各方面の戦況
今回始めはラディアスタ視点です。
見える。
『ギャァァアッ!!』
遅い。
『キギャッ!?』
「ふっ!」
『ガッ……!!?』
どこを狙っているのか、どうフェイントをかけてくるのか手に取るように分かる。
相手の動きに合わせて短剣を『置く』ように振るえば、面白いくらい簡単に刺さってくれる。
……たった半月程度の修業なのに、確実に効果が現れ始めているのが感じられるな。
あの教官たちの攻撃に比べれば、たかだかLv20~30程度の魔獣なんか何体いようが容易くあしらうことができる。
修業中は格上の相手とばかり戦ってきたから分からなかったけど、おれは、強くなっていたんだ……!
「……教官たちに感謝しなきゃな」
「まったくだ。自分たちだけでは短期間でここまで強くはなれなかっただろうな……まあ、もう少し手心を加えてくれてもいい気はするが」
「何度死にかけたかもう数えきれないからな。正直、魔獣相手に戦っているよりもずっと危機感があったなぁ……」
魔獣の集団相手に戦っている最中とは思えないくらい、おれとバレドとラスフィは落ち着いていた。
最初は内心ビビりまくってたけど、いざ戦ってみたらあまりの手応えのなさに拍子抜けしてしまった。
ウェアウルフって、こんなに弱い魔獣だったっけ? と思わず首を傾げてしまうほどに、おれたちは強くなれたんだ。
っと、いい気になって油断してたらボロが出かねない。気ぃ引き締めていかないとな!
……ところで、カジカワさんからもらったこの怪しさ満点の装備はどうしよう。
せっかくくれたものなんだけど、迂闊に使っていいもんじゃないっていうのが説明書の文からビンビン伝わってくるんだよな……。
下手したら使ったほうの腕が弾け飛ぶかもしれないとか書いてあったし。……極力使わない方針でいこう。
「や、ヤバいぞ! デカい魔獣が突っ込んできやがる!」
「逃げろ、遠距離攻撃で仕留めるんだ! 近付けば潰されちまうぞ!」
『パゥウォォォオオオオオオ!!!』
う、うおっ!? 象型の巨大な魔獣がこっちに向かって突進してきた!
まずいな、あんだけデカいと短剣術じゃ不利だ。体高7メートルはある。
あんな巨体であの素早さ。多分、Lv50~60台くらいか? 他の魔獣とは明らかにレベルが違う。
伸魔刃で急所を狙うのもちと難しい。かといって遠当てでチマチマ削ってちゃ他の魔獣が攻めてくる。
『プゥァァアアアアッ!!』
「うわぁぁぁああっ!!」
「だ、誰か! 誰かあのデカブツを止めろぉ!!」
「このままじゃアイツ一匹に、どれだけの被害が出るか分からない! 援軍を!」
「バカ、どこの方角も自分の持ち場だけで精いっぱいだ! オレたちだけでこいつを仕留めるしかない!」
「バレド! とにかく遠当てを連射して動きを止めるぞ!」
「クソ、さすがにこのサイズ差はキツいぜ!」
象が暴れるたびに、10人近い兵士たちが吹っ飛ばされていく。
放置はできない。かといって、おれたちの膂力じゃあの巨体を短期間で仕留めるなんて……。
……っ。
仕方ない、こっちは飛び道具みたいだしおれ自身にはそれほど危険はないはずだ。
アイテムバッグから、カジカワさんから貰った『シュリケン』を取り出す。
シュリケンの中心にあるボタンを強く押して『安全装置』ってやつを解除。
象の眉間めがけて、3枚ほど投擲っ!
『パゥァァァアォォォオッ?』
か、硬いな……! 命中したけど、見た感じ皮一枚にどうにか突き刺さった感じだ。
出血すらしていない。皮が厚すぎて肉にまで届かねぇ!
てか、これで終わり!? いやちょっと待て、説明書には刺さってから3秒後くらいに――――
ドゴォォオンッ!! と、とんでもない爆音。
それと同時に、並の攻撃魔法とは段違いの衝撃が戦場に響き渡った。
さっきのシュリケンは、刺さった衝撃をスイッチに属性付きの魔石を暴走させて爆発させる魔道具らしい。
「な、なにが起きたんだ……?」
「見ろ、あのデカブツの頭が、消し飛んでる……!!」
「お、俺は見たぞ。さっき、あの緑髪の坊主が投げたなにかが爆発したんだ……!」
「すげぇぞボウズ! でもあんなもんバンバン投げんじゃねぇぞ、下手したら味方が巻き込まれちまう!」
「お、おう、気を付けるよ……」
シュリケンが刺さった象の顔が、跡形もなく弾け飛んでいるのが見えた。
な、なんて威力だ! カジカワさん、アンタなんつーもん気安く渡してんだよ……!
「さっき、なに投げたんだ?」
「……知り合いからもらった危険物。ホントは使いたくなかったけど、あの状況じゃあな」
「その知り合いとやら、後で紹介してくれないか? あれほどの威力の武器、正直興味がある」
「ラスフィ、やめとけ」
興味津々といった表情で詰め寄ってくるラスフィを、バレドが顔を引きつらせながら諫める。
……もう一つのほうがもっとヤバいだなんて言えないなこりゃ。
~~~~~アイザワ君視点~~~~~
「ヒャッハァァア! 皆殺しだぁ!!」
「こいよぉ、まとめてぶちのめしてやるぜぇぇえ!!」
「……この兵士たちガラ悪いな」
「だが、そこそこやるな。ウチの国のボンクラどもよかマシだ」
『ひ、ヒギャァァァア!!?』
「ヒヒヒャハハハ! どうしたどうした魔獣どもぉ!!」
「ウチのシマでデカいツラしてんじゃねぇよクソどもがぁ! 王都にゃ一歩も踏み入れさせねぇぞぉ!!」
「……うるせぇな」
「まあ、魔獣への威嚇にもなってるみたいだし大目に見ようぜ」
ガナンが苦笑いしながら、うるさく魔獣を蹴散らしていく兵士たちを眺めている。
言動や素振りだけを見てたらそのへんのチンピラにしか見えねぇが、腕のほうは悪くない。
フィリエ王国軍の老害どもは規律だの礼節なんかの訓練ばかりで、肝心の戦力強化がなっちゃいないからな。こいつらのほうがまだ有能だ。
「気ぃつけろ! ところどころにデケェのが混じってやがる!」
「なにぃ!? どこだぁ! オレがぶちのめしてやるぁ!!」
「おい、アイツでけぇぞ! オレがいただきだぁ!!」
強敵相手でも怯まず、むしろ積極的に突っ込んでいきやがる。
威勢がいいのは認めるが、ありゃお前らにゃ荷が重いだろうに。
いや、実力差が分かったうえで、それでも立ち向かっていってるのか? ……なら蛮勇とは言えねぇな。
『ギリギリグル……ギギャッ!!』
ゴブリン型の魔獣が、杖から雷を放ってきた。
ゴブリンシャーマンか。随分珍しい魔獣も混じってんな。
「おめぇら、気を付けろ! 魔法を使える魔獣が混じってやがる!」
「受けるな、避けろ! 盾じゃ雷属性の魔法は防げねぇぞ!」
「黒髪のガキ、あぶねぇぞ!」
うるせぇな。他人の心配するより自分の身を守れ。
俺に攻撃魔法なんざ効かねえよ。……あの教官の魔法以外は。
俺に当たる寸前で、魔法が弾かれて消えていく。
マスタースキル【マギ・バニッシュメント】なら、この程度の魔法は容易く無効化できる。
『ギギャッ!?』
「死んどけ!」
魔法が弾かれて怯んでるゴブリンシャーマンの首を斬り落とした。
他にも何匹かいやがるな。早めに駆除しておかねぇと厄介そうだ。
俺はともかく、他の脳筋どもにゃ攻撃魔法は効果てきめんそうだしな。
思えば、こんなふうに他人と共闘することなんざ滅多になかった。
他人なんかどうでもいいと思ってたが、この状況じゃそうも言ってられねぇ。
……俺が他人を気にかけながら戦うなんてな。どうやら俺は自分が思ってたより協調性があったらしい。
「うるぁぁあああっ!!!」
「うおおぉおおおっ!!? お、おいネエちゃん、近くに味方がいるのにんなでけぇオノ滅茶苦茶に振り回すなよ! あぶねぇだろうが!!」
「巻き込まれたくなけりゃ、下がってなぁ!!」
……少なくとも、あのバーバリアンよか空気が読める自信がある。
ヒューラのヤツ、そのうち何人か巻き込むんじゃねぇか?
~~~~~アイナさん視点~~~~~
「1102、1103、1104……まとめて吹き飛べー」
始めのうちは空を飛ぶやつとかヤバそうなやつを優先してチマチマ一体ずつ射ってたけど、ヤバそうなのはあらかた仕留めたしこっからは大雑把にいきますか。
魔力の矢を複数創り出して放つ技能【レインアロー】で、文字通り矢の雨を魔獣たちに降り注いでいく。
『ギギャァァァア!!』
「邪魔」
『ガペッ!?』
攻撃の合間を縫って接近し、急襲してきた魔獣を拳でぶちのめした。
遅い遅い。アタシを仕留めたけりゃカジカワ君くらいの速さでこなきゃね。……いや、やっぱくんな。こえーわ。
「す、すげぇ、さすが滅私弓師様だ……!」
「はいはい、見とれてないでアンタらもさっさと攻撃しなよ。こんな大群をアタシ一人に押し付けるつもり?」
「す、すみません!」
他の教官や教え子たちも頑張ってはいるけど、これだけ大規模な集団戦になるとどうしても強張ってしまって、普段の実力を発揮しきれないみたいだねー。
勇者君たちと違って一回死んだら終わりだし無理もないか。そりゃ死ぬのは誰でも怖いしね。
〈アイナー、おくのほうにまだでかいのがのこってるから、そいつをさきにしとめろってイヴランがいってたぞー〉
「ありゃ、見逃してたか。分かったよ」
エルフは精霊魔法スキルを取得していなくても精霊の言葉を理解することができる。
だから人間には獲得することが難しい精霊魔法を、簡単に覚えることができる。
契約してー → いいよー はい、これで契約完了。スキルゲットだぜーみたいな。
アタシは弓のほうが性に合ってたから契約してないけど、精霊の声は今でも聞き取れる。
〈アイナ、たいへんだ! むれのおくからつよそうなのが!〉
「さっき聞いたよ。そいつを優先して倒せばいいんでしょ?」
〈そうだけど、そうじゃない! おくのほうで、きょうりょくなまじゅうがうまれてるんだ!〉
……なんですと?
お読みいただきありがとうございます。




