ズルい
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今回は勇者パーティの前衛、レヴィアリア視点です。
「それでは中堅職の部、第十一試合! 豪槍戦士レヴィアリア、ハイ・パラディンアルマティナの試合を始めます!」
「よろしく」
「……こちらこそ、よろしく」
ああもう、自分のくじ運の悪さに眩暈がするわ!
なんで二回目で一番当たりたくない相手と戦わなきゃいけないのよ!
あのね、能力値が圧倒的に強いネオラがいるから優勝できるとは思ってないのよ?
でもね、同レベル帯の他の冒険者と遠慮なしにやりあえる機会なんて滅多にあるもんじゃないから、せめて色んな人と思いっきり戦えるって楽しみにしてたのよ。
実際、本選初めに戦ったラウナクェスっていう剣豪との戦いはとても有意義なものだったわ。
攻守ともに堅実で、隙や弱点らしい弱点が見当たらない、とても洗練された剣技は戦っていて感心するほどだった。
それをどう突き崩そうかと色々試すのもとても楽しく思えたわね。
でもね、この女、アルマティナは違う。
戦いを楽しんでいる場合じゃない。少しでも手を抜けば即負ける。
まるで修業の最後に戦ったシャイニングタイガーを思わせるナニカがある、と肌で感じる。
能力値やスキルだけじゃない。なんというか異質な印象を覚えるというか、……どう表現すればいいんだろう。
しかも、コイツ、ネオラが迷わずパーティに誘ってたし。
強さのこともあるんだろうけど、多分、一目惚れに近いものを感じとってたように見えた。
あんなデレデレしてるネオラの顔なんか、今まで見たことないのに。
当たったからには、この女にだけは絶対に負けたくない。
……落ち着きなさい。今は戦いに関係ないことを考えている余裕なんかないわ。
いくらなんでもネオラほど強いってことはないだろうし、勝ち目が全くないわけじゃない。
さっきの試合みたいに、速攻で勝負を決められなければチャンスはあるはずよ。
「それでは、試合開始っ!!」
審判の声と同時に、クイックステップで後ろに下がって間合いの外へ。
それと同時に、魔刃・遠当てを使って遠距離攻撃!
慎重になりすぎているように見えるだろうけど、さっきの試合を見る限りじゃ警戒しすぎるくらいが丁度いいと思う。
まずは様子見。さて、どう捌く気かし、ら……!?
「はっ!」
「わああっ!!?」
遠当てを放った直後、気が付いたら目の前にアルマティナがいて剣を振りかぶっていた。
ちょ、ちょちょ、ちょっと待ちなさい! いくらなんでも速すぎるでしょう!?
辛うじて防いだけど、追撃に二撃、三撃と剣を振るうアルマティナ。
感情表現に乏しいのか、無表情の涼しい顔をしながらとんでもない速さで攻撃してくる。
剣に対応するのに精いっぱいで、小細工している余裕がない!
魔刃・疾風を連続で使って辛うじて凌いでいるけど、向こうはなんであんなに速く剣を振れるの!?
でもね、それだけでやられてあげるほどこっちも弱くないのよ!
「てぇいっ!!」
「!」
なんとか魔刃・疾風に頼らずに槍で防御して、命中した相手に強い衝撃を与える穿槍術スキル技能【衝魔刃】で剣を弾く。
体勢が崩れた、勝機!
「もらったぁ!!」
「…【エクスプロージョン】」
「っ!?」
剣を持っていない方の手が、こちらを指さすのと同時に悪寒が背筋を走った。
反射的にクイックステップを使って身体を退くと、さっきまで私が立っていた場所が爆発した。
今のは、中級攻撃魔法? これがハイ・パラディンの特性ってことなの?
「……なるほどね。アンタもネオラみたいに、武器と魔法両方を扱えるってわけか。ちょっとした勇者みたいね」
「ネオラも、両方使える?」
「ええ。不遇職の見習いパラディンとは似てるようで全然違うわよ。もちろん、アンタもね」
「そう。……なら、これも使える?」
「……は?」
突然、アルマの構えている剣が、青い炎を噴き出した。
まるで炎で剣身を模っているかのようで、戦闘中でなければ見入ってしまいそうなほど、力強く綺麗な炎の剣。
剣と、魔法の融合? そんなの、あらゆるスキルを使いこなすネオラだって使えないはず……!
「おしゃべりはおしまい。試合の続き」
「くっ……!」
再び剣と槍の打ち合いが始まった。
さっきに比べて剣を振るのが随分遅い。おかげで余裕をもって対応できる、と思ったけどそうでもない。
「重っ…!? し、しかも熱っ……!」
攻撃の威力が、明らかに強くなっている……!
刃を交えるたびに、まるで大槌で叩かれてたような衝撃。
加えて高熱の炎を纏った剣がこっちの槍を熱してきて、槍を握ることすらつらくなってきた。
このままじゃ、まずい……!
……仕方ない、切り札を使うしかないようね。
「はっ!」
「ふっ!」
アルマの攻撃を避けつつ、棒高跳びのように槍を地面に突き刺してからハイジャンプ。
エアステップを使って空を蹴り、アルマティナの脳天目がけて槍を突き出す。
思った通り、クイックステップを使って回避された。
遠くへ逃げてくれて助かったわ。
【グレイブ・ランス】ッ!!
地面に槍が突き刺さるのと同時に、マスタースキルを発動!
この技は、地面を槍で突くのを合図に、対象の足元から魔力の槍を無数に生み出し、相手の全身を串刺しにするマスタースキル。
相手と密着している状態だと自分も巻き添えをくうから使いどころが難しいけど、攻撃方法の予測が難しくて意表をつくのに適した技よ。
クイックステップによる移動が終わった直後の硬直を突けば、回避なんかできない!
……はず、なのに
「危なかった。クイックステップを使いながら縮地を使わなかったら、穴だらけ」
「なんで、今のを避けられるのよ……!?」
まるで、地面から攻撃してくるのを分かっていたかのように、的確にグレイブ・ランスに対応し、避けた。
攻撃の予兆なんかほとんどないはずなのに、どうして当たり前のように避けられるの……!?
「……いつもの癖で、つい感じとってしまった。魔力操作や感知は使わないようにしてたのに」
なんか小さな声で呟いてるけど、よく聞こえない。なにを言っているの?
……それどころじゃない、次の手を考えないと。
私のマスタースキルは初見なら大抵の相手に有効だけど、一度タネが割れれば比較的楽に回避できるし、接近戦での使用はできない。
「これ以上は、本格的にボロを出しかねない。もう、終わらせる」
「え? ……な、なによ、それ…………」
アルマティナの周囲に、炎が、水が、氷柱が、石弾が、他にもいくつか攻撃魔法と思われる光の弾や黒い触手がアルマティナの周囲に展開されている。
複数の攻撃魔法を、同時に発動……!? そんなこと、ネオラにも、オリヴィエにもできないはずなのに…!
こんなの、避けることも防ぐこともできるわけがない。
なんて、理不尽で
なんて、不公平な
なんて、なんて、ズルい……!!
「隙あり」
「えっ」
呆然とアルマティナの魔法を眺めているうちに、視界がひっくり返った。
最後に見えたのはアルマティナの背中と、……首のない、誰かの身体だった
あ、これ、わたし、じゃない、の―――――
「レヴィアリア選手の死亡、および蘇生を確認! 勝者は、アルマティナ選手っ!!」
場外で審判の声が聞こえて、ようやく自分が負けたんだと自覚した。
「うううううぅぅぅ~~~~~………!!」
「……泣くなよ、レヴィア。お前はよく戦った、惜しかったぞ」
控室で、悔し泣きしながら唸っている私の頭をネオラが撫でながら慰める。
……悔しい。悔しい、恥ずかしい、みっともない……!!
あんなに苦しくてつらい修業を乗り越えて、私は強くなったと自信をもてるようになったと思ったのに。
まるで歯が立たなかった。まるで相手にならなかった。一撃すら、入れることができなかったっ……!!
近接戦闘も、奇襲のやり方も向こうが上手。しかもオリヴィエやネオラに迫る魔法。いえ、複数の魔法を同時に扱えるってことは、下手したら向こうのほうが……。
なに一つ勝てなかった。なに一つ、アルマティナに勝てなかった……!
「多分、決勝で当たることになると思う。いや、ホント強いなあの子」
「……なんなら、もう一回パーティに誘ってみたら? 私なんかより、よっぽど役に立つと思うわよ」
……アルマティナを感心した様子で呟くネオラに、八つ当たりのように拗ねて口を開いてしまった。
負けた私の前でアイツを褒めてるのが、許せなくて。……我ながら、なんて陰湿なんだろう。
「しないよ。向こうには向こうの事情があるらしいしな。……それにもしも、アルマとレヴィアを選べって言われたら、迷わずにお前を選ぶぞ」
「……え」
「お前の強みは個人の強さじゃなくて、戦い全体の流れを見ながら仲間と的確に連携することだろ? 個人戦で負けたからって、お前がアルマより劣ってるなんてオレは思わないよ」
コイツ……!
いつもふざけてばかりで、こんなふうに褒めることなんかほとんどしないくせに、なんで今に限って……!
ズルいわよ、あんたも、アルマティナとは違った意味で、ズルい!
「……ありがと、ネオラ。……じゃあ、アルマティナと私、どっちが可愛いと思う……?」
「えっ…?」
「言いなさい」
「あ、ゴメン次の試合があるからまた今度ねーはははー」
「待ちなさいコラァ!!」
やっぱコイツ最低だわ! このドスケベが!
見てなさい、アルマティナ! いつかアンタより強く綺麗になってやるんだからっ!!
お読みいただきありがとうございます。
>特攻スタイル+兄が裏切って――
え、ああ、そういう展開もアリですか。と予想外のコメントをいただき、ちょっと驚きました。
……路線変更も考えるべきかなー。
>感想返信が本文にあって、メニューさんの会話が後書きにあるんですが…
本編の誰の目にも触れられないメタ的な表現をしたくてあんなことになってます。
……間違いなのか狙ってやってるか分かりづらくてすみませんorz
>略奪には報復を、裏切りには代償を。――
生きるも死ぬも、どちらも地獄ですね。
運が悪かっただけかもしれませんが、そもそもそこに至るまでの行動を見ると因果応報としか。
>うーん緑髪君、もしこのまま普通に軍に入れたとしても――
目標を見失った彼の今後は、また近いうちに。
……現実でもこんなのが身近にいたらたまったもんじゃないですね。




