嘔吐 王都
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廃鉱で精霊魔法を使っての魔石採掘を5日間ほど行い、そこそこの数を集めることに成功した。
大体C~Bランクの魔石がほとんどで、稀にAランクの魔石が手に入る程度だったが、最終日にはなんとSランクの火属性の魔石を手に入れることができた。
大きさはビー玉くらいのサイズだったが、それでもとんでもない希少品であることには変わりなく、売れば1000万エン以上はかたいらしい。
売らずにとっておくことをメニューから強く推されたし、特にお金には困ってないから売るつもりはないが。
さて、そろそろ大会の受付開始期間に入るころだし、いよいよ王都へ向かう時がきたようだ。
「毎日穴を掘ったり、鉱山の奥に住み着いたモグラを駆除したりでなんというか牧歌的な日々だったっすねー」
「……あのモグラたち、なぜか竜族スキルを持ってる奴がいたな」
「それを聞いて、剣を進化させられるかと思って直接斬り倒したのに、なんの変化もなかった」
「んー、やっぱ竜族スキルじゃなくて、種族そのものが竜じゃないとダメなんじゃないかな」
アルマの装備している『竜喰らいの黒剣』の進化条件は、おそらく名前の通りドラゴンを倒すことじゃないかっていうのが俺たちの予想だが、どうもスキルではなく種族が条件みたいだな。
それも多分雑魚じゃなくて、相当強い竜を倒さないと無理だろう。なんせ1回目の進化の条件ですらLv50以上の魔獣であるオーガを討伐することだったし。
ところで、なんであのモグラは竜族スキルを持ってたんだろね? いや漢字で書けば土竜だけどさ。
しかもなんかブレス吐こうとしてたけど、MPが足りなかったのか途中でガス欠になって中断してたし。魔力が足りなきゃ欠陥スキルもいいとこだな竜族スキル。
鉱山都市最終日の朝、獣車に乗りいざ王都へ出発。
ま、また獣車か。もうあんなにグラグラ揺れる移動方法は御免こうむりたいでござる……。
「……ヒカル、目が死んでる」
「瞳の光が消えてるっすね……」
「あああぁぁぁ……コロセー……ダレカオレヲコロシテクレー………」
「どんだけ獣車嫌なんすか。空飛ぶ時はあんなに速くビュンビュンと無茶な軌道で飛んでるのに」
「自分で高速移動するのと、他人に移動を任せるのとじゃ勝手が違うんだよー……」
アレだ、自分で車を運転しても酔ったりしないけど、他の人が運転してる車に乗ると酔うのに近い感じだと思う。
自動車で酔った経験はあまりないが、獣車はヤバい。
つーかアルマとレイナ、俺の魔力飛行はダメなのになんで獣車の振動は平気なんだよ。
「いやいや、獣車のほうがよっぽどマシっすから」
「……ヒカルの飛行より怖い乗り物は無いと思う」
えー。もう何度も乗ってるしそろそろ慣れてもいいじゃないですかー。
あっゴメンナサイ獣車は何度乗っても慣れそうにないですからもうちょっとスピード落としてっていうかたのむからもっとたいらなところをはしってくだsオロロロロロ
精魂尽き果てながらも、ようやく嘔吐もとい王都へ到着。オエップ……。
まだミニマム・ヨルムンガンドと戦った後のほうが余力があるわー……。恐るべき強敵だな獣車……!
うむ、華の都と言うにふさわしい、素晴らしい眺めだな。できればシラフで堪能したかったなー……。
都市を囲む立派な防壁の内側は、これまた立派な建物が高々と並んでいる。
地球の都会の摩天楼みたいな高層ビルはさすがにないが、それでも一つ一つがまるで小さな城のようだ。
そして、もう夕暮れ時だというのに雑踏の音が絶えない。
ヴィンフィート以上に賑やかな、おそらくこの世界でもトップクラスの規模の都市なんだろうな。
これだけ人通りの多い都市なのに、目立ったゴミや汚れがほとんど見当たらない。
よく掃除が行き届いているのが見るだけで分かるくらいに清潔感のある街並み。
全てが高水準。これが王都【ペンドラゴン】か。……この都市名を名付けたのは地球人、それも多分日本人だと思う。
「夕方なのにすごく賑やか。さすが王都」
「ふわわぁ…! まさに大都会って感じっす!」
『ピィ』
「いつもなら飯を食いに行くところだが、今日は飯より宿、飯より宿だ」
「2回言うくらい宿に行きたいんすか?」
「うん。もう今日は食欲もないし早く寝たい。ごめんだけど、今日の晩御飯は外食で適当に食べてくれないか……?」
「晩御飯作る気力も湧かないくらいつらいの、初めてじゃない?」
「分かったっす。宿をとったら、適当に食べに行くっすからもう寝ててくださいっす」
「スマン……」
人ごみに揺られてまたえずきそうになりながらも、なんとか宿屋へ。
はいはい、一部屋5000エンね。……もう値段の高さにツッコむ気力も湧かぬ……。
晩御飯代を渡して、部屋のベッドへダイブ。
メニューさん、飯食いに行かせるだけだがなんか面倒臭そうなトラブルに巻き込まれたりしたら、教えてくれ。
≪了解。梶川光流抜きで解決困難な場合、報告する≫
~~~~~アルマ視点~~~~~
「んー、値段は高かったっすけど、なかなか美味しいっすねー」
「うん。ヒカルも一緒に食べられないのが残念だけど」
『ピピィ…』
「あー、確かにカジカワさんなら大喜びで食べてそうっすけど、珍しくダウンしちゃったっすからねー」
思えば、ヒカルとパーティを組んでからずっと一緒にご飯を食べてきて、こんなふうにヒカル抜きで食事をするのはほとんどなかった。
……気のせいか、味がいつもより薄く感じる。ちゃんと味付けしてあるのは分かるのに、なにか、物足りない。
「アルマさん、食欲ないんすか? なんかいつもよりゆっくり食べてるような」
「ううん、珍しい味だから、よく味わっておきたくて」
「そっすかー。てっきりカジカワさんがいないからしょげてるのかと思ったっすーふふふ」
「……」
悪戯っぽい表情でにやつきながら言うのはやめてほしい。
……多分、当たっているんだろうから余計にタチが悪い。
たった一回、ヒカルと一緒に食べられないだけでこの有様。我ながら少し依存しすぎていると思う。
ほんの数か月前まで、ずっと一人でも耐えられたのに。
もしも、ヒカルがいなくなってしまったりしたら、どれだけつらいんだろう。
……もう無茶はしないって約束してくれた。実際、あれから強敵と戦う時には遠慮せずに私たちを頼ってくれている。
でも、それでも力不足で敵わない相手にぶつかったりしたらと思うと、自分の弱さに不安を覚えてしまう。
……益体のない思考を続けても仕方ない。早く食べてしまおう。
まだ慣れない街で、夜に宿の外で長居するのは危険だし、すぐに戻らないと。
急いで食べ進めていると、隣のテーブルからガシャァンと派手な音が聞こえた。
「おいコラァ! お前、ボクの服になんてことしてくれたんだ!」
「も、申し訳ありません! 足が引っかかってしまったみたいで……!」
「あーあーもう台無しだよぉ? どうしてくれんのコレぇ、この服、ダイアモンドダストベアの毛皮でできてんだよぉ? 軽く300万エンはするんだけど、弁償できんのぉ? なぁ?」
「さ、さんびゃ……!?」
「なに? できないっていうのかぁ!? ならどうしてくれんのさ? ちょっとこっちきなよ君ぃ、話があるからさぁ」
「払えないって言うなら、別の形で奉仕してもらおうかねぇヒヒッ!」
「そ、そんな、困りますよお客様……!」
……ウェイトレスが料理を運ぶ途中、足をなにかにひっかけて躓いて、料理を客に浴びせてしまったみたいだ。
料理で汚れてしまった服を見せながら、オレンジ色の髪の男性が不機嫌そうな顔でウェイトレスを責めたてている。
その向かいに座っている青髪の男はニヤニヤしながら囃し立てている。
それを見ていたレイナが、席を立とうとした。
「レイナ、止める気?」
「はいっす。……今の、あの青髪が足を引っかけてわざとコケさせてましたから」
……要するに、あの男二人による自作自演か。
ただでさえ食が進まないのに、あんなものを見せられたら余計に食欲が失せる。
二人で席を立って、男二人を止めようとした時に
先に男たちのほうへ向かう人影が見えた。
「おい、やめろよ」
「ああん? なんだお前は? 部外者は引っ込んでろよ!」
「それとも、代わりに相手してくれるってのかい? お嬢ちゃんみたいな可愛い子なら大歓迎だぜぇヒャハハッ! ……ブギャァッ!?」
止めに入った金髪の人に肩をまわした青髪の男が、殴り飛ばされた。
腕だけの裏拳であんな威力が出るなんて、この人かなり強い……?
「それ以上口を開くんじゃねぇよ。言いがかりつけて女の子に絡んだりして、男として恥ずかしくないのか?」
「な、なにを……!?」
「さっきぶっ飛んでった青髪がウェイトレスの足をひっかけてコケさせたんだろうが。そういう悪戯は小学校までにしとけよ、こどおじ野郎が」
「ショウガク、こどおじ……? なにを言ってるのか分からないが、言いがかりをつけているのはそっちだろう! 見ろよこの汚れた服を! もうどうやっても落ちそうにない、弁償だ弁償! 300万エン払えよ!」
「はぁ? その服、ダイアなんとかベアじゃなくてホワイトラットの毛皮だろ? 300万どころか3000エンがいいとこだろうが。見栄はって嘘つくな」
「な、な、な……!?」
金髪の、私と同い年くらいの少女が淡々とオレンジ髪の男の言うことに反論し、男はなにも言えなくなってしまった。
……一目見ただけで素材の見分けまでつくなんて、鑑定スキルでも持っているのかな。
「だ、黙れぇ! こ、このアマ、ボクを陥れようなんていい度胸じゃないかぁ! もうお前、女として表に出られないくらいに顔面グチャグチャにしてやるからなぁ!」
そう言いながら、オレンジ髪が金髪少女に殴りかかってきた。
オレンジもそこそこの使い手らしく、魔拳・疾風で顔面を凄いスピードで殴ろうとしてきた。
ゴシャッ となにかが潰れるような音が聞こえた。
潰れたのは金髪少女の顔、じゃなくてオレンジ髪の男の拳。
どこに持っていたのか、金髪少女は盾を構えてかち合わせ、拳を潰したらしい。
「ギャアアァアアアッ!!?」
「………あと、もう一つ言っていいか?」
今度は、金髪少女が拳を構えながら怒りの混じった呟きを漏らす。
そしてなぜか、目を滲ませながら顔を引き攣らせている。
「オレは男だっつの! なんでどいつもこいつもお嬢ちゃんとか言うんだよチクショウがぁっ!!」
「ゴペェヘハガはぁっ!!」
金髪少女、もとい少年が半泣きで叫びながらオレンジ髪を殴り飛ばした。
……男? あの顔で?
お読みいただきありがとうございます。
>アレってミニマムヨンムンガルドの事でも――
モグラたちのことですね。分かりづらい書き方しててすみません。
魔獣のテリトリーじゃないところで魔獣が繁殖するのは稀なので、このモグラたちも魔族たちの悪だくみの産物じゃないかと疑っていたというわけです。
なお今回は魔族関係ない模様。
>いつもながら面白かったです――
いつもお読みくださり、誠に感謝いたします。
急ぎ足でやっておきたいイベントを消化しているのでちょっと忙しないかもですが、ドタバタはしばらく続きます。
>よし想像してみよう。――
アカン、これじゃSAN値が死ぬぅ!
なお、ミ=ゴは犬にやられる模様。クトゥルフ関係の犬強すぎワロタ。
>(^ω^三^ω^)おっおっおっこれは主人公乱入しようぜ――
まだ離れているので無理です(;´Д`)
黒竜関連の騒ぎがどうなったかはまた後の話で。
>ではこの世のものならざる主人公を見てしまった精霊達は――
なんでヨグ様やアザトース級のSANチェックなんですかね……?
>あれ?いつのまに魔石探知が出来るようになったんだ?
魔獣洞窟でも、魔石の魔力を感知して掘ってたりしてまして、今回もその方法で探知しています。




