明日へっ!(半ギレ)
新規のブックマーク、また読み続けて頂いてる読者の方々に感謝。
異世界からの漂流者。そう、確かに呼ばれた。
この爺さん、俺がこの世界の人間じゃないって勘付いて、いや、確信しているのか?
「それは……」
「お主の称号の中に隠された項目があるんじゃよ。【異世界からの漂流者】とな。世界の理によって隠された称号は、鑑定Lv10に達した者にしか看破できぬから自分では確認できないじゃろうがな」
「…」
その言葉にアルマは少し驚いたような顔をしたが、同時にどこか納得したような顔にも見える。
俺がこの世界の人間じゃないんじゃないか、って心のどこかで思われてたんだろうか。
いやまああんだけ非常識なことやらかしてたら勘付かれもするか。
「あの貧弱極まるステータスでは生きることすらままならぬはずじゃ。なのに平然と歩き、息をして、あまつさえ魔獣すら倒してみせた。そんなことはありえないんじゃよ。この世界の理のもとに生きておる限りはな」
「…ですが、私は違うと?」
「ああ。お主はこの世界の理の他に、他の世界の理をその身に宿しておるようじゃ。心当たりがないかね?」
…むしろ心当たりしかない。
ステータスに圧倒的な差があるはずの魔獣を殴り殺すことができたり、攻撃を受けても体が傷付かずにHPが代わりに減るだけで済んだり、なんというか元の身体の上からこっち側のステータスを被せられてるようなイメージだ。
「ニホンから来た、とお主を街に通した後に門番から又聞きしたが、間違いないかの?」
「ええ、日本をご存じなので?」
「知っている、とは言えんな。聞いたことがあるというぐらいじゃよ。過去に異世界から召喚された勇者の故郷がニホンという名前だった、ということぐらいしか分からぬ」
勇者? 勇者いたのこの世界? 過去に異世界から召喚?
≪【魔王】が誕生する時期に合わせて、その脅威に対抗するべく異世界の人間の魂をこちら側に召喚し、【勇者】の職業を持った人間が誕生した記録あり。召喚された時点で成人、すなわち15歳の肉体を持ち、戦闘系のあらゆるスキルを使いこなし、能力値の上昇率も初めから上位の職業と同等以上で、極めて強力な存在として対魔王の最終兵器として扱われた記録あり≫
出たよ、勇者召喚。ベッタベタな設定だなオイ。
最終兵器とは随分物騒な呼ばれ方だが、人としては扱われなかったのか?
≪魔王を倒した後は、伴侶と共に安息の日々を迎え安らかな最期を迎えたと記録されている。特に差別の対象等にはならなかった模様≫
そうか、鬱展開にならなかったみたいで何より。
…ん、待てよ? まさか俺が勇者とか言わないよな? 魔王討伐とか押し付けられるの嫌だぞ。
≪【勇者】はこちら側に召喚された時点で【勇者】の職業を持っており、また元の世界の理から外れてしまうため、職業が判定不能で地球とこちら側両方の理を持つ梶川光流は勇者に該当しない≫
そうか、良かった。まあ勇者なんてガラじゃないし当然か。むしろ俺なんかモブ以下だし。
「考え事は済んだかの?」
「あ、すみません、つい」
画面をずっと見ていて爺さんのこと忘れてた。
「お主の職業は判定不能じゃったな。勇者ではないとすると過去の勇者とたまたま同郷だったと見るべきかの。何故こちらの世界に来たのか分かるか?」
「いいえ、全然。仕事が終わって眠りについて、目が覚めたら魔獣森林の中で寝っ転がってました」
「過去の勇者は皆こちらに来る際に【神】に会い、職業やスキルを授かり、討つべき魔王についてなど話を聞いたと言っておったそうじゃ。やはりお主は勇者ではないようじゃのぉ」
神って。ホントにいるのかそんな存在。
俺、全然会った覚えないんだけど。俺だけ放置かよ。オーマイゴッド。おい、マイゴッド! どういうことやねん!
「まあいきなり私が勇者とか言われても困りますしね。こんなに弱いのに」
「ほっほほ。Eランク複数人を自分から手出しせずに打ち負かす奴が何を言うか。もはやお主のステータスなぞ実力を測るうえではアテにならんわい」
「実戦経験に乏しいので、下手したらあっさりやられちゃいそうですけどね」
「まあ、さっきの戦いぶりを見る限り、Eランク程度の連中には後れはとらんじゃろ。だがそれでも無理は禁物じゃぞ。下手したら己のみならず、仲間を危険に晒す可能性もある。無用な争いは避けるに越したことはないぞ?」
「そうですね…。先程の対応も、少し短気だったと思います。ごめんな、アルマ」
「謝ることない。むしろあれだけのことをしたなら、もうちょっかいは出してこないだろうし、結果オーライ」
もしもあの連中がもっと格上の相手だったら、あんなことはしていなかっただろうが、それでも喧嘩腰になるのが早すぎたかな。
魔力操作とかレベルアップの影響で半端に力を付けたから、ちょっと増長してたのかも知れない。
今後は喧嘩を売る前にもう少し考えてから行動するよう心がけよう。でもダなんとか、テメーは許さん。
「さて、もう日も暮れる。今日はもう早めに宿に戻るとよい。またのー」
「はい」
「うん」
「ところでこの後はゆっくりしっぽりするのかね?」
「しませんよ!」
「しっぽり?」
余計なこと言ってんじゃねーよ!毎回なんか爆弾落とさなきゃ気が済まんのかこのジジイは!
アルマが不思議そうな顔して疑問に思ってるじゃん! しっぽりの意味を問い詰められでもしたらどうする!
「まったく、あの人は」
呆れながら言葉を漏らしていると、アルマから声をかけられた。
「…ヒカル、違う世界の人だったんだ」
「ああ、そうみたいだ。別に隠してたわけじゃないんだが、こんなこと言っても信じちゃもらえないだろうし、特に言う必要もなさそうだったから。今まで黙ってて済まなかった」
「別に気にしてない。むしろ説明を聞いて色々と納得がいった。ヒカルって、当たり前のルールから外れてるところがいっぱいあるし」
「うん、まあ、自覚してるつもりだよ」
思わず苦笑い。
いやだってスキルが使えないし、魔力操作とかなんなりと工夫しなきゃ他の人と比べて劣りまくってしまうし、仕方ないんや。
まあ空飛ぶのは正直少しやりすぎた感はあったが。
「違う世界で産まれた人でも、ヒカルはヒカル。ちょっと、変なところはあるけど何も変わらない。だから気にしないで」
「ちょっと変って、君」
地味にグサッとくるからその言い方やめて。
あー、でも隠し事が一つなくなっただけでもちょっと気が楽になった。
いや別にばれても何か不都合なことがあるわけじゃないけど。ただ言い出すタイミングがなかっただけで。
てか【希望の明日】なんてパーティ名に決めてから明日になるまでの時間に無駄にイベント起こり過ぎだろ。今からでも名前変えてやろうか。
もう今度こそ帰ってさっさと寝る! そんで明日から本気出す! だからもうこれ以上の面倒事は勘弁してくれ!
お読み頂きありがとうございます。
ちなみにステータスに表示されない主人公の元の体のスペックは、ステータス換算すると大体100~130ぐらいです。
工場勤務で力仕事が多い分少しだけ力持ち、といった程度ですが、それでもゴブリンくらいなら余裕で殺れます。
現在、さらにステータス分の数値が上乗せされているので、魔力操作なしでもホブゴブリンとガチりあうくらいは出来るんじゃないでしょうか。…あれ?普通に強くね?どうしてこうなった。




