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くろすかうんたー  そして現れるハイエナ

新規の評価、ブックマーク、誤字報告、感想をいただきありがとうございます。

お読みくださっている方々に感謝します。


今回始めは、ラディアスタ視点です。




「ガハッ!?」


「ブベェッ!!」


「アバァッ!!」


『ヴァァァ』



群れの奥から急に現れた強力な魔獣が、次々と兵士たちを殴り倒していく。

ヤバい、こいつ明らかに格上だ。誰も彼も一撃でやられていく……!


……てか、カンガルー型の魔獣なんかいるんだな。初めて見た。

愛嬌のある顔してるのに声がやたら野太いな。どうでもいいか。



『ヴァゥ』


『ギャベッ!?』


『ギャインッ!!』


「ぐぁぁあっ!!」



敵味方の区別なく、目に付いた相手を手あたり次第殴ってやがる。なんだこの暴走魔獣は。

見たところ、体術や格闘術だけに頼った戦闘スタイルみたいだな。

身長は人間並みなのに、膂力はまるで大型の魔獣みたいだ。

多分、Sランク下位くらいの魔獣だと思う。



『ヴァウゥ』


「うおおぉおっ!!? な、なんて重い、つーか速っ!?」


「バレド、一対一で戦うな! タイマンじゃ勝ち目がない!」


「分かってるよんなこたぁ!」



「す、すげぇ、あんなバケモン相手に互角に……」


「おい! 見とれてねぇで怪我人を運べ! 重傷だぞ!」



ラスフィとバレドが二人がかりで戦って、どうにかしのいでいる。

まだおれたち三人は上級職手前、大体Lv40台後半でしかない。

対して相手はおそらくLv70台。普通に考えたら他の人みたいにすぐに蹴散らされるだろう。


それをなんとかやり合えているのは、やはり教官たちとの稽古の効果だろう。

このカンガルーは強い。だが、それでも教官たちに比べればどうしても見劣りする程度の実力でしかない。

格上だろうが、あの地獄に比べれば……!



『ヴァォォヴ!』


「ぬあっ!?」


「ちぃっ! 鋭いな!」



とはいえ、格上の相手には変わりない。

高速で繰り出される拳の一発一発が必殺の威力を秘めている。まともに喰らえばそれでアウトだ。

向こうの攻撃は辛うじてしのげるが、こちらの攻撃は当たったところで大したダメージになっていない。



「ラディア、お前も援護にまわってくれ!」


「俺たちだけじゃどうにもならねぇ! さっきまで使ってた爆発する変な飛び道具はないのか!?」


「すまん、もうない! いま手伝う!」



さっきのシュリケンは他の魔獣相手に使い切っちまった。

くっそ、こんなことなら一枚くらい残しておくんだった


となると、あいつにまともなダメージを与えられるのは……。

……コレ、本当に使わなきゃダメか? 嫌な予感しかしねぇんだけど。



『ヴァァァアっ!!』


「う、うわぁぁあああっ!!?」


「なっ、がはぁっ!!?」


「うぉわぁっ!?」



突然、カンガルーの相手をしていた二人の身体が吹っ飛んだ。

よく見えなかったけど、まるで拳が何十発も同時に繰り出されたように見えた。

多分、マスタースキルの一種だと思う。あんな切り札を隠し持ってたのかよ……!



「ら、ラスフィ、大丈夫、か……!?」


「ケホッ……! ……何本か、やられたようだ」



バレドは反射的に【魔刃引き】を纏わせた槍で攻撃を防いだみたいだが、ラスフィは防ぎきれず何発か喰らって、血を吐いて倒れてしまった。

おれはなんとなく嫌な予感を覚えて、咄嗟にクイックステップで回避できたけど。



「くそ、ポーション飲んで傷が治るまで休んでろ! それまでなんとかもたせる!」


「にしてもラディア、よく今の避けられたな」


「ああ、さっきの打つ前にアイツが変な気配醸し出してただろ? で、なんとなく避けてみたんだけど……」


「いや、全然分からなかったぞ!? 予備動作なんかなかっただろ!」


「え? どう見ても『これからなんかするぞ』って感じの雰囲気出してたじゃん。いや、動作としてはほんの少し身体が力んだくらいなもんだったけどさ」


「……それが分かるのはお前くらいなもんだよ」


「そうか?」



まあ教官たちとの稽古以前に、あのクソ兄貴がなにかやらかす前のわずかな予兆とかを何度も見てきたからな。

油断してるとおれの分のメシやおやつを目にも止まらない動きで盗みやがるからな。クソ兄貴が。〇ね。

おかげで無駄に観察力というか、相手の動きを予測する力が鍛えられちまった。

感謝するつもりは微塵もないけど、あの兄貴との生活もこうやって役には立ってたんだな。



『ヴァァァ!』


「バレド! 脚に注意しろ!」


「脚ぃ? うおっ! け、蹴りまで使うのかよ!?」


『ヴァッ!? ヴァヴゥッ!』


「尻尾だ!」


「うわぁっ!?」


『ヴ、ヴォォォ!!』


「さっきのヤバいやつだ!」


「ま、マジかよ! なんで見えるんだよ!?」



お、おう。自分でもびっくりするくらい相手の動きが手に取るように分かる。

鳴き声や身体の動きの流れ、目線なんかをただ眺めているだけで余裕で対処できるようになっちまってる。

……我ながら、段々人間離れしてきた感じがあるなぁ……。



「そこぉっ!」


『ヴァァアッ!』


「ちぃっ!」



だが、状況はあまりよくない。

向こうは一発でも拳を当てればそれで勝てる。

それに対し、こっちは何度か攻撃をモロに喰らわせているのにまるで怯みやしねぇ。

能力値の差は、そう簡単に埋められないってことか。となると……。


……………………………使わなきゃ、ダメってことか? 勘弁してくれよ……。




『ヴァァァァァァァアアアっ!!!』



攻撃をことごとくいなされて焦れたのか、カンガルーが咆哮を上げてこっちに猛スピードで突進してきた。

渾身の一撃。多分、喰らえば粉々になるだろうな。

防御は不可能。クイックステップで避けようにも縮地の速さと移動距離には敵わない。



「よ、避けろラディアァ!!」



と、なれば……!



失敗は許されない。ミスれば死ぬ。



でもな、そんな状況こちとらもう慣れっこなんだよ!



『ヴァァァア!!』



迫る拳を、首を捻ってギリギリのところでかわす。

カンガルーの拳が頬を掠める。それだけで、まるでナイフで斬られたかのように深々と切れ込みが入る。


その攻撃に合わせて、カンガルーの顔に手甲をつけた拳で思いっきり殴りつける!!



カンガルーの顔面に拳が当たった瞬間、轟音とともにおれの身体が後方に吹っ飛んだ。



「うがぁぁああっ!!?」



とてつもない衝撃。拳を当てた腕に千切れそうなほどの負荷がかかる。

さらにカウンターで殴られたんじゃないかってくらい、とんでもない痛みが全身を襲う。



「いっ、てぇぇぇ……!!」



この手甲は、カジカワさんに持たされたもう一つの切り札だ。

拳が命中した瞬間、仕込んである魔石を消費して拳の外側に魔石の属性に応じた爆発を引き起こす機構が内蔵されているらしい。

今のは火属性の爆発だが、他にも氷属性とか雷属性なんかの爆発を引き起こせるらしい。

……問題は、威力が強すぎてこっちにまでダメージが入っちまうことだ。



腕が、ダラン、と力なく垂れさがる。

あまりの衝撃に折れたか、関節が外れたか。

……こりゃ、しばらく使えそうにないな。


そ、それより、カンガルーはどうなった?



『ヴィ、ヴゥゥゥ……!』



……頭の半分が無くなって、今にも死にそうな状態で倒れているのが見えた。

ま、まだ生きてるのかよ。でも、もう死に体だ。アレなら誰でもトドメを刺せる――――








「経験値、もーらいっと」


『ヴァ、ヴェッ……!?』



「……え?」




急に現れた。フードを目深に被った誰かが、短剣で死にかけのカンガルーにトドメを刺したのが見えた。

それと同時に、自分がレベルアップしたのが分かる。目の前の誰かも、存在感がわずかに増した。



「おーおー、大して役に立たなかったけど経験値はまあまあじゃん。レベル上がったし、おれ様の糧になっただけ褒めとくか。よくやったな役立たず」



声を聞いているだけで、吐き気がこみ上げてくる。

レベルアップしたことで腕以外の傷が治っていく爽快感よりも、目の前の存在を見ているだけで身体に冷たいものが走っていく。



「しっかし、余計な真似しやがって。これじゃおれ様の立場ねぇじゃん。どうしてくれんだよ、なあ()()()()



フードをしていてもわずかに見える、おれによく似た緑の髪に緑の瞳。

十年近く聞いてきた、聞いているだけで不快になるゲスな声。





「て、めぇ、はっ……!!!」


「おいおい、実の兄に向かって『てめぇ』はねぇだろ。 ラジーヴィア兄様って呼んでくれてもいいんだぜ?」





クソ、兄貴ぃっっ!!!


お読みいただきありがとうございます。



>魔族がまだ生き残ってたら、『この場にいる強い魔獣とオレのライフを生贄に―――


当たらずとも遠からずでしょうか。

……これ以上はネタバレになるので、後の話までお待ちを(;´Д`)


>クソ!出遅れた! まさかすぐにもう一話投稿するとは!―――


筆が進む時はホントよく進む。進まない時は週一くらいにまでペースが落ちますが(;´Д`)

ヒカル失踪の真相はあと2、3話くらいで明らかになります。多分。


>勇者ちゃん、ヤムチャしやがって―――


というか、ヤムチャなんて名前飲料の飲茶と龍玉以外で見たことないですよね。

変な名前なのにそれでもいつのまにか定着している某大先生のセンスよ。


>ちょっと読まない間に一気に続きが…!!――――


こちらこそ貴重なお時間を割いてお読みいただきありがとうございます。

アルマは自分のストレスを抱え込むタイプで、放っておくとドンドン病んでいきます。はよ、ヒカルはよ。

国王崩御の真相はまた近いうちに。……とーってもシンプルな真相です。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[一言] 糞兄貴登場、死ね! ところで、カンガルー型ってわかるということはこの世界には普通のカンガルーもいるんだろうか? それとも動物好きな勇者でもいて広めたんだろうか
[一言] とりあえず登場の仕方が不快だったのでゲス野郎には爆弾飲んでもらって内側から弾けよっか(笑顔)
[一言] >クソ、兄貴ぃっっ!!! さあここでストレスキャラの登場だ! あっけなくさっさと退場させるか?、それとも更にクソを振りまいて後の伏線のために逃しちまうのか、 ここが運命の分かれ道! …個…
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