先行き不安
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今回は勇者視点です。
激戦を終えた後の宴は続く。
いやー、まさかこっちでもコーラが飲めるとは思わなかった。
つーか普通にファ〇タもどきやソーダまで用意されている周到っぷりに思わず唖然。
正直、能力値の高さとか喧嘩の強さとかよりも、その『食』への執念に感心するなぁ。強さのほうはもうわけ分からんし……。
「ネオラ君、おかわりいるかい?」
「ん、あざっす。…………?」
プカプカと浮かんだ瓶が、オレのジョッキにコーラを注いでいく。
……ツッコまんぞ。もうこれ以上この人にツッコんでたらキリがない。
それをヒュームラッサが訝しげな目で見つめている。酔っぱらって変な幻覚見えてるとか思ってそう。
「……船の上でも似たようなことやってたね。的当てゲームの弾をゆっくりと投げてすげぇ遅く進ませたりとか。アレって結局ジョークグッズとか関係なかったのかい?」
「すみません。それはちょっとトップシークレットでして」
「最重要機密をそんなあっさり見せびらかすんじゃないよ……」
「見せる相手は選んでいますよ。少なくとも、この場にいる人は人の秘密を軽々と話すような人はいないと思いますし」
「そりゃどーも。てか、面識があるアタシはともかく今日初対面のガナンや勇者御一行のことまでよく信じられるね」
「試合を見ていれば、その人の人柄くらいはなんとなく察しがつきますよ」
オレはアンタの戦いぶりと人柄のギャップに困惑しっぱなしだけどな!
あの白い魔族相手に戦っていたバーサーカーと、このおかんさながらの優男が同一人物ってのがおかしい。
いったい、どちらがこの人の素なんだろうか。
仮面越しでもブルっちまうくらい恐ろしい、まるで鬼神のようなあの顔が本性なのか。
……それとも、アルマやレイナミウレが心を許した笑顔を向けている、この優しい表情が本当の顔なのか。
まるで普段絶対に怒らないけど、もしも怒ったら絶対に怖いであろう学校の先生みたいだ。
≪いや、その例えはどーかと……≫
「にしても、あの白い魔族に襲われてよく誰も死ななかったもんだよねー。今日だけで軽く3回くらい死んだかと思ったよアタシゃ」
「たしかに。アタシの斧もガナンの大剣もまるで通じなかったね。あー、思い出したらまたムシャクシャしてきたわクッソ」
「ちなみに3回のうち1回はカジカワ君に殴られそうになった時かな。軽く走馬灯見えたわーハハハー」
「……本当にすみませんでした………」
「あ、ジョーダンジョーダン。……ちょっとちょっと、お願いだからそんな床にめり込む勢いで落ち込まないでー」
落ち込ませたのはアンタでしょうが。ジョークにしてもタチ悪いぞアイナさん。
……まあ、ぶっちゃけ白い魔族より梶川さんのほうが怖かったのは認めるけどな。
「はぁ……アイナさんに修業させてもらって強くなった気でいたけど、オレもまだまだだなって痛いほど実感しましたよ」
「でも、仮にネオラ君があの白い魔族に勝てるくらい強かったら、ネオラ君が洗脳されていたかもしれないんだよね。そうなったら何度死んでも蘇る人類殺戮兵器が出来上がってたかもしれないねーこわー」
「勇者には洗脳や封印系のスキルは効かないらしいですよ? 『勇者』の称号にその手のスキルを無効化するパッシブ効果があるとかなんとか」
「うわ、出たよご都合主義な反則性能。神様ってある意味ホント残酷だよねー。殺してもダメ、洗脳も封印もダメ。魔族に勝ち目ないじゃん」
「それでも、モタモタしてて気が付いたら勇者以外人類絶滅なんて状況になったら詰みですけどね」
そうなる前に、早く魔王を倒せるくらい強くならなきゃならんのだが、予想以上に魔族の侵攻速度が早い。
まだ召喚されて半年も経っていないのに、5つある大陸のうち1つが既に壊滅状態だし。
今回も下手したら王都が陥落していたかもしれない。最悪そのままこの大陸も滅ぼされていたかもな。
≪確かに、今回の魔族の侵攻ペースはちょっと異常ですねー。大陸一つ滅ぼされた前例がないわけではないのですが、それでも数年かかってようやくといった具合ですよ。わずか数ヶ月というのは早すぎますー……≫
……ちょっとまずいかもな。
アイナさんとの修業で、短期間のうちに急激に強くなれたがそれでもまだ魔族の強さに追いついていない。
あと、レベル的にそろそろジョブチェンジの準備をしないといけない時期だ。
『勇者』の職業にはレベルキャップが存在する。
Lv49までは上級職以上の成長率でガンガン能力値もスキルレベルも上がっていくが、ジョブチェンジしない限りLv50以上まで基礎レベルを上げることはできない。
ジョブチェンジを果たし、Lv50に達するためにはいくつか条件がある。
例を挙げると、マスタースキルを5つ以上獲得することとか。これはあと一つ獲得すればクリアなので大きな問題じゃない。
次に特定の称号をいくつか獲得すること。『蛮勇者』とか梶川さんの持ってた『終焉災害事前討伐勇士』とかが該当する。……何気にこれ難易度高いな。どうやって獲得したんだ?
そして最後に、勇者専用の『試練』を乗り越えること。とある遺跡を踏破し、最深部に到達してなんやかんやする必要があるとか。
……クッソメンドクサイ。神様ももうちょっと条件緩めてよ。世界の危機やぞ。
「そういえば、梶川さんの称号欄に『終焉災害事前討伐勇士』ってのがあったけど、アレってどうやって獲得したんですか?」
「え? あー、勇者のジョブチェンジに必要な称号だっけ。俺の場合は皆で協力して『ミニマム・ヨルムンガンド』っていうヘビ型の魔獣にトドメを刺した時に獲得したんだけど」
「ぶっふぉぁ!?」
『ミニマム・ヨルムンガンド』という名前を出した際に、アイナさんが飲んでいた酒を噴き出した。
え、ミニマム、なに? なんか名前の響きからして弱そうなんですけど。
「ゲッホ、ゲホ! ……それ、放っておいたらいつか世界滅ぼすヤツじゃないの?」
「はい。すごく大きな魔獣で最初はこれでミニマムってどういうことだって思ったんですが、成長したらさらに30倍近く大きくなって身体から常に強力な致死毒を撒き散らすようになるとかなんとか」
「あーやっぱりねー。ヨルムンガンドはこの大陸じゃ伝説の災厄として有名だからねー。その幼体を倒したんだったら称号を獲得できたのも納得だよ」
「とにかく体が大きいし大蛇獣スキルに貫牙術スキル、果ては竜族スキルまで使ってきましたからね。俺一人じゃ倒すのは難しかったと思います」
梶川さんをして「倒すのは難しい」とか、ジョブチェンジする前にそんなバケモノと同格の相手を倒さなきゃいけないのか……。
ちょっとでもチョロいとか思いそうになったオレ氏、げんなり。
「ああ、先行き不安だなぁ……」
「だいじょーぶダイジョーブ。アタシの修業を終えた後のことはイヴランちゃんが既に予定を立ててるってさ。ちゃんとジョブチェンジできるように段取りを組んで、後任の人たちには連絡をとってあるらしいし」
おお、さすがアイナさんの妹さん。有能やわぁ。
後任ってのが誰なのか分からないのが引っかかるけど。
「さて、そろそろデザートを出しましょうか?」
「おおー、あれだけ料理を作ったうえでさらに隠し玉とは、この男やりおる……!」
「……ヴィンフィートのギルマスもデザートを出した時に同じようなこと言ってましたね」
妹さんも似たようなノリなのか。いったいどんな人物なのやら。
お、クレープか。これも異世界に来てから食ってなかったな。
ってうっま。中に入ってるクリームが生クリーム入りの餡子みたいで懐かし美味しい。やっぱこの人料理上手いなぁ。
「ふほほほ、美味すぎて変な笑い声出てきた」
「アイナさんキモい。……あ、でも美味しい」
「辛辣ゥ! レヴィアちゃん、もうちょっと言い方ってもんをだね? てか君も表情筋緩みまくってるよー」
「ああ、美味いなぁ。作り方教えてもらえないっすかね?」
「いいよー。てか、一度食べた物ならメニューが作り方を分析してくれるから、作ろうと思えばネオラ君も作れると思うけど」
え、マジか? そんな便利機能あったの?
≪ありますあります! 余裕で解析完了済みですよー≫
もしかして、他のカラアゲとかトンカツとかのレシピも?
≪もちろんですよー≫
梶川さんありがとう。感謝。
「よかったら、スマホのレシピ帳あとで見るかい? メニューに覚えさせればいつでも地球側の料理を作れるようになるよ」
「え、スマホあるの!?」
「うん。電波が通ってないから、元々記録していたものしか使えないけどね」
神かこの人は!? また、日本で食べてた料理を再現できるようになるのか!
梶川さんホントにありがとう、マジ感謝。
≪まあ、本当に再現できるかはネオラさんの料理の腕にかかっているんですけどねー。あのオムライスとか卵の火加減がかなり難しそうですよ? 魔法コンロでもあればまだマシでしょうけど≫
……まあ、そこは練習あるのみということで。
最悪、ギフトで料理スキルでも獲得すればええやろ。
≪いや、スキルなしでもある程度まともに料理できるんですから、そんなもったいないことはやめましょうよー……≫
料理の乗った皿と酒瓶が全て空になって、とうとう宴も終わりのようだ。
「ごちそうさまー。いやー満足満足ー」
「アイナさん、とんでもない量を食べていましたね……」
「オリヴィエちゃんもパクパク食べてたじゃないのー。普段は食が細いのに」
「ネオラのカレーとはまた違った味わいだったわねー」
「ガナン、起きな。ったく、酒弱いんなら無理にアタシのペースに合わせんじゃないよ」
「い、いや、お前のザルっぷりが、おかしいだけだろ……ウップ……!」
「……ぐがー……うぅ……バカ兄貴……」
「うふひひひ……せかいがまわってるっすー……」
皆、席を立って片付け始めた。
一部ダウンしてるのもいるけど、無理に起こすのも可哀そうだしそっとしておこう。
「ホントは朝まで飲み明かしたいところだけど、明日も色々忙しいからねー。我慢我慢」
「明日、なにかあったっけ?」
「王宮へ報告と報酬の受け取りに行くのと、次の修業相手への引継ぎだね」
ま、また修業か……。
まあ、今回の件で自分の弱さを実感したし、また鍛え直すべきってのは分かっているけど。
「カジカワ君たちも次の修業の先生と会ってみない? きっと驚くよー」
「ええと、どちらさまでしょうか?」
「んふふー、会ってのお楽しみー」
……アカン。アイナさんがこの顔をする時は絶対ロクでもない時だ。
いったい、どんな人なのやら。ああ、ホントに先行き不安だわー……。
お読みいただきありがとうございます。
>料理おつかれさん。厨房でその量の仕事量を一人でこなすの死ねるから――
なお、料理スキルを持っている人材が近場にいないので基本ワンオペでやるしかないという。地獄かな?
黒竜は相手をきっちり全滅させているのでご安心を。……そのせいで、昂りすぎて暴れたりないようですが。
>段々、カジカワの料理スキルがすごいことになってる―――
料理スキル(スキルがあるとは言ってない)は毎日料理を作っているうちに嫌でも上がっていくようで。
ラディア君は自棄になって捨て身紛いで魔族に挑んでいるのをレイナに助けられていたり。描かれていませんが。
戦いが終わってもショボンとしているのを見かねて引きずられて現在に至ります。
>カジカワ、何故に手伝って貰わなかった―――
お客に手伝いをさせるのは気がひけたようで。
アイザワ君の今後については後のお話にて。
>この小説は児童の飲酒を推奨しています―――
してないしてない(;´Д`)
日本じゃお酒は二十歳になってから。未成年の飲酒喫煙ダメゼッタイ。
>ヒヨコが親の肉食って進化!(ピカー!目がー!)
なお結局食べさせてもらえなくてお怒りの様子。
>鬼先生とアルマの両親、どちらが強いですか?―――
単騎なら鬼先生。コンビでようやく互角といった具合ですね。
コーラに関しては壊してしまった盾のお詫びに一樽ほど渡した模様。
>勇者はレベル41の時とHP・MP・SP共に最大値変化なしかー
あばばばば(;´Д`)
修正しておきました。申し訳ない……。




