対白魔族戦
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右の拳が 大槌の柄で防いで 左手から伸魔拳 魔力パイルで迎撃 右蹴り 肘で防いで 反撃 大槌爆破 避けられ 退きながら魔法が 魔力クッションで弾く―――
白魔族との殺し合い開始から2分経過。
こんな目まぐるしい攻防をずっと続けているが、今のところお互い決定打を入れられないままだ。
「ふむ、見えない『何か』に攻撃が弾かれるな。それはスキルか? それとも装備に付呪でも施してあるのか?」
「自分で考えろ。死ね」
「その大槌も凄まじい重量だな。そのうえ爆発を推進力に変えているようだが、よくそんな物を扱えるものだ」
「欲しいか? やらんぞ。死ね」
「さらに攻撃魔法をも弾くとは。……貴公はなんとも戦い辛い」
「さっきからベラベラうるさい。舌噛むぞ。そのまま噛み切って死ね」
「そしてなによりその殺意。まるで人類に対する我らの心を映す鏡の如しだな」
「一緒にするな。死ね。死ね。死ね」
いちいち答えるのも面倒だけど、会話する余裕もないとか思われるのも癪だから適当に相づちを打っている。
死ね死ね言いまくってて、なんか我ながら悪落ちした漫画のキャラみたいな物言いだが、中身は残念思考のおっさん予備軍のまんまです。
ただ、決してコイツに心を許したわけではないという意志を込めておきたくて、最後に二文字を追加しておこうと思っただけで。ダァーイ。
別に魔族になにか恨みがあるわけじゃないし、種族が違うからとかそういった理由で差別しているわけでもない。
俺が魔族に殺意を抱いているのは、ただ殺られる前に殺るためだ。自分たちに危害が及ぶ前に駆除する。ただそんだけ。
ヴィンフィートでの体験が俺の中でトラウマになっている部分もあるんだと思う。
俺自身、レイナが助けてくれなかったら真っ赤なトマトみたいに頭からグシャァしてただろうし。
再封印に失敗していたら、アルマもレイナも住民も食い殺されていただろうしな。
もしも、王都が魔族に蹂躙されたら、そこで生活している人たちはどうなる?
勇者でも正義の味方でもない俺が、そんなことまで心配するのはおこがましいかもしれないが。
漫画やゲームなんかでモブが殺されてるのを見ても「うわ、かわいそ」ぐらいにしか思わないが、ここはゲームの世界じゃない。紛れもない現実だ。
街中を散歩しているだけでも様々な情報が耳に入ってくる。
たとえば王都の入り口近くにあるパン屋のおばちゃんのところに、もう数日後に孫が会いにやってくるとか。
闘技場からちょっと離れた鍛冶屋のおっさんの嫁さん、お腹が大きくなってきてもうすぐおめでたなんじゃないかとか。
あるいは宿屋の近所をよく走り回ってるガキンチョどもは、明日遊ぶ約束をしていてみんな楽しみにしている、とかな。
この世界にモブなんかいない。みんな生きてる。当たり前のことだ。
その人々の生活を、「ただ殺したいから」なんて理由で壊そうとしている奴らに殺意が湧いてくるのは、そんなにおかしなことだろうか。
まあいいや。これ以上余計なこと考えてる余裕なさそうだし、さっさと殺そう。
気力操作で能力値を瞬間的に強化。
3000近くまで能力値を上げて、一気に畳みかける。
【真魔解放】とかいう技能を使う前に殺るのがベストだが、そううまくいくかな。
「はぁぁああっ……!!」
「っ! 重みが増して、速く……!?」
攻撃を防いだ白魔族が目を見開いて驚いている。
単純計算で、今の俺はコイツの倍近い能力値だ。急にそんな超強化されたらそりゃビックリするわな。
強化された膂力で、白魔族の顔面を思いっきりぶん殴る。
真正面からの一撃を防ぎもせずにまともに喰らう。反応できていないようだ。
「ぐおぉっ!?」
吹っ飛んでいく白魔族を追いかけ、頭を掴み地面に叩きつける。
さらに魔力装甲で拘束し、身動きできない状態にしてから
爆裂大槌を振りかぶり、多量の魔力を込めて爆発させて、叩き潰す!
グシャリ と肉も骨も内臓も叩き潰す不快な感触を予感していたが、違う。
硬質な手応え。
腕が痺れる。
この大槌の槌頭よりもさらに硬いものを殴った感触。
白魔族の周りに光る半透明の壁。SFのバリアーのようなものが覆っているのが見えた。
……結界魔法ってやつか? クッソ硬いんですけど。
≪個人用の結界魔法【フォース・プロテクト】のスクロールを紐解いた模様。スクロールを中心に防御力10000相当の障壁を10秒間ほど発生させる≫
とうとう五ケタきちゃったか。インフレが激しすぎてついていけないですハイ。
10秒かー。……まずったかなこりゃ。
≪魔族『リーグヴェイン』が、結界内にて【真魔解放】を発動したのを確認。HP・MP・SPを除く全ての能力値が倍増≫
あーやっぱりねー。そりゃ発動しますよねー。出し惜しみしてる場合じゃないですもんねー。
……ちなみにその【真魔解放】ってやつの制限時間とか限定条件とかMP・SPの消費するペースとかは?
≪24時間に一度。効果時間は2時間。MP・SPともに消費は0≫
なんだそのクソチート技能は! 反則だ反則! ナーフはよ!
こちとら能力値を3000まで上昇させるのにほとんどのSPを消費するうえに、効果時間は5~10分程度なんやぞ! 向こうのほうが完全に上位互換じゃないですかーやだー!
とか心の中でクレームつけてる間に結界が砕け、中から白魔族が顔を見せた。
白魔族の目の下に、涙のような一筋の文様が見える、あれが発動してますよーって印かな。
……おおう。さっきまでとはまるで違う。能力値だけなら鬼先生に迫るかも。
「ふうぅ………貴公を侮っていた。よもや、これほどの力を隠していたとは」
隠してません。無理して強化してるだけです。
だからそんな本気出さないでくださいホントやめて。はよ死んで。
「さて、こうなった以上あまり時間をかけられない。済まないが、疾く死んでくれたまえ」
そう言った直後、白魔族が溶けて伸びたように、残像を残しながら超スピードで殴りかかってきた。
速い。
速すぎる。
こんな速い攻撃、防げるはずが――
「しっ!!」
「ほう、防ぐか……!」
当たり前だ! こちとらさらに速い鬼先生としょっちゅう組手しとんじゃい!
この程度の速さなら、10合は殴り合える自信がある!
つまりあんまり連続で防ぐのは無理! やめてお願い!
内心情けない泣き言を言いながら、連撃をかましてくる白魔族の攻撃を必死に捌く。
一撃攻撃を防ぐごとにゴリゴリと気力と生命力が削られていくのが分かる。
鬼先生よりはマシとはいえ、それでも基本格上の相手には変わりないわけで、このままじゃ根負けする。
アイテム画面から直接口の中にポーションを流し込んで補給しているが、これも残りが少ない。
大部分をアルマたちに渡しちまったからな。手持ちのポーションじゃ焼け石に水だ。
こうなったら、さらに瞬間的に能力値を爆上げして超短期戦に賭けるか……?
あ、ヤバい。そんな余裕ない。気力がそろそろ尽きる。
魔力を気力に変換、ああ、手が弾かれて隙が、ダメだ間に合わな――
「消し飛べ」
魔族が俺のどてっ腹に拳を打ち込み、さらに【爆砕拳】で爆発させる。
生命力が一気にゼロになり、衝撃をモロに受けた腹に鈍痛が走る。
「ガッ……!!」
「まだ息があるか。……ならば、トドメといこう」
腹を押さえて蹲る俺を蹴り飛ばし、追い打ちと言わんばかりに攻撃魔法を放ってくる。
当たったところが焼けてる焦げてる炭化してる痛い熱い痛い痛いいたいいたいいたい
「では、さらばだ」
別れの言葉を言った直後、直径20mはあるんじゃないかという大火球を放ってきた。
避けようにも、身体が熱いわ痛いわでまともに動かない。
魔力操作、いやこんなサイズと威力の魔法弾けるわけがない。
無理。今のままじゃ勝てん。
……ちょっと、甘く見過ぎていた。
大型の火球が炸裂する音と同時に、その場から俺の身体は消え去った。
お読みいただきありがとうございます。
>今回のカジカワさん最高やぜ、色々と
なお今回ボコボコにされた模様。
>まさかの仮面復活w――
ステータス隠蔽効果はないのですが、正体を隠すための変装グッズに購入していたようで。
今の主人公は闘技場の魔獣を討伐してさらにレベルが上がっているので、蛮勇者を獲得するには鬼先生クラスの魔獣を倒すしかないという。絶対無理ですねハイ。
>新しい仮面、前のはひよ子の親が打ち砕いたのは読み返して思い出したけど――
書かれていませんが裏で購入していたようで。
(´・ω・`)死ぬがよい 駄目だギャグにしかならんw
>ヒカルはそのうち、いやもうすでに? 魔族絶対殺すマンになりそう。――
もうほぼほぼなってますね。魔族殺すべし、慈悲はない。ハイクを詠め。
>ふぉぉ…!珍しくヒカルがまともなカッコいいこと言って――
戦闘でハイになっているのと魔族に対する敵意が重なってあんな説教臭いセリフを言ってしまったようで。
多分、戦闘後に思い出して悶えるやつですねコレは。
>命を大事にしない…外道戦記…?――
はい。いいセリフなのに二文字加えるだけで台無しに。
ステータスが倍化した途端劣勢になるのはさすが幹部と言うべきか。
>う〜む、そろそろスッキリさせてもらう為に、カジカワ無双が見たいなぁ〜!
もうしばらくお待ちを。申し訳ない(;´Д`)
>おお!!貴重な練習台が向こうから来てくれた感があるな―――
魔族がかませ扱いされまくってて草。
まあ商業都市や工業都市の魔族をあっさり殺したせいかもしれませんが。




