おひさ
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孤児院から出た後、港町『ランドライナム』をとばして商業都市『ヴィンフィート』でお買い物中。
久しぶりに屋台のおっちゃんが売ってるターキーレッグを食べつつ街を見て回っているが、相変わらず賑やかな街だな。
お土産用に勢いあまって15本ほど買ってしまったが、後悔はしていない。ああ、気のせいか財布が軽いなー……。
ギルドのほうにも一応顔を出してみたが特に目ぼしい依頼はなく、ロリマスも留守のようだ。
なんでも、魔族の幹部を倒して拠点を陥落したのはいいが、どういうわけか残党が留まっているらしく各地での破壊活動が収まっていないとかで、精霊魔法による情報収集のために駆り出されてるとか。
……前に聞いた話と違うんですが、どういうことなんですかねメニューさん。魔族って幹部が殺られた時点で撤退するんじゃないの?
≪前例通りであれば幹部が死亡し拠点が陥落した時点で撤退をする。しかし、今回の魔族軍は今までにない不可解な行動が多く、撤退をしていない模様≫
思い当たる原因は?
≪……推測ではあるが、今回の魔王が前例にない異質な存在であるためと思われる≫
異質? なにが?
≪今代の魔王は、おそらく過去の勇者の転生体である。勇者としての、あるいは地球人としての前世の知識と経験、およびメニュー機能を駆使している模様≫
……。
待って。ちょい待って。
勇者の転生体? 魔王が? メニュー使えるって、え?
≪メニュー機能は地球人の魂を持つ者にしか使用は不可能。よって梶川光流を除いてメニューを使用できるのは地球から転生した勇者のみ≫
≪本来、魔王を討伐した後に死亡した勇者の魂は地球に戻る仕組みになっている≫
≪しかし過去の勇者の中にこの世界での二度目の転生を試みた者がおり、結果として知識と記憶、もとい記録の継承には成功している。しかし、人格の継承は不完全に終わったと推測≫
≪転生先が魔王でなければいずれ人格の復活もありえたかもしれないが、現時点では魔王としての自我がベースのため転生者としての知識・権能は全て人類抹殺のために利用されている模様≫
……長いうえに突拍子もない話で頭が追いつかない。
えーと、要約すると
①過去の勇者の一人がもっかい転生チャレンジ。男は度胸、いざ。
②転生して知識とかは保持したままだけど、心までは受け継げなかった。失敗したわー。
③しかも転生先がなんの因果か魔王だった。ワロス。
④さらにその知識を駆使して、前例にないような手を使って人類を滅亡させようとしてる真っ最中。みんなしんじゃえー。
こんな感じ?
≪……………概ね合っていると推測≫
最悪やん。なにしてくれてんの過去の勇者は。
前世の知識があるというアドバンテージがデカいのは分かる。
一度成功すれば多分何度でも人生をやり直せるんだろうし、まあ気持ちは分からんでもない。
てか、そんな簡単に転生できるようなスキルか道具があるの?
≪『この世界』には基本的に存在しない。転生も死者の蘇生もスキル由来の力では不可能。しかし、それを可能とする力を手にする手段はある模様≫
え、マジっすか。あるのかよ。
そんな力が存在したら世の中転生者だらけになるじゃないですかーやだー。
≪ただし、その方法は極めて生存率が低く、また狙った力を手に入れられるとは限らないため、成功率はほぼゼロに近い。過去の勇者が不完全ながら転生する力を手にしたのは奇跡と言っていい≫
いらんところで奇跡起こすな勇者。そのせいでいま世界がえらいことになっとるんやぞ。
つーか、その方法ってなにさ。なんかヤベー悪魔と契約でもしたの? 僕と契約して魔王になってよ的な。
≪世界の歪み、怪奇現象、異質オブジェクト、アノーマリーなどのバグとも言うべき現象や物品が集められている場所にて、『有用なバグ』あるいは『異界の異物』などを利用・獲得すること≫
その言い方だとまるでバグの廃棄場みたいな場所があって、その中から使えそうなゴミもとい道具を持ち帰った結果、転生することができたように聞こえるんだが。
≪その認識でいいと思われる≫
……バグ技使ってまで強くてニューライフを楽しみたかったのか。俺が言えた義理じゃないかもしれんが、無茶しすぎやろ。
まとめると、今回の魔族による活動が前例に比べて妙に活発で異質なのは、魔王の出自が勇者の転生体だからというわけか。
状況からの推理にすぎないらしいが、こういう都合の悪い推理ってのは大体当たってるんだよなー。
最後に一つ質問。
そのバグの掃き溜めみたいな場所ってどこにあるんだ? いや別に行く気はないしなんとなく聞きたいだけだが。
≪ダイジェル近辺にあるダンジョンの、21階層以降が該当≫
あー、俺とアルマが組んだばかりのころに何度も潜ってたダンジョンのことか?
浅い階層は普通のダンジョンだけど、20階層を越えるとバグまみれの階層が待っているってわけ?
≪肯定。なお10階層以降はAランク、15階層以降はSランクの魔獣が徘徊する高難度ダンジョンのため、まずそこまで辿り着くこと自体が困難である≫
そっすか。まあ行く気はねーけどな。
ダイジェルかぁ。久しぶりに素材屋の婆さんのところやギルドに顔を出してみるのもいいかもなー。
特に、贔屓にしてくれることを期待して魔力回復丸薬まで譲ってくれた婆さんにはちゃんと礼をしないとな。
ダイジェルの素材屋前にファストトラベルして、店内に入った。
……相変わらず不気味な店だなー。店長の婆さんが見た目醜悪な笑みを浮かべているのが不気味さに拍車をかけてる。
「ヒッヒヒ、いらっしゃいぃ。おやおや、半年ぶりくらいかねぇ、ここんとこ顔を見せないもんだからとっくにおっ死んじまったのかと思ってたよぉヒヒヒ」
「……こっちにも色々あってな。なかなか寄ってやれなくて悪かったな、婆さん」
「キヒヒ。知ってるよぉ、アンタの連れてた子が貴族サマに殴られたのを見て、思いっきり殴り返したらしいじゃないか。で、そのまんまこの街から逃げて行方をくらませてたんだろう?」
「まぁな」
ちなみにその後、アルマのご両親があのクソデブ貴族と『お話』をして、人事不省の状態で運び出されて以来あのデブは廃人みたいな有様になってしまったとか。
最近は多少回復したらしいが、欲も脂肪もなにもかも枯れてしまったようで、もっぱら家で盆栽をいじったりしてるとか。老人か。
そんな状態でまたこっちに関わろうとしてくるとは考えにくいし、ぶっちゃけ逃げる必要なかったかもな。……ちょっと早とちりしすぎたか。
「相変わらず不気味な店だな。つーかなんでドクロの置物が骸骨の標本にグレードアップしてんだ。意味ねーだろ。むしろ客足が遠のく要因の一つだろ」
「ヒヒヒ、おかげで今月アンタ以外まだ誰も来ちゃいないよぉ。そろそろ店の畳み時かねぇ」
「商売にならねーだろそれじゃ。もっと宣伝や接客に力入れろよ」
「前にも言ったと思うけど、客が多すぎても面倒なんだよ。こんなババアの身じゃあ自衛すらまともにできやしないからねぇ」
「仮にアンタに襲いかかろうとしても、誰も指一本触れられないだろ。そんなガチガチにセキュリティ固めててよくそんなこと言えるなオイ」
「ヒャハハ! それに気付く奴なんざアンタぐらいなもんだよ、相変わらず目利きはいいみたいだねぇ。しかも前会った時より随分バケモンじみてきたじゃないか。パッと見は冴えない優男なのにねぇヒィッヒッヒ」
「やかましいわ」
……なんでこの婆さんと話す時はタメ口になるんだろうか? 目上の人間には基本的に敬語で話す癖がついているはずなのに。謎だ。
ちなみにこの婆さんへの攻撃に反応して、自動で強力な結界を身の回りに展開し、さらに反撃で相手が気絶するまで高圧電流を流す術式がこの店全体に展開されていたりする。
この店自体が巨大な魔道具みたいなもので、仮に俺が大槌で殴りかかったとしても婆さんには傷一つ付かないだろう。で、そのままビリビリギャアアな状態になって御用だ。こわ。
強力な自衛手段だが、その代償としてアホみたいに複雑かつシビアな手順で術式を刻まなきゃならないらしい。しかも一人で。
こんな面倒な術式刻まなきゃならんセキュリティ敷いてる店なんかここくらいなもんだろう。普通は用心棒でも雇えば事足りるだろうし。
「さぁて、はるばる来店したからにはじゃんじゃん買った買った。そんで老後の懐事情を温めてくれよぉ」
「はいはい。えーとこれとこれ、あとこの爪みたいなやつと、……ちょっと待てコレもしかして手榴弾か?」
「あー、そりゃ過去の勇者の遺品だとさ。どっかの貴族サマが断捨離するとかでウチに売りにきたんだよ。使い捨ての品みたいだし、イマイチ価値が分からないから安く買い叩いてやったけどねぇ」
「もしかして、他にもこんな感じの珍品があったりする?」
「数えるほどしかないけど、あるねぇ」
うーむ、この見た目手榴弾にしか見えない物体、どうもジュリアンの作った魔石地雷とはまた違った原理で爆発する道具のようだ。
魔石地雷は術式を暴走させて、魔石の魔力を一気に解放して爆発させるものだが、コレは中に詰め込まれた強力な火薬みたいな粉を着火の術式で起爆する構造になっているらしい。
似たような効果なのに構造はまるで別物。ジュリアンに渡してみたらインスピレーションを刺激してくれるかもな。
「はいはい、しめて121万5750エンになりますぅ。……払えんのかいぃ?」
「たっか。もうちょっとまからないか?」
「無理無理ぃ。そのシュリュウダンとかいうやつなんか買い取った値段ほぼそのまんまなんだよぉ? これでも出血大サービスさぁ」
「……分かった。これでいいか?」
金貨やら銀貨やらカウンターにジャラジャラと並べていく。
ああ、また財布が軽くなっていく。Sランク魔獣の素材でも売りに出せばすぐ取り戻せるだろうけど。
「おや、ホントに払えるのかい。随分と稼ぐようになってきたじゃないか、アンタに唾つけといたアタシの目利きも捨てたもんじゃなかったみたいだねぇヒッヒッヒ!」
「また近いうちにくるよ。だからまだしばらく店畳むんじゃねーぞ」
「ヒッヒヒ、アンタも死ぬんじゃないよぉ。仲間でもギルドでもこの店の道具でも、利用できるもんはなんでも利用しな。というわけで今後とも御贔屓にぃ」
不気味だけど、やっぱこの店はいいな。
痒い所に手が届くような、助けになるアイテムがチラホラあるし、婆さんとの会話がなんだかんだ言って楽しい。
今の寂しい状態じゃ余計にそう感じられるな。……いつになったら会えるのやら。
さて、今度はギルドにでも顔を出すか。
面倒事を解決してくれたギルマスへのお礼に、お酒でも贈るとするか。
「い、い、い、いたぁぁぁぁぁああああっ!!!」
!?
ギルドに向かって歩いていると、急に後ろのほうから誰かの絶叫が聞こえた。
声からして、幼い女の子の声か? ……なーんか聞き覚えがある声色のような。
お読みいただきありがとうございます。
>なんか今の段階じゃ振り返るほど交友関係多くないなあ。―――
色々旅してるようで関わっている人間はそんなに多くないという。
というかあんまりキャラ増やし過ぎると筆者が把握するのが面倒(略
というかもう現段階でも把握しきれてな(ry
餌付け屋とは言い得て妙な表現ですね。場面転換の時に使えそう。




