武術大会開催 上級職の部
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いよいよ武術大会が始まり、出場する選手たちが一斉に会場に並んでいく。
ランクごとに人数が随分違うな。見習いと駆け出しは大体それぞれ200人くらい、中堅職はその半分くらい。
上級職の選手は15人ほどで、人数が少ないので予選などは行われずにそのまま本選に入るようだ。
王国の偉そうなオッサンがよくぞ集まった勇気ある戦士たちよー皆の活躍を期待してるぞー的なスピーチを言った後、中堅以下の選手たちが控えのエリアに移動しすぐに上級職の本選が開始された。
こんなあっさりした説明で終わらせていいものか分からんけど、数分にわたる演説の内容なんかいちいち回想してられん。
本選はトーナメント形式で行われるらしく、一人シードになるがくじ引きにより公正に決められてから組み合わせが決まった。
時間さえあればリーグ形式で見たいくらいだが、それだと終わるころには日が暮れてしまうし選手の体力ももたないだろう。
それにしても、他の大陸からはるばるやってきた人たちも集まっているんだろうにたったの15人か。
まあ、そもそも大体の人間はLv40台で頭打ちになるらしいし、仮に上級職になるほど成長できたとしてもそれはパーティを組んでレベリングをした結果の人がほとんどだろうしな。ソロで戦うのは慣れてないか。
ヒューラさんみたいに、普段からソロで活動してる人にとっては有利な大会になるだろうなー。
コワマスも出場していれば結構いい線いってたと思うんだが、今日は観戦しつついざという時のために備えておくつもりのようだ。
相談してた俺が言うのもなんだけど、ちょっともったいないな。
で、どこで観戦しているかと言うとですね。
「カジカワ、なにを食っている?」
「…ポップコーンですが、ギルドマスターも食べますか?」
「いただこう。……ふむ、お前の作る菓子は美味いとナイマが言っていたが、まあまあだな」
俺の左隣の席なんですよ。バター味のポップコーンを口に放り込みながら試合を観戦していらっしゃいます。
直属ではないとはいえ、上司が隣にいる謎の緊張感。勘弁してほしい。
「アタシにもくれないかなー? イヴランちゃんも飛行士君の料理絶賛してたし、興味があります」
「どうぞ。ただの駄菓子程度のものなので過度な期待はしないほうがいいですよ。……あと、外で飛行士って言うのやめてください」
「むぐむぐ、んー、美味しいけどなんかお酒飲みたくなってきたなー」
「観戦中に酒の匂いを漂わせるのはやめろ。カジカワもエールを飲むのは控えたほうがいいぞ。……というか、黒いな」
「エールでもお酒でもありません。これはコーラっていう炭酸ジュースですよ」
「ふーん? なんか真っ黒だけど美味しいの?」
「まあ、我ながらいい出来だと思います」
「そのジュースも手作りなのか……」
左にコワマス、右にアイナさん。なにこの似非モテ期。
はたから見てると両手に華と言わんばかりの状況だろうが、二人とも俺よりレベルが上という女傑っぷり。怖ひ。
さすがにこのランクになると選手も装備も一級品ばかりで、瞬殺されるような試合はまったくない。
レベルや能力値に差があっても、これまで培ってきた戦闘経験からどう戦うべきか即座に判断し対応、いやもう直感で動いているんじゃないかこれは。
中には一回り近いレベル差を覆し勝利する猛者すらいた。やっぱステータスなんてよっぽどレベルが離れてなけりゃただの目安に過ぎないんだなー。
ちなみにその猛者というのが、ランドライナム近くの魔獣草原で出会ったイケおじことキョウクハルトさんだったりする。パーティ連携も単騎での戦闘もこなすとか強すぎる。
同じ得物同士でも戦い方がまるで異なるのも面白い。
大剣を使う選手と細身の剣を振るう選手とかな。同じ剣士、いや剣豪のさらに上の剣聖というらしいが、同じ職業でもここまで戦い方が違うのか。
スピードの差が出て、大剣を使うほうは途中まで斬られ放題だったが、カウンター気味にマスタースキルを発動して大剣をさらに大きな魔力の剣身で覆い、【魔刃・疾風】で胴を真っ二つにして一気に勝負を決めた。
最大の見どころは、なんといってもマスタースキルの発動。要するに必殺技だな。
剣術や槍術みたいな武器を使いこなすためのスキルは、カンストさせた際のマスタースキルが個々によって違う。
ヒューラさんのように巨大な斧を魔力で形作って攻撃する人もいれば、武器を地面に叩きつけてその衝撃を対象に伝わらせて攻撃する変わり種な技もあった。
スキルの仕様上、大体似たような技能しか使えない中で際立って個性的な攻撃方法だ。
「おおー、なかなか根性あるねー。まるでネオラ君みたいだ」
「あんなボロボロになりながら、無理やり攻撃を当てるような戦い方をしてるんですか……?」
「強敵相手の場合はね。シャイニングタイガーに首元噛み付かれながらも剣で心臓を貫いた時は、不覚にもゾクッときたね。可愛い顔してるけどやっぱ男だよあの子は」
「……死に戻りのできる勇者でなければ自殺行為だろうに。そこまで弟子に厳しいのかお前は」
「いやいや、死に戻りができるからこそ無茶がきくんだよライザちゃん。でなけりゃさすがにそこまで酷いことは……あ、コーラおかわり。これ美味しいねー」
「私ももう一杯頼む」
酷いことさせてる自覚あんのかよ。
てか、やけにこの二人親し気に話してるけど知り合いだったのかな?
さらに試合は進み、いよいよ決勝戦だ。
大斧を背負ったヒューラさんと、もう片方から大剣を背負った黒髪の大男、ガザンギナンド氏がリングに上がる。
互いに挑発するかのように武器を突きつけ、微かに笑っているのが見えた。
そして武器を構えると、笑顔が禍々しささえ覚えるほど凶悪な形相に。二人ともどう見ても戦闘狂(同類)です本当にありがとうございました。怖すぎやろ。
勝負が始まるのと同時に、お互い【縮地】と【魔刃・疾風】の合わせ技で一気に距離を詰めて武器をかち合わせた。
鍔迫り合いをしながら互いの顔が接吻一歩手前まで近付く。互いに怖い笑みを浮かべたままで、キスする雰囲気にはとても見えないが。
大男がヒューラさんの胴体を蹴るのと同時に、ヒューラさんが鍔迫り合いで接触したままの斧で、接触した相手を魔力で弾き飛ばす技能【衝魔刃】を使い、大剣を弾く。
互いに体勢が崩れたが、お構いなしにさらに【魔刃・疾風】を発動し、無理やり武器を振るうのと同時に体勢を整えて構えた。
うーん、やっぱ決勝戦は格別に見ごたえあるなー。
二人とも重量級の武器なのに、まるで鈍さを感じさせない武器捌きだ。もうキレッキレやぞ。
「……さすがと言うべきか」
「ライザちゃんも冒険者続けていれば、あれくらいになれてただろうにねー。もしかしてギルドマスターになったのちょっと後悔した?」
「いや、私一人がいくら強くなろうとも限界がある。冒険者時代の経験を活かして、大勢に指示を出すほうがスタンピードの際などよほど大きな効果があるさ」
「んー、そのわりにはなんでもかんでも一人で背負いこんでるように見えるけどなー。もっと肩の力抜きなよー」
「……お前はもう少し気を引き締めたらどうだ」
なにやら意味深長な会話をしているようだが、試合に見入っててそれどころじゃない。
お、いよいよマスタースキルを使うか。お互い武器をさらに巨大な魔力の刃が覆い、超重量級の一撃を放つ気のようだ。
さらに【気功纏】による能力値強化も同時に使って、文字通り全身全霊、本気の全力。
どちらの一撃が強いか小細工抜きの純粋なパワー勝負。
武器がかち合った瞬間、耳を劈くような金属音が会場に響いた。
武器が接触した直後、互いの反対方向に大剣と大斧が弾き飛ばされたのが見えた。
だが、まるで気に留めず、二人ともお互いの顔に拳を思いっきり殴りつけた。
お、おおう……。もはや防御すらせず二人とも一発でも多く殴ることを意識しているらしく、もうスキル技能すら使わず殴るわ蹴るわの泥仕合。
鼻血が出ようと歯が折れようと、まったく怯まずに殴り続けている。どこぞの地上最強の親子喧嘩みたいだな。
「うひゃー、すっごい殴り合いだねー。絶対真似したくないなー」
「殴り合ってる当人たちは、とても楽しそうだがな」
「まあ楽しいよねー。思う存分全力をぶつけて、全力をぶつけられての喧嘩だし、そりゃスカッとするよ。超痛そうだけど」
10分近く殴り合いを続けていたが、そろそろ決着が近い。
これまでの試合の疲労もあってか、二人とももうフラフラだ。立っているのが精一杯の様子で、もう腕も足もまともに動かせていない。
二人同時に後ろにのけぞり、そのまま倒れるかに見えたが、
同時に、思いっきり頭突きを放ち、額同士をかち合わせた。
これまでの、どの音よりも鈍く、しかし重い衝突音がリングに響く。
ヒューラさんが割れた額から血を流しながら、前のめりに倒れる直前、膝をついて辛うじて崩れるのを防ぐ。しかし、もう立てないようだ。
大男も頭から血を流しているが、直立不動で笑みを浮かべている。……決着が、ついたようだ。
大男が、ヒューラさんと同じく前のめりに倒れた。
状態表示を確認すると、気を失っているようで膝をつく余裕もなく五体を地に投げ出した。
「が、ガザンギナンド選手、気絶! 戦闘続行不可能とみなします! 勝者は、ヒュームラッサ選手! 上級職の部、優勝はヒュームラッサ選手に決まりましたぁああああっっ!!!」
審判が高々と声を張り上げ、ヒューラさんの勝利と優勝を宣言した。
その直後、静まり返って殴り合いに見入ってた観客が一斉に歓声を上げて、ヒューラさん、そしてガザンギナンド氏を称えた。
……すごい試合だ。たとえ蘇生の術式がなくともこの二人ならまったく気にも留めずに今と同じ戦いを繰り広げていただろう。
「凄まじい試合だったな。最後の殴り合いは少々泥臭かったが、それが二人の根性をよく表していた」
「上級職の部はこれで終わりかー。いやー、いいもの見せてもらったなー。チキン肌が止まらねー」
『ピピッ!』
拍手しながらコワマスとアイナさんが呟く。
そして俺の肩で私もだ、と言いたげに鳴くヒヨ子。お前は元からだろうが。
「次は中堅職か。まず予選を抜けられるかどうかだが」
「あの三人ならまず大丈夫でしょ。特にネオラ君は」
「……まあ、問題ないかと」
「そうか。……この国の貴族で、去年成人したばかりの天才児が出場しているらしいが、そいつに勝てるかどうか見ものだな」
「去年? 今16歳ってこと? レベルはおいくら?」
「48だ」
「たっか!? いやいや、ありえなくない? 1年程度でそこまで強くなる?」
「自分よりひと回り上の魔獣を狩るのを日課にしているらしいからな。大きな怪我など負ったことがないほど圧倒的な戦闘センスの持ち主らしい」
「へえぇ。是非ウチの子たちとやりあってほしいねー」
「……まあ、少々人格に問題があって、弱者を見下すわ、ほしいものはなんであろうと必ず力ずくで手に入れようとするわでトラブルメーカーでもあるようだが」
ふーん。やっぱ才能のある人はこっちでも増長しやすいのかね。
アルマとレイナのどちらかとあたったりしたら、どうするかな。
……不安なような、楽しみなような。
「その天才児の名前は?」
「確か、『アランシアン・アイザワ』。本当かどうか知らんが、遠い過去の勇者の血をひいた家系だとか」
……洋風な名前にアイザワって。名前アンバランスすぎやろ。
多分、勇者の血はひいてるだろうけど今はかなり薄くなってるんじゃないかな。
でも、天才児って呼ばれてるし案外隔世遺伝かなんかで勇者の特性が表に出てきたのかな?
やっぱ中堅の部は荒れそうだな。頑張れウチの子たち。
お読みいただきありがとうございます。
>作ったのか、コーラも。
他にも炭酸フルーツを絞ったジュースなんかも作ってますが、量が少ないので滅多に飲めないという。
>ひかるは何レベル上までの人となら戦って勝てるんじゃろか
両隣の席に座ってる女傑くらいの相手なら普通に勝てます。
さすがに楽勝とまではいかないでしょうが。
>ロリマスの実姉、実年齢がどのくらい離れてるかだろうけど――
ロリマスがアイナさんくらいの体格になるにはあと200年くらいかかりますね。
レベル70台だと、能力値2500近くになるので、まあ並の人間じゃもう勝てませんね。
それでもまだ鬼先生には勝てないのですが。
>わーい戦いだー!バトルだー!――
勇者ちゃんくんはどうなるのやら。
かませになるのか、それとも活躍の場はあるのか、さて。




