閑話③ 変えてくれた、貴方
今回でアルマ視点の閑話は一旦終了。
次回から本編に戻ります。
まさかこんなにダイジェストが長くなるとは…(;´Д`)
一週間近く魔力操作の修業をして、ようやく細かい制御ができるようになってきた。
というか、6日目の修業の際にようやくコツを掴んだ、と言うべきか。
それまでは放出した魔力の止め方が上手くイメージできないから枯渇するまで放出し続けて、ヒカルに魔力を補給してもらった後に宿までおぶってもらう日々が続いた。
……周りの目が気になるけど、背に腹は代えられない。
枯渇から復活する度に魔力量がほんの少しずつだけど増えていってるから、悪いことばかりじゃないけど。
修業している私の隣で、ヒカルも自分の修業を進めている。
なんでも、剣術スキルの【魔刃】を魔力操作で再現できないか試しているけど、なかなか上手くいかないらしい。
その息抜きに魔法剣を使っているところをたまたま私に目撃されて、今に至るということか。
息抜きの仕方がおかしい気がするけど、ヒカルの感性を常識で測るのはもう諦めた。
それに、今も私の隣で、なんか剣を空中に浮かべて振り回してるし。…あれいったいどうなってるの? 魔刃の再現をしようとしてなんでああなるの?
今思うと、これが後にとんでもないことをやる前兆だったんだろう。
7日目になって、いよいよ魔法剣を実践することになった。
燃える魔力を剣の刀身に纏わせて、火花を起こして着火。
言うだけなら簡単だけど、気を抜くとすぐに纏わせている魔力が拡散してしまうからかなりの集中力がいる。
自分の魔力だから、身体の外に出てもなんとなく感じ取れるから、イメージはしやすいけど。
因みにヒカルは私の魔力を感じとって、上手く纏わせたことが分かったみたい。もしかしたら私以上に私の魔力の動きを正確に把握しているかも。
そして、いざ点火。
カチッ ボウッ と音を立てた後、私の手には刀身が燃えている剣が握られていた。
あっさり再現できたように見えるかもしれないけど、これまでの苦労を考えると達成感はそれなりだ。
しばらく燃える剣を眺めていると、新たなスキルを獲得した感覚があった。
急にそんな感覚に身を包まれて、思わず魔法剣を解除してしまったけど、それよりも何のスキルを取得できたのかが気になる。
もしかしたら、もしかしたら魔法剣のスキルを獲得できたの? それならこの修業も無駄じゃなかったのかもしれない。
そう思って急いでヒカルにステータスを確認してもらった。
ステータスを鑑定スキル無しで確認できるあたり、何度も思うけどヒカルはやっぱりおかしい。変だ。
確認してもらった結果、私の予想の遥か上の答えが返ってきた。
魔法剣スキルを獲得できたのは予想通り。
攻撃力が大幅に上がるスキルで、器用貧乏でイマイチ決め手に欠ける私の弱点を解決してくれる強力なスキルのようだ。
それだけでも充分に思えたけど、さらにその後の彼の言葉に、私は自分の耳を疑いそうになった。
魔法剣を獲得したことにより、ジョブチェンジできる職業の選択肢が増えたというのだ。
その名も【パラディン】。
見習いとは違って、スキルと能力値の成長率が剣士や魔法使いと遜色ない、優秀な職業らしい。
ああ、きっとこれは夢だ。
いつも、いつもこんな風に都合のいいことばかり起こるのは、決まって夢の中だけだった。
将来大人になった時に、お父さんのように剣を振るって、お母さんのように魔法を使う、そんな夢を何度も見ては、このまま目覚めなければいいと思っていた。
それでも現実は意地悪で、いつも私を目覚めさせて気落ちさせた。
だから、今回も、きっと…。
いやだ。
一人で、誰にも認められないままならまだ耐えられた。
でも、ヒカルと出会って、魔法剣を覚えて、自分の望む職業になれると思ってしまった今では、もうそんなの、いやだ。
「ゆめ、じゃ、ないよね? ヒカルも、魔法剣も、新しい職業も、全部、本当なんだって、信じても、いいんだよ、ね…?」
今にも泣きそうになりながら、思わず声に出してしまった。
それを否定されたら、今度こそ私は、全てを諦めて絶望してしまうだろう。
「…ああ。俺が今も生きていられるのも、スキルを獲得できたのも、新しい可能性を切り開いたのも、全部、全部、アルマが頑張った結果だよ。よくやったな、アルマ」
私の言葉に、また、私の望む通りの答えを返してくれるヒカルが、まだ現実のものだと実感できない。
もしかしたら、次の瞬間に目が覚めて、全て夢になってしまうかもしれない。
そう思ったら、恐ろしくなって、泣きながらヒカルに抱き着いていた。
ああ、確かにここにヒカルがいる。
あったかくて、すごい勢いでどんどん心臓の音が速くなっているのを感じる。
夢なら、今度こそ覚めないで。
しばらくそうしていて、どれくらい時間が経っただろうか。
落ち着いた時に、ようやく現実だと実感できて、凄く嬉しいと感じるのと同時に、さっきまでの自分の姿と行動に、内心恥ずかしさで死にそうになった。
思わず抱き着いたヒカルの様子を見ると、なんだかとてもギクシャクして、発する言葉もぎこちない。これ、どういう反応だろう…。
そんな姿を見てかえって冷静になれて、二人で街まで帰ろうとした時に、魔獣森林から10匹近いゴブリンと、ホブゴブリン、さらにブレイドウィングという怪鳥型の魔獣が襲い掛かってきた。
せっかく、生きる希望が湧いてきたところでこの状況。神様がいるのなら、この仕打ちはないだろう、と文句を言ってやりたい。
でも、ヒカルはこの状況をむしろご褒美だと言って随分余裕そうだ。
…いや、よく見ると体が少し震えている。ヒカルも怖いんだ。
でも、私を不安にさせないためにそんなことを言って、この状況を乗り切るための作戦を必死に考えている。ヒカルは、ステータスは弱いけど、そういうところは強いと思う。
ヒカルが立てた作戦はシンプルで、手持ちの道具で目を眩ませた後、ヒカルが周りのゴブリンを、私が魔法剣を使ってホブゴブリンを倒す、というもの。
ブレイドウィングはできれば最初に倒したかったけど、墜落した後、近づいてくるものに対して魔法を乱発してきて手が出せなかったので一旦放置。
いざ、魔法剣のスキルを発動させた瞬間、青い炎が刀身から勢いよく噴き出して、思わず声を出して驚いた。
そのままホブゴブリンを倒そうと斬りかかったら、持っていた棍棒で防がれた。
木製の棍棒と違って、鉱石でできてるから斬ることも燃やすこともできない。このままじゃ力負けして押し潰される!
どうしよう、どうしようと思っても何もできない私に、ヒカルが剣に流す魔力を強めるように叫んだ。
言われるままに魔力を強めると、青い炎は白色に変わって、棍棒を溶かして斬り裂き、そのままホブゴブリンの首を簡単に刎ねた。
まるで、お父さんが強力な魔獣を容易く仕留めるように。
自分は、本当に強くなれたんだとこの時に初めて実感できた。
お父さんとお母さんが大事に育ててくれたから、これだけ強くなれた。
そして、そのきっかけをくれたのは、間違いなくヒカルだろう。
ありがとう、ヒカル。
そう思った直後、私の頭の中に、ジョブチェンジする職業の選択肢が浮かんできた。
成人した時以来のこの感覚が、今は少し懐かしくも思えた。
迷わずパラディンを選んで、残りのゴブリンを掃討した。
ブレイドウィングが逃げようとしているけど、空を飛んでいるから手が出せない。
そう思って眺めていると、ヒカルが剣を投げ捨てて怪鳥の方を向いたかと思うと、
物凄い速さで、空を飛んで、ブレイドウィングに追い付いて、その体を焼き尽くしたのを見た。
…うん。もう何があっても驚かないと思ってたのに、この人はいともたやすくこちらの予想を超えてきた。
なんでもありだと分かっていても、ここまでくると笑うしかない。ははは…。
自分はまだまだヒカルの行動に対する理解力と想像力が足りないのだと自覚しながら、ヒカルを迎えに行った。
ギルマスへの報告を済ませた後、宿に帰る途中、地面が揺れるのを感じとれた。
だんだんと大きくなっているけど、もしかしなくてもこれは、まさか。
ああ、やっぱりお父さんとお母さんだ。相変わらず人間やめてる速さで、元気そうで安心した。…安心?
ヒカルとの自己紹介も終わり、宿に入って一緒に昼食を食べることに。
お母さんはともかく、お父さんはなにかとヒカルに突っかかってる。ちょっと過保護すぎ。
昼食はカラアゲっていう、味付けした鶏肉を油で揚げた料理だった。
表面はパリッとした食感で、中身のお肉も味がよく染みてて美味しい。
お母さんが料理しているところを凝視していたけど、作り方が知りたいなら教えてもらえばいいのに。
お父さんも、一見不機嫌そうに豪快に食べてるようだけど、よく見ると口元が緩んでるから、美味しかったんだろう。
お母さんから、ジョブチェンジする職業はもう決めたのか、と聞かれて、思わず身じろいだ。
もう、私は不遇職じゃない、と分かっていても、いままでのことを考えると、後ろめたい気持ちがあったから。
そんな私の気持ちを見透かしたかのように、私の選んだ道ならもうとやかく言わないから安心してほしいと言われた。
両親も、自分達の技術や職業を受け継いでもらう気持ちを押し付けてしまったことを悔やんでいたと言った。
違う。二人とも、私のためにしてくれたことだから、謝る必要なんて何もない。
それに、そのお陰で、ヒカルの指導をきっかけにパラディンになることができた。
そう告げると、成人した時のように号泣しながら抱き着いてきた。
今度は悲しくて泣いているんじゃなくて、うれし涙みたいだ。私も、ちょっと瞳が潤みそうになった。
けど、ち、ちょっと感激しすぎじゃ、あの、苦しい、ふたりとも、おちついて、ほんとにくるし、ちょっ、やめっ…
…危うく感激しすぎた二人に絞め殺されるところだった。
ヒカル曰く、少しの間息が止まっていて本気で危なかったとのこと。…あのまま死んでたら死んでも死にきれない。
スタンピードが近づいているけど、不思議と怖くない。
魔法剣を使えるようになって、新しい職業になれたからだろうか。
それとも、貴方が、隣にいてくれるからかな。
これからも、一緒にいてくれるのかな。
お読み頂きありがとうございます。




