今度こそ明日へ
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「そこの二人。少し俺らの話に付き合ってくれや」
ギルドから出て、宿に向かって歩いている最中に後ろの方からそんな声が聞こえた。
俺らのことじゃないよね? 名前も呼ばれてないし。
「おい、聞こえねぇのか?」
聞こえてますよ。
でも俺たちのことじゃなさそうだし関係n――
「そこの黒髪二人! 無視してんじゃねぇよ!」
あ、俺たちのことですか? そうですか。
声の方に振り返ってみると、強面で20歳前後くらいの男たちがこちらを睨みながら立っていた。
5人くらいいるけど、彼らも冒険者かな? さっきから誰かついてきてると思ったら何だこの人たち。
「ああやっと止まってくれたな。呼ばれたならすぐに振り向いてくれよ」
「すみません、てっきり他の方のことかと」
「他に誰もいねぇだろうが! 明らかにわざと無視してただろ!」
「キノセイデスヨー」
「リーダー、コイツ殴っていいっすか…!?」
「後にしろ。用があるのはそいつじゃなくて、そっちの嬢ちゃんだ」
うわぁ、ガラ悪。
てか後にしろじゃなくて止めろや。何? 俺殴られるの確定なの?
「ダランディズマ、何の用?」
「分かって言ってるんだろ? 勧誘だよ。お前をウチのパーティに迎えたいんだ」
不機嫌そうに、リーダーの男に向かってアルマが言葉を発して、それに対して男が肩を竦めながら答えた。
コイツがダラなんとかか。
金髪のオールバックで、黒いマントを羽織り、腰に剣を差している。
顔つきはイケメンに見えなくもないな。目つきがちとやらしいけど。
「スタンピードの後にも言ったけど、断る」
「スタンピードの後にも言ったが、あの【魔法剣】だったか、あのスキルの力は素晴らしいな。以前に無能だなんて言って済まなかった。ウェアウルフ相手に互角以上に戦えるなら、うちのパーティでも即戦力だろう」
「そうそう、でもソロで活動してちゃ折角の力が十分に振るえないと思うぜ?」
「そんなのもったいないだろ? ならウチで有効に使ってやるから、入りなよ」
…。
こいつら、馬鹿か?
「余計なお世話。それに、もうパーティの結成登録ならさっき済ませた。もうソロじゃない」
「ああ? 俺らの誘いを断っといて他の奴とパーティ組んだのかよ? 何様だお前ぇ」
確定。こいつら糞馬鹿だ。
「何様だ? そりゃお前らに言いたいわ。ああ、お子様か。ゴメンゴメンそんな無駄にでかいナリしてるから気付かなかったわー。ならガキはさっさと家に帰れや」
声を出した俺自身が一番驚いてる。
無用なトラブルなんか起こしたくないのに、つい言葉が漏れた。
でも後悔はしていない。反省もしない。する必要もない。
「はぁ?てめぇ何言ってやがる」
「まず、以前に失礼なこと言ったのを謝罪する気があるなら勧誘の前に真っ先に謝れ。なに勧誘ついでにサラッと謝ったふりして流そうとしてやがる。有効に使ってやるだ? それに対してお前らはなんか使える要素でもあんのか? あ?」
「てめぇ!俺らを誰だと思ってやがる!」
「たしかEランクパーティの『天空の竜』だっけ? うわーかっこいいなまえだなーすごーい。名前だけな。中身はまともにゴメンナサイも言えねぇ馬鹿ばっかだけどな」
男たちの顔が怒りに歪み、みるみる赤くなっていく。
凄い形相だけど、ウェアウルフやアルマのご両親に比べたら中身の伴わない薄っぺらい迫力だ。
下手したらホブゴブリンの方が怖いかもな。
「おい、お前がその嬢ちゃんのパートナーか。ナヨナヨしてる割に口だけは達者だな。ええ?」
「ああ、まったく口だけは達者だな。なあ?」
リーダーのダ、ダ、……ダなんとかに凄まれたが、こちらもそいつに向かって指をさしながら皮肉で返してやった。
こんなイキった対応なんかしたくないけど、アルマにあんな口きいた奴らに丁寧に対応するなんてバカバカしいわ。
「ああそうだ。お前が動けなくなりゃ、その嬢ちゃんもまたソロに逆戻りでうちに迎え入れやすくなるな。ここで一つ痛い目みとくか?」
「てかもう手足の一本でももいどきましょうや。二度とまともに生活できねぇぞ? はは」
「今から土下座でもして謝れば、半殺しで済ませてやるぜ?」
全員武器を構えて、今にも襲い掛かってきそうだ。
もう辺りが暗くなり始めて、人通りも少ない所とはいえちょっと血気盛んすぎだろ。
「ヒカルに手を出したら、いくら同じ冒険者でも許さない」
「はっ! ならさっさとお前がウチに加入すればよかったじゃねぇか! まぁもう遅いんだけどな。…やれ」
ダなんとかがそう言った直後、メンバーの一人が剣をこちらに向かって振り回してきた。
おいおい、マジでやる気かこいつら。
まぁ、こんな攻撃ウェアウルフに比べたら怖くないけど。
ギィンッと金属音を立てて、振り下ろされた剣を腕で受け止めた。
「なっ!?」
「す、素手で剣を受け止めやがっただと…? いったいなんのスキルだ!?」
スキルじゃなくて、鉄ぐらいの硬度に固めた魔力を腕に纏わせて受け止めただけだっつの。
そのまま刀身を魔力でカバーした手で掴み、剣を奪い取った。
「お、おい、刃を手で掴んでやがるぞ…!?」
「ヒカル、大丈夫…?」
「ああ、こんなナマクラじゃあ、バターも切れないよ。付呪でもしてもらったらどうだ?」
剣を掴みながらどっかの膝に矢を受けた衛兵みたいな軽口をたたく余裕すらある。
こいつら、ステータスを確認してみるとレベルが高くても10前後くらいしかない。
スキルもまるで育ってないな。まだ見習いパラディンだったアルマの方がましじゃないのかこれ?
こんなんでよくEランクになれたもんだ。雑魚ばっかり狩ってたのかな。
目標もなくダラダラ生活しやがって。まるで、…まるで日本にいたころの俺みたいだ。死にたい。
思わぬところで精神的ダメージを負ってしまった。なんて奴らだ! おのれダなんとか!
「この! 調子に乗んな!」
おっと今度は拳法家か。
素手で顔面に殴りかかってきたけど、あんまり強く殴らないほうがいいぞ?
俺の顔に当たった瞬間、拳がゴキッと嫌な音を立てた。
顔面も同じく魔力装甲で覆っていたのでノーダメージ。むしろ殴った方が痛いだろうな。
案の定、拳の骨が幾つかヒビが入ったか、折れたみたいだ。
あんな勢いで人の顔を殴るなんてひどい奴だな! え? 俺の方がひどい? ソンナコトナイヨー。正当防衛ダヨー。
「ギャアアァッ!? お、俺の手がああぁぁ!!」
「こ、こいつの体どうなってんだ!?」
「スキルを使ったような様子はねぇぞ!? 素の状態であんなことになるのかよ!?」
面白いほど動揺してくれてるな。リアクション芸人にでもなった方が稼げるんじゃないのかこいつら?
「てめぇ、よくもウチのメンバーをやってくれやがったな!」
「いやいやいや、斬りかかってきたのも殴りかかってきたのもそっちだろ。俺無抵抗だったんだけど」
「うるせぇ! どんなトリック使ったか知らねぇが、俺に通用すると思うな!」
そう言って、腰に差した剣を抜こうとしている。
が、その前に
「もうやめとけ」
飛行の要領で体に魔力を纏わせて、高速移動。
地面すれすれで飛んでるから、単なる高速移動に見えるだろう。
抜こうとしている剣を掴み、抜くのを止めた。
「い、いつの間に…!?」
「なんだ今の速さ…! 目で見えなかったぞ!」
「今のは【縮地】じゃねぇか!? 極体術スキルまで使えるのかよ!」
ダなんとかと、リアクション芸人共が目を見開いて驚いている。
縮地? 極体術? ナニソレ?
≪【極体術】:【体術】スキルのLvが10に達した時点で解放されるスキル。いわば【体術】スキルの上位互換とも言える。【縮地】は極体術スキルがLv3に達した時点で使用可能の技能。短距離を超高速で移動可能≫
いや、だからスキルなんか使ってないんだけどなー。
まあこの場合勘違いしてもらった方が色々都合が良さそうだけど。
「てめぇ、何もんだ…!」
「ただのEランクだよ。お前らと同じ未熟者のザコだ」
「「「テメェのようなザコがいるか!」」」
ハモってツッコミ入れてきやがった。
やっぱこいつら芸人の素質あるわー。
「お前ら、スタンピードに参加するくらいの度胸はあるんだろ? なら後は努力次第でいくらでも強くなれる見込みがあるだろ。なのに珍しくて強力なスキル持ってるからって女の子一人に何度も言い寄ってきて、情けねぇなホント」
「ぐっ……!」
「そ、そういうてめぇはスタンピードに参加したのかよ! 参加してたなら、こんだけ強けりゃ目立ってたはずだろうが!」
「いや、そん時食中毒で死にそうになってたから参加してない」
「「「アホかてめぇは!」」」
咄嗟に吐いた嘘に全力でツッコミを入れてきた。
正直なんかちょっと面白くなってきた。
「それにあんまりしつこく言い寄ってると、アルマのご両親から何されるか分かんねーぞ? いやマジであのお二人を怒らせるようなことはやめろくださいホントにお願い」
「て、てめぇがそんなにビビるほどやべぇのかよ?」
「た、確かにあの二人に睨まれた時は死んだかと思ったけどよ…」
「分かったらもう帰れ。そんでもう俺たちに関わるな。もうアルマは俺とパーティ組んでるから諦めろ」
「くっ…………行くぞ、お前ら」
そう言って、天空の竜(笑)たちは未だに拳が砕けて悶えている男を引きずりながらすごすごと去っていった。
足掴んでやるなよ。頭削れてないかあれ。
あーもー。せっかくパーティも組んで心機一転、頑張ろうとしていたところに、いらんことしてきやがって。
お陰で気分最悪だ、クソ。
スタンピードの間は呉越同舟でも、喉元過ぎればこれかい。人付き合いって、やっぱ怖いわー。
なんかカッコつけてヤンキーみたいな口調で偉そうにイキっちまったし。今思うと恥ずかしくて死にそう。
「ごめん、ちょっと荒っぽい対応しちまった」
「ううん、庇ってくれてありがとう。…でも、無茶はしないでほしい。ヒカルが危険な目に遭うのは嫌だから」
「あんなの危険のうちに入らないよ。ホブゴブリンとかウェアウルフの方がよっぽど怖かったしな」
「比較対象がおかしい…」
ですよねー。
まぁいい、今回のことはギルドにチクってからさっさと忘れようそうしよう。
そしてギルマスに睨まれながらこってり絞られるがいい! ふははは!
ああもう、今日はもうさっさと寝て明日に備えるとするか。
そう思って再び宿に帰ろうとした時に、見慣れた人物が近づいてきた。
「ほっほっほ。見事なもんじゃったのぉ。カジカワ」
鑑定師のおじいちゃんこと、フィルスダイム氏だ。
見てたなら止めてくれてもよかったやないの。あ、戦闘職相手に生産職じゃ無理か。
「こんばんは。お恥ずかしいところを見られたようで」
「ほほ、なぁに、あやつらにはいい薬じゃろうて。アルマティナを利用して大物を狩って名を上げようなどと考えておるような連中じゃ、もっと叩きのめしてやってもいいぐらいじゃよ」
あいつら、今度ちょっかい出してきたらただじゃおかねぇ。
「スタンピードでは派手にやらかしておったのぉ。特に角を燃やす前に」
「え?………み、見てたんですか?」
「遠眼鏡で見ておったが、変なポーズ取りながら炎を噴き出してグルグル回っておったな。くくくっ…」
「ヒカル、なにしてたの…」
「勘弁してください…」
やめて! そんな目で見ないで!
あれは仕方なくやったことなの! 好きでやったわけじゃないから!
とか思いながらまた死にたくなってる時に
「あれは故郷の儀式かなにかかね? のぉ【異世界からの漂流者】殿」
そんな、爆弾発言を投下された。
お読み頂きありがとうございます。
ブックマークや評価をされる度に2828が止まらなくなってます。私キモイ。




