ただの人間
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今回始めはコワマス視点です。
魔族の軍との真正面からの衝突。
その引き金が、白い魔族の「殲滅せよ」の一言によって引かれた直後。
「!?」
「……なんだ、貴様らは」
魔族軍と人類連合軍の間に、二人の人影が同時に現れた。
眉を顰めながら、白い魔族が人影に問いかける。
「なんだかんだと聞かれたら」
「答えてあげるが世の………ちょっと待てなんでアンタこのネタ知って――」
一人は少女と見紛うほどの金髪の美男子。
勇者ネオライフ。意識を取り戻したのか。……唇が赤いが、口紅? いや腫れているだけか? なにがあった。
「…まあいいや、それよりアンタ後で覚えとけよ。まだ口の中が痛辛くてつらいんだからな」
「なかなか起きなかったから、緊急手段をとらせてもらったまでのことだ。それとも殺して再召喚されたほうがよかったか?」
「こんな痛い目見るよりは、そっちのほうがよかったかもな……」
「ならアイツェリーナ氏が迷う必要はなかったわけか。何度も君を殺すべきか悩んでいたようだったぞ」
「こえぇなオイ!? いや、修業で何度か殺されたことあるけどさ!」
もう一人は、フードを目深に被ったうえに仮面を着けて、顔を隠している。
……狩猟祭の時とは仮面のデザインが違うな。コレクションでもしているのか? こいつのセンスが分からん。
勇者との会話を済ませると、アルマティナとレイナミウレのほうへ向かっていき、なにかを手渡している。
「ゆ、勇者だ……! 助かった……!」
「今までどこに居たんだ?」
「てか、隣の仮面は誰だ……?」
近くにいる冒険者や王国軍の兵士たちが二人の姿を見て声を漏らす。
それを聞いた魔族軍の幹部が、眉を顰め口を開く。
「なるほど、貴公が今代の勇者か。随分とひ弱そうに見えるがまだ召喚されて半年足らずだ。無理もない」
「……そりゃ、テメェと比べりゃほとんどの相手はひ弱に見えるだろうよ」
冷や汗をかき、苦笑いを浮かべながら勇者が言葉を返す。
勇者やカジカワは相手のステータスを確認することができるらしいが、目の前の白い魔族はいったいどれほどの強さなのか。
「勇者は、あらゆるものを鑑定スキルのように見極めることができるらしいな。当然、私のステータスもだ」
「……おう、見て今ちょっと後悔してるとこだ」
「その私が、この場にいる、いやこの都市にいる人間を今から皆殺しにすると言ったら、止められるか?」
「……」
「無理だろう? 生き残るのは死に戻りの恩恵にあやかれる勇者とその仲間のみ、それ以外は死ぬ。一人残らずな」
白い魔族が、煽るでも馬鹿にするでもなく、ただ淡々と言葉を重ねる。
その言葉に、周りの者たちが不安の表情を浮かべる。
勇者がいても、この絶望的な力の差は埋められないのではないのかと。
「後ろの者たちは貴公に随分と期待を寄せているようだが、それが現実だ。貴公は無力。誰も救えぬ、誰も倒せぬ。魔王様より遥かに劣る私さえもな」
「それでも、オレが戦わなくてもいい理由にはならない」
「無意味と知りながら挑むか。それもまたよし」
白い魔族がこちらに手をかざすと、魔族たちが臨戦態勢に入った。
「では、殲滅を始めよう。……全員、殺せ」
白い魔族が魔族の軍に指示を出した瞬間
響く轟音と震動。
魔族の軍のいたるところで、爆発が起きた。
「うがあぁぁああっ!!?」
「な、なにが起きたぁっ!?」
ある者は爆炎に飲まれ、ある者は瞬間的に全身が凍り付き、またある者は雷に打たれ、倒れた。
「……えげつねぇなぁ」
顔を引きつらせながら、勇者が呟いた。
それを聞いた白い魔族が、周りの惨状を見ながら顔を顰めている。
「……なにをした」
「別にぃ? ただ時間稼ぎをしようとしただけだけど、テメェが勝手にペラペラ話すもんだからその必要もなかったし、オレはホントになにもしてねぇよ」
時間稼ぎ…? なんの話だ……?
「ふぉおお!? すっごいレベルアップしちゃったっす!」
「……Lv43か。やはり、魔族は倒した際に獲得できる経験値が多いな」
「うわぁ、魔族たち散り散りじゃないっすか」
「ジュリアンもいい仕事をするな。まさかLv50を超える魔族すら殺せる威力に仕上がってるとは」
「あんな危ないもの、注文してたの……?」
「名付けるなら魔石地雷ってとこか。思った以上にいい成果を出してくれたな」
後ろのほうで、カジカワたちの声が聞こえた。
……なるほど、例の【影潜り】とかいうスキル技能を利用して、魔族の足元になにか仕掛けたのか。
今の爆発で魔族軍の3割近くが絶命し、残りも決して軽くないダメージを負っている。
これなら、疲弊しきった我々でも戦えなくはないだろう。
目の前の白い魔族さえなんとかできれば、の話だが。
「ふむ、こちら側の数を大幅に減らされてしまったな。これは困った」
「白々しいこと言ってんじゃねぇ。なんの問題もないって顔に書いてあるぞ」
「困っているのは事実だ。いや、実に厄介なことをしてくれた」
気だるそうに溜息を吐きながら、白い魔族が言葉を重ねる。
「まあいい。元々直々に皆殺しにするつもりだったのだから、今更手間が増えようとも結果は変わらない」
そう言いながら、白い魔族が拳を振り上げ
「さて、反撃といこうか」
地面に叩きつけた。
先ほど魔族を襲った爆発がまるで花火に思えるほどの衝撃。
地面にまるで隕石でも落ちたかのようなクレーターができて、粉塵のキノコ雲が上がった。
なんという、力だ……!!
その衝撃に巻き込まれて、敵味方問わず吹き飛ばされていく。
私も、なすすべなく飛ばされて―――――
~~~~~勇者視点~~~~~
「くそ、マジかよ……!」
なんて、破壊力だ……!
今のは格闘術スキル技能【爆砕拳】か。
一個人の、武器を使わない近接戦闘用スキル技能でこの破壊力。
Lv82ってのは、伊達じゃねぇみてぇだな……!
魔族:リーグヴェイン
Lv82
状態:正常
【能力値】
HP(生命力) :4277/4277
MP(魔力) :932/987
SP(スタミナ):781/789
STR(筋力) :1671
ATK(攻撃力):1671
DEF(防御力):1683(+690)
AGI(素早さ):1411
INT(知能) :1430(+347)
DEX(器用さ):1210
PER(感知) :846
RES(抵抗値):1034
LUK(幸運値):213
【スキル】
魔族Lv9 攻撃魔法Lv10 上級攻撃魔法Lv7 補助魔法Lv8 拳法Lv10 格闘術Lv8 体術Lv10 極体術Lv7
【マスタースキル】
達人の拳
マギ・リジェネレイション
オーラ・ミティゲイション
装備
魔鋼絹のローブ
DEF+690
魔人の指輪
INT+347
周りにいた冒険者や王国軍の兵士たちも軒並み吹き飛ばされてしまった。
無事なのは、オレくらいなもんか。
「ほう、貴公のみ耐えたか。さすがは勇者と言うべきか」
……コイツにとって、今の一撃はほんの挨拶代わりだろう。野菜人のハゲじゃあるまいし。
≪ま、まずいです。通常状態でこれだけ強かったら、真魔解放をしたら……!≫
え、なに? 真魔? なにその第二形態がありますみたいな言い方は……。
「だが、それだけだ。しばし寝ているがいい。目覚めた時には、もう全てが終わっている」
そう聞こえた時には、気が付いたら目の前に真っ白な拳が―――――
「テメェが寝てろ。むしろ死ね」
「っ!?」
……拳がオレの顔にめり込む前に、さっきの仮面男が魔族に接近していた。
その手には、デカい大槌。
「オラァッ!!」
「ぐっ……!!」
なんか爆発しながら振るわれた大槌を、辛うじてガードする白魔族。
ヒットした瞬間、とんでもない衝撃が爆音となって空気に伝わってきた。
……闘技場で目覚めた時から気になってたけど、この仮面なにもんだ?
ステータスを見ようにもなぜか表示されないし、見た目が怪しすぎる。
アイナさん曰く心強い味方らしいが、いったい誰なんだ……?
「……ふむ、他の者よりは幾分かマシなようだが、貴公は?」
「死ね」
白魔族の言葉を無視して、再び大槌を振るう仮面。
……あんなデカい武器をなんて速さで振り回してんだコイツは。
それを素手でいなし、躱し、防ぐ白魔族も相当ヤバいが。
「なにボーっと見てる! さっさと手伝うか、他の人間を助けに行け!!」
唖然としながら見ていたら、怒鳴られた。
こ、こえぇ……。アイナさんがキレた時よりも怖いかも……。
≪ネオラさん、ここは彼に任せましょう! 一緒に戦おうにも足手纏いになるだけです!≫
い、いや、あれくらいのステータスなら、シャイニングタイガーと大差ないはずだ。
せめて盾になるくらいなら……。
≪Lv80を超える魔族には【真魔解放】という、能力値を倍化させる技能があるんです! それを使われたら今のネオラさんでは紙屑みたいにあっという間に引き裂かれて殺されるだけです! ここは退いて、他の人たちを回復魔法や薬を使って救助するべきですよ!≫
……盾にすら、なれねぇのかオレは。
なら、せめてこれくらいは……!
「【スピードアップ】!」
「!」
仮面の男に補助魔法をかけて、素早さを強化する。
補助魔法で強化できる能力値は一項目だけ。
二つ以上強化するには上級かマスタースキルでもなければ不可能。
「すまん、オレにできるのはこれくらいだ! オレはほかの人たちを救助しにいく! ここは任せてもいいか!?」
「ああ、任された。支援、感謝する」
くっそ、情けない! カッコ悪い! なにが勇者だ!
自分より弱い相手にばかり粋がって、強い相手からは逃げて! オレは、転生前となにも変わってないじゃねぇか!
やっぱりオレは、勇者なんか向いてない。オレは、ただの人間なんだよ……!
「ふむ、勇者は退くか」
「テメェの相手は俺で充分だとよ」
「ほざけ、ただの脆弱な人間如きが」
「ただの人間を舐めるな! お前らから見て弱くてもみんな精一杯生きてる! お前たちが殺そうとしている人間一人一人の人生を、軽く見るなっ!! 命を大切にしない奴なんか大嫌いだ! 死ね!!」
……ただの人間でも、精一杯、か。
その場のノリで言ったようなセリフだけど、今のオレにとってはそんな言葉でも充分励みになる言葉だな。
オレも、オレにできることをやろう。……なんか最後にどっかで聞いたような矛盾したフレーズが聞こえた気がしたけど。
お読みいただきありがとうございます。
>白い魔族さんどんくらい強いんすかね?――
魔法近接両方こなす万能タイプですね。
どのくらい強いのかは、まあこれからということで。
>ついに魔族の登場か!――
これで主人公なにもしなかったら怒られるだろうなぁ……。
>魔王軍の幹部クラスは初めて出たな…――
単に魔獣の処理に手間取っていただけだったり。
しかも何気に一匹残したのをアイナさんに押し付けてアルマたちを助けに行く身勝手ぶり。アイナさんファイトー。
>アイナ「千年殺しって何!?」
男の娘に千年殺しは(アカン) 気付け薬の案を採用。
>これで全部ヒカルの手のひらの上だったら笑う――
さすがにそこまで主人公頭よくないです。
それでもできる限りのことはしようと努めてはいるようですが。
>殲滅せよ→OK!(魔人の中心にハンマーズドン)――
白魔族がその役やったので、腹いせにそいつにハンマーズドンすることに。
>「殲滅せよ」ってあんた、この場には神様すら把握してなかった規格外のバグが――
そのバグと一騎打ちすることになった白魔族の運命やいかに。
メニューの共通点は『自分の担当となった者のサポート』ですので、世界を救う者にも滅ぼそうとする者にも善悪関係なく力を貸してしまうという、ある意味致命的な欠陥があったりするところですね。




