大会前の小さなひと騒動
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精霊使い同士の喧嘩を止めて、ようやく騒ぎが収まった。
そもそも喧嘩の原因はなんなんだと問い詰めてみたが、予想以上にくだらない理由だった。
「今日こそは晩飯を肉料理にしてもらおうと食堂に掛け合おうとしたら、こいつがしつこく止めにかかってきやがったんだ!」
「先日購入した魚の在庫がまだ山ほど残ってるから、先にそちらを消化しないと腐ってしまうでしょうが! お肉を食べる前に魚の処理です!」
「だからってここんとこ魚ばっかでもううんざりなんだよ! たまには肉も食わねえと皆の仕事のモチベも下がっちまうぞ!」
「食べられるだけありがたいと思いなさい!」
「てかそもそもテメェが一週間前にたまには魚が食いたいなんて言いだしたのが原因だろうが! テメェがあんなバカみてぇにウマイウマイ言いながら食ったせいで、調理当番が舞い上がっちまって魚をあんなに買い込んだんだろうが!」
「それまではお肉ばかりだったじゃないですか! あんな食生活続けていたら痛風になってしまいますよ!」
…………。
とりあえず、もっかい喧嘩を止めますかね。
喧嘩を止めた後、精霊使いの二人を引きずりながら鉱山の出口へ向かった。
それに気付いた鉱夫たちが駆け寄ってくる。
「お、おお! あんたら無事に戻って……って二人ともどうしたんだ!?」
「額から血が出て白目剥いてるじゃねぇか! どんだけ激しい大喧嘩してたんだよ!?」
「いやー、途中まで精霊魔法で争ってたんですが焦れたドワーフさんがエルフさんに頭突きかましてきて勝負あったかと思ったんですがエルフさんの頭が予想以上に硬かったみたいで二人とも頭が割れてしまって困ったものですよーはははー」
「お、おうそうか。……なんかえらく早口だな」
嘘八百の説明を訝しげな表情で聞く鉱夫たち。
後ろのほうでアルマとレイナがなにか言いたげに中指を弾いているけど無視。だってもうさっさと寝かせたほうが楽そうだったもん。
無駄に規模がデカいくだらん騒ぎだったが、悪いことばかりでもない。
まず、アルマが【中級精霊魔法】スキルを獲得することができた。
それも一気に地属性『ノーム』と火属性『イフリート』の二体を同時に。
あの二人の精霊を脅して無理やり契約させたカタチになったが、別に二人から精霊を奪い取ったわけじゃない。
一度契約さえしてしまえば、あの二人が中級精霊を召喚している間でも別の個体を召喚できるらしいし問題なく力を貸してくれるそうだ。
下級精霊のチビたちとの違いとしては、まず単純に行使可能な魔力の大きさ。
下級精霊たちでも魔力を追加すれば普通の中級精霊に迫るほどの力を扱えていたが、中級精霊にさらに魔力を追加すればその軽く数倍は強い力を行使できる。
そして、下級精霊との決定的な違いとしてはある程度自己判断で動いてもらえるので、戦闘時にいちいち指示を出さずに連携ができるということだ。
まあ要するに、召喚してる間だけ戦力の頭数が増えると思えばいい。
スキルの仕様上、ノームとイフリートを同時に召喚することはできないようだが。
次の日、早速中級精霊の力試しに、もう使われていない廃鉱で色々試してみることに。
まずイフリートの力を見せてもらうことに。
下級精霊すっとばしていきなり火の中級精霊を使役することになって、要領というか加減を誤らないか心配だったがイフリートが気を利かせて近くの下級精霊を呼んでくれた。
〈まずはチビどもと契約して、火の扱いに慣れてからにしな。いきなり中級の力を扱おうとしても火加減を誤って火傷するだけだぜ〉
「分かった、ありがとう」
〈ああー、ついにおれたちまでこいつらとけいやくするはめに……〉
〈こいつらやばいってかきゅうせいれいのあいだじゃゆうめいなのにー〉
〈……それならなんで俺やノームにまで情報が回ってきてねぇんだ?〉
〈いや、めんどいし〉
〈ほうこくついでにせっきょうされそうだし〉
〈ていうかへたにこいつらのことなんかつたえて、あにきたちがさっきみたいにおそいかかったりしたらうらぎられたとおもわれるかもしれないし〉
〈そうなったらおれらにまでねえちゃんやおっさんのいかりがとんでくるし〉
〈……テメェら後で覚えとけよ〉
チビ精霊たちにとっては頼りになる兄貴分というより、気難しくて面倒くさい上司みたいな存在なんだろうか。
まあいきなり俺を殺そうとしてきたりするあたり、ちょっと独善的な考えが強いようには思えるが。
ノームは地形操作のスピードがチビたちに比べ明らかに速い。
硬い岩盤なんかもチビたちに変形させるとかなり時間がかかるが、ノームなら柔らかい土を変形させるのとほぼ変わらない速さだ。
〈ふむ、随分と与えられる魔力が多く、また美味だ。下級の者たちが恐れながらも其方に力を貸すのも頷ける〉
「次。天井を槍状にして急降下、それと同時に左右から岩の弾を連続発射」
〈……そして下級の者たちが音を上げるのも頷ける。かなり忙しない運用をするな其方は〉
やっぱアルマの魔力は精霊たちにとってはごちそうらしいな。基準はまったくわからんが。
さて、廃鉱に来たのは精霊魔法の訓練のためだが、同時にやっておきたいこともある。
「もう使われていない廃鉱だけど、まだ魔石は残っているみたいだ。一応、許可はもらったし採れるだけ採っていこう」
「なんで今現役で運用されてる鉱山で採掘しないんすか?」
「俺たちが採掘した分、鉱夫さんたちの採掘量が減っちまうだろ。個人的に採掘するのは勝手らしいが、迷惑にならない範囲でやるに越したことはないだろ?」
〈うむ。他者の領分を侵すのは感心せぬが、もう使われていないのであればさして迷惑にもなるまい〉
「というわけで、俺が指示を出すから岩盤の中に埋まってる魔石なんかをこっちまで移動してくれ」
〈……魔石の位置が分かると言うのか?〉
「まーね」
〈やはり、貴公は不可思議で名状しがたい存在だな。いっそ不気味ですらある…〉
なんとでも言うがいい。もう慣れたもんだしキニシナイ。
さーて、廃鉱だからか本来はかなり奥のほうまで掘らなきゃ魔石の採掘なんかできないが、中級精霊魔法なら比較的楽に魔石を掘れるはずだ。
ジュリアンに頼んでおいた魔道具は属性付きの魔石を使い捨てにするものが多いし、材料費をケチれるところは自分で提供して補っておこう。
そんなこんなで精霊魔法の訓練がてら魔石の採掘をしつつ、なんか最近炭鉱の奥に住み着いたモグラ型の魔獣とか討伐しつつ五日が経過。
え、魔獣のくだり端折りすぎだって? だってアルマがリトルノームとイフリートのマグマ攻撃ですぐに全滅させちまったし、特に言うべきことが無かったんだもん。
……アレも養殖されたものだったんだろうか。
~~~~~コワマス視点~~~~~
第5大陸王都【ペンドラゴン】
過去の勇者リョータ・ソウマによって名付けられたというこの華の都まで、わざわざクレームを言いに直接赴くことになるとはな。
伝言で文句を言っても、恐らく『証拠がない』とあしらわれて終わりだ。
事実、魔獣草原で黒竜と飼い主を目撃したのはカジカワとアルマティナのみ。記録らしい記録は残っていない。
……そんな状況で、直接文句を言うためだけにわざわざギルドマスターが向かうなど、バカげた話だ。
目の前にいる黒竜の主、フィリエ国王直属近衛兵長ラーナイア・ソウマもおそらくそう思っていることだろう。
「仮に、魔獣草原で私と黒竜を見たものがいたとして、事件の犯人が私であるという根拠は?」
「目撃した者の証言によると、あなたの従魔の空き枠はその時点で5つ確認できたらしい。魔獣草原のエリアを越えた魔獣の数も5体。ただの偶然にしては、少々出来過ぎでは?」
「……その者の言うことが真実であるという証拠は?」
「ない。全て状況から見た推理に過ぎない」
「話になりません。私も時間の余裕がない身でして、これ以上の問答は無意味でしょう。お引き取り願えますかな?」
逆の立場であれば、私も同じことを言うだろう。
今の私がやっていることは、この間青いのがカジカワに言いがかりをつけたことと大差ない。
……話をさらに深く切り込むには、手持ちのカードが圧倒的に不足している。これ以上突き詰めるのは難しいか。
「分かりました。ですが、最後に黒竜に会って話したいことが……」
『弱者に語る舌などもたぬ』
……っ!
「……おい黒竜。今日はもう宿舎へ戻れと言っただろうが」
『ファハハハ、なにやらお前から強いストレスを感じてな。様子を見に来てやったのよ』
応接室の窓から、いつの間にか件の黒竜がこちらを睨め付けながら佇んでいた。
その目は、まるでゴミでも見るかのように冷ややかな視線をこちらに送っている。
『赤髪の女よ、我が語らうのは我が強さを認めた者のみ。立場の強さなど関係ない。ギルドの長だろうが一国の王だろうが、話がしたいのであればまずは力を示すがいい』
「……そうやって、力ずくで自分たちにとって不都合なことを全て圧し潰すつもりか」
『応。たとえ貴様が真実を語っていたとしても、それを押し通す力が無ければ受け入れはせぬ』
「身勝手極まる物言いだな。過去の勇者はどんな教育をしてきたのやら」
挑発交じりにそう言うと、黒竜は不機嫌そうに目を細めた。
『貴様如きが彼奴を語るな。貴様如きが彼奴を侮辱するな。今、この場で消し炭にしてくれようか』
「侮辱? 私が勇者をか? 違うな、過去の勇者を侮辱しているのは貴様だろう。このような我儘な性格にしか育てられなかった無能だと、貴様を見れば誰が見てもそう思うだろうさ」
『……口で語るのはここまでだ。これ以上なにか申したいのであれば、表へ出て力を示せぃっ!!』
怒り交じりの咆哮。
その衝撃だけで、応接室の窓ガラスが全て割れて、壁にヒビが走っていく。
内面の幼稚さはともかく、凄まじい迫力だな。並の戦闘職や生産職の人間ならば、これだけで気絶していることだろう。
「ギルドマスター殿、これ以上黒竜を刺激するのは控えていただきたい!」
「ソウマ殿、黒竜は力を示せとおっしゃっている。つまり、いいのですな?」
「…は? なにを……?」
「この場で、黒竜を叩きのめしても、それは彼が言い出したことであり、私の責任ではないと認めていただきたい」
……やれやれ、酷い状況だ。
波風立てずに、用件だけ済ませるのであればソウマとの話が終わった時点でさっさと帰るべきなんだろうがな。
だが、それでは意味がない。
この暴君に、ギルドに喧嘩を売るということを浅く見られては困る。
相手がドラゴンであろうと、やられたらやり返す。それだけの覚悟を持っているのだと見せつけてやらなければならない。
この黒竜に、その主に、さらにそれらが属するこの王国に。
そして、偉そうに説教をかましてしまったカジカワに。
『かかってくるがいい、矮小なる弱者よ』
「空飛ぶトカゲ如きが。偉そうな口を利くんじゃない」
直接の戦場から退いて数年は経つが、せめてヤツの横っ面を引っ叩くくらいの抵抗はしてやろう。
生きて帰れるかは、分からんがな。
お読みいただきありがとうございます。
>いつものですね!やっぱりこの小説は――
なお、大会あたりで山場を予定している模様。
ストレスってほどでもないかもですが、あらかじめご了承いただけると幸いです。
>貴重な精霊殺しの称号が…
多分、そのうち手に入るんじゃないでしょうか。
いや別に味方の精霊を殺す予定はないのですが。
>殺そうとしたくせに殺されそうになったら文句ばかり言う。――
後にそのことを後悔するほどこき使われる模様。
長年生きてきて初めて命の危機を感じたものですから、かなり乱暴な対応になってしまったようで。
>今無性にテイ○ズオブファン○ジアを再プレイしたい。
大丈夫大丈夫。確か水の精霊も似たような感じで襲いかかってたと思うし。
てか後のシリーズの水精霊、キャラが全然違って非常に穏やかですよね。
>今気づいてしまったのですが。。――
戦闘中に体内に潜り込ませるのはちょっと無理があるかもです。
まあ拷問なんかする時には恐ろしく効果的かもしれませんがががが。
>その収納したマグマはどうするんですかねぇ
ロクな使い方しない方に1兆ジンバブエドル。
高エネルギーのを秘めた物質を収納できるのもアイテム画面の恐ろしいところ。
描写されていませんが、他にも海水とかミニマム・ヨルムンガンドの毒腺とか入ってたりします。
>マグマが冷え固まった溶岩プレートで焼肉できますよ。――
石焼き芋ならぬ溶岩焼肉ですか。やっぱ赤外線とかの効果で美味しく焼けるんでしょうかね。
中級精霊たちは握り殺されそうになった時点で心が折れてしまったようで、そこまでする必要はなかったようです。まあ反逆されたりしたら空打ちどころか即ブチ当てて大人しくさせるかもですか。




