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死屍累々

新規の評価、ブックマーク、誤字報告、感想をいただきありがとうございます。

お読みくださっている方々に感謝します。


虚ろな目をしながら、剣を手放し倒れ込むアルマ。

既に気力も魔力も枯渇し、行動不能に陥りピクリとも動かないレイナ。この子が一番ヤバそう。

白目を剥き、もはや完全に屠殺済みニワトリの様相のヒヨ子。

そしてきたないボロクズ呼ばわりされそうなポーズで、地面にできたクレーターの中心に沈む俺。


アルマママ、もうちょっと手心というものをですね………。



「……や、やりすぎじゃないか?」


「いえいえ、これ以上手加減すると、この子たちのためにならないわ。最初は自分たちの弱さをちゃんと実感してもらうために、心を鬼にして相手してあげないと」



顔を顰めさせながらアルマパパが言うが、アルマママは自分の意見を曲げず。

笑顔で超威力の魔法や近接戦闘専門職顔負けの杖術を繰り出してくるのは、恐怖以外のなにものでもなかった。称号欄にも『恐怖の女王』とかあるしな。



「ヒカル君、大丈夫かね? 生きてるか?」


「な、なんとか……」


「今の直撃だっただろうに、よく生き残ったな」


「あら嫌だわ。加減を誤るようなヘマはしませんよ」


「いやいや、ヒヨ子君なんか下手したらローストチキンになるところだったじゃないか。もうちょっと威力を抑えてあげても……」



アルマパパと稽古している間はこんなきっつい訓練、他にないだろうなぁとか思ってたけど、甘かった。

アルマパパ、すごい気を使ってくれてた。疲労のあまり動けなくなって倒れこんだらちゃんと休憩させてくれてたし、痛いけど大きな怪我を負わないように絶妙な力加減をしてくれていた。


それに対し、アルマママはヤバい。

賢者でもないのに上級回復魔法が使えるから、即死しなければ治せるし大丈夫という判断でバンバン魔法を命中させてくる。

ヒヨ子なんか、あとちょっと回復が遅れていたらそのまま今日の食卓に並ぶことになっていたかもしれない。


限界を超えて動かないと死ぬぞ、と言わんばかりに倒れこんでも容赦なく魔法を放ってくるので、何度かお花畑が見えそうになった。

容赦をしてくれる魔族なんかいない。だから極限状態でも諦めずに動き続けられるように厳しい訓練をしてくれているのは分かるが、身体より先に心が折れそうですじゃ……。



「本当はもうちょっと続けたいところだけど、みんなもうクタクタみたいだし今日はここまでにしておきましょうか」


「当たり前だ。これ以上はオーバーワークとかそれ以前にイジメにしかならんぞ……」


「では運びましょうか」


「あ、俺が運びますので大丈夫ですよ」



回復ポーションで生命力を補給してから、魔力でパーティ全員の身体を包んでから浮かせて移動。

ぐったりした状態で浮かせているもんだから、パッと見幽霊かなんかに見える。コワイ。



「……正直、不気味な光景だな」


「みんな白目か虚ろな目をしてるのが拍車をかけてるわね。あら、ヒカルさん左腕に火傷が」


「あ、ホントだ」


「はいはい、今治しますからねー。痛いの痛いの飛んでいけー………あら?」



火傷をしている腕に回復魔法をかけるアルマママ。

途中まで生命力が削られつつもなんとか無傷で済んでたんだが、最後の一発で生命力がゼロになってダメージを受けたっぽいな。

……てか、回復魔法かけられても全然傷が治らないんですが。



「お、おかしいわね? これくらいならすぐに治るはずなのに」


「……回復魔法が効かないのか?」



生命力は回復しているが、傷自体はなんの変化もない。

おいおい、まさか俺ってポーションだけじゃなくて魔法でも傷を治せなかったりするのか?

自分で生命力操作を使うしか治せないのなら、重傷を負って意識を失ったりしたら周りの人がポーションや魔法を使ってもダメってことか。……気を付けよう。



「……異世界生まれなせいか、そういう体質みたいでして。一応、生命力さえ回復できれば自分で治せるのですが。ほら」


「あら、みるみる治っていくわ」


「どの程度の傷まで治せるんだね?」


「手足をイチから生やすくらいならできますけど、それ以上は分かりません。試すわけにもいきませんし」


「つまり最上級の回復魔法相当の治癒ができるってことじゃないの。ギルマスの言う通り、やっぱりヒカルさんって芸達者ねー」



ふむふむ、どうやら俺の生命力操作は相当強力な回復手段のようだ。『奇跡の癒し手』の称号は伊達じゃないらしい。

ちなみに俺が地球(異世界)出身ということは、既にギルマスがお二人にチクっているらしいので隠す必要はない。プライバシーって知ってる?



「さーて、今日の晩御飯は私の奢りよー」


「今晩は何にするんだ?」


「『カツドン』よ」


「……別にいいが、教えてもらった料理を本人に出すのか?」


「ダメかしら?」


「いえ、御馳走になります。楽しみですよ」



カツ丼かー。今日はもう腹ペコペコだし、ガッツリ食えるものを食べられるのはいいな。

なにより自分で用意しなくていいというのがありがたい。料理は好きだが今日は作る気力もないし……。







アルマママ特製のカツ丼はクッソ美味かった。

これまで食べたカツ丼の中でもぶっちぎりである。自分の未熟さをこんなところでも実感することになるとは……。

衣のサクサクした食感とか中のお肉のジューシーさとかツユの塩加減とか卵のフワトロ具合とか、……挙げればキリが無い。

アルマママの料理の腕もさることながら、使っている素材も超高級品ばっかだったなー。豚肉なんかSランク魔獣の肉だったし。



「お腹いっぱいで動けないっすー……えへへー……」


『ピピィ……』



食後に満足そうな顔で、膨らんだ腹を見せながらあおむけで大の字になるマスコットたち。行儀悪いぞ。

魔力操作で無理やり立たせて席に座らせ、今後の相談をすることに。



「さて、今日の稽古で分かったと思うが、俺たちはまだまだ弱い。俺はスキルを使えない分技術面が未熟。みんなは能力値が足りていない」


「うん。気力操作で無理に強化しても、長続きしないから修業にならなくなってしまう」


「自分とヒヨコちゃんはモロそれだったすねー。ペース配分考えるべきだったっす」


『ピィ』


「故に、明日からのレベリングだが俺はLv70後半以上の魔獣とサシで最低5体以上、みんなは一日一回はレベルアップすることを目標にやっていきたい。ここまでレベルが上がるときついかもしれないが、あのお二人の訓練に比べればまだ楽だと思って頑張りましょー」


「うん。あの二人より強い魔獣なんかそうそういないだろうし、強気でいく」


「まずは上級職になることを目指すっす!」


『ピピッ!』



俺は高レベルの魔獣、それも大型ではなくある程度標準に近いサイズで身のこなしの素早い魔獣と戦うことを意識するか。

アルマとレイナは、まず基礎能力値を上げるためにとにかく多く経験値を取得できるように数をこなすようにする。

ヒヨ子はLv39だし、明日のレベリングで進化できるだろう。修業期間中になんとかプラチナムまで進化してほしいところだが。



しっかし、俺たち以外のグループにもこんな鍛錬をさせるつもりなのかね。

勇者君たちは死んでも生き返れるから大丈夫。大丈夫じゃないけど大丈夫。

アイザワ班のヒューラさんとガザンギナンドさんは上級職、それも特級職手前だからなんとか耐えるだろう。アイザワ君が心配だが。

ラディア班は、……ラディア君が無茶してうっかり死にそうで怖い。バレドとラスフィーンも決して弱くないけど、あのお二人の修業についていけるか不安だ。

まあ根性は人一倍だし、気合で耐えてくれるのを期待するしかないか。


つーか他の班の心配をする前に、まず自分たちのことを考えなきゃならないっていうね。

修業の期間は約1ヶ月半を目安に行われるそうな。

なにを基準に期間を決めたのかというと、他の大陸の事情が絡んでくる。


第1・第2大陸ともに魔族の拠点をまだ発見できておらず、最短でもひと月以上はかかる見込みでそれまで魔族の拠点に殴り込みにいくことができない。

発見するまでの間に鍛えるだけ鍛えて、見つけたら応援に向かって一気に攻め込む手筈だ。

第4大陸は運よく探索隊が早い段階で発見することができたので、即御両親が攻め込んで壊滅させたとか。魔族涙目。


で、最後に第3大陸へ向かって全戦力を結集し、魔族に滅ぼされ奪われた土地を取り戻していくというのが大きな流れだ。

現地にはまだわずかにレジスタンスたちが残っているらしいが、大陸に住んでいた人たちはほとんどが殺されたか避難して、魔族が我が物顔で歩いているんだとか。

……そいつらを絶滅させるためにも、今はしっかり力をつけることにしよう。でないと第3大陸の料理が美味しくいただけない。


本来、魔族の幹部を倒して魔王の城へ向かうのにも早くて数年はかかるのが普通らしいが、今回は侵攻速度が異常なまでに早く、そんな悠長なことも言ってられないらしい。

魔王を倒すのには勇者の力が、というか勇者の次の職業のみが使える特殊能力が無ければほぼ不可能だとか。

だから御両親も自分たちだけで魔族を倒そうとせず、わざわざ勇者君を鍛えているらしい。頑張れ勇者マジ頑張れ。


暇があったら、他の班の様子を覗いてみるのも面白そうだな。

……あの御両親の稽古を覗くのはちょっと怖いが。



お読みいただきありがとうございます。



>鬼先生ってほんと、天性の才覚と数多の実戦を経て―――


『拳の鬼神』に進化できる時点で既に色々おかしいという。進化条件自体は極めてシンプルなのですが。

鬼先生がスキル技能を使えば今の主人公では数秒で殺されるでしょう。まだまだ先は長い。


>鬼先生のことアルマパパも知ってんのかいw―――


現状、頭一つ抜けて強い存在ですので。

コイツをあんまり本編に絡ませると話を進めづらくなるのであくまで修業相手としてしか登場させる予定はありませんが。


>100万字突破おめでとうございます、これからも楽しみにしています。―――


ありがとうございます。今後も暇つぶしにでもお読みいただければ幸いです。

魔獣視点のお話もいつか書いてみたいですねー。ヒヨ子とかワンシャンとかも。


>話に出てくる程度なのにすっかり鬼先生準レギュラーじゃねえか!――


ほんと出番自体は少ないのにこの存在感よ。どうしてこうなった。

ジュウロウ(未登場)は案外善戦するかも、というほどの実力だったり。まず勝てないでしょうが。

免許皆伝したら料理持ってこなくなるだろうから多分しない。というかこいつに絡め手なしで勝てる日はくるのか……?


>あのドラゴンバスター(仮)は―――


使ってます。でもなんの変哲もない木刀に弾かれるばかりでまるで通用しませんでした。パパ強過ぎんよー。

四日ごとにローテーションを組んでいるので、半日交代で進めています。黒竜逃げて超逃げて。

あと鬼先生は普通の魔獣が進化していった結果なので転生者じゃないです。むしろそのほうがおかしいですが。


>木剣…?あれ、木剣って物を切れる武器だっけ…?―――


ぶっちゃけその辺の上級職が名剣を使うより切れ味鋭く斬れるくらい、スキル技能の攻撃力が強いです。ちなみに木剣の攻撃力補正は+8くらい。

引き摺って行ったのは御両親両方ですねー。修行場所まで転移させたのはアルマママですが。


>100万字突破おめでとうございます。―――


ありがとうございます、大変励みになります!

あと伝統ある料理で美味しいのは分かっていますがバロットはちょっとあがががが(;´Д`)


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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
ヒヨ子→並べないで、弔って(弔わないで)
[一言] >地面にできたクレーターの中心に沈む俺。 ヤムチャや……ヤムチャがおる!
[一言] なるほど、これはアイザワ君がカジカワに追いつける日は来ないな←
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