晩餐会①
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はい、どうも。救助活動を終えてようやく宿に帰ってきました俺です。
現在、新たな戦場にて手を動かしておりますが、ある意味白魔族戦以上に苦戦しております。
そう、キッチンという名の戦場である。
うぉぉおああああ!!
忙しい! とにかく量と種類を作らにゃならんから忙しすぎるぞ!
下手にリクエストなんか聞いたもんだから、とんでもない数の料理を作るハメに。どうしてこうなった。
アルマは俺の料理ならなんでもいいとのこと。普段だったら困るところだが今日ばかりは助かった。
レイナは肉料理。まあいつも通りだな。適当に作ればよろし。
ヒヨ子はカニの塩茹で。気に入ったのかあれ。
ここまで身内のリク。ここまでなら楽勝なんだがな。
問題はお客のリクエストのほうだ。
勇者君はトンカツ。男の子だねぇ。トンカツっていうかシシカツだけど、ラッシュボアとジェットボアの肉を使って食べ比べできるようにしよう。
レヴィアリアちゃんはカレー。作り置きがあるからそれで対応可能。飯にかけるドロドロのカレーが好きってことは、勇者君もスキル無しで料理できるみたいだな。
オリヴィエールちゃんは魚料理。何気に難しい注文を…。魚のホイル焼きもといバターコンソメ包み焼きでも作るかな。
アイナさんはカラアゲ。ロリマスから特にこれが美味しいと聞かされていたから食べてみたいとか。……期待を裏切るのもなんだし、プラチナムコッコの肉でも使うか。ヒヨ子が食べないように注意しないと。
で、これで終わりじゃないという恐怖。
一緒に戦ってくれていた人たちもさらに数名混じっていたりする。
声をかけたら二つ返事でついてきてくれたけど、今思うと軽率だったかなー……。
まずコワマス。スープの類がいいと言っていて、できれば変わった味のものがいいと言っていたけど、メニューに相談してみて珍しいというから味噌汁、というか豚汁に。……大丈夫かな。
次にヒューラさん。酒のつまみになるものがほしいとのことでエビマヨに決定。濃い目の味に作っておこう。
一緒にいたガザンギナンドさんは麺類。ラーメンでも作ってみようかな。……口に合うかな?
そしてなんかしょぼくれた様子で座り込んでるラディア君。
なんか暗い顔して落ち込んでいたのをレイナが引き摺って半ば無理やり連れてきたらしい。どしたの? なんかあった?
まあいいや。この子はまたオムライスが食べたいらしい。気に入ってくれたようで嬉しい限り。
はい。以上が全員のリクエストになります。
…。
はいじゃないが。
クッソ忙しいわ! 並行して複数の料理を作らないと何時間かかるか分からんぞ!
火にかける時間とかはメニュー頼りにして、魔力操作で簡単な工程は同時進行でやるしかねぇ!
揚げ物はまとめて揚げられるように下処理を一緒にしたりとか、とにかく時短を意識しないと深夜になっちまう!
うおおおぉぉぉぉおお!! 唸れ俺の腕、筋肉痛に負けるな! てか外付けHPって筋肉痛のダメージには効果ないのかよ! どういう仕様だ!
……で、2時間半近くに及ぶ料理という名の激闘の末にようやく準備が整いました。
時間がかかってもアイテム画面があるから、最初に作った料理が冷めたりすることはないけど、とにかく疲れた。白魔族戦の軽く3倍は疲れた。
もう皿を分ける余裕なんか無いので、バイキング方式にして各自適当にとってもらうことにしようそうしよう。
「お、お待たせしました……準備が整いましたので、皆さまこちらの部屋へどうぞ……」
「ヒカル、大丈夫……?」
「今までで一番疲れた顔してるっすねー」
『ピィ……』
そりゃ疲れるわ。単に忙しいだけじゃなくて、お客を待たせているプレッシャーが個人的に一番きつかった。
もう外は真っ暗になってるな。いま夜の8時半くらいか? ちょっと遅くなっちまったなー。
四人用の部屋のベッドをアイテム画面へ入れスペースを空けてから、テーブルを引っ張りこんで料理を並べてようやく準備完了。
俺含めて総人数11名+1羽の大所帯。なにこの状況。殺す気か、俺を過労死させる気か。
もう二度とこんな大人数相手に給仕係なんかやらんぞ!
「お、おおう、ホントに全員のリクエストに応えおったよこの人。すげーわーはははー」
「梶川さん、リクエストする側が言うのもアレだけど、あんまり無理しないほうが……」
「だ、大丈夫だ。まだご飯を食べるくらいの気力は残ってるから……」
「残ってるもなにも、気力はご飯を食べて回復させるものっすよー」
いや、ステータスの気力じゃなくて精神的な話でね?
正直、今すぐベッドで寝たいくらいに疲れてるが、空腹のままじゃよく眠れそうにないし、つべこべ言わずに食べてしまおう。
「では、皆さま本日はお疲れ様でした。拙い腕で拵えたものですが、可能な限り美味しくなるよう作りましたので、お口に合う限りは存分にお召し上がりくださいませ」
「ではー、がっしょー! いっただっきまーす!!」
「「「いただきます!」」」
俺の簡単な挨拶が終わった直後、アイナさんが痺れを切らしたように食い気味に合掌をした。
……しっかし、こうしてみるとすごい顔ぶれだな。勇者一行にSランク冒険者、武術大会上級職優勝者、準優勝者。濃すぎるわ。
「ああ、トンカツ食うのホント久しぶりだわー。ソースも某有名メーカーの味っぽくてなんだか懐かしい……」
「ネオラ君、なにも涙ぐまなくても、ってこの一口フライドチキンうめぇー! なにこれ超ウメー!」
「騒ぐな。静かに食え」
「いやいや、無礼講ぶれーこーはははー」
カラアゲを食べながら騒ぐアイナさんをコワマスが諫める。
そのコワマスは料理を黙々と、だがかなりのハイペースで食べ続けている。よっぽどお腹空いてたのかな……。
あとヒヨ子、だからお前は食うな。それお前の母親だっつってんだろ。……目の前に親の調理済みの姿見せるとか、なんだか自分が鬼畜外道の類に思えてきたわー……。
「これ本当にアンタが作ったの? とても美味しいけど、あの化け物じみた暴れっぷりとのギャップが酷いんだけど……」
「このお魚、とってもジューシーで口の中で解けていくような食感がたまりませんね……!」
「んん、相変わらずカジカワのメシは美味いね。酒もガンガン進むってもんよ!」
「むぅ、このスープパスタみたいなヤツ、酒のシメによさそうだな」
ちょっと困惑したような顔でカレーや魚の包み焼きを食べる勇者ハーレム。……俺、洗脳中になにやってたんだ?
ヒューラさんは相変わらずの酒豪っぷりで、料理をつまむたびにエールやら火酒やら琥珀色のお酒やら次々とジョッキを空にしていく。チャンポンは悪酔いするぞ。
隣に座っているガザンギナンドさんも負けじと豪快に飲み食いしている。ただ、ラーメンを食べる時にフォークでクルクル巻き取りながら食べるのはシュールすぎると思う。
「ライザちゃんすごいはやさで食べてるねー。もっと味わって食べなよー」
「これでも味を楽しみながら食べている。ただまだ仕事が残っているから急いでいるだけだ」
「まだ仕事するのー? もう今日は休みなよー」
「そうはいかん。明日になれば、今回の騒ぎの説明報告を王宮にしたり、今後の対応を相談したり、ランドライナムへ帰る足の予約もしなければならんからな」
「うへぇ、めんどくさそー」
「お前たちも、明日には事情の説明をする必要があるだろう。今日は早めに休んでおいたほうがいいぞ。……馳走になった。スープ、美味かったぞ」
この後も仕事するのかこの人は。過労死するなよ。
あ、もう行くんですか? ならお土産にデザートどうぞー。お疲れー。
「ところで、さっきからカジカワが飲んでるのはエールかい? 随分黒いね。アタシにも一杯くれよ」
「ヒューラさん飲み過ぎですよ。あとコレはエールじゃなくてコーラっていう炭酸ジュースです。お酒じゃありませんよ」
「え、コーラあるの!? オレも! オレも飲む!」
「ちょ、ちょっとどうしたのネオラ? 飲むって、あの真っ黒なヤツを? 大丈夫なの?」
「んぐ、んぐ、……けふっ、あああ~~……もう二度と飲めないと思ってたよ~~~…最高……」
「そ、そんなに美味しいんですか……?」
コーラを一気飲みして満足げな勇者君。分かるぞその気持ち。
他にもファ〇タ的なジュースとかもあるよー。
え、どこで売ってるかって? 非売品です。コーラは自作。ファ〇タは医療都市近くの魔獣森林の果実から作りました。
で、その炭酸ジュース類をチビチビと飲んでいるラディア君。
本当に元気が無いな。いったいどうした。
とか思ってたら、レイナがふらつきながら酒瓶片手にラディア君に絡んできた。……こいつの酒癖の悪さは父親譲りなのかな。
「うふひひひ~。ラディアさんどーしたんすかー? そんなしょぼくれたかおしちゃってーへへへ~」
「……ちょっとな、色々あって」
「んん~? じぶんでよければ、きくっすよ~」
「いや、いいよ。それより今はメシをいただくとするよ」
「あ、ラディアさんのまうえのてんじょーになんかはりついてるっすー」
「え?」
「すきありぃっ!!」
「がぼぁっ!!?」
レイナに不意を突かれて酒瓶を口に突っ込まれるラディア君。
アルハラはやめろ! この酔っ払い幼女にはしばらく酒は控えさせるべきだろうか……。
「な、なにすーんだー!」
「うひーひー、しけたかおしておちこんでるからげんきづけてあげようとね~」
「元気づけてって、あ、ヤバい~頭が揺れる~~~……」
すぐに顔を真っ赤にながら頭を揺らすラディア君。酔っ払いが増えた。
「……はぁ、兄貴に一泡吹かせてやろうとこんなとこまで来たのに、なんでこんなことになっちまったんだよもう………」
「あひゃひゃひゃ! なーにないてるんすかー!」
あ、この子泣き上戸だわ。悪いほう入った。
「せっかく大会で2回戦引き分けって成績を残せて軍に入る準備ができたと思ったのに話を聞いてみたら兄貴が軍を裏切っててその挙句魔族側についたとかふざけんなあのクソ兄貴は何考えてんだバカかバカなのか死ねばいいのに」
「ら、ラディア君?」
「もういいよあんな奴を連れ戻そうとしたおれがバカだった最初からあんな奴放っておけばよかったんだこれまでの苦労全部台無しだよちくしょうバカ兄貴めどうしてくれんだちくしょうちくしょうチクショウぅぅ……」
「ありゃりゃ~、ねちゃったっす~へへへ~」
ひたすら愚痴を並べた後に、泣きながらテーブルに顔を突っ伏してそのまま寝てしまった。
今、サラッと凄くヘヴィなこと言ってなかったかこの子。兄貴が魔族側についたとかなんとか。
……その兄貴に会いにここまで頑張ってきたのに、その結末がそんなんじゃそりゃ泣くわ。イキロ。
お読みいただきありがとうございます。
>今後神様とトラブルがあったら、――
神様相手に脅迫できるというワイルドカード。
ただ、その技術を広めると本当に人類どころか世界が滅びかねないという諸刃の剣だったり。もちろんアルマやレイナも含めて。
>闇堕ちねぇ…不安な芽は早めに潰すっていうのが―――
今見返すと確かに悪落ちフラグにしか見えなくて草。
……死ぬほどキツい目には合う予定ですが、まだ死ぬ予定はありません。
>カジカワがめっさ落ち込んでるのは――
はい。内心罪悪感でいっぱいですね。
アルマがすぐに許してくれなかったら塞ぎこんでいたかもしれません。
>次回、食事回(予定)―――
味噌は一応ちょっとだけ出てますね。納豆は未登場。
ちなみに主人公は納豆平気ですが、勇者君はダメな模様。
>娘の胸に手を突っ込んで傷物にした訳だからなぁ…―――
字面が酷過ぎて草。いや比喩無しの事実なんですが。
……ご両親との再開が楽しみですね。愉悦愉悦。




