「殲滅せよ」
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今回始めはアルマ視点です。
「【パワーダウン】! 【スピードダウン】! 【スピードアップ】! 【シールドダウン】!」
オリヴィエールが補助魔法で魔獣の能力値を減少させて、味方の能力値を上昇させる。
スピード型の相手なら素早さを下げて、硬そうな相手なら防御力を下げる。
相手の長所を鈍らせたうえで味方の短所を補いつつ、あるいは長所をさらに活かしつつ立ち回っている。
「【グレイブ・ランス】ッ!! オリヴィエ、今よ!」
「【ブラックボム】!!」
そして、敵の動きをみながらレヴィアリアがマスタースキルを使って動きを制限して、オリヴィエールが攻撃するチャンスを作る。
オリヴィエールが魔法を放ち、一気に複数の魔獣を仕留めた。
やっぱり、この二人は一対一で戦うよりもパーティで連携しながら戦うことのほうが慣れているようだ。
大会の時よりもずっとスムーズな動きで戦っていて、レベルが一回り以上も格上の魔獣の集団相手でも問題なく戦えている。
魔力も気力も操作できないのに、ここまで戦えるのは感心するしかない。
『ギギュァァァアア!!』
「や、やべぇ! この鳥、攻撃魔法を使いやがるぞ!」
「上空から魔法で爆撃してやがる! このままじゃ街が焼き尽くされるぞぉ!!」
怪鳥の群れが空から魔法を放ってきた。
まずい、上空への攻撃は手段が限られる。そのうえ向こうは攻撃し放題。
こちらも攻撃魔法や遠当てで攻撃するしかないけど、この距離じゃ当てるのは難しいかも。
……?
『ギャアアァアアアアッ!!?』
「うるせぇよクソ鳥ども。黙って死んでろゴミが」
アランシアンが、空を駆けて鳥型の魔獣を次々と斬り落としていくのが見えた。
……まさか【天駆】を使えるとは思わなかった。
『キギギャアアアッ!!』
「効かねぇよ。そんなショボい火の粉じゃロウソクも灯せねぇぞ」
『ビュイゥゥァァァアッ!! ガペッ!?』
「慣れない肉弾戦法で俺とやり合えると思ってんのか? いいから死ね」
アランシアンに魔法で集中攻撃してきたけど、彼には魔法をかき消すスキルがあるから効果がない。
近接戦に切り替えて攻撃してくる魔獣もいたけど、アランシアンの剣技には敵わずすぐに切り倒されていく。
敵に回すと厄介だけど、味方だと頼りになる。
『ヴァァァァァアアッ!!』
「アルマさん、デカいのがこっちにくるっす!」
……いけない、手が止まっていた。
レイナが指さしたほうから、ダンジョンの最深部で見たワームによく似た魔獣が4、5体こちらに向かっている。
魔力の量からして、多分同格くらいかな。
あの時は一体相手でも死にそうになっていたけど、私もあの時よりは強くなっている。
「【大地剣】」
剣身を魔法剣で巨大化させて、ワームたちに向けてから、マスタースキルを発動させる。
「【剣山刺突】!」
『『『ピギャアアァァアアアァァァァァ………!!!』』』
マスタースキル【剣山刺突】は、剣による刺突攻撃の際に魔力で無数の剣先を発生させて相手を蜂の巣のように穴だらけにするスキル。
大地剣による刺突攻撃。それだけでも並の魔獣なら絶命させるには充分な威力があるのに、それが何十発も同時に叩き込まれたらこのレベルの魔獣でもひとたまりもない。
魔力の消費が少し激しいけど、レベルが上がって全回復したので問題なし。
『ヴぃ、ヴァアアアッ…!!』
いけない、一匹逃した。
他のところへ逃げようとしてる。すぐに倒さないと……!
『コケェッ!!』
『ヴァグッ!!?』
逃走を始めたワームの腹を、ヒヨコが強化した【魔爪・疾風】で蹴り上げた。
圧倒的なサイズ差があるはずなのにものともせずに蹴り上げるところは、ちょっとシュールにも見える。
「チャージ完了っす! てりゃぁぁあっ!!」
『ギャヴァァアッ!!?』
レイナの装備している短剣は雷属性の攻撃を吸収して、次の一撃にその分の攻撃力を上乗せする特性がある。
一度に吸収できる量は短剣の攻撃力分までだが、複数回に分けて吸収させれば際限なく攻撃力を上昇させることができる。
自分の魔力を電気に変換して、それを短剣に吸収させて攻撃力を強化させている。
【稲光乃剣】さながらの雷を纏った短剣を構えて伸魔刃を発動し、料理人が魚を下ろすかのようにワームを容易く縦に切り裂いた。
「レベルアップっすー!」
『コケェー!』
ワームを倒した後にハイタッチするレイナとヒヨコ。
この二人、……一人と一羽? もレヴィアリアたちに負けないくらい、いいコンビ。
今のところ問題なく魔獣を倒せているけど、このままじゃ駄目。
魔力と生命力はレベルアップで回復できるけど、気力はポーションが必要。それが尽きたら戦えなくなる。
その前に魔獣を殲滅しないといけない。でも、一向に数が減らない。
新しい魔獣がどこかから、補給されている? どこから?
魔力感知を使ってみると、王都内にいくつか不自然な魔力の動きがあるところが2ヶ所あるのが感じとれた。
そこから次々と新しい魔獣が湧き出ているみたいだ。
多分、そこにあるナニカを止めれば、魔獣の発生を止められるんだと思う。
「レイナ、このまま魔獣を倒し続けていても埒があかない。魔獣が発生している場所が二つあるみたいだから、そこに行って止めないと」
「んー……確かに二つばかし変な魔力を感じるっすね」
「レイナの影潜りで一気に接近して止めよう」
「了解っす!」
建物の影伝いに妙な魔力を感じる場所まで高速移動。
レイナの影潜りがなければ魔獣の相手をしながら移動することになっていた。
それだと目的地に着く前に力尽きていたかもしれない。レイナは本当に頼りになる。
魔獣の発生源には、奇妙な模様が描かれている石柱が地面に突き刺さっていた。
アレが魔獣を転移させているんだと思う。闘技場の中の魔獣みたいに、転移魔法でこれも送られてきたのかな。
あの石柱を壊せば、魔獣の発生も収まるのかな?
~~~~~アイナさん視点~~~~~
「147、148、149、150………おおっ?」
チマチマと魔獣を仕留めていると、徐々に魔獣の数が減っているのが分かった。
誰かが発生源を叩いてくれたのかな? ネオラ君なしでも案外やるもんだね。
発生源さえ潰したなら、あとは地道に魔獣を倒していけば解決かな。
おお、王国軍の兵士たちもようやく参戦かー。遅いよ。
後始末は軍に任せてもいいかな。
それにしても、ネオラ君ずっと寝たまんまだったね。それでいいのか勇者。
………っ!?
~~~~~コワマス視点~~~~~
「貴殿らの奮戦に感謝する! ここからは我らにお任せあれっ!!」
「殲滅せよぉぉお!!!」
「突撃ぃいいいっ!!!」
王国軍の兵士たちが、鬨の声を上げながら魔獣たちに突っ込んでいく。
ようやくか。まったく、もう少し早く動いてほしいものだ。
まあ、そろそろ皆疲労が溜まってきて動きが鈍くなり始めていたから、正直助かった。
発生が収まったとはいえ、まだ相当な数の魔獣が残っている。残りは100体前後といったところか。
「アランシアン様も、どうかお下がりを! 万が一お怪我でもされては――」
「うるせぇよ、今更になって出てきやがってハイエナどもが。テメェらがもたついてる間にこいつらが魔獣を抑えてなかったら今ごろ大惨事だ。今までなにしてやがった、ああ?」
遅れてやってきた王国軍の兵士たちに、アイザワが不機嫌そうに文句を言っている。同感だ。
緊急時の初動が遅すぎる。口は悪くともアイザワのほうがよほど状況をよく見て動いていた。
軍の上層部にコイツの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。
「おおー、ようやく軍のおでましっすかー。これなら後は楽勝っすねー」
「レイナ、最後まで油断は禁物。もう魔獣は出ないだろうけど、なにが起こるか分からない」
アルマティナとレイナミウレが兵士たちを眺めているのが見えた。
魔獣の発生源を潰したのはこの二人か。カジカワの仲間なだけあって、さすがに有能だな。
魔獣たちはみるみるうちに数を減らしている。このままならあと10分程度で殲滅できるだろう。
……魔族どもも随分回りくどい攻め方をしてきたものだ。
おそらく、大会に集まった腕に覚えのある者たちを一度に殺して人類側の戦力を削ぐつもりだったのだろうが、向こうの予想以上にこちらが強かったのだろうか。
それとも、他になにか―――――
肌が、粟立つ感覚。
身体の震えが、抑えられない。
なんだ、これは……!?
近くの地面が青白く光る。
この光る模様は、転移の魔法陣か。
魔法陣から、複数の人型のなにかが出てきた。全員でおよそ100人ほどか。
外見は人間に酷似している。
ただ、肌の色が人類のそれではない。
原色に近い赤色や青色、さらに目の白目の部分が黒い。
なにより、感じられる気配が人間よりも魔獣に近い、いやそれ以上に禍々しいものを感じる。
ようやくお出ましか、魔族ども……!
「ふん、思った以上に早く魔獣どもは片付けられたようだな」
「見たところ大した被害も出ていないようだ。役に立たん」
「まあいい、もとよりあれらは手練れどもを疲弊させるためのものだ。期待するのは酷だろう」
どうやら、魔獣を使ってこちら側を消耗させて、疲れ切っているところを本隊の魔族どもが叩くつもりだったようだ。
……まずいな。魔族どもの狙い通り、こちらの消耗は激しい。
大会の疲労に、魔獣との戦闘での魔力と気力の消耗。おそらく皆普段の半分以下のスタミナしか残っていない。
どう捌くべきか、と思考を巡らせていたその時
最後に、光る魔法陣からソレは現れた。
彩りの一切ない、真っ白な肌。
黒目に赤い瞳を妖しく煌めいている、銀髪の青年。
明らかに、この男だけ格が違うと、直感が告げている。
「ふむ、おおよそ計画通りと言ったところか」
「はっ。しかし、予想以上に早く魔獣を送り込む召喚柱が破壊されたようで、被害は軽微のようです」
「問題ない。これから一切を破壊しつくし、皆殺しにすればなにも結果は変わらん」
汗が滲む。肌寒い。身体が震える。息がうまくできない。
目の前の男から、黒竜以上のプレッシャーを感じる。
間違いない。この男は魔族の拠点長。すなわち、魔族軍の幹部だ……!
「あ……あ……!」
「ひ、ひ、ひぃぃ……!!」
絶望的な力の差を感じてか、周りから悲鳴に似た呻き声が漏れているのが聞こえる。
腰を抜かす者、逃げようとする者、あるいは、硬直して動けなくなっている者もいる。
「殲滅せよ」
白い魔族が、我々を指さしながら口を開いた。
お読みいただきありがとうございます。
>女神ちっとは仕事しろ?転生転位ガバガバでねーか。
どうしてこうなった、のかはまた後のお話にて。
>あれこれ、クマが襲ってきた直後までアイザワ君見てたから――
はい、バッチリ見られていますね。今は魔獣の殲滅作業でそれどころじゃないようですが。
勇者との邂逅はいつになりますやら。それほど遠くないうちに会うことになるかもですが。
>奇襲もせず相手に向かって呼びかけを行い――
一応、誰が監視していたのかは特定したうえで話しかけたようです。
ちょっとテンション上がりすぎてやらかした感は否めませんが。
>最後のメニューの会話は勇者側と魔王側って感じだとすると――
その場合、現状最も不利なのがカジカワだという。一度死んだら終わりですので。
>アイナさんが「目標をセンターに入れてスイッチ」状態に――
ピッチリスーツのアイナさん……アリだな。
あとフィンランドのデスムー〇ンはNG。




