精霊の脅威 恒例の脅迫
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〈貴公を精霊に対する脅威と認定する。この場にて排除しておくとしよう〉
〈精霊を殺せるだぁ? 人間如きが、調子ぶっこいてんじゃねぇぞ!〉
はい。鉱山で暴れてる精霊使いのエルフとドワーフの喧嘩を止めようとしたら、その二人が使役してる精霊二体に敵認定されました。もっかい言うけど、どうしてこうなった。
チビ精霊たちが『俺は精霊を殺せる』なんて物騒なこと言うからいらん誤解を招いたじゃないか。
≪……梶川光流が精霊に対し、害意をもって魔力操作を使用すれば精霊の殺害は可能≫
いや、魔法使いとかも魔法をブチ当てれば精霊殺れるでしょ。
アンタらの隣にいる二人も魔術士だろうに、なんで俺だけ危険人物扱いされてるんですかね。
≪スキルを使う予兆もなく魔力を操作していることを察知し、それを脅威に感じていると推測≫
そんだけで? いや、だからスキルの有無じゃなくて精霊に危害を加えられることには変わりないでしょ?
≪スキルを介した魔力で精霊を殺すことはできない。多少のダメージは与えられるが絶命に至ることは無い。例外として、精霊魔法で精霊を殺害することは可能だが、それは同じ精霊同士による干渉行為であって、人間が精霊を殺した前例はない≫
……えー。なにその不可思議なルールは。
要は精霊って、同じ精霊以外の種族に対してほとんど無敵ってことじゃん。
……で、俺の魔力操作はスキルを介してないからそのルールに当てはまらないってことか。
精霊からしたらこれまで無害と思ってた生き物の中に、一体だけ自分たちを殺すことができる変異体が混じってるようなもんだし、そりゃ怖いわな。
だが、それでも言わせてほしい。
「おいおい、俺は精霊を殺したことなんか一度もないぞ。危害を加えられない限り、そちらに害をなすつもりもない。というか、そっちが俺を殺せるのはいいのに、俺がそっちに危害を加えられるかもしれないってだけで排除しようとするとかおかしくないか? それなら世界中の精霊使いも殺害対象だろうに」
〈精霊と心通わす者が、悪戯に我らを傷つけるはずもなし〉
〈だがテメェには保証がねぇんだよ。俺たちに牙を剥かないって保証がなぁ!〉
〈いやー、しょうじきそっちのねーちゃんもかなりやばいんだけどなー……〉
〈イヴランもかなりせいれいづかいがあらいよな。ぶっちゃけかろうしするかとおもうれべるだわあれ……〉
〈ばか、いらんこというな! よけいにはなしがややこしくなるだろーが!〉
後ろの方でチビたちがなんかボソボソ言ってるけど、それ言ったらアルマやロリマスにまで飛び火がきそうだから黙ってろ。
てか過労死て。ロリマス普段どんな扱いしてんだ。
〈滅するがいい、異端の者よ〉
〈骨まで灰になっちまいなぁ!!〉
「や、やめなさい! いくらなんでも結論が短絡的すぎます!」
「そいつは関係ねぇだろうが! なにいきなり意気投合してやがんだよ!?」
精霊使いの二人が慌てて止めようとするが、聞く耳持たないといった様子でこちらに敵意を向ける精霊二体。
「こっちとしては喧嘩を止めにきただけなんだがなー。とりあえず、隣の物騒なこと言ってるヤツを止めてもらえないか? スキル使うのやめて強制送還とかできないの?」
「だ、ダメだ、帰そうとしても拒否しやがる! おい、イフ! もういいから一旦帰れっての!」
「ノームも冷静になりなさい!」
〈我は冷静そのものだ。落ち着いて考えたうえで、この人間は排除すべきだと判断した〉
〈安心しろ、俺らが勝手に殺したことにすりゃあお前らに責任はかからねぇ、よ!〉
自分の主に話しかけながら、ノームとイフリートがこちらに攻撃を仕掛けてきた。
イフリートは炎の波を、ノームは岩の槍を高速で射出。殺す気満々ですね分かります。
「リトルノーム、防いで」
〈ま、まってくれよ! あにきたちのこうげきをふせぐってことは、あにきたちとてきたいするってことだろ!?〉
〈たちばじょう、ちょっとそれはかんべんしてほしいんだけど〉
〈あとでおこられちゃうよ!〉
「……私の怒りを買うのと、あの精霊に怒られるのと、どっちがいい…?」
〈ぜんいん、しぬきでふせげー!!〉
〈あちちちち! あっつい! こげる!〉
アルマが嫌がるチビ精霊たちを無理やり使役し、地面を隆起させ攻撃を防いだ。
これって、例えるなら部下が上司に逆らうカタチになるんじゃないか? 後が怖そうだ。生きろチビたち。
〈邪魔すんなチビども!〉
〈お前たち、覚悟を決めたうえで我に逆らっているのだろうな……?〉
〈ひいい! ご、ごめんなさーい!〉
〈あにきにさからうのはこわいけど、ねえちゃんのほうがもっとこわいからねしかたないね〉
兄貴分の怒りに触れて恐怖する者、またアルマに叱られる恐怖と板挟みになり無駄に悟りをひらきそうになってる者までいる。
だが、それでも防いでいる。格上の中級精霊の攻撃を、辛うじてだが防ぎきっている。アルマが魔力操作で精霊たちに渡す魔力を追加しているからだ。
攻めあぐねた中級精霊二体が、一旦攻撃の手を止めた。
〈……ふむ、下級精霊とは思えぬ魔力捌きだ〉
〈俺やこのカタブツに匹敵するほどの力たぁ、正直感服したぜ〉
〈そ、そうだろー! どんなこうげきもつうじないぞー!〉
〈だからもうやめましょ! おねがいだから! もうやだこわい!〉
〈……おい、もう面倒だ。テメェと手ぇ組むのなんざまっぴらだが、さっさと片付けるぞ〉
〈貴公と力を合わせるなど、こちらとしても御免蒙りたい。だが、確かに面倒だな〉
……なんか、中級精霊たちが不穏な会話をしてなかったか?
なにをする気だ……?
〈溶け流れよ〉
〈飲み込み、焼き尽くせ!〉
精霊二体が同時に魔力を放ち、二つの魔力を一つに束ね、絡ませる。
結果、熱を持つ土石流、いやマグマの奔流となってこちらに流れ込んできた。
煌々とぼんやり赤く光る土の波が、地面を焼きながら接近してくる。
〈ぎゃー! むりむりむり! これはさすがにむりー!〉
〈こんなのさわったらとける! おれらでもしんじまうってー!〉
たまらずチビ精霊たちが悲鳴を上げて逃げていく。
うん、まあこれは仕方ないわ。さっき隆起させて作った岩の壁も、ドロドロに溶けて決壊しちまったしな。
さて、ファストトラベルで逃げるのは容易いが、このマグマが鉱山の中を流れていったらまずい。
鉱夫たちがしばらく仕事ができなくなったりでもしたら申し訳ないし、止めるとしますか。
そう決めて、マグマに向かって足を進めていく。
「ひ、ヒカル!?」
「カジカワさん、なにを!?」
〈ほう、周りの者を巻き込まぬように、自ら命を差し出す気か〉
〈諦めがいい奴は嫌いじゃないぜ? いや、ただの根性無し……か……!?〉
あと十数cmでマグマが俺に触れる、というところで、マグマの動きが止まった。
否、違う。俺に触れる前に、マグマが消えて無くなっていっているんだ。
〈流れが、止まる……? いや、消えている……!?〉
〈ど、どうなってんだ!? 奴に届く前に消えちまってやがる!〉
タネは簡単。アイテム画面先生のおかげである。
アイテム画面は、俺が持ち上げられる非生物ならば無制限に収納することができるというアイテム保存機能だ。
そして、持ち上げるのは、別に俺が直接手で持ったものに限られない。
魔力操作で持ち上げた物も収納可能な物体に含まれるようで、離れた場所にある物も魔力で持ち上げればアイテム画面へ放り込むことが可能。
さっきからマグマが消えているのは、地面に魔力を広げてその上に流れこんできたマグマを収納しているからというわけだ。
アイテム画面のことを知らない精霊たちは、なにがなんだか分からないといった様子で狼狽えている。
さて、次の手を打たれる前にさっさと制圧しますか。
密閉空間を作られて炎で一気に酸素を消費して窒息させたりとか、坑道を崩落させてからじわじわと蒸し焼きにするとかされたらたまらんし。
魔力飛行で距離を詰め、精霊二体を魔力ハンドで締め上げる。
これがホントのマジックハンドってか。……つまらん。
〈ぐぉぁああ……!?〉
〈ま、マジで人間のくせに俺らを掴んでやがる…! は、離せ!〉
「なら今すぐ敵対行動をやめろ。これ以上ちょっかい出してこないなら、こっちもそちらに危害を加える気はない」
〈し、信じられるか! 攻撃をやめた途端に、お前が俺たちを殺さない保証がどこに――〉
「殺そうと思えば今すぐ握り潰すことだってできるんだぞ。お前たちが今こうやって話せているのが、なによりの証拠だと思わないか? 疑わしいようなら、もうちょっと力を込めてみようか」
〈ぎゃああぁぁ……! や、やばい、コイツ、すげぇ力だ……!!〉
ギリギリと徐々に握る力を強めていく。こんな拷問じみたことしたくないけど、説得のためだからね。あー心が痛むわーホントホント。
「カジカワさん、はたから見てると完全に悪役のそれなんすけど……」
「先に手ぇ出したのはこいつらだろ。正当防衛ダヨー」
二体ともしばらく抵抗していたが、ついに音を上げてマグマを止めて攻撃を中断した。
〈わ、我らの負けだ……!〉
〈もう攻撃は止めた! 早く離せ!〉
「ああ、ついでだし離す前にもうひとつだけお願いをしていいかな?」
〈そ、それじゃ約束が違うだろ!〉
〈や、やはり我らを殺すつもりか……!?〉
なんかビビってるようだけど、別に断られても危害を加えるつもりはない。
ただ、この状態の方がお願いを聞いてくれそうな気がしたから持ってるだけで、決して害意は無い。うん。ホントに。
〈……なんか、このじょうたいにみおぼえがあるんだが、きのせいかな……?〉
〈きぐうだな。おれもみおぼえあるわー〉
〈……じごくへようこそあにき。これからはばしゃうまのごとくいっしょにはたらこうぜーははは……〉
何をお願いする気か察したチビ精霊たちが同情の声を発している。
いらんハプニングに巻き込まれたと思ったが、まあアルマの力が増すことになるきっかけだったと思えばいいか。
これからよろしく頼むよオフタリサン。
お読みいただきありがとうございます。
>仕方ないね、危害加えるんならやらないといけない。――
なんか最近感想欄に本編以上にエグい発想のコメントが書かれることがあって草。
頭同士をごっつんこするのはウェアウルフ相手にやったし、話を早く進めたいので握り潰す寸前で止めにしときました。いやーやさしい処置だなー。
>精霊が死んだ!この人でなし!(まだ)
感想欄の殺意が強すぎる。いや主人公をそういうキャラに書いてるせいなんだろうけど。
頭は掴んでませんが、全身をアイアンクローした模様。……どっちが苦しいんだろうか。
>なんというか、次回精霊に関節技掛けてる光景しか思い浮かばない
感想欄(ry
……精霊の関節ってどこだろうか。よく分かんないから適当にねじったりしてそう。
>ホースラディッシュ(西洋ワサビ)かな?っ(牛肉の薬味)
実は本わさび食べたことなくて、ホースラディッシュ仕様の練りわさびしか口にしたことがありません。
牛肉にも合うとは意外。牛肉が手に入ったら試してみましょうかね。……財布の都合と相談しつつですが。
>この世界でもエルフとドワーフの仲は悪いのでしょうか?――
別に仲悪くないです。この二人も言い争いがヒートアップした挙句こうなっただけだったり。
あとエルフは精霊魔法を使うものが多く、幅広い分野で活躍しているという設定なので、鉱山や農場で働く者もいます。種全体の数自体は少なめですが。




