閑話 お稽古覗き見
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今回は勇者視点です。
「はーい、今日のお稽古はここまでとしまーす。今日はゆっくり休んで、明日に備えましょうねー」
「あ、あががが……」
「う、うぅ、今日も、何回も、死んだ……」
「……もう慣れました」
はいどうもコンバンハ。魔王の脅威に晒された世界にとって最後の希望、勇者様ですよー。
なおその最後の希望は連日死にまくっている模様。特に教官たちと稽古をする日は死亡回数3ケタ超えるのが当たり前という恐怖。地獄かここは。
『剣王』デュークリスさんは木剣一本でなんの小細工もせず、真っ向勝負でこちらを叩きのめしてくる。
木剣じゃ耐久力が弱いからか【魔刃引き】を使いながら組手をしているが、それでも殺傷力充分だったりする。刃引きとはいったい……うごごご……。
『大魔導師』ルナティアラさんは、初歩の攻撃魔法ですら並の魔術師や魔導師が使う上級魔法も真っ青の威力で、直撃したら即死というオワタ式鍛錬。
魔法をかいくぐって、なんとか近接戦闘にもちこめても向こうのほうが膂力も技術も上で、すぐ杖でぶん殴られて死ぬ。なにこの鬼畜無理ゲー。
アイナさんってすごく優しかったんだなぁ……と思わず遠い目。カムバックアイナさーん。
この二人の鍛錬ヤバい。死ぬ。死んでまうでこんなん。てか死んでる。数えきれんくらい死んでる。
死にすぎて日が沈むころには全員顔から生気がまるで感じられない様相になっている。お、オレはあと何度死ぬんだ……。
「大丈夫かね? 皆、顔色が悪いぞ」
「死んでも蘇れるからって、無茶しすぎよ……」
「身体は治せても、心がなぁ……」
「死ぬ際のショックがどれほどのものか分からないが、その様子だと相当負担が大きいようだな」
「慣れですよ……フフフ……」
オリヴィエ大丈夫か。笑いながら視線があさってのほう向いてんぞ。
普段大人しい分、極限状態に陥ると一番ヤバいのはオリヴィエかもしれないな…。
「他の班にもこんな命がけの稽古させてるんですか? そのうち死人が出ますよ……」
「さすがに死なない程度に加減はしているよ。君たちと違って、鍛える前に死なせては本末転倒だからね」
「要するに、一番きついしごきを受けてるのが私たちってことね……」
「例外はあるが、まあそうだな」
「例外って、梶川さんの班ですか?」
「ああ。そういえば、君の同郷だという話だったな。君といい彼といい、異世界人の潜在能力の高さには驚かされるな。きっとそちらの世界基準では、私も普通人でしかないのだろうね」
「いやあの人がおかしいだけですから。普通の人は生身で空を飛んだりしませんから」
やっぱ梶川さんたちの班が一番の有望株かぁ。まあ当然か。
その梶川さんですら、まだこの二人に一撃入れることすらできてないらしいが。
で、そのお二人の娘であるアルマが先日、ルナティアラ教官殿相手に見事一撃かましたとか。
あの死の弾幕を抜けて、かつ近接戦闘で打ち勝ったってのか? どうやって?
……娘相手だから手を抜いてたとか? アルマに対するこの二人の溺愛ぶりを考えるとありえなくはないが……、
梶川さんたちの次の組手は明日だっけ。
オレたちは明日休みの日だし、ちょっと覗いてみようかな。
どんな戦法でこの二人相手に組手してるのか気になるし、なんらかのヒントを掴めるかもしれない。
……正直、怖いもの見たさ半分だけどな。
で、次の日。
遠く離れた場所を望遠鏡みたいに覗くことができる、極体術スキル技能【千里眼】でお稽古の様子を覗いてみようとしたのですが、見通しの良さそうな場所にいくつか人影が見えた。
「……なにしにきたんだ、オカマ野郎」
「……そりゃこっちのセリフだ。今日お前らレベリングの日だろうが、揃ってサボってなにしてんだよ」
アランシアンとかいうクソガキが、覗き見によさそうな場所で先にスタンバイしてやがった。
いや、このガキだけじゃない。なんと他の班の奴ら全員覗き見にきてやがる。お前ら修業はどうした。
「テメェもサボってるくせに何偉そうなこと言ってんだ。同じ穴のムジナだろうが」
「ザーンネーン。今日オレたちは休みの日ですぅー。お前らと違ってフリータイムですぅー。一緒にしないでもらえますかぁー?」
「うぜぇなテメェ、今すぐ死ぬか?」
「あ、怒った? 怒っちゃった? ゴメンネー、殺したかったら殺ってみればぁー? まあすぐ生き返るから意味ないけどねぇー」
我ながらクッソムカつくウザい煽りかただけど、こっちもオカマだのなんだの言われて内心腹立ってるんですよ。
煽り耐性が低いのか明らかにイラついた様子で顔を顰めているが、梶川さんたちの稽古を見逃さないようにするために耐えてるようだ。NDK? NDK?
「……今はテメェにかまってる場合じゃねぇ。用事が無いならさっさとどっか行けクソが」
「オレもお前の近くなんか居たくねぇわボケ。覗き見によさそうな場所がここくらいしかないから仕方ないだろ」
「お前らうるさいぞ。覗くんなら黙って見てろ」
緑髪の、ラディアスタだっけ? そいつが呆れ顔でこっちに注意してきた。サーセン。
おお? コイツ、体術スキルLv9だったのが極体術Lv2まで成長してるじゃないか。この短期間でスキルレベルをここまで上げてきたのか。
基礎レベルも35くらいだったのが一気に40まで上がってる。修業開始してからまだ1週間ちょっとなのに、すごいペースだな。
いや、コイツも気になるけど梶川さんたちの稽古も見ないと。
いったいどんな組手をしているのか、見て、学べることは貪欲に吸収させてもらうとしよう。
【千里眼】を発動し、訓練の見学を開始した。
……で、あの、稽古が始まってから、黒い影が二つ分ほど揺れてるように見えるんだけど、アレ、なに? 誰? なにしてるの? なにが起きてるの?
なんか輪郭がはっきりと分からないんですが。アレは人なの? それとも田んぼのくねくね的ななにか?
≪……えーと、アルマさんとそのパパさんが超高速で剣を打ち合っているようです。速すぎてネオラさんの動体視力じゃ輪郭がぶれて見えてしまうみたいですねー≫
アルマ、大会じゃあんな速さで剣を振ってなかっただろ!? なにやってるのか全然分からんぞ!
てかパパさんも動きヤバい。アニメの高速戦闘を早送りで見てる気分だ。
娘相手に手を抜くどころか、オレたちと組手する時よりずっと速く、強い。
パパさん、あれでも手加減してくれてたのか。……うわ、なんか自分がすっごい情けなく感じるんですけど。
「……あれ、なにやってんだ?」
「アルマとデュークさんが組手してるみたいだ。……速すぎてもう誰がなにやってるのか分からんレベルだけど」
「アルマと、その親父だと? アレが?」
口をあんぐりと開けながら、ラディアスタとクソガキが呟く。
うん、あんなん見せられたらそりゃそういうリアクションになるよね。明らかに人の動きしてないもんね。おかしいね。
凄すぎて参考にならん。見学の意味なくね?
「あ、やっと動きが止まっ…!? アルマの姉ちゃんが持ってる剣がデカくなって、そのまま突き出した剣が、増えた!? しかもそれを当たり前のように全部捌いてんぞあの人!」
「今、剣を何回振ったんだ……? まるで、分からなかった……」
「オレたちの前じゃ、まるで本気を出していなかったんだな。デュークさんも、アルマも……」
「あの大会の時にも、な」
………うん。正直言うと、心のどこかでは分かってたんだと思う。
オレたち相手に手加減してたのは、最初からあんまり高すぎる目標を見せられると心が折れてしまうかもしれないからだろう。
実際、あんなの見せられて自信を失くしかけてる真っ最中だしな。……アレより強くなれってか? 厳しくね?
とか思ってたら、クソガキが立ち上がってそのままどこかへ歩き出していった。
「おい、どこ行くんだ?」
「……レベリングだ。もう見るもんは見た。これ以上時間を無駄にできねぇから戻る」
「あっそ」
あんなもんを見せられても、腐らずに強くなろうと努力するつもりなのか。
それとも壁が高いほど燃えるタイプなのかな。
……コイツ嫌いだけど、その向上心は見習うべきかもな。
「れ、レイナ!」
「え? ……っ!?」
急にラディアスタが、金髪幼女忍者ことレイナミウレの名前を叫んだのが聞こえた。
あの子がどうかしたのか? と思って再び千里眼を使って様子を見ようとしたが……。
梶川さんたちのほうを向いた時に、ここからでも見えるくらい巨大な炎の巨人が立っているのが見えた。
な、なんだアレ……!?
≪上級精霊魔法の【クトゥグア】ですねー。炎を司る最高位の精霊です。……召喚したのはルナティアラ教官ですか、レイナさんを殺す気なんですかね……?≫
……は? あんなバケモンを、レイナ相手に召喚したってのか!?
いやいやいや、いくらなんでも無茶だろ! こっからでも少し熱気を感じるくらいだぞ!? 近くにいるだけで焼け焦げるだろ!
≪いやー、そうでもないみたいですよ? ……あの子もどうなってるんですかね≫
は?
……。
う、嘘だろ、あの炎の巨人の攻撃を、辛うじてだが防いでいるだと……!?
よく見ると、なんかダチョウみたいにデカい金色のニワトリも一緒に攻撃をしのいでいる。ペアでの訓練なのかな。
魔獣と人間、異なる生き物のはずなのにまるで熟練のコンビの如き連携で互いにフォローしながら戦っている。
……あのニワトリってレイナの従魔だっけ? いや、梶川さんのペットのはずだったと思うけど、なんていいコンビなんだ……。
ってルナティアラ教官、さらに魔法で追撃しておられますね。鬼か。
たまらずレイナがニワトリと一緒に巨大化した影の中に潜り込んだが、影を炎に照らされて文字通り炙り出されてしまい、そのまま魔法の直撃を受けた。
だ、大丈夫なのか? 今のモロだっただろ。
あ、生きてる。辛うじてだけど、震えながら倒れているのが見えた。
レイナもニワトリもHPが残り20しかない。下手したら今ので死んでたんじゃないかアレ…?
そこに慌てて梶川さんが駆け寄っていったのが見えた。
レイナとニワトリに手をかざすと、見る見る傷が治っていって、HPも全快した。
代わりに、梶川さんのHPが減っていたけど、まさかHPを他人に分けることができるのか……?
≪魔力・気力だけじゃなくて、生命力まで操作できるみたいですねー。ホント非常識というかなんというか……≫
……あの人の非常識っぷりには慣れた。もうなにをしても驚かんぞ。
回復してから再びルナティアラさんに立ち向かう一人と一羽。あんな目に遭った直後なのによく心が折れないな。
「……こりゃ、サボってる場合じゃなさそうだ」
「スゲーなあの嬢ちゃん。お前さんがホの字なのはあの子なのか? こりゃ尻に敷かれそうだなぁ」
「ち、違うっつの! なに言ってんだバレド!」
「ふふ、照れなくていいさ」
「照れてねぇって! もうさっさとレベリング行くぞ!」
隣で覗いていたバレドライとラスフィーンがラディアスタをからかうように駄弁って、それに対して顔を真っ赤にしながら立ち去るラディアスタ。
レイナの様子を見てみようと覗いたはいいけど、自分よりずっと過酷な訓練をこなしているのを見て対抗意識に火がついたようだ。
まあ彼女にいいとこ見せたいなら、まずその子より強くならなきゃな。ガンバ。
しばらく眺めていたけど、アルマもレイナもニワトリも、何度もボロボロにされながらも稽古を続けている。
……一番過酷な班、ウチじゃなかった。この班が一番ヤバい。
死に戻りができないのに致死ギリギリの攻撃を捌き続けなきゃならない。
そしてその過酷な稽古に辛うじてだが全員ついていってる。もう根性あるとかそういうレベルじゃない。
てか、梶川さんはなにやってんだ?
さっきから回復役に徹しているようだが、稽古しないの? まああんだけ強けりゃ必要ないかもしれないけど……。
お、全員休憩入ったっぽい。お疲れー。
……ん? 教官二人が梶川さんと一緒に稽古場へ移動してるけど、どしたの?
……え、なんで戦闘態勢に入ってんの?
なんで教官二人が梶川さんと対峙する形になってんの。
これじゃまるで二対一で戦うみたいじゃないか。
≪どうやらその通りみたいですよ。手の込んだ自殺ですねー。いや、あの二人から提案したのでしょうか?≫
………。
まあ、なんだ。生きろ。万が一があったら骨は拾ってやるぞ梶川さん。
お読みいただきありがとうございます。
>開始一言目が「ああ~~ヒヨ子がモフモフするんじゃぁ~~~」だったから―――
過酷な鍛錬を終えた後で若干テンションがおかしくなっていたのかもしれません。
不遇職を選んでしまったアルマの将来に新たな選択肢を与えてくれた相手であり、また明らかにアルマが懐いているのを見て無下にすることもできないようで。
アルマママはともかくアルマパパはそう簡単に認めたくは無いようですが。
>急な飯テロに腹が減りました。―――
筆者の執筆走力じゃアレが精一杯です。よく見ると似たような料理の感想描写ばっかな気が…(;´Д`)
黒竜は果たしてどこまで身を削ることになるのか。イキロ。
>アルマの喜んでる写真とかをスマホのカメラで―――
効果抜群でしょうけども、それでは修業の意味が無いですねー(;´Д`)
空気云々は相手が止まっていればできなくはないでしょうけども、実戦で使うには空気を生成して相手に吸わせる制御をするのがちょっと難しいみたいです。拷問とかには使えそうですが。
>無事プラチナムコッコに進化したら――
も、元ネタが分からぬ……(;´Д`)
ひ〇ちゃんのいちにちか、動〇のお医者さんですかね……?
>ここにきて、まさかのモフ要素投入…―――
進化したら再び小さくなるので、ここぞとばかりにモフ要素。
手で撫でるくらいならできるでしょうが、大きなヒヨ子をクッションにできるのは今だけですねー。
机を乱打したらおがくずになること請け合い。大迷惑である。
>この時間に飯テロやめろください―――
深夜飯の背徳感と美味さは異常。そして増える体重の量も異常。アカン
それなんてバイオハ〇ード? かゆい うま




