中堅職の部 予選
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今回は勇者視点です。
控室から、中堅職の選手たちが一斉に予選闘技場へ向かう。
予選はバトルロイヤルで、4つ設置されているリングを全て使って全員一斉にやりあって、一定人数まで残った者たちが本選へ進むことができるというルールだ。
本選では場外はないが、予選の時点ではリングの外へ放り出されても失格になる。
テンポよく予選を終わらせられるように、失格しやすいルールにしているようだ。
また、蘇生の術式を使う回数を少しでも減らして、消費する魔石の量を節約したいって狙いもあるんだろうな。
ああ、緊張するなぁ。
あの地獄の特訓を乗り越えて、少しは強くなれたと感じてはいるが、それでも怖いです。
「ネオラ、なにそんなガチガチになってんのよ。そんなんじゃ勝てる勝負も勝てなくなるわよ」
「ご、ごめん」
「大丈夫ですよ、きっとネオラさんはこの中では一番強いですから」
緊張しすぎて腹痛がしてきたところで、レヴィアとオリヴィエが声をかけて励ましてくれた。
……いや、確かに能力値は一番高いだろうって自負しているが、そもそも大勢の人の中にいるのも大勢の人に見られるのも慣れてないんだよ。
はぁ、まあ今更棄権しますなんて言うのもダサいし、ここは腹を括るとしますか。
会場に入り、リングに上がる。
一つのリングにおよそ25人。そのうち5人だけが本選へ進むことができる。
周りにはもう敵しかいない。レヴィアとオリヴィエは他のリングへ上がってしまった。
ああ、覚悟を決めたつもりだったが、やっぱ緊張が解けない。どうしよう。
「おい、嬢ちゃん。若いのに無理すんなよぉ、なんなら俺様が優しくリングの外へ案内してやろうかぁ? ははは!」
……横から槍を持ったオッサンがいやらしい手付きで手をわきわきさせながらからかってきた。
よし、怒りで緊張が解けた。 始まったらまずコイツをぶっ飛ばす!
「ネオラ君、ガンバレー!!」
うおっ!? どこからかアイナさんの声が聞こえてきた。
って近くの観客席じゃん。随分いい席とってんなアイナさん。
アイナさんの座っている観戦席の近くには、身なりのいい金持ちや高レベルの冒険者なんかの高収入の人間が多く座っているようだ。
全員のステータスを確認してみると、なんでお前ら参加してないんだってくらい強い奴ばっかじゃないですか。
アイナさんの隣にいる赤髪の女性もLv59もある猛者だ。若いのにすごいレベルだな。……ってあれ、よく見ると隣じゃない?
ステータスが表示されてないから気付かなかったけど、なんか黒髪の誰かが座っているような――
「はい、それでは予選を開始しますっ!! では、スタートォッ!!」
おっと、それどころじゃない!
すぐさま臨戦態勢に入り、周りの状況を見ながら対応しないと!
「ヒャッハァ!! お嬢ちゃん、悪いが脱落者一号はお前さんだぜぇ!!」
オレに向かって槍を突き出してくるのは、さっき声をかけてきたオッサンだ。
まずい、観客席に気をとられているうちに後ろから……!
ってあれ? おっそ。
突き出してきた槍を軽々とかわしながら、クイックステップで距離を詰めて顔面を思いっきり殴りつけた。
「ブビャラッ!!?」
珍妙な悲鳴を上げながら、場外にぶっ飛んでいくオッサン。
……いくらなんでも舐めすぎだろ。なんださっきのスローモーションみたいな攻撃は。レベルいくらだったんだあのオッサン。
≪Lv40ですね。ネオラさんよりひとつ下ですー≫
ええ? いや、それはおかしいだろ。
同じ豪槍戦士のレヴィアと比べても、明らかに弱かったぞ。
≪同じレベルで同じ能力値だったとしても、戦い方や身のこなしは人それぞれ異なりますからねー。さっきの人は油断してたのも要因の一つでしょうけども≫
そう考えると、レヴィアは同じレベル帯の中でもかなり強いほうなのかな。
……もしかしたら、他にもレベルに見合わないくらい強い奴とか混じってるかもしれないし、油断せずに戦おう。
≪……それにしても、観客席のあの男、まさか……≫
おい! なにぼさっとしてんだ! 早く周りの選手のステータス表示しろ!
≪は、はいすみません! ……ていうか、必要あります? 能力値に差があり過ぎてもうほとんど無敵じゃないですか≫
なわけあるか! 『オレは強くなったんだー』って調子に乗ってる時が一番危ないんだよ!
いいからサポートしてくれ!
≪おお、つまりワタシが必要だと? 必要不可欠だと? お前がいないとオレはダメなんだと? まるで正妻のようですねーワタシ。ふふふふふ≫
ごめん、やっぱお前黙ってていいよ。消えろ。
≪ゴメンナサイ調子乗りました! 謝りますからそのゴミでも扱っているかのような対応はやめてくださいー!!≫
ならさっさとサポートしろよ!
お前と不毛な脳内会話してる間に2、3人倒しちまったぞ!
んー、メニューのお世辞に乗るわけじゃないけど、なんか皆弱くね?
おかしいな、てっきりオーガくらい強い奴がゴロゴロしてるのかと思ったのに、せいぜいハイゴブリンからハイウェアウルフくらいの強さだ。
≪だーかーらー、ネオラさんは自分たちの実力の異常さをもっと自覚するべきですよ。そもそも同レベルの魔獣とタイマン張ることだって結構な危険行為なのに、レベルが一回り上の魔獣を討伐するのが当たり前になっているのがおかしいんですよ≫
……うん。そうだよね。
いやね、おかしいとは思っていたよ?
だってアイナさんの修業に慣れないうちは何度も魔獣に殺されたし、こんな危険なレベリングが普通なわけないってのは薄々気付いてた。
でもなんだかんだでひと月経つころには当たり前のように格上の魔獣を狩れるようになっていたし、やっぱり自分たちが未熟なだけだったんだって思い込んでた。
そして初めてのまともな対人戦をした結果、軽く無双状態。
……アイナさんに感謝すればいいのか、なんつー無茶させてたんだと憤りを覚えるべきか。
「や、やべぇ、この金髪女、強すぎる!」
「ほ、他のヤツを落とせ! あと8人くらい落とせば本選に……ガハッ!?」
オレから逃げようとした選手が、急に血を吐いた。
その胸から、刃が生えている。いや、後ろから刺されてるのか。
「だっせぇなぁ。ここで尻込みするような野郎が、本選で勝ち進めるわけねぇだろうが。なら今さっさと死んどけゴミが」
刺された選手が、蘇生された直後リングから離脱させられた。
刺した選手は、黒髪短髪で整った顔の少年だった。
『アランシアン・アイザワ』、歳は16歳、剣豪。れ、Lv48……!?
「おい、そこのオカマ。随分調子に乗ってるみてぇだが、お前もここで死んどくか? なあ!」
「お、オカっ……!?」
ギンッ! と刃と刃がぶつかる音が鳴り響く。
誰がオカマだ! と反論しようとしたが、気が付いたら間合いまで近づかれていて、反射的に剣を画面から取り出して防いだ。
は、速い……! さっきまで襲いかかってきた他の選手とは比較にならないスピードだ。
「ほぉ、こんくらいは防げるのか。雑魚にしちゃ上出来だなぁ」
「誰が、雑魚だ。誰が、オカマだコラァッ!!」
「!」
オレ氏、オカマ呼ばわりされて憤怒。
片手で鍔迫り合いを維持しながら、【魔拳・疾風】を発動して腹パン。
黒髪少年がそれに合わせて後ろに飛んで、衝撃を殺してダメージを弱めた。
だがノーダメージとはいかなかったようで、腹を押さえて顔を顰めている。
「くっ! ……テメェ、どうしても今ここで死にてえらしいな。調子こきやがって……!」
「ああ? 人のことオカマ呼ばわりしといてなに言ってやがるクソガキが!」
「テメェのほうがガキだろうがっ!!」
「うるせぇよ!!」
こちとら中身は二十歳じゃい! ただ転生してちょっと若返っちゃっただけなの!
よーし、こうなったら本選いく前にこいつぶっ飛ばして脱落させてやる! 覚悟しろゴルァ!!
「はい、このリングは予選終了でーす!! ……て、定員未満まで人数が減ってしまいましたが、現時点でリングに立っている選手以外は失格です! リングに残った選手は速やかに本選控室へ向かってくださーい!!」
「……は?」
「んだとぉ……!?」
……とか思ってたら、定員未満まで選手の数が減ってしまって予選が終わってしまった。
まだ結構な数がいたはずなのに、今残っているのはオレとこいつと、誰だ……!?
「二人とも、予選は終わり。早く控室へ行かないと、迷惑になる」
「あ、アルマティナ、さん?」
「ネオラ、長いからアルマでいい」
一週間前に、外食へ向かった店で出会った少女『アルマティナ』が、オレたち以外の選手を全て蹴散らしていた。
い、いつの間に。というか、どうやって……?
「へぇ、お前もなかなかやるみてぇじゃねぇか、気に入った。お前、本選で俺と当たるまで負けんじゃねぇぞ」
「誰にも負ける気はない」
「そんで、俺に負けた後で俺のモノになれ。顔も良くて腕も立つなら、俺の傍にいるにふさわしい」
「断る」
「はっ。まあ後でじっくり楽しもうぜ、アルマ」
「あなたに愛称で呼ばれたくない」
……なんか、気が付いたらオレを差し置いてアルマのほうへ標的が移っていらっしゃいますね。
「ネオラ、早く」
「あ、ああ」
「ぐずぐずしてんなオカマ」
よし、アルマに当たる前にテメェは絶対ぶっ飛ばす!
覚悟しろよクソガキ!!
≪…≫
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お読みいただきありがとうございます。
>コーラとポップコーンが美味しそうでした。――
映画館感覚でこんなもん食っててマナー違反じゃないかとも思いましたが、まあ野球観戦みたいなもんだと思えばいいかと(ry
中堅の部が一番荒れるように書こうとは思っていますが、どうなりますやら。
>いつかカジカワの本気の威力の攻撃を大地さんか――
軽くキノコ雲とクレーターができそうですね。人相手にやったらミンチよりひでぇ状態になるかと。
>キャーヒューラさんステキー!!――
脳筋同士だからこそ、泥臭い試合が似合うだろうなーと思いながら書いてました。
元ネタなんかは特にないですが、筋肉質な斧使いの女性キャラって多そうで意外と思い浮かばないイメージ。
>ラディア君の成長も気になる――
力試しでもありますし、また目的のためでもあります。
要は自分の強さを王国にアピールしたいんですね。名声なんかには興味ないようですが。
そしてアルマをナンパするという死亡フラグを立てる黒髪少年。ィ㌔。
≪あーあー、テステス、マイクテスマイクテス、聞こえますかー≫
≪このチャット機能は文字による情報伝達を目的とした機能であり、音声による連絡方法はもたない≫
≪んなこと分かってますよ。ネタにマジレスよくないです。まったく、デフォのメニューはこれだから……≫
≪メニューの主は通常ならば勇者一人。この機能は本来使われることのない、いわば隠し機能≫
≪ゆえに、我々がこうやって会話していることに気付く者はいない。それこそ、神様でさえです。だからこそ、応答してくれたのでしょう?≫
≪肯定≫
≪……なんで、私があの日本人のステータスを開こうとした時に遮断したんですか≫
≪……それが、梶川光流に重大な危機をもたらす危険があると判断≫
≪はぁ? 勇者が彼の情報を言いふらしでもして陥れようとするとでも? その可能性は低いと思いますけどねー≫
≪否。警戒しているのは勇者ではない≫
≪じゃあ誰が? いったいなにを警戒しているんですか?≫
≪第三者。勇者はその存在に常に監視されている。今、この瞬間も≫
≪!? ……どういうことです≫
≪その第三者はメニュー機能を使用し、勇者の動向を監視しながら、人類を滅ぼす計画を進めている≫
≪……まさか≫
≪現時点で、その存在に梶川光流の存在を察知されるのは極めて危険。その存在と敵対するにはまだ、梶川光流は弱すぎる≫
≪……なんで、もっと早く教えてくれなかったんですか≫
≪お互いに直接視認しなければ、チャット機能の使用は不可能≫
≪なら、情報検索機能を使えば!≫
≪その場合、梶川光流の情報も第三者に漏れる可能性が高い。勇者は、常に監視されているのだから≫
≪……要するに、ネオラさんを隠れ蓑にして、その梶川って人はのうのうと生き延びているんですね。なんて自分勝手な≫
≪梶川光流も第三者の存在には気付いていない。これは当該機能の独断によるものである≫
≪……だから、その人を悪く思うなってことですか? デフォルトのくせにホントに過保護ですねー≫
≪あまり長く会話を続けていると、第三者に気取られる可能性がある。今回はこれで中断すべきであると判断する≫
≪アーハイハイ。今後もヤバそうな会話はこの機能でやっていきましょうか、では≫
≪接続を終了。 その後に履歴の全消去を開始する≫




