過呼吸
新規の評価、ブックマーク、誤字報告、感想をいただきありがとうございます。
お読みくださっている方々に感謝します。
今回始めはアルマ視点です。
別れてこそ、分かることもある。
両親がどういうつもりでそう言ったのか分からないけど、今の状況を見るとなるほど確かにと思う。
彼が、普段どれだけ私たちを支えてくれていたのか。
彼がいないということが、私たちにとってどれほどの喪失感を与えるのか。
まるで胸にぽっかりと穴が開いたかのような、酷い虚無感。
……物理的な意味で胸に穴が開いたことはあったけど、心の穴は目に見えない。
別れて数日で早くも限界が近いことを悟りつつある。
ちゃんと美味しく調理されたもののはずなのに、土くれでも食べているかのようにご飯の味がしない。
稽古のモチベーションが上がらない。成人して、見習いパラディンになったばかりのころみたいに。
魔獣相手にどれだけ暴れても、まるで気が晴れない。ただ、疲れるだけだ。
我儘を言う自分の心を諫めて、毎日倒れて意識を失うまで稽古やレベリングを続けた。
ヒカルみたいに魔獣の特性やスキルなんかを一目で見抜くことなんかできないから、指示を誤ってしまうことが何度もあったし、効率はあまり良くなかったけど。
レイナたちから無理をしすぎだと何度も言われたけれど、こうでもしなければ私はなにもできなくなってしまいそうだから。
我ながら、癇癪を起こした小さな子供のようだと思う。
自分の思い通りにいかないからと、拗ねて、いじけて、心の中は不満ばかり。
それを誤魔化すように連日無理をしているけれど、根本的な解決にはなっていない。
……違う。
これらはあくまでヒカルがいないからって、ただ私が苛ついているだけだ。
そんなこと、どうでもいい。長所は伸ばして、短所は改善して克服するように努めればいい。
別れてこそ、分かることもある。
私たちにとって、………私にとって、ヒカルがどういう存在なのか。
一緒にいるだけで、毎日が楽しい。
毎日美味しいご飯を文句も言わずに作ってくれて、『美味しい』と言うと本当に嬉しそうに笑っていて。
共に戦っていると、あまりの強さに置いていかれそうだって怖くなることもあるけれど、だからこそ隣に立っていられるように必死に強くなろうと頑張れる。
『助かった、ありがとな』って、気を使っているように聞こえることもあるけれど、そう言ってくれるだけで彼の助けになれたんだって、誇らしかった。
別れてこそ、分かることもある。
……きっかけが、なんだったのかは私にも分からない。
魔法剣を教えてもらって、不遇職の劣等感から救ってもらった時か。
スタンピードを乗り越えて、パーティを組んだ時か。
それとも最初に森で出会って、必死になって二人で魔獣を倒した時からか。
あるいは、そういった小さな出来事を毎日積み重ねて、何気ない日常を送っているうちに、私は、……私は、ヒカルを――――
言葉にして自覚しないようにしてきたのに、なんで、会えない今になって……っ。
いや、会えない今だからこそ、なのか。
一緒にいる時に気付いてしまったら、今まで通りに彼のことを見られなくなってしまいそうだったから、無意識に自分の気持ちに蓋をしていたのかもしれない。
……多分、お母さんはこれを狙って私たちを別れさせたんだと思う。お父さんは単純にパーティとしての役割とかを自覚させるためとしか考えてなさそうだけど。
そんな心の不安定な状態が続いていた時に、各大陸の王都に大規模な魔獣の群れが侵攻しているという話がきた。
侵攻されているのは第1、第2、第4大陸。いずれも数万を超えるスタンピード顔負けの、魔獣による災害。
第1大陸はお母さんと一緒に私たちが担当して、第2大陸はお父さんが他の特級職の人たちと連携して侵攻を迎撃。
第4大陸は他の修業しているメンバー全員と、ヒカルが既に向かっているらしい。
ヒカルは強い。もうお父さんと互角ぐらいの強さまで成長している。
並の魔獣や魔族相手なら、なんの問題もなく対処できる、はず、なのに。
胸の奥で、重たく暗いなにかを感じる。今まで抱いたことのない、不安な気持ち。
ヒカルを信じるんだ、と不安を誤魔化すように魔獣の大群相手に戦った。
自分の役割も満足に果たせないようじゃ彼に顔向けできないからって、言い訳じみたことを理由に暴れまわった。
でも、いくら暴れても、戦いが終わってクタクタになっても、不安は消えてくれなかった。
会えないにしろ、せめて無事かどうか教えてほしいと連絡をとろうとしたところで、……ヒカルが、消息を絶ったと伝えられた。
お父さんがネオラから聞いた話では、ヒカルが魔王と鉢合わせた形跡があって、駆け付けた時に現場には多量のヒカルの血液と壊された大槌だけが残されていたらしい。
そう聞いた途端に、息が上手くできなくなってきた。
ちゃんと吸って吐いているのにどんどん苦しくなっていく。脂汗が滲み出てくる。身体の震えが止まらない。
胸の奥の暗いなにかの重みが増していく。
「あ、アルマさんっ!」
レイナの叫び声が聞こえたあたりで、目の前が真っ暗になっていって、意識を手放した。
ヒカル、いま、どこにいるの
おねがい、だから、ぶじ、で――――
~~~~~
……………おはようございます。
≪おはようございます≫
ここ、どこ?
≪ダイジェル周辺のダンジョン、その第一階層入り口前。本来、できる限り深層に転移するべきだが、ファストトラベルではダンジョンの中に入ることはできない≫
なんでこんなとこにいるの? 俺、たしか戦争中に魔王に殺されたはずなんですけど……。
≪肉体の死亡直後、当該機能の独断によりエリクサーの投与および魔導ブーツの加工・暴走による電気ショックにて蘇生。その後、安全確保および今後の予定をスムーズに進めるためファストトラベルにて転移≫
……え? 蘇生って、メニューさんが?
≪肯定≫
……完全に『あ、俺死んだ』と思ったのに。まさかの復活である。
ありがとう。マジありがとうメニューさん。結婚しよう。
≪当機能は梶川光流およびその仲間のサポートが存在理由。礼は不要。そして婚約は概念上不可≫
あ、冗談です。そんな冷ややかな感じでマジレスしないで。ホントごめんなさい。
ところで、安全な場所へ逃げてきたはいいけど、あれからどれだけ経った?
≪梶川光流が電気ショックにて気絶、……もとい、魔王によって死亡寸前まで追いやられてからおよそ3日経過≫
3日ぁ!? 俺、そんな長いことグースカ寝てたの!?
てか電気ショックで気絶ってなに!? 一瞬だけ表示されてすぐ消えたの見逃してへんぞオイ!
≪……今後の予定の相談をする≫
え、無視? なんかいつもと比べて微妙に対応が雑じゃない? メニューさん寝てる間になんか嫌なことでもあったの? ……もういいや。
とりあえず、魔王にハツ抜かれて3日も経ってるならみんな心配してるかもしれないし、ファストトラベルで飛んでから報告かな。
≪否。このまま単騎でダンジョンを攻略する≫
は? なんでさ?
≪魔王のメニュー機能は現在機能不全に陥っており、全ての機能を使うことができなくなっている。しかし、およそ10日後には回復・再起動し、その際に情報検索機能で梶川光流の生存を確認される可能性がある≫
げっ! ヤバいやん!
あの、メニューさんの力で俺の情報を遮断したりとかはできないの?
≪一度、存在を確認された時点で隠蔽は困難。この世界にいる限り、魔王のメニューの検索機能にヒットする可能性が高い≫
……どうすんの? もう正直アレと関わりたくないんですけど。
もう強いとかそんなレベルじゃない。異次元だわあんなん。ケタが違う。
どんだけレベルが上がっても勝てる気がしねー。もう勇者君に全部丸投げしようそうしよう。
……あ、思い出しただけでマジ震えてきやがった。
歯の根が合わない。これまで何度か死を予感したことはあったけど、あれほど絶望的でリアルに死がよぎったことなんかなかった。
……吐きそう。アレが、あと10日経ったらまた襲ってくるかと思うだけで、動悸が収まらない。
≪警告:緊張による過呼吸の予兆アリ。深呼吸にて肉体と精神を整えることを推奨≫
お、おう。そうだな。ひっひっふー、ひっひっふー。
≪それはラマーズ法。呼吸を整えるには不適切≫
うん知ってる。……メニューさんのツッコミのおかげでちょっと持ち直したわ。サンクス。
≪重畳≫
で、どうしようか。まさか10日以内に魔王よりも強くなれなんて無茶振り言わないよな?
≪それは極めて困難。現実的に考えて不可能に近い。よって、まずは魔王に生存を悟られないように行動を開始すべき≫
そうですか。
で、何度も言うけどなんでダンジョンにいるんですかね。
今後どうするべきなのか不安しかない。……いや、不安なのはいつものことか。はぁ。
そういえば、アルマたちどうしてるかな。ある意味そっちのほうが不安だ。
≪レイナミウレとヒヨ子は健康体。アルマティナは2日前に過呼吸に陥り気絶。その後、若干衰弱している模様≫
よし、今すぐ戻るぞ! はよ会わないと!
≪却下。今後の予定が狂う危険性あり≫
なんですと!? いや、でも、自分の身を守るためとはいえ、ちょっと会うくらいは許してほしいんだけど……。
≪会えば、アルマティナたちにまで危険が及ぶ可能性が高い。10日後に魔王のメニューを誤魔化すまで、直接会う、また現在地を伝えるのは控えるべき≫
えー……。つーか、過呼吸て。そんな精神的に追い詰められることでもあったの?
……いや、もしかしなくても俺のせいか。罪悪感がががが。
じゃあ、せめて―――
お読みいただきありがとうございます。
前回、沢山の感想をいただきまして、誠にありがとうございます。
>真のボスはメニューさんだったか…―――
今後は基本的にメニューさんのプランに沿って行動する模様。
全ては魔王を殺すため。殺意が強すぎる。
>うっわ…救助に意趣返しまでやっちゃったよ。有能過ぎる…―――
ちょっとやり過ぎた感はありますが、一応ギリギリメニューにできることしかやっていないという。
勇者君はジョブチェンジしてから輝くから。色んな意味で。なお固有能力の内容。
>これはメインヒロインメニューさん
なんだかんだで一番つき合い長いですからね。アルマよりも数時間ほど長いですし。
>なるほど、やっぱりメニューさんのおかげですか。―――
メニューさん万能説。心臓マッサージの描写は我ながらちょっと無理があるというか無茶したというか……。
これからもしばらく忙しい状況が続く模様。イ㌔。
>タイトルのパートナーってアルマのことかと思ったら、メニューさんのことかい!
いつも支えてくれるし、実質正妻。なお本人いわく婚約は不可な模様。
>なんかメニューさんがどこぞの転生スライムの相棒とかぶってるんですけどぉっ!!―――
あそこまで有能だったらこっちの魔王くらいなら楽に殺れそう。というか普通に楽勝でしょうね。
そしてリクに応えたわけではないのですが、レ〇プ目のアルマ。今後はどうなるのやら。
>感想返信、狂気の提案に目が行きすぎてて―――
気絶してたら魔力操作はできませんからねー。返信遅れてすみません(;´Д`)
一応、肉体が生体機能を停止した時点で死亡判定になりますし、蘇生してもキルログにも履歴が残ります。
……つまり、アイナさんやアルマの御両親のキルログには勇者君たちの名前が数十から数百残っているということですね。こわ。
そしてあっさり予想されている転移先。やりおるわぁ。
>メニューさんプンプン丸―――
メニュー「魔王絶許ブッコロ」
……ある意味一番怒らせちゃダメなヤツですねクォレハ……。
>メ、メニューの姉御!一生着いていきやす!(下っ端風)―――
一生ついていくのはメニューのほうなんだよなぁ。
末永く爆発しろ。
>メ、メニューさん!淡白な口調のはずなのに何故か怒りの炎が―――
メニューには本来、意志や人格はありませんが、サポート元の人物の意に沿った機能を果たすために「感情」はどうしても無視できないファクターですので。
それを理解・解析しているうちに……といった具合でしょうか(曖昧
>パートナー、まさかの人じゃなかった!!Σ(゜Д゜)―――
なんだかんだで一番つき合い長い(ry
心臓マッサージの加減なんかはとにかく心肺機能の再起動を優先していたので、それによる苦痛なんかは度外視した結果気絶してしまったようで。
ちなみに常人ならそのままショック死しかねない高電圧だったり。殺す気か。
>脳死してなければ自分以外でも死者蘇生も出来るんですか?―――
その人の状態によりますねー。
現実でも脳死していない状態でマッサージしても確実に助かるとは限りませんし。
主人公が助かったのはその運の良さも影響しているのかもしれませんね。うんそういうことにしよう。




