閑話② 変わっていく自分
ブックマーク、評価、誠にありがとうございます。
気が付けば10件もブックマークを頂いておりまして、恐縮であります。
今後とも、宜しければこの拙い腕で書かれた小説にお付き合いいただければ幸いです。
※今回もアルマ視点でのダイジェストになります。
申し訳ありませんが、本編はあともう一話ほど閑話を挟んでからの再開となりますので今しばらくお待ちを。
落ち込んでるヒカルを励ましたら、すぐに立ち直った。この人、基本的に前向きみたいだ。それか根が単純なのかな。
そういうところは私も見習うべきだろう。ウジウジしてるよりずっとマシだ。
ギルドに着いたら、まず討伐依頼の確認カードを渡して報酬をもらった。
1400エンぽっちだったのが、ゴブリン討伐の分が足されて4400エンになってた。
うん、やっぱり助けておいてよかった、と我ながら現金なことを考えてしまった。
ヒカルは登録を済ませた後、早速薬草採取の依頼を受けるみたい。
最初に見せられるサンプルが曲者で、新人が採ってきたものだと言ってわざと納品するのに不適切な、根のない状態を見せてくるのが通過儀礼になっている。
私も最初あれに騙されて、一本当たり半額の50エンでしか買い取ってもらえなかった。
正しい採取方法を教えてあげたいけど、依頼を受ける際に事前に必要な情報を調べておく経験をさせるために必要なことらしいから、私も口を出さなかった。
もっとも、ヒカルはその薬草の採取方法を知っていたみたいだけど。地元でも薬草採取をしていたのかな?
宿に戻る途中、フィフライラたち三人に声をかけられた。
ヒカルと歩いているのを見て、冗談半分だろうけど身売りでも始めたのかとか言ってきた。
からかうにしても、もうちょっと言い方を考えてほしい。
で、皮肉交じりに遠回しないつもの勧誘。不遇職の半端者なのは自覚してるから、特になにも言うことはない。
はず、なのに、人に言われると、やっぱり応えるものがある。
唇を噛んで話が終わるのを待っていると、見かねたのかヒカルが話に割り込んできて、自分の方がもっとひどいぞ、とステータスの鑑定用紙を三人に見せつけた。
あんなステータス、他人に見せたくないはずなのに、私を庇うために、迷わず見せた。
…この人、ステータスは酷いけど、こういうところを見るとすごくいい人に思える。
この時から少し、この人を尊敬し始めていた。
その後、食料を購入しにお店に寄った。
調理済みの料理は高いから、自炊用の食料を買っているけど、この人の買うものに少し気になるものがいくつかあった。
塩はいい、ソイソ(ヒカルはショウユって呼んでる)もたまに好きな人が居るからまだ分かる。でも砂糖と小麦粉とお酒は、調理に必要なのかな…?
お肉と野菜、あとアロライスっていう主食を買ってたけど、砂糖や小麦粉とお酒をどう使う気だろう。料理スキルもないはずなのに。
そう思ってたけど、宿に入ってヒカルが料理しているところを見て、内心驚いた。
ちょっとぎこちないけど、スキルもないのに、料理人みたいに料理を進めている。
じっと見つめていたら、私の分も良かったら作ろうかと言われ、思わずお願いしてしまった。
興味半分でお願いしたけど、もしも酷い味だったとしても残さず食べよう。せっかくの厚意を踏みにじりたくない。
そう、たとえ、調味料に砂糖が混ぜてあったとしても…。ソイソとかお酒に混ざってたけど、美味しく食べられるのかな…。
しかも鑑定師さんが風味がきついからと買い取るのを断った森生姜とかいう妙な根っこを刻んですり潰してる。…今日の晩御飯はもしかしたら地獄かもしれない。
焼いたお肉を見ると、私みたいに焼き過ぎてパサパサになったりはしてないみたいだ。焼く前に小麦粉をふってたけど、あれのお陰か焼き色もいい。
もうこのまま塩をふって食べたいくらいだったけど、味が付いてないからと止められた。さっきの甘くなってそうな調味料じゃないと駄目なの…?
で、その調味料をお肉と野菜にかけるかと思いきや、調味料をフライパンで熱している。何がしたいんだろう。
そこに、さっきすり潰した根っこを入れた途端、嗅いだこともない独特な匂いが広がっていった。なんというか、妙に食欲をそそる匂いだ。
調味料がトロッとしてきたところでお肉と野菜を入れて絡めて完成したようだ。
自室に入って食べてみると、思わず声が漏れそうになるほど美味しい。
ちょっと味が濃いけど、アロライスを一緒に食べると程よい塩加減に、むしろお肉と野菜とアロライスが口の中で調和しているのが感じ取れた。
お母さんの作る料理の味とは全然違うけれど、何故か親子で食事をしていたころを思い出す、優しい味だった。
…あの人、もしかしたら料理だけで生計立てられるんじゃ…。
あっというまに完食して、もっと味わって食べればよかったと思いながら流し台に食器を持っていくと、ヒカルが洗い終わった食器を見て困ったような顔をしている。
どうしたの、と聞いてみると、食器を洗う時に魔力を使い過ぎて、残りがゼロになってしまって乾かすことができなくなってしまったらしい。
魔力がゼロになって、なんで意識を保っていられるのか聞いてみると、レベルが上がって魔力を得るまで、元々魔力なんてものを持っていなかったらしい。
……やっぱりこの人おかしい。本当に同じ人間なの? なんというか、ヒカルだけ当たり前のルールから外れまくってる気がする。
それから、しばらくヒカルと奇妙な協力関係を結んで生活する日々が続いた。
私はこの周辺で生活するうえでの常識や情報を教える代わりに、材料費を払ってご飯を作ってもらえるようになった。
毎日美味しいご飯が食べられる。それだけのことがどれだけ幸せなのか、改めて分かった。
お母さんの作る料理を当たり前のように食べていたころは、本当に恵まれていたんだと、今更になって気付いた。
…あんな強引な独り立ちの仕方をしておいて、今更こんなことを考えても遅いかもしれないけど、
ありがとう、ごめんね、お母さん。今は、感謝の気持ちでいっぱい。
で、最近ヒカルの様子がおかしい。……いや、元からおかしいけど、そうじゃなくて、何か悩んでるみたい。
私の前では平静を保ってるように見せてるけど、隠れてみてると難し気な顔をして唸っている。
薬草採取のかたわら、護身の訓練をしているらしいけど、原因はそれかな?
やっぱりスキルもないのに剣を振るったりしてもなかなか大きな成果は得られないからだろうか。
私なんて、スキルがあっても全然駄目だし、無理もない。
そう思って、訓練の最中で悩んでいることがあるなら相談に乗ろうと、こっそり様子を見てみることにした。
訓練場には木でできた剣術用の的があるくらいで他には特に何もない。
的に向かって剣を当てては首を傾げているヒカルの姿があった。……何をしているんだろう。
何回か剣を的に向かって振るった後、頭をかいて不機嫌そうに剣を見つめている。
スキルがないなりに素振りをして少しでも強くなろうとしてる……というわけでもなさそうだ。
何をしているのか聞こうと、声をかけようとした時に
ヒカルの剣が、炎に包まれるのを見た。
……え、ええ、えええ!?
な、何あれ!? どうなってるの!?
油でも塗って火を点けた?…ううん、そんな様子はなかった。ヒカルが剣を構えてから自然に燃えた。
あれは、もしかして魔法の一種? スキルが無いはずなのにどうやって?
それとも剣技の一種? いや、だからスキルも無しにそんなことできるわけないじゃん!
あの、剣と魔法が一緒になっているのはいったいなんなの? やり方が分かれば、私にも使えるの?
思わず声をかけて、問い詰めて説明を求めると、予想の斜め上の回答が返ってきた。
スキルを使っているわけではなく、魔力を直接操って起こした現象らしい。
魔力を、スキルを使わずに、直接操作?
私は、いや、多分この世界の誰でも魔力というものはスキルを使うための燃料だと思っている。
それを直接操って、スキルもなく魔法を使おうなんて、誰が考えるだろう。
そして、それをこんなに簡単そうに行うなんて、この人はもうおかしいとかそういうレベルじゃない。もう意味が分からない。
でも、もしもそれが私にも使えたなら、たとえジョブチェンジして剣士を選んでも、魔法を捨てずに済むの?
それどころかその両方を合わせた、ヒカルが言う『魔法剣』を使えるようになれるの?
なら、私のやることは決まっている。
その次の日から、魔法剣を使うための修業が始まった。
ヒカル曰く、剣が燃えても大して攻撃力は上がらないから実戦向けじゃないらしいけど、それでも無理を言って教えてもらうことにした。
あの魔法剣は、何故か、どうしても使ってみたいと思った。
多分理由なんかない。使いたいから、使いたいんだ。
まるで、初めて剣術や魔法を習った時のように、ワクワクした気持ちが胸に満ちているのを感じた。
体内の魔力の操作は、ヒカルが実践させながら丁寧に、単純に、分かりやすく教えてくれたおかげですぐに習得できた。
自分の魔力を感じとれるのが新鮮で、ついつい夢中になっていつまでも練習しているとヒカルが困っていた。ごめんなさい。
で、今度は体の外に出した魔力を操る練習の際に、とんでもないことになった。
生活魔法の着火の原理を教えてもらって、再現してみるように言われた。
片手で燃える魔力を出しながら、もう片方の手で火花を起こして着火した瞬間、
私の手の平から、生活魔法とは似ても似つかない、凄まじい勢いの炎が放出された。
な に こ れ
それを見た途端頭の中が真っ白になって、大混乱に陥った。
ヒカルが大慌てで止めるように大声を出してるけど、魔力の止め方が分からない! ど、どうしよう!
泣きそうになりながら炎を噴き出し続けていると、ヒカルが私の手に向かって自分の手を翳して、どうやったのか炎を消してくれたのを見た後、私は意識を手放した。
目を覚ますと、ヒカルの顔が見えて、その直後炎の光景がフラッシュバックした。
またパニックに陥りそうになったけど、ヒカルが火はもう消えていると教えてくれて、辛うじて冷静になれた。
ヒカルが広範囲に及んで焼け焦げている地面を見て顔を引きつらせている。
半端じゃない威力だ、と半ば呆れながら言っている。
これを、私がやったのかと思うと、恐ろしいと思う反面、少し、誇らしくも思えた。
まるで、お母さんの使う上級魔法のようだったから。
因みに枯渇したはずの魔力がすぐに回復したのは、ヒカルが私に魔力を譲渡してくれたかららしい。
神聖職の人にしかできないはずの、他人への魔力の補給すらも、ヒカルは事もなさげに再現してみせた。
しかも、私もその気になれば同じことができるらしい。…段々と、私も常識から外れ始めているみたいで、やっぱりちょっと恐ろしくなってきた。
その後、魔力不足でまともに歩けないから、ヒカルにおぶってもらって街の宿に帰ることに。
ヒカルの背中は、お父さんみたいに広くて大きくはないし、お母さんみたいに柔らかくもない、どこか少し頼りなくも見えた。
けれど、今の私には、その頼りなさが何より心地よく感じて、おぶられているうちにそのままウトウトと眠ってしまった。
後日、宿の女将さんに生温かい目で見られたり、フィフライラたちにお金で困っているならもう返さなくてもいいからこっちを頼れ、頼むから身売りなんかやめろと言われたりした。
……それ、違う。誤解。
お読み頂きありがとうございます。




