この生涯だけだ
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戦闘狂という言葉がある。まあ造語なんだろうけどある。
戦いが大好きで、兎にも角にも強い奴と戦いたくて仕方がないといった、ある意味一種の病気だ。
といっても大抵は『戦う』のが好きというよりも、『そこそこ手こずりつつも最後には自分が勝つ戦い』が好きというパターンが大半だと思う。
あのクソ黒龍なんかがモロそれだ。アルマの御両親とか、自分がボロボロに負けるであろう本当に強い相手とは戦いたくないみたいだったし。小物くさいわー。
竜の爪と牙、そしてブレスを掻い潜って顔面を気力を籠めた魔力の腕でぶん殴った。
血反吐を吐き、牙が折れ、それでもなお竜は笑っている。
『ぐおぉぁあっ!? ヴァ、ヴァハハッ! 面白い! 面白いぞ、お主は!』
「……タフだな。思いっきりぶん殴られて牙が何本も折れたのに、なにがおかしい?」
『ヴァッハハハ! これほど強い相手と戦っているのだ! 痛みも、傷も、この楽しさに比べれば些末なことよ!!』
多分、本当の戦闘狂っていうのは目の前のドラゴンみたいなのを言うんだと思う。
傷付くことも、その末に死ぬことすら恐れず、むしろ望むところといった様子で本当に楽しそうに戦っている。
……いや、こんな境遇じゃなければもっと別の楽しみもあったかもしれないけど、もう戦い以外に楽しむ手段が無いから戦闘狂にならざるを得なかったと言うべきか。
『ヴァォォッォオオオアアアッッ!!!』
「っ!」
竜の口から、炎の弾がばら撒かれた。
その弾は全て俺を追跡して襲いかかってくる。ホーミング型のブレスってところか。
一発一発がアルマママの魔法に匹敵するほどの威力。だが、それも似たような魔法を何度も受けた経験があるし、対処はできる。
むしろアルマママの魔法のほうがヤバい。なにせ、稽古なのに殺す気満々にしか思えないような威力の魔法をバンバン撃ってきてたしなハハハ(白目)
そこに、突風。
いや、横殴りの風とかそういうレベルじゃない、まるで本当になにかに叩きつけられたかのような暴風が、飛行中の俺を襲った。
黒竜が使っていた、竜族スキルの【ドラゴン・ウィング】か!
「ぐっ……!!」
や、やばい、すげぇ力だ……! 黒竜の起こした風とは段違いに強い。
なんで黒竜よりも能力値が低いはずなのに、こっちのほうが強い風を生み出せてるんだ?
≪マスタースキル【オーラ・オーバーロード】の効果で、スキル技能の威力を底上げをしている模様≫
≪マスタースキル【オーラ・オーバーロード】 スキル技能を使用する際に、魔力あるいはスタミナを消費する際に任意で生命力を上乗せして消費し、最低でも威力を5割増し増大するスキル≫
生命力を上乗せして、最低でも威力5割増し!? そんなの俺が使いたいわ!
ってちょっと待て、一回その技能を使うのにどんだけ生命力が削れてるんだ?
≪消費する生命力は一回使用するごとに最低一割程度。外見上は無傷に見えるが実際は筋肉や骨が破損していき、生命力が5割を切った時点で内臓機能などの衰弱・破損が始まり、全ての生命力を使い切った時点で脳の機能が停止し死亡する≫
な、んだって……!?
『ヴァハハハハッ! ボサッとしておると、マグマ真っ逆さまだぞぉ! ガァァアァアッ!!』
笑いながら、今度は【スタンダード・ドラゴンブレス】を放ってくる。
暴風に煽られ、回避は不可能。防ぐしかない!
魔力の盾を、いや、また生命力を消費しているのか最初に撃ってきたブレスよりも明らかに強い!
薄っぺらい魔力の盾なんか作っても、すぐに押し切られるか燃え尽きる。
このエネルギーの奔流を防ぐには厚みが必要。
でもモロにブレスを受ける範囲は最小限にしなければならない。
大部分を受け流すように鋭く、そして接触したブレスを弾くように動かす必要が……
走馬灯のように、瞬間的に頭の中で思考が巡る。
多分、知能の数値が上がった影響かな。緊急時に頭の回転が速くなるのはありがたい。
その結果出来上がったのは、例えるならドリル。
ブレスという巨大な岩盤をぶち抜くための、巨大な削岩ドリル型バリアーだ。……バリアーと言っていいのかコレは?
円錐型のボディはブレスを上手く受け流し、さらに回転を加えることでより強くブレスをいなし、弾く。
咄嗟に作ったにしてはかなりの防御性能を有していたらしく、ほぼノーダメージでブレスをしのぐことができた。
『ヴァハハ、アレの直撃を受けて無傷とは! 並の人間ならば骨すら残るまいに!』
「……あんなもんポンポン撃つなよ。俺よりも、アンタのほうがダメージがデカいじゃないか」
『……ふっ。その様子だと、どういう代償を払っておるのか察しがついておるようだな』
見た目はなにも変わらないが、竜のステータスを確認するとHPがごっそり減っていて、状態表示に『筋繊維破損・苦痛』と書かれている。
今はまだ酷い筋肉痛程度で済んでいるが、何度も使えばそのうち命にかかわるダメージを受けることになる。
勝手に産まれさせて、勝手に意志と知識とボスとしての役割をもたせて、さらに使い過ぎると自滅しかねないスキルをもたせるとか、意地が悪いにもほどがある。
神様、俺をこっちの世界に連れてきたことを、今では感謝してる。
でも、この戦いの間だけは、アンタのことをクソ野郎だと思うよ。
~~~~~マグマの竜視点~~~~~
たのしい。
たのしい、楽しい。
ああ、今まで神を呪わぬ日などなかったが、今この戦いの間だけは感謝を述べたい。
我の最期に、このような強敵と巡り合わせてくれて、ありがとう。
「……よくもやりやがったな! 今度はこっちの番だ!」
『応! くるがいいっ!!』
口では不機嫌そうに怒鳴っておるが、我に対する怒りなど微塵も感じられぬ。
その証拠に、この男はこちらをなんとも悲し気な眼で見てくるのだ。
「おらぁっ!!」
『なんのぉっ!!』
そしてその憐憫を悟られぬように気を使っているのか、激しく容赦のない攻撃を繰り出してくる。繰り出して、きてくれる。
それでいい。同情して手加減なんぞされても、惨めなだけだ。
その気遣いに、こちらも全力をもって応えねばなるまい。
『カァッ!!』
自らの周りに衝撃波を発生させる技能、【気功・発徑】。
こんなマグマだらけの場所で使えば、当然周囲のマグマを弾き飛ばすことになる。
『ガァッ! カァッ! ガァァアッ!!』
気功・発勁を連発し、マグマの大波を何度も何度も生じさせ、目の前を飛び回る男に叩きつけようと試みる。
同時に、光属性の追加ダメージを生じさせる【激電爪搔】を纏わせた【魔爪・遠当て】を繰り出し、さらにそれらを【魔爪・三日月】により固定。
すると、光の筋が爪から放たれて宙に留まっている状態になった。我の知識によると『レーザー』と呼ばれるものに酷似しているようだ。
その筋に触れた者は即座に焼き切られ、絶命するであろう。
マグマとレーザーの弾幕を放っているうちに、奥の手の準備をする。
準備にかかる時間は10秒。ただ数えるだけならば瞬きと大差ないほど短い時間だというのに、戦いの最中ではこうも長く感じるものなのかと、新たな気付きがあった。
この男が来てくれなければ、おそらく一生そんなことは分からなかったであろうな。
早く準備が終わってほしいような、ずっとこの時が続けばいいような、なんとも言えぬ心境だ。
心の中で10数え終わった時に、満ち足りるような喪失感という矛盾を覚えた。
ああ、準備完了だ。
これで、終わる。
『ヴァァァァァァァァァアアアアアアッッ!!!』
口内から残る大半の魔力と気力、そして生命力の奔流が放たれた。
竜族スキルLv7【チャージング・ドラゴンブレス】
一度発動すれば中断は不可能。10数えるまでは放つことができず、使用するのに最大魔力・気力の半分を費やすというなんとも使い勝手の悪い技だ。
だが、その威力は竜族スキルの中でも屈指。通常のブレスとは比較にならぬ破壊力であろう。
さらに【オーラ・オーバーロード】で威力を底上げし、その威力はダンジョンの中でなければ甚大な被害を周囲にもたらすであろう。
受けるがいい、受け取るがいい! これが、我の最大の技だ!
先ほどどうやってブレスを防いだかは分からぬが、我の全身全霊を受けきれるか!!
全身の力が口から吐き出されていく。
魔力が、気力が、生命力が、血液すら無くなっていくように、全てすべて吐き出されていく。
神を呪うほどの憎しみも、怒りも、なにもかも。
どれほどの間、ブレスを吐いていたのか。
何時間もの間だったのか、たった数秒だけだったのか、我にも分からぬ。
全身がだるい。
なにもかも吐き出して、震えるほどの爽快感とひどい虚無感が襲ってきた。
あの男は、耐えきったのか。
それとも、燃え尽きてしまったのか。
姿が見えぬ。
ああ、そんな、それはないだろう―――――
「とったぞ」
『っ……!!』
その男は、我の足元にいた。
ブレスに耐えたのか!? いや、ブレスの中を突き進んでいたのならば、見えていたはずだ!
まさか、こやつ、マグマの中を……!?
「らぁぁぁぁああああああっっ!!!」
胸を、心臓を、なにかが通り抜けていく感覚。
男が突進し、我の身体をぶち抜いていったのだと分かった。
『ガァァァァアアアアアッ……!!』
激痛。それとともに身体が崩れ落ちていく。
立てぬ。いや、もう、指一本動かせぬ。
我は、負けたのか。
我は、死ぬのか。
我は、ようやく、死ねるのか。
『ヴァ、ヴァハ、ハハ。見事、なり』
「なに、笑ってんだよ」
『こんな楽しい戦い、笑わずにいられるか。あー、……楽しかったのぉ』
「こんな所でボスなんかに生まれなけりゃ、もっと楽しいことだって―――」
『やめてくれ。……我は、いま、満ち足りておる。ほんの数分間の戦いであったが、我にとっては一生を捧げるにふさわしい時間であった。もしも、だの、次の生涯ではもっと幸せに、とか、そんなことは、言わないでくれ』
「……アンタ……」
『たとえ生まれ変わることがあったとしても、『我』として生きられるのはこの生涯だけだ。どうか、それを、つまらない無価値なモノなどと、思わないでほしい』
「……そうか」
『最期に、名を、聞かせて、くれん、か』
「梶川光流」
『カジカワ、ヒカル。覚えて、おこう。たとえ、それが、あと数秒、の…………ありが、と、う…………』
~~~~~梶川光流視点~~~~~
……後味が悪い。
とても穏やかな顔をしながら満足そうに死んだ竜を眺めていると、なんだか無駄にセンチな気分になってしまいそうだ。
≪レベルが一定の数値に達したのを確認。メニュー機能のアップデートを開始≫
アップデートの進行プログレスバーを眺めながら、竜の死に際の言葉を反芻する。
次があるから今回はもうこれでいい、なんて妥協せずにこの竜は最後まで精一杯自分の生涯を楽しみ『生きて』いた。
『生まれ変わることがあったとしても、自分として生きられるのはこの生涯だけだ』って。
転生なんか望んだ過去の勇者、魔王に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。いや勇者君は不可抗力だから別として。
たった数年しか生きていないのに、俺なんかよりもずっと胸を張って生きていたな。
過去の勇者は、そんなにその人生が嫌だったんだろうか。
それとも、生まれ変わってでも自分の手で成し遂げたいことでもあったのかな。
≪アップデート完了。新たに【時空間推進機能】を使用可能≫
≪アイテム画面内に収納されている物品は本来時間経過の影響を受けない。この機能はアイテム画面内の物品を任意の環境で自由に時間経過させることができるようになる機能。時間経過にかかるタイムロスはほぼ皆無≫
え、たとえばアイテム画面にぬか漬けを入れて、好きな環境で十日ほど経過させたいって思ったらその通りにできるってことか?
≪…………………概ねその認識でいい≫
神機能ですやん。お肉の熟成なんかもできそうだな。
≪ただし、経過する時間及び湿度・温度の高さや低さなどの環境設定によって消費する魔力量も変動するので、完全に自由な設定にできるとは限らない≫
あー、たとえば収納した石を常温で数分間経過させるのと、『マグマ作りてー』とか思って数千度の環境で数分間経過させるのとじゃ消費する魔力が変わってくるってことか。
消費する魔力量がどれくらいの塩梅なのか、今後試していくとしようか。
≪ラーヴァ・ドラゴンの死体を収納し、ダンジョンから脱出後に時空間推進機能にておよそ2000年ほど時間経過させることを推奨≫
え、なんで?
そんなことしたら腐って食えなくなっちまうだろ。
あんな戦いをした相手だから、食えるのなら食って供養してやりたいんだが。
≪……梶川光流の新たな武器の素材として、非常に有用なアイテムを手に入れることができるため、食肉として扱うのは数kgに留めておくべき≫
≪その素材を使うことによって、段違いに装備の性能が上がると推測≫
う、うーん………。それならそれで、この竜の力と一緒に戦ってやれるってことにもなるしなぁ。
仕方ない、せめてほんの少しでも食ってやって、残りは武器に使わせてもらおう。
……どんな素材に仕上がるのやら。
お読みいただきありがとうございます。
>なんともならんのかね この竜
生きて外に出ることは叶いませんでした。
しかし、それでも竜にとっては幸せな最期だったようです。はたから見てるとなんとも悲しく映るかもしれませんが。
>おぉう…今度はマグマの補給?ですか…――――
もう悪用される予感しかしない恐怖。
ドラゴン戦は短く濃く仕上げたかったので、今回で決着です。
どこぞのジャンプの主人公……思い浮かぶのが軽く2、30キャラくらいいるから特定できぬ(;´Д`)
>マイクラを思い出したのは俺だけだろうか?―――
マイクラとかいう時間泥棒。やったことないですが、動画なんかを見てるととんでもない手間をかけて建設してる方が大勢いて戦慄を覚えますね(((;゜Д゜)))
ところでマグマの有効活用と言われましてもどう考えても物騒なイメージしか湧かないんですがそれは。
>と、いうことは、魔力パイルバンカーの―――
あー、いわゆるグレネードランチャー的な? 物騒な案ばかりどんどん出てきて草。ありがとうございます。いずれ似たような技を使うかもです。
主人公を人外呼ばわりはやめて差し上げ、……でももう人間の範疇を逸脱しすぎてる感もあるし、うーん……。
>21階層以降でガンダリウム合金を見つけて―――
ジュリアンが例の人型ロボット見たら狂喜乱舞しそう。で、生涯かけて自分で作りそう。
大槌の形にこだわらずいろんな機能を付けてみる、という案は面白いですね。……今からでもちょっと考えなおしてみようかな。
マグマステーキの存在をコメントを拝見して初めて知りました。なんというロマンと実益のコラボ。いつか食べてみてぇ。




