りょーりちょーのたのしいちょーりじっしゅー
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「料理長、こんな感じでいいの?」
「うん、その調子でよく振ってね。そうすると小麦粉がダマになったり生地に粉が残ったりしづらくなって、美味しく仕上がるから。砂糖も同じようにしてね」
「牛乳とたまご、まぜおわったー!」
「よーし、よく混ざってるな。じゃあ、振った小麦粉と砂糖に少しずつ混ぜていこうか」
はいどうも、ただいま朝の9時ごろです。
クレープ焼き職人の朝は遅い。もうみんなとっくに朝食終わってるし。
ちなみにゲン工房には早朝6時にお邪魔してたらあんな有様だった。職人の朝はえーな。
俺がワンマンで作ってもつまらないし、普段の炊事をしている子たちと一緒に作ることになった。
午前に売る分のポテチはとっくに揚げ終わっているので、今は手が空いていて暇だそうな。
「ポテチも種類が増えているみたいだな。俺が教えてない味まで作っててびっくりだよ」
「うん。みんなで意見を出しあって、試しに作って特に美味しかったヤツを商品にしてるの。毎回何種類も作るのは大変だから、週替わりでローテーションで販売してるよ」
お、おう。自分たちの負担が大きくならないように考えつつ、客が飽きないように工夫をしているようでなにより。
商才豊かだなーこの子たち。商売に関しては俺なんかよりずっとハイスペックだわ。
「料理長、次は?」
「ああ、植物油を混ぜてから、フライパンで熱して溶かしたバターも少しずつ加えて」
「ぜんぶいっぺんにいれちゃダメなのー?」
「上手く混ざらないからね。ほら、パンもお肉も野菜もお菓子もスープもいっぺんに食べようと思っても無理だろう? あれと同じだよ」
「うん、よくわかったー!」
「院長ならいっぺんに食べられそうだけどね」
やめてやれ。同意だが。
「肉と聞いて」
「院長さっきガッツリ食ったばっかだろーが! てかいつの間に台所にきてたんだ!?」
このツッコミ担当の青髪少年も相変わらずのキレっぷりでなにより。なにがなによりなのか俺にも分からんがなにより。
名前はランスラッシュ君か。なんかゲームの必殺技みたいな名前してんな。
「生地は出来上がったね。本当は生地を休ませたいところだけど、まあいいか。次はフライパンを火で熱くして、植物油を垂らしてからチリ紙で薄く延ばして」
「こんな感じ?」
「そうそう。それじゃあ最初は俺が焼いてみようか」
以前作った時は何回も失敗しまくったが、今ではコツをつかんでいるので無問題。
器用さも上がってきているから焼いてる途中で破れるようなことにはならないだろう。多分。
生地は牛乳多めで薄めに作ってあるので、フライパンを軽く傾けていくだけで簡単に伸ばせる。
1分弱ほど中火で焼いたら、端のほうからフライ返しでひっくり返して、弱火で1分弱焼く。
焼けた生地を皿に移して、
ポテチ作りのために魔法コンロを購入していたようで、火加減が簡単にできて助かった。
「りょーりちょー、クリームフワフワになったー!」
「混ぜすぎて腕がだるい……」
「おお、いい感じにホイップ状になったな。では、仕上げににこの『餡子』を混ぜます」
「アンコ? なんか真っ黒だけど、なにこれ?」
「小豆っていう豆のジャムみたいなものだね。そのままでも食えるけど、泡立てた生クリームに混ぜるとさらに美味くなるんだ」
ちなみにこの小豆、ケルナ村で細々と栽培されていたのを買い取ったものだったりする。
ケルナ村じゃあ人の食料じゃなくて飼料や枕の詰め物に使われていたようだが。
餡子を作るのにも結構な手間がかかるんだが、今回は俺製のやつを使おう。
生クリームと餡子を混ぜて、それを焼き上がった生地の上に大匙山盛りほど乗せてから、綺麗に生地を折りたたんで、生クリーム餡子クレープの完成。
中に果物とか加えてもうまそうだけど、使えそうな果物がエフィぐらいしかないので自重しておいた。炭酸フルーツは味を破壊しかねないし却下。
「はい、これで完成だ。最初に食べてみたい人ー?」
「「「はーい!!」」」
うん、予想はしてたけど全員手を挙げおった。
じゃんけんで決めてもらうとして、次のをさっさと焼き上げてしまおうか。
「……ん~! お~いひぃ~ぃ!」
「く、くそぅ! リーナのヤツー! おまえばっかずるいぞー!」
「一口、一口だけくれよー!」
他の子を煽るように至福の感情を表情に出しながらクレープを頬張る桃髪少女のリーナ。
……早く焼いていかないと、喧嘩が勃発しかねんなこりゃ。
いや、他の子たちにも手伝ってもらいながらだったら気が紛れるかな?
「あ゛ー! やぶれたー!」
「あー、いい、いい。そのままひっくり返しちゃえ。クリームを乗せれば美味くなるから細かいことは気にするな」
「わかったー」
いやー、ちょっとした顔出し挨拶程度に寄ったつもりだったのに勢いでお菓子作りまですることになって、なんだか保育園の先生にでもなった気分だ。
でも意外と楽しい。やっぱ料理も誰かと一緒にすると楽しいよな。
……またアルマたちと会えるようになったら、たまに手伝ってもらうのもいいかもしれない。
「モフモフモグモグ、カジカワさん、よかったらウチに就職しませんか? モグモグ子供たちも懐いてますしモグモゴ料理も美味しいしモグモグモグ」
「院長、口の中のもん飲み込んでから話してくれ……」
「嬉しいお話ですが、謹んで遠慮させていただきます。冒険者としてやりたいことや、やらなければいけないことが沢山ありまして」
「え、料理長って冒険者だったの? てっきり旅の料理人かなんかかと」
「いや俺何回も言ってたよね!? 冒険者だから! 料理は半分趣味みたいなもんだから!」
なんでどの子も俺を冒険者として認識してくれないんですかね。
……まあ、この子たちの前じゃ料理してる姿くらいしかまともに見せてないから無理もないか。
しばらく子供たちとお菓子作りを続けて、ポテチ売りに出ている子たちの分まで作り終えた。
片付け終わったころに、院内の掃除を終えた子たちにもクレープをふるまっていると、玄関から見覚えのある二つの人影が入ってきた。
茶髪少年のファランナムと、銀髪少女のカルシェイラか。
んー、二人とも状態が『疲労』になってるけど、一仕事終えた後なのかな?
「あ、カジカワさん! こんにちは!」
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶり。なんだか疲れているみたいだけど、仕事から帰ってきたところかな?」
「はい。『鑑定士』としての仕事を先月から始めまして、今日の分の鑑定が済んだところなんです」
「私は冒険者ギルドから帰る途中で、ファラム兄さんと一緒に帰ったところです」
「え、カルラって冒険者ギルドに入ったのか?」
「いえ。まだ成人していないんですが、いつかレイナお姉ちゃんみたいに強くて立派な冒険者になるために基礎基本を今のうちに学んでおきたくて、訓練を受けさせてもらってるんです」
へええ、ファラム君は成人したてなのにもう働いているんだな。
カルラも将来を見据えて成人前から頑張っているんだなー。
……俺なんかまだ中学や高校に通ってた年齢なのに。あの頃の俺にこの子たちの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。
「いまお菓子作ってたところなんだけど、二人も一緒に食べるかい?」
「うわぁ、美味しそう……!」
「是非、いただきます」
もうこの子たちは一人の人間として、立派に頑張って働いている。
俺にできることといったら、こうやってちょっとした楽しみを提供することくらいだ。
……なんだか妙に楽しくて、ついつい長居してしまったな。
あまり長くいても邪魔に、いやこの子たちは邪魔なんて思わないかもしれないが、そろそろお暇するとしよう。
お土産にお菓子の材料になるバニソイ豆や小豆を孤児院の畑で栽培できるように渡してから、軽く挨拶してから出ていった。
出る際に「またきてね」と言ってくれる子たちに目頭が熱くなりそうだったが、なんとか耐えた。ぐすん。
さて、お次はどこへ行こうかな。
ランドライナムはまだコワマスが戻ってないらしいし、行ってもいるのはナイマさんくらいだし省略しておくか。
……いま思うと、ファストトラベルで送ってあげてもよかったかもしれないな……。
お読みいただきありがとうございます。
>ワンシャン、思ってたより堅物っぽかった…!(笑―――
というか、吾輩は~ のくだりに合わせたらあんなキャラになったという。
多分、素はもっと残念な感じだと思います。ヒヨ子視点はまた後日。
他のパーティ云々は嵐の前の静けさのような今ののんびり状態が終わったの予定です。
>逆に考えるんだ。―――
それ単に恐怖心が麻痺してるだけだから。比較対象がおかしいだけだから。
あと黒毛のオスの変なあだ名募集。本編で使うかどうかは筆者にも分かりませぬ。
>そう言えば梶川って魔力操作で剣を作った事ない気がする―――
剣を作っても剣を振る技量がないので。剣を身体につけて操作するのは魔刃改が該当しますね。
高周波ブレードはうまくイメージできなかったようなので、チェーンソーみたいに高速でスライドさせて斬ってます。
>魔力とかで管を作って、蚊みたいに相手にぶっ刺すことで―――
魔力や生命力の吸収はできなくはないです。
ただ、相手が制止している状態でないと難しいので拘束してからじゃないと無理ですが。
まあ格下相手ならできなくはない、といった具合ですね。
……寄〇獣のあれ、椅子の脚の石突がボンッって勢いよくとれるのは割と不自然な気がするなーとか思いながら読んでました。
>この主人公は動物を無理やり押さえつけたり―――
そうそう、あとモツ抜いたり顔面弾き飛ばしたり真っ二つにしたりしてますが動物愛護に溢れt やっぱ無理あるわ。




