お先真っ暗
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身体は動く。普段より大分動きが鈍いが、歩く分には問題ない。
そう思っていたのもつかの間、1時間くらい経ったころに頭がクラクラしてきた。
う、頭がボーっとしてきた。……貧血か?
≪過重力の影響で、血液の循環に支障をきたし始めている模様。脳に血液が回りやすくなるように、しばらく横になり休憩すれば回復すると推測≫
1時間ごとに寝て休めってか? そんな余裕ねーぞ。
下手したらこの階層を攻略するだけで数日かかっちまう。まだ日数に余裕があるとはいえ、21階層以降の予定も考えると余裕をもっておきたい。
……でも、無理して進もうにもこの立ち眩みは無視できない。
放置してたらさらに悪化して探索どころじゃなくなるかもしれん。
あ、そうだ。魔力で全身を覆って、横になった状態のまま魔力操作で移動すれば身体を休めつつ移動できるじゃん。
過重力の影響でいつもより移動するのにも負荷がかかっているが、それでも大して魔力を消耗することはないだろう。
体調不良のまま魔獣とエンカウントするのは命とりになる。
こんな環境ならなおさらだ。ベストの状態を維持するように意識しよう。
『……』
む、なんか丸っこい魔獣がこっちに転がりながら近付いてきた。
これは、アルマジロか? また珍しい魔獣もいたもんだ。
『? ………。 !?』
……横になったまま滑るように移動しているのを不審に思ったのか、一瞬だけこっちを見て顔を逸らしたかと思ったら二度見しおった。芸術点高い二度見だったな。
ものすごく胡乱気なものを見るような目でこちらを睨んでいる。アルマジロってこんなに表情豊かなのか……。それとも俺が変すぎるからこんな顔をせざるを得ないだけなのか。
アルマジロと言えば、アルマはちゃんとご飯食べてるかな。
……アルマジロ見てあの子を思い出すのはちょっと申し訳ない気分になってくるな。なんかゴメン。
≪豚の生姜焼きを摂取して以来、食欲不振は解消されたようで現在は健康体にまで回復している。例の指示も問題なくこなしている模様≫
そうか、安心した。例の頼み事は最悪レイナに頑張ってもらえばなんとかなるけど、心の不調は早く回復させないとどんな事態を引き起こすか分からないからな。
それで精神を病んで体調を崩しでもしたら、直接会ってでも安心させなきゃならん。
≪その場合、アルマティナにダンジョンの攻略に同行することを要求される可能性が高く、それを梶川光流が断り切れる可能性は低いため非推奨≫
い、いや、さすがに仲間の命を危険に晒すようなことをその場の空気に流されるままに決めたりはしないよ。多分。
≪可能性は、低い≫
……なにその念押しは。ひどくない?
アルマやレイナのお願いはなるべく聞いてあげたいと思うけど、こればっかりはダメなことくらい分かってるっての。
この階層なんか、常人だったら下手すりゃ数分で体調を崩してしまうだろうし、アルマたちでも長い時間は耐えられないだろう。
≪疑問:仮にアルマティナが落涙しつつ同行を求めてきた際に、梶川光流は断り切れるか≫
……………………………。
う、うん、だいじょうぶ。ことわれる、よ?(震え声)
……やっぱダンジョン向かう前に会わなくて正解だったなこりゃ。
とかメニューさんと会話してたら、いつの間にかアルマジロの姿が見えない。
関わりあいになりたくないからか、見なかったことにしてどっか行きおったな。人を変質者でも見るかのような目をしおってからに。
……いや、まあ、はたからだと紛うことなき変態にしか見えんだろうけども。
~~~~~今日はまだ8回しか死んでない勇者視点~~~~~
お、おごごごご……!!
や、やっと折り返し地点まで辿り着いたぞ……!
もう潰されるのも焼かれるのも射られるのも騙されるのも嫌でござる……。
「途中から罠を看破できるようになってきて、進むのも大分スムーズになってきたわね」
「それでも、何回も死んでしまいましたが。……ネオラさん、大丈夫ですか? 顔が真っ青ですよ」
「う、うん。ちょっと、さっきの死んだ時の感覚が残ってるみたいで、……う……! は、吐きそう……」
「ね、ネオラさん、無理をしないでください! もう今日は休みましょう!」
「無理もないわ。あんな死に方、そうそうあるもんじゃないだろうし。……あの時の光景を思い出したら、私もちょっと気分が……」
「確かに、あれは酷い死に方でしたね。……死に方の良し悪しなんて語れるのは私たちだけでしょうね……」
あまりに惨いオレの死に方を思い出して、レヴィアとオリヴィエが顔を顰めている。
どんな死に方だったのかというと、……強いて言うなら、めざしになった気分だった。
どうにも悪意に満ちた、というかメタ読みが酷い罠が多すぎてどうにも腑に落ちないと思っていたが、いくつかの罠をよく観察してみるとある事実に気付いた。
ここの遺跡、どうやら歴代の勇者たちが設計に関わってるっぽい。
なんで分かるかって? 詰んで死ぬしかない状況で時々こっちをバカにしたような煽り文があるからだよ! しかもご丁寧に日本語でな!
例を挙げると『頑張れ後輩』とか『おおゆうしゃよ詰んでしまうとはなさけない』とか『次の勇者はうまくやってくれるでしょう』とかありがたいメッセージが死ぬ寸前で走馬灯走ってる時に目の前にあった。死ね。いや死ぬのはこっちだけど死ね。
歴代の勇者が作ったトラップルームが一部屋ごとにランダムで選ばれていって、攻略した部屋の数が一定以上まで達したら最深部まで辿り着けるそうな。
ここの遺跡を攻略し終えたら、オレもトラップを設計することができるらしい。そんな暇ないからやらないけどな。
で、次の部屋ですが、なんというかある意味いままでで一番異質な部屋だ。
別に異次元チックなオブジェがあったり肉壁が蠢いていたりするわけじゃない。
このフロアは、日本でオレが通っていた『学校』のような場所だった。小学校とか中学校のように、廊下伝いに教室が続いている
そこは、夜の学校。綺麗に整列された机と椅子。電気が通っているのか明るいけど、窓の外が暗いから夜なんだと思う。
「な、なんだか妙な場所ですね」
「気を付けて、これまでとはなんだか雰囲気が違うわ」
レヴィアとオリヴィエが不安そうな顔で辺りを見回している。
学校を見慣れていないのかな。てかこの世界で学校自体見たことがないけど、教育事情どうなってんだろな。
学校を知らなくても『夜の学校』の不気味さは感じているらしく、二人ともオレの服の袖をつまみながら身を縮めている。
今のところトラップなんかはなさそうだけど、どんなギミックがあるのやr―――――
プツン となにかが切れるような音とともに、辺りが真っ暗闇へと変わった。
「ひゃわぁぁぁあ!!?」
「きゃぁぁぁあ!?!」
「うぉわぅ!?」
絶叫。
急に電灯が消えて不気味さが倍増し、堪らず叫ぶ二人。そしてそれにビビって叫ぶオレ。
おいおい、まさかここってそういうフロアなのか? 死に戻りができるオレたちにとってはある意味命の危険よりも厄介だぞ。
「な、なななな、なに!? なんなのっ!?」
「ま、真っ暗! 真っ暗ですぅ!!」
「落ち着け! 照明が切れただけだ! また点け直せば大丈夫だってば!」
くっそ! 死んでやり直しの繰り返しとはまた違った攻めかたしてきやがる!
まさか精神的ダメージ特化のフロアとは。ホラゲー苦手なオレにとっては鬼門だぞここ。
しかもレヴィアもオリヴィエもこういった雰囲気には弱いみたいだ。女の子だからね仕方ないね。
「ど、どこ!? 照明ってどうやって点ければいいの!?」
「れ、レヴィアさん、離れちゃダメです! 置いていかないでー!」
「照明のスイッチは大体部屋の入口あたりに設置してあるもんだ。よく探せばそのうち見つか――」
プルルルルルッ! プルルルルルッ!
「わ゛ぁぁああ!!」
「ひぃぃいい!!?」
「きゃあああぁぁあ!! こ、こんどはなんですかぁ!?」
プルルルルルッ! プルルルルルッ!
「ね、ネオラ、アンタのほうから聞こえるんだけど」
「……あ、こ、これ教官に持たされた通信魔具の着信音だわ」
「はっ、はぁっ、はっ、はっ……!! し、心臓が止まるかと思いました……!」
驚きのあまり軽く過呼吸に陥りそうになっているオリヴィエ。とりあえず深呼吸して落ち着こう。な?
なんつータイミングで電話かけてきてんだあの教官は! マジクソビビったわ!
いや、こっちの状況なんか分かんないだろうから仕方ないけどさ。
お読みいただきありがとうございます。
>スキル所得不能なはずですよね?―――
スキルは持ってないけど、だからこそそれ以外の異常さが最近酷くなってきている模様。いや元からこんなんだっけ…?
300話突破お祝いのお言葉ありがとうございます。大丈夫、筆者もコメント見るまで300話超えてること気付いてませんでしたから(;´Д`)
>『リークする』って"意図的に秘密を漏らすこと"で、この文脈には―――
確かに。不適切な表現でしたねー(;´Д`)
『取得』に修正させていただきました。訂正のご指摘ありがとうございます。面目ないorz
>レベル82って結構強いはずなのに、一部例外を除けば捕食者のはず―――
『強い魔獣ほど美味い』ということを理解してしまって以来、強いけど食える魔獣によく逃げられてしまうようになった模様。どっかのグルメアクションマンガの青髪主人公かな?
30ほどSPを回復するのに1人前食べないといけないので、現在のSP最大値を考えると食事だけで空の状態からフルに回復させるには約40人前ほど食べないといけないという。やっぱなんかスキル持ってね? コイツ。
>空間異常のはみ出し、これは産業廃棄物や―――
……なんか英語の授業でそれっぽいお話があったような。底が見えない深い穴にゴミを落としまくってたら、数年後に空から降ってきたみたいな。
太陽は、……作るのはいいけど扱い切れる気がしないです。主人公も筆者も(;´Д`)
メニューさんの真意やいかに。……まぁ言ってしまえば解析はとっくに完了してるんですけどね。でも黙っている不思議。ナンデダロウナー。
>そのうち軽い異常くらいは作れるようになりそうですね。―――
吸引力の変わらないただ一つの異常。下手したら魔王より先に主人公が世界滅ぼしそう。
時空推進機能関連の発想がやっぱ物騒なものばかりでコワイ(;´Д`) ご意見ありがとうございます。
>レベル一回り大きい敵と戦わせて死ぬ危険性高いにも関わらず―――
>主人公の思考垂れ流してる文章が多いですが、正直年齢疑います。―――
>今まであったシリアスなシーンが全部主人公の思考文でぶち壊されてましたけど皮肉ですかね?
一応、危険な状況になった時のために近くでスタンバイしてるうえに、即死しない程度の魔獣を選んでいるので暢気な思考していたようで。
主人公の性格ゆえ致し方なし。基本、主人公の中身はこんな残念思考という設定ですので、それを不快に感じられるのでしたら申し訳ない。
あとシリアスは基本長続きしません。主人公のパートでは基本シリアスはもって2、3話くらいしか続きません。
>最近、メニューさん、ヒカルへの対応、ちょい雑じゃない?―――
メニュー「こいつなら高重力も余裕で耐えられるだろうしへーきへーき」なお割と平気じゃない模様。
基本、食える魔獣はもはやお肉にしか見えていない模様。3匹の魔獣は後々パーティで食べる予定。




