戦の前に
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今回最初は勇者視点です。
第4大陸王都『アヴァロン』
その外周東側にて、空を飛びながら一定間隔で地面に降りている仮面の姿が見える。
「コレデヨイ……コレデヨイ……」
≪……さっきからなにやってんだ?≫
≪迎撃準備。ネオラ君もなにか仕掛けといたらどうだ?≫
≪手持ちの道具で設置できそうなもんがないから遠慮しとく……≫
地面になにか置くたびにニヤつきながらブツブツ呟く様はまごうことなき不審者。元ネタが分からんからリアクションに困るんですが。
コレ近付いちゃアカンやつや。てかさっきからなに置いてんだ? 地雷か?
つーか、二人だけで1万5000もの魔獣の群れを迎撃しろとか。アホかと。
たとえ全部Lv1の魔獣だったとしても相当疲れるだろうに、Lv40超えてるヤツばっかとかバカじゃねーの。死ねと?
オレは死んでもすぐ復活できるけど、梶川さんはどうすんだよ。
≪いやー、Lv40台程度の魔獣じゃあもうこの人にまともなダメージを与えるのは難しいんじゃないですかね。最低でも攻撃力4ケタ超えてないとほぼノーダメージでしょうし≫
……うん。心配するだけ野暮だったわ。
この人全能力値が2000近いバケモンだし、しかもHPが尽きない限り怪我も負わないってんだから敵対する側からしたらたまったもんじゃないだろう。
むしろ他の班の心配をするべきかもな。
「よーし、大体設置し終わったから、次はなにをどう落とすかだな。敵の出かたを見て決めるべきかな? うーむ」
気のせいか、ちょっと楽しそうに見えるんだが。
タワーディフェンスゲームでもやっているかのように、罠を設置したりどう迎撃するか悩んでいる。
オレは魔獣相手の集団戦なんか初めてだけど、梶川さんは一度スタンピードを経験しているらしい。
もっとも、規模はごく小さなもので今なら一人でも楽勝なくらいだと言っていたけど、次にこういう戦いがあった時にどう戦うべきか時々考えていたとか。
その成果があと10分もしないうちに出るわけだ。
……なんでかな、多数の魔獣相手に戦う危機感よりも、梶川さんと一緒に戦うことに変な緊張感を覚えるんだが……。
つーか、オレいる?
先日あの鬼教官二人を相手に、この人が互角に戦っていたところを見てしまったんだが、覗き見なんかしなきゃよかったと後悔するくらいに、圧倒的な力の差を感じてしまった。
あの剣王が、梶川さんの攻撃でどんどん傷だらけになっていくのを見た時は、恐ろしく思うのと同時に胸の奥で嫉妬に似たものを覚えたな。
≪胸ぺったんこですけどね≫
当たり前だ! 男に胸があってたまるか!
~~~~~ラディア視点~~~~~
ああ、また魔獣相手の集団戦か。……怖えなぁ。
ダイジェルのスタンピードでウェアウルフの盾にされたのは今でもよく覚えている。
今なら素手でも楽に勝てる自信があるけど、あの時の恐怖と無力感は今でも心の深いところにベッタリとこびりついている。
いくら魔獣と戦っても、どれだけレベルが上がっても消えてくれないトラウマだ。
今でも教官たちに四日おきにボコボコにされるたびに、無力感は嫌というほど味わっているけどな。
あと死の恐怖も。よく死ななかったな、おれ。……そのおかげか、ウェアウルフの恐怖がどんどん上書きされていって薄まっている気さえする。それ以上に心の傷が増えてる気もするけどな。
でも、やはり不安は消えてくれない。
魔獣と戦うことが不安なんじゃない。
どれだけ修業を重ねても、あの教官たちに指一本触れられない。
レベルがいくら上がっても、死に物狂いで喰らいついても軽くあしらわれるばかりで、実力差は埋まらない。
おれは、本当に強くなっているんだろうかって、自分自身が信じられなくなってきているんだ。
……そんなおれを見かねてか、防衛戦の前にカジカワさんが妙な装備や道具を渡してきた。
おれ自身が強くならないと意味がないからと拒否しようとしたけど、無理やり押し付けられちまった。
いわく『使えそうなもんをなんでも使いこなせるようになるのも立派な強さだ。俺も道具や武器、そして仲間に頼りまくってるぞ。あと敵にもな』とか言ってたな。
あの人なら自分の力だけでも充分戦えるだろうに、それでも自分自身以外のものを頼ることに躊躇しないのか。
意地になって自分の力ばかりを鍛えるんじゃなくて、誰かに頼ることも大事ってことか。……でも敵にも頼ってるってどういうことだ……?
カジカワさんを基準にしていいものなのか疑問ではあるけど、まあものは試しだ。自分自身が信じられないなら、自分以外のものを頼ってみよう。
ところで、装備を受け取ったのはいいけど、この手甲みたいなヤツについてる変な機械はなんなんだ?
あとレイナが使ってたシュリケン? ってヤツもいくつかもらったけど、変にデカいうえにやっぱ中心になんかついてる。
……これ、ホントに使っても大丈夫なのか? なんか別の不安が湧き上がってきたんだが……。
とりあえず説明書は熟読しておこう。強力だけど、下手したら自分も巻き込みかねない諸刃の剣だって言ってたしな。
~~~~~アイザワ君視点~~~~~
俺は第5大陸の人間だしこの大陸の王都を守る義務なんかねぇ。
自分の国を放っておいて他の国を守るなんざ筋が通らねぇことだ。
だが、こいつらには借りがある。
ウチの国は平和ボケしてるせいか、軍の腐敗が著しい。あれだけの数と質の魔獣、そして魔族を相手にするには頼りないくらいに動きが遅く、薄氷のように守りは脆く、振るう刃は錆びついているかのように鈍く、弱い。
あまりのヘタレっぷりに宰相の爺さんが軍を一度清掃するって言ってたが、おそらく無能なヤツをはじいて比較的マシな人材に挿げ替えるつもりだろう。
こいつらが王都ペンドラゴンで魔獣や魔族に立ち向かっていなければ、あの程度の被害じゃ済まなかったはずだ。
別の大陸の人間だってのに、なにも言わずに住民を守っていた。
別にその時の恩返しってわけじゃない。
恩を返すつもりなら俺一人じゃなくて軍の小隊の一つや二つでも寄越すべきなんだろうが、俺に軍を動かす権限はない。
なら、俺なりの筋を通して、けじめをつけるだけだ。
……にしても、アルマとレイナとかいうガキはどこに行ってんだ?
教官二人は別の大陸で似たような騒ぎが起きてるからその対応をしているらしいが、あの二人もそれに同行してんのか?
あの空飛ぶ仮面野郎に要請を受けた時は、また共闘できるかもしれないと期待していたってのに。クソっ。
「どーした、若き『剣聖』殿よ。浮かない顔してんな」
「……テメェにゃ関係ねぇだろ。いいから自分の持ち場に移れ、次期剣王サマよ」
ガザンギナンドことガナンがからかうように声をかけてきた。
見た目は現剣王よりもさらに大きく筋肉質で、実際にコイツと手合わせした時は凄まじく重く速い攻撃を繰り出してきた。
それを現剣王は片手で、しかも木刀で全て受けきりやがる。バケモンめ。
「特級職になって、職業が『剣王』になったとしても俺ぁ自分を剣王だなんて名乗りたくねぇなぁ。現剣王と打ち合うたびにあんな無様晒してんだからよ」
「ありゃあの教官がおかしいだけだ。前剣王のジジイもあそこまでじゃ……いや、似たようなもんだったか」
「スパディア様のことか? 少し前から行方が分からなくなってるって話だったが、お前さんどこ行ったか心当たりは?」
「知らねぇよ。……俺が聞きたいくらいだ」
……思い出したらだんだん腹が立ってきた。
あんのクソジジイが、挨拶も無く急にどっか行きやがって。
寿命で天に召される前に、いつか俺が勝ってやる。……だからさっさと帰ってきやがれジジイ。
~~~~~空飛ぶ仮面野郎視点~~~~~
これとこれを合成しまして、さらにこれをかけ合わせてから絶望的なトッピングを加えまして。
よーし、集団戦の準備は整ったな。あとは待つだけ、いつでもこいだ。
くるまでもうちょっと時間があるし、ターキーレッグをつまみに魔力ポーションでも飲みながら待つとしますか。
「これからちょっとした戦争だってのに、よく暢気に飯が食えるな」
「スタミナを補給しながら魔力変換して、さらに魔力ポーションでMPを回復させているんだよ。なんせ相手は1万5000もの魔獣だ。万全の状態で挑まないとな」
「……悪い、それも準備のうちだったのか」
「そうそう準備準備。あー孤児院でもらったポテチうまいわー」
「いややっぱアンタ暢気におやつ食ってるだけだろ! もうMPもSPも全快してるし!」
「ネオラ君も食うか? あの子たちなかなかいい具合に作ってるじゃないか」
「喉通らないっての……」
呆れ半分ながら、緊張した面持ちで勇者君が言う。
そんなガチガチにならなくても。もっとリラックスしようぜー。
「アンタはリラックスしすぎだっての。なんだそのまるでハンモックで寝てるかのようなポーズでの飛行は」
「人をダメにする柔らかさの魔力を土台にして浮いてるだけだよ。快適やわー」
「頼むからそのまま眠ったりしないでくれよ。……ああ、オレたちが魔獣を止められなかったら王都に流れ込んでどれだけの被害が出ることやら……」
「そん時はそん時だ。こんな大群相手に二人しか配置しなかったギルマスたちが悪い。ところで、魔獣を止めるのはいいが―――」
「別に倒してしまってもかまわnコレ死亡フラグぅぅ! ……日本側のネタが通じる相手がいるってなんか安心するよな」
「せやな」
「……君たち、異世界で友達かなんかだったの? 仲良すぎでしょ」
「いや別に」
「お互い聞き覚えない名前ですがなにか」
俺と勇者君の会話を聞いていたロリマスがジト目で質問してきたが軽くあしらっておく。
精霊がロリマスになにか話しかけてきた。……どうやら、もう時間のようだ。
「そろそろくるよ、迎撃態勢に入って!」
「了解。ネオラ君、手筈通りに頼むぞ」
「……ああ、任せな」
「あとポテチ食べる?」
「終わった後でいいっての!」
そっすか。残念。
……土煙を撒き散らしながら、地響きとともにこちらに魔獣の波が近付いてくるのが見えた。
さーて、上手くいくかねぇ。
特にジュリアンに急遽作ってもらったモノがどれほどのもんかが気になるな。……ちょっと使うのが怖いけど。
お読みいただきありがとうございます。
>おぉふ…ヒカルのステがさらにパワーアップしてらっしゃる…―――
はい、装備品の素材はそれで合ってます。ブーツは似て非なる効果を持っているとだけ。
そして作者の陰謀により戦闘シーンは次回に持ち越し。本当に申し訳ない(メ並感
>アイテムボックスに物をしまった時の―――
熱エネルギーやらなんやらは大体保存されますが、運動エネルギーは基本的に保存されません。
つけっぱなしにしていた扇風機なんかも止まった状態で出てくるようなイメージですね。でも燃えている紙なんかを保存した場合、燃えた状態のまま出てくる謎仕様。
>なんか増えてる...!―――
ジュリアン新作のブーツの性能やいかに。
勇者は勇者でチートですので、超えるのは容易ではないですねー。
>ロケットブーツ…じゃないな。―――
蹴られた相手はしめやかに爆発四散!
なお爆発以外にも(ry
>マップ兵器撃つために囮にされるカツのような…―――
無限死に戻りの特攻爆弾にされるよりはマシと思っておこう。
>梶川さんの感知の数値がレベル55の時より低い
あばばばばばばば(;´Д`)
修正いたしました、ご報告ありがとうございます。
>とりあえずこのスタンピートで飛行士と勇者が人外認定されると予想――
勇者はともかく飛行士は既に……。




