、まるでこれまでの旅を振り返るように様々な魔獣に化けて襲いかかってきた。
1年足らずの旅なのに、こうして今まで戦った魔獣たちを見ていると少し懐かしい気分になってくる。
まあ、こっちのレベルが上がってるから当初戦った時とは比べ物にならないくらい楽に戦えて、優越感を覚えるのと同時になぜか少し寂しさも感じた。
ジェットボア、お前の突進ってこんなに弱くなかっただろ。なんでデコピンでやられてるんだよ……。
アイテムのほうは、さすがまともな階層の中では最深部といったところか、実入りが良い。
スキル技能の性能を変化させる特殊装備や、致命傷を一回だけ防いでくれる身代わり人形とか。
さらに、なんと固有魔獣装備をワンランク無条件で進化させてくれるアイテムまで手に入った! しかも2つ!
これを使えばアルマの黒剣もレイナの雷短剣も大幅にパワーアップできるだろう。
……でも、なんでキャンディの包み紙みたいな包装がしてあるんだろうな。見た目も飴玉そのものだし。
≪できれば、このアイテムを使うのは現状の装備が自力で進化した直後が望ましい≫
え? あー、そうすれば一気に2回分進化できるからか。
でも、アルマの剣は竜を倒さないと進化できないらしいし、ちょっと条件が厳しいなー。
ラーヴァ・ドラゴン戦で一緒に戦っていれば進化できたかもしれないが、まあそのうち機会が巡ってくるのを待とう。
……さて、道中はかえって不安になるくらい楽に進むことができたが、最深部に居座っているボスから感じる気配に思わず苦虫を潰したような顔になる。
気配から、どんな魔獣なのかまったく見当もつかん。
おそらくシェイプシフターと同じタイプの魔獣なんだろうが、感じる存在感が段違いに濃い。
ついでに霧も濃い。部屋ん中で焚火でもしてるんじゃないかってくらいモクモクしておる。
魔獣の名前は『★開かれる傷痕』という、これまたよく分からん名前だ。
≪警告:この魔獣は計3回ほど、シェイプシフター同様に相手に合わせて姿を変える≫
≪ステータスの危険度は最初の変身が最も高く、判断を誤ると即死亡もあり得るので要注意≫
いや、討伐履歴に記録されてる魔獣に化けるんだったら、倒せないことはないから大丈夫じゃないか?
≪否定。この魔獣は討伐履歴を参照して変身するのではない≫
え、じゃあいったいなにを?
≪最初は魔王と勇者を除く『これまで遭遇した中で最も優れた戦闘能力を有す個体』に変身する。ただし、スキル技能等は実際に使用しているのを見たもののみ使用≫
≪梶川光流の場合は――≫
メニューの説明の途中で、部屋に満ちていた霧がみるみる集まっていき密度を増していく。
身長2mほどの人型を形作っていく。……この輪郭、なんか見覚えあるような………。
…………………え、ちょ、おまっ……!!?
『グル』
≪『★拳の鬼神』に変身する≫
お読みいただきありがとうございます。
>【ドッキリ】コスプレ集団を死ぬほど怖いお化け屋敷に閉じ込めてみた。―――
「この金髪の娘かわええ」とかコメントされてそう。
重力魔法の有効活用法ですが、主人公とアルマの連携でそういったことも再現できそうですね。
(物騒な)活用法の参考にさせていただきます。感謝。
>こんなホラゲーあったら絶対にやらないけど友達にやらせよ
鬼か。いえ、HNの話じゃなくて(ry
>設定は面白い
>え?って思うような事で主人公凄い凄いと囃し立てるのが幼稚に見える―――
確かに主人公が料理作っただけで大げさに囃し立てられたりするのは不自然ですねー。
展開のチープさや、人物の個性の表現が拙いのは筆者の腕の未熟さゆえ、誠に申し訳ありません(;´Д`)
こういった改善点などの指摘はとてもありがたいので、お気が向かれましたらバシバシ送ってくださると助かります。ありがとうございます!




