たんこぶ
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今回始めはレイナ視点です。
カジカワさんの消息不明を聞いたアルマさんが倒れてからもう2日。
あれからまともに食事も摂らずに、ただベッドに座って遠くを見ながら時々うわ言を呟いてる。
……とても見てられない。
自分もヒヨ子ちゃんも心配ではある。
生きてさえいればファストトラベルですぐに移動して、こちらに連絡することくらいはできるはずなのに、まるで音沙汰がない。
……ネオラさんから聞いた話じゃ魔王と遭遇したっていう話らしいし、普通に考えたら殺されたと考えるのが自然だ。
でも、カジカワさんは普通じゃない。そりゃもう普通じゃない。色んな意味で。
そう簡単に死ぬような人じゃないし、瀕死の重傷を負っても数分後には何事もなかったかのようにピンピンしてるくらい生存能力が高い。
死体が見つかったりはしなかったらしいから、多分気を失っているかなにかして身動きがとれないだけだと思う。
そのうち向こうから連絡がくるだろうし、そんなに気に病むようなことじゃないだろう。多分。
でも、アルマさんはそれでも不安で仕方がないみたいだ。
ただでさえ会えない日々が続いててストレスが溜まっているところに、あんな報せを聞いたら堰が切れてしまうのも無理はない。
まさか気絶してしまうとは思わなかったけど。
……カジカワさんには悪いけど、自分からしたらアルマさんのほうがずっと心配だ。
御両親の声も、自分の言葉もまるでアルマさんには届かなかった。
口を開けば『ヒカル、ヒカル』と呟くばかりで、目に生気がない。このままじゃいずれ衰弱が進んで身体を壊しかねない。
もうこうなったら自分が張っ倒してでも立ち上がらせるしか……!
「おい、ガキ」
不意に、後ろから男の人の声が聞こえてきた。
デュークリスさん? いや、こんな若い声じゃない。……っていうか
「誰がガキっすか! 失礼な!」
「どう見てもガキだろうが。そのナリでなんであんな無茶苦茶な戦い方ができるんだか」
声をかけてきたのは、たしか準決勝でアルマさんと戦った『アランシアン・アイザワ』とかいう黒髪の剣士だ。
口が悪くてガラも悪い、でも剣の腕はアルマさん以上だったっすね。口が悪いけど。口が悪いけど。大事なことだから3回言ったっす。
「アンタどっから湧いたんすか。なんか用っすか?」
「用があんのはお前じゃねぇ、アルマのほうだ。どこにいるんだ?」
「急に現れてなに言ってんすか。てかアンタまだアルマさん追っかけまわしてたんすか? 『試合に勝ったら俺のモノになれーグヘヘヘヘ』とか言っといてあっさり負けたのに」
「んなゲスい言い方してねぇよ! テメェん中じゃ俺ぁどういうヤツなんだよクソガキが!」
「ガキガキうっさいっすよ! これでも成人してるしとっくに上級職っす!」
「…………マジかよ」
「マジっす」
自分がもう上級職になっているのが信じられないのか、唖然とした表情で口をあんぐり開けながらこちらを見ている。ふふん。
そう、こないだのスタンピードもどきの大侵攻でレベルアップしまくって、自分とアルマさんは上級職にジョブチェンジしたのである!
現在、自分はLv54、アルマさんはLv57にまで上がってる。ちなみにヒヨコちゃんはLv55。ぐぬぬ……!
自分は『くノ一・望月』、アルマさんは『マスター・パラディン』にランクアップして、新たなスキルも獲得できた。
ところでモチヅキってどういう意味なんすかね? カジカワさんが作ってたオモチってお菓子となんか関係があるのかな。……多分関係ないっすね。
「アルマさんは、いま精神的に不安定な状態で寝たきりの状態っす。元気付けるために今からちょっと引っ叩いてでも部屋から引きずり出すところっすから邪魔すんなっす」
「荒療治だなおい。……ま、俺も似たようなもんだけどな」
「なにする気っすか? はっ、まさか落ち込んで無気力になってるのをいいことに好き放題してやろうと――」
「しねぇよ。妄想もいいかげんにしとけマセガキが。……教官の二人に、あの変な仮面着けた空飛ぶオッサンが行方不明になって以来アルマが塞ぎ込んじまってるから、気休めでもいいから元気づけてやってくれって頼まれたんだよ」
「教官って、アルマさんの御両親にっすか? あー、ということはルナティアラさんの転移魔法でここまできたんすねー」
なにかに気付かせるためにアルマさんからカジカワさんを引き離した結果、まさかこんな事態になるとは思ってもなかったらしく、御両親はお二人ともそのことを気に病んでいる。
今も転移魔法やら自分の脚やらで、カジカワさんの目撃情報がないか第4大陸中をしらみつぶしに回っているけど、いまだに手がかりすら掴めないらしい。
色々と間が悪かったと言えばそれまでだけど、アルマさんのあんな姿を見たら罪悪感も湧いてくるっすよねー。
てか、この人飛行士の正体がカジカワさんだって知ってたんすね。
武術大会の時に結界ぶち破ったところでも見てたんすかね?
「とにかく、引っ叩く前に俺に話をさせろ。テメェが言うようなゲスい真似はしねぇからよ」
「……ひょっとして、カジカワさんがいない間に好感度を稼ごうとしてたり?」
「好きに言ってろ」
「ま、乱暴しないなら別にいいっすよ。アンタだろうとカジカワさんだろうとアルマさんが幸せになれるなら、ね」
「はっ、そうかい」
それだけ言って、アルマさんの部屋を教えるとさっさと中に入っていった。
あの様子じゃ、まだまだアルマさんを諦める気はないみたいっすねー。
……あんなこと言ったばかりで申し訳ないっすけど、アンタが入る隙なんか無いと思うっすよ。
~~~~~アルマ視点~~~~~
なんで、こんなことに?
お母さんたちがヒカルだけ離ればなれにさせたから? ううん、単に間が悪かっただけだ。
ギルマスたちが、ヒカルを戦いに参加させたから? いや、彼のことだから、多分どのみち戦いに赴いていただろう。
そんなふうに、ヒカルが自分から危険なほうへ向かっていく性格だから? ……でも、それがヒカルらしさでもあるから……。
違う。違う違う。
原因を他人に求めるばかりじゃ駄目だ。
今、大事なのはこれからどうするべきか、考えること。
どうすればいい。
どう、したらいい。
私にできることって、なんだろう。
私がしたいことって、なんだろう。
ヒカルを、探さなきゃ。
どこを? お母さんたちが必死に探しているのにまだなにも見つかっていないのに私が探しに出たところでなにも変わらないでもこうやって寝ていてばかりじゃなにも進展しないだから早く意味がないかもしれなくても探しに行かなきゃ――
「……こりゃ思ったより重症だな」
…………。
いつの間にか、部屋の出口のほうに見覚えのある男性が立っていた。
「……アラン、シアン?」
「いつからそこに、なんて言うなよ? ちゃんとノックはしたしドアから入ったのに、話しかけるまでなんの反応も無いから目ぇ開けたまま寝てるのかと思ったぜ」
「ごめん、全然気が付かなかった」
「……そうかよ」
頭の後ろを軽くかきながら、少し苦い顔をしている。
本当に気付かれていなかったのが少しショックだったみたいだ。……ごめん。
「あの空飛ぶオッサンが行方不明になって落ち込んでるって話だったが、……正直言って、ひでぇ顔してんな」
「……そう」
「普段表情に乏しいお前がここまで落ち込むとはな。あのオッサンのことそんなに好きか?」
「……っ」
やめて。
……やめて、お願い。
『好き』かと言葉に出されただけで、胸が締め付けられるような気持ちになるから。
会えない今の状況じゃ、なおさらだ。
「その様子じゃ、マジみたいだな。お前のそんな顔なんかそうそう見れるもんじゃねぇだろ」
……うるさい。
人の気持ちも知らないで、ずけずけとモノを言わないで。
いや、それとも、知ったうえであえて逆撫でするつもりで言っているのか―――
「気に入らねぇな」
「……!?」
アランシアンの手が、私の顎を掴んだ。
強く、でも決して乱暴じゃない力加減で。
そのままあと少しで唇が触れそうなくらい顔を近づけながら、言葉を続けた。
「お前の瞳の中には、いつもアイツの影がありやがる」
「……離して」
「まあ無理もねぇ。俺はお前に負けたし、それにアイツなら今の俺ぐらいならひと捻りだろうしな。女がより強ぇヤツに惹かれるのは当然のことだ」
「あなたに、なにが分かるの」
確かに、ヒカルは強い。誰よりも頼りになるし、追いつこうとするだけで精いっぱいなくらいだ。
でも、私が惹かれているのは、そんなことじゃなくて―――
「だが、俺も諦めが悪くてな。……まだ、お前のことを諦めたわけじゃねぇ」
「……あの勝負で、あなたは負けた。その結果に、なにか不満でもあるの」
「いいや、ねぇよ。負けは負けだ。見苦しく負け惜しみを言うほど腐っちゃいねぇよ」
「だったら……」
「負けたんだったら、勝つまで挑みゃいい」
「……は?」
「俺は諦めねぇ。今はまだ、お前にもあのオッサンにも敵わねぇが、いつかどっちもぶっ倒して、お前を手に入れる。何度挑むことになろうとも、何度負けようがな」
…………………………。
このひとはなにをいってるんだろうか。
私、いま落ち込んでるんだけど。あなたの気持ちを聞いてる余裕なんかないんだけど。というか、本当になにを言っているんだろうか。
「だから、いつまでもそんなクソみてぇな落ち込み方して、腕を錆びつかせるんじゃねぇ。でないと、すぐに追い抜かれちまうぞ」
「……それで、励ましてるつもり?」
「ああ? お前がいつまでもウジウジしてっから、ちったぁマシになるように活入れてやっただけだ。言っとくが、今のは激励でもなんでもねぇ。……一度でも、俺に負けてみろ。その時は力ずくで俺のモノにしてやる」
ああ、うん、嘘じゃない。これは、本気の目だ。
肉食獣のように、獲物を見る目。
細く鋭く、……でも、なぜか、どこか優しげにも見えた。
「俺が言いてぇのはそんだけだ。じゃあな」
私の顔から手を引き、ポケットに突っ込みながら出口に向かっていく。
少し、耳が赤くなっているように見えるのは気のせいだろうか。
……うん、よく分かった。
彼は本音で喋っていた。私を手に入れたいと言うのも、決して嘘じゃない。
ただ言葉にしなかっただけで、彼は彼なりに私を元気付けようとしてくれたことも、分かった。
「アランシアン」
「……なんだよ」
だから、私も本音で応えよう
「次も負けない。次の次も、そのまた次があっても、ヒカル以外に負ける気はない」
「……はっ。ならいつまでもゴロゴロ寝そべってねぇで素振りでもしてろ」
アランシアンは、『いつかどっちも倒して』と言っていた。
それはつまり、アランシアンはヒカルが無事だと思っているということ。
ヒカルを目の上のたんこぶと思っているだろう彼ですら、ヒカルが生きていると信じているのに、私がこんなんじゃ申し訳が立たない。
……うん、私も、早く部屋から出てやるべきことを―――
ドバァンッ!! と派手な音を立てながら、部屋の扉が開かれた。
「ぐぉあぁっ!!?」
勢いよく開かれた扉に、モロに顔面をぶつけてしまったアランシアン。
手で顔を押さえながら、険しい表情で痛みに身体を震わせている。
「アルマ、いるかっ!?」
「……ネオラ?」
部屋に入ってきたのは、勇者ネオライフことネオラだった。……相変わらず、女の子と見間違えそうになる。
第4大陸の戦いの時に、ヒカルと一緒に戦っていたっていう話だけど、彼もお母さんにここまで転移魔法で送られてきたんだろうか。
「ん、ちょっと顔色が悪いけど、思ったより元気そうだな」
「心配かけてた? ごめん」
「いや、いいよ。それよりも―――」
「おいテメェ! いきなりなにしやがんだこのオカマが!」
「あ゛あ゛んっ!? 誰がオカマだクソガキが! ……ってか、どうしたそのたんこぶ? 超痛そうだな、うわぁ」
「テメェが原因だろうがクソオカマが! 表出ろオラァ!!」
「オカマオカマうるせぇよ! いまそれどころじゃねぇっつの!」
「……なんで部屋に入って数秒で喧嘩が勃発するんすかねー」
『ピィ……』
……この二人は仲が悪い。多分、なにか原因があるわけじゃなくて、単に色々と間が悪いというか反りが合わないんだと思う。
その様子を、一緒に入ってきたレイナとヒヨコが呆れ顔で見ている。アランシアンやネオラを案内してくれたのはこの子たちかな。
「丁度いいや、お前も一緒にいて聞いてろ」
「あ? テメェの用事なんざ俺にゃ関係ねぇだろ」
「関係あるんだっつの。いいから聞けや」
「……ちっ、なんだってんだよ」
「なにか、あった?」
「梶川さんから、連絡があった。今から伝えるから、よく聞いてほしい」
お読みいただきありがとうございます。
>メッセージを勇者に送って、生存確認だけを―――
おおよそ合っていますね。でもバグ仲間扱いはさすがに草。
生存確認以外にも、色々と伝えたいことがあったりなかったり。いや別にメニューさんとの結婚報告とかそういうのじゃ(ry
>や~っと自覚したかフロイライン。―――
あまり長く曇らせようにもそれを書き切る腕が筆者に無いという悲しい現実orz
そしてしばらく二人の関係は平行線な模様。下手したら完結までくっつくか分からんねクォレハ。
>アルマも梶川も結構互いに依存してるな…―――
良くも悪くも共依存ですが、互いの粗を受け入れつつなのでさほど悪い関係でもないかと。アルマは下手したらヤンデレルート行きですが。
なお、メニューからの提案もきっちり伝えるので決して効率悪いことばかりではないようで。
>メニューさんの対魔王反撃チャートが過酷すぎて体がもたないってありそうで無さそう。
普通に考えたらヤバい橋ばかり渡ることになりますが、そうでもしないと魔王に殺されるので無茶させまくる予定。イ㌔。
>こ、この話で初めて恋愛っぽい内容が出てきた気がする…!!(笑)―――
今回は顎クイに壁ドンもとい扉ドンまでやって恋愛要素マシマシ。いやそうでもないか。
メニューの暴走めいた魔王反撃作戦はまだ始まったばかり。魔王も梶川も、サポートしているメニューは世界よりも主の都合を優先するので色々自重しなくなる模様。
>カジカワ、これはもう石仮面を探すしかないね!―――
そうなったら、常人の何倍もの膂力を手に入れたり化け物じみた再生能力を身につけたり相手を凍らせたりできるようになってしまいますね! ……主人公、元からそんなだったわ。




