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閑話① 変わった人

今回はアルマ視点で、これまでの話をダイジェストで書いてます。

別に読まなくてもストーリー進行に影響はほぼ無いです。


魔獣討伐の依頼を受けたけど、今日の成果はあまり良くない。

運悪くコボルト2匹を同時に相手する羽目になって、魔法を使い過ぎた。もうこれ以上討伐を続けるのは危険。早く街に戻らないと。

コボルトの討伐報酬は1匹700エン程度だからこれで1400エン。

宿代を引けば手持ちは400エンしか残らない。これじゃ今日の晩御飯の食材を買っただけでパアだ。

自分の生活費もまともに稼げないなんて、やっぱり、私は駄目な人間なんだろう。



いつからだろう、剣を振るうのが辛いと感じるようになったのは。

いつからだろう、魔法を使うのが楽しいと感じられなくなったのは。

両方とも、お父さんとお母さんから受け継いで、育んでもらった大事な力なのに、今では煩わしいとさえ感じる時がある。


15歳になって成人した時に、持っているスキルをもとに職業を決める。そしてその職業にふさわしい職に就く。

それが当たり前のルール。誰だってみんなそうやって大人になって、働いて生活している。


15歳の誕生日に、私には3つの職業の選択肢があった。

一つは見習い剣士。お父さんから受け継いだ、剣術スキルを持った人が選べる職業。剣を使いこなせる代わりに魔法が使えない。

一つは見習い魔法使い。お母さんから受け継いだ、攻撃魔法スキルを持った人が選べる職業。魔法が使えるけど、剣を扱えない。

そして、もう一つがその両方のスキルを持った人間が選べる職業、見習いパラディン。


選ぶ前から何度も聞いていた。

見習いパラディンは剣と魔法両方を使えるけど、その分スキルも能力値も上がりにくい、器用貧乏な不遇職なんだって。

これを選ぶくらいなら剣か魔法、どちらかを捨てて見習いの剣士か魔法使いになりなさい、と言い聞かされてきた。


両親は、どちらも私を溺愛しているのが誰でも分かるくらい、すごく、…うん、ものすごく、私を大事に育ててくれた。

その両親からもらった力を、どちらか捨てなければならない。私には、それがどうしてもできなかった。

力を捨てられた方の親の悲しむ顔を想像しただけで、心が痛くなった。



だから、私は、見習いパラディンを選んだ。選んで、しまった。

両親は、何故、と二人とも驚いたような、悲しんでいるような顔をした。

理由を正直に話したら、二人とも大泣きして、謝りながら抱き着いてきた。

どちらかのそんな顔を見たくなかったから、この選択をしたのに、これじゃ最悪の結果だ。

こんなことなら、覚悟してどちらか捨ててしまえばよかったと何度も後悔した。

こんなことなら、大人になんか、なりたくなかった。


私は、あの時どうするべきだったんだろう。

私は、これからどうしたらいいんだろう。


家にいると、両親は相変わらず笑顔を見せてくれたけど、時々どこか憂いを感じさせる表情になった。

私に自責の念を感じているのが分かる、そんな表情。

その顔を見るのが辛くなって、独り立ちすることを決めた。

両親は随分引き留めたけど、これ以上私のせいで悲しませたくなかった。

今思うと、両親のためじゃなくて、単に自分を守るために逃げたかっただけなのかもしれない。


一人暮らしを始めた私に待っていたのは、厳しい現実だった。

冒険者ギルドで、ギルドマスターに一通りの基礎基本を教わって、冒険者としての人生を始めようとしていたけど、一人ではできることに限りがある。

炊事、洗濯、掃除、生活必需品の購入、お金を貰うための仕事など、やることは山積みだ。

いままでどれだけ自分が甘やかされてきたか、こんな状況になって初めて分かった。

パーティを組めばある程度役割分担して負担を軽減できるけど、不遇職の私と組みたがる人はほとんどいなかった。


いや、いるにはいた。一つ年上で赤い髪のフィフライラ、その仲間の青い髪のシウルマーニと、銀髪のミオクスメルの三人組が。

その三人に声をかけられて、パーティに入るように誘われたことがあった。

もっとも、三人に誘われる頃には自分に自信が持てなくて、むしろ自己嫌悪すら感じていた。

自分は見習いパラディンで、不遇職の足手纏いだから迷惑になる、と言って断った。

それでも何度も誘われたけど、人付き合い自体がもう嫌になっていた私は断り続けてしまった。

それに怒ってきつい言葉をかけられたりもしたけど、全て正論だから、と言ったらもっと怒ってきた。

今思うとあれは彼女なりに私を気遣って、私に対してじゃなくて、私のために怒ってくれていたんだと思う。

それが分かっているのに、意固地になって断り続けて、私は、本当に馬鹿だと思う。


そんなことをしたのに、まだ、誰かに助けてほしいと思っている、自分勝手な大馬鹿だ。







「誰かあああああああっ!! 助けてくださああああああああいっ!!」




…!?

思考に耽っている最中に、近くで男の人の大声が聞こえた。

助けてくださいって、何かに襲われてるのかな?

…助けてほしいのはこっちのほうだ。


仕方なく声のした方に走ってみると、妙な格好をした、黒髪の、20代くらいの男性がゴブリンに囲まれていた。

なんであんな状況になってるんだろう。

というか、え? 戦えないの? ここ、危険区域なのに、戦えないのならどうしてこんなところにいるの?

それとも戦闘職だけど武器を失くしたのかな。どちらにしてもあの状況は危険だ。

魔力はもう残り少ないけど、見捨てるわけにもいかない。

ここで見捨てたら、もう私は本当に自分が許せなくなってしまう。

襲い掛かろうとしたゴブリンに、ファイアボールを放って駆除。

もうこれ以上魔法も剣術も使うわけにはいかない。魔力切れでまともに動けなくなってしまう。


助けた男性に声をかけて、後ろに下がらせてからゴブリンたちに剣を向けた。

魔獣たちは意外に仲間意識が強い。

目の前で仲間を2匹も殺した、私に敵意が向くのは当然の結果だ。

これで男性の安全はひとまず確保できたと思う。

あとは、なるべく一匹ずつ倒すだけ。

この数で連携されると厳しい。早めにケリをつけないと。

最初は他と離れた一体の喉を斬って倒した。

次に剣を持った奴の腕を斬り、同じように喉を斬った。

その隙に襲い掛かってきた奴はお母さんから教わった護身用の技、…急所を蹴るだけだけど。を浴びせた後、胸を刺して殺した。


これで、残りは3匹。

大丈夫、魔力が残り少なくてもある程度は戦えるみたいだ。

そう思ったのがいけなかったのか、弓持ちのゴブリンを倒そうとした時に連携をして襲い掛かってきた。

前衛2匹に対処している間に私に矢が放たれた。回避はできない。咄嗟に魔法を使って矢を撃ち落としてしまった。

魔法を放った直後、眩暈がして、身体中がだるくて力が入らない。魔力が切れかかっていて、もうまともに動けない。

ああ、やってしまった。この状態じゃもう3匹倒すなんて、とてもじゃないけど無理だ。

弓持ちが嗤いながらこちらに向かって弓矢を構えている。このままでは今度こそ当たって、最悪死ぬ。

あの男性は、無事に逃げられただろうか。でなければ私が助けた意味がない。

はは。最後に他人の心配をするなんて、私もそんなに捨てたものじゃなかったのかもしれない。

そう思いながら諦めて矢が当たるのを受け入れそうになった時に、


その男性が、弓持ちに石を投げ当てて矢の軌道をずらした。

それも運よく狙いがずれた矢が他のゴブリンに当たった。

え、なにをしてるの、早く逃げないとそっちが襲われるのに、と未だクラクラしている頭をさらに混乱させながら男性を見ていると、今度はゴブリンの死体から棍棒を奪って弓持ちを殴り殺した。

…ゴブリンの持ってる武器ってあんなに強かったっけ? どうみても木でできたただの棍棒なのに、あっさり倒した。

続いてもう一体も顔を殴って撲殺。…私は魔力不足で変な幻覚でも見ているんだろうか。

この人、普通に戦えるじゃん。なんでさっき助けを求めてたのか分からない。

最後の一匹が金切り声を上げながら男性に向かっていったのを、アレはまずい、決死の覚悟だと思い、後ろから剣を投げて倒した。


辛うじて危機を脱したのを自覚すると、緊張の糸が切れたのか倒れそうになった時に、その男性が体を支えてくれた。

……あ、まずいかも。いま、魔力不足のうえに武器持ってない。私、何されても抵抗できない。

内心警戒していたけど、男性は本気で心配しているみたいで、私に対していかがわしいことをする気は無いみたいだ。

ひとまず安心したけど、魔力不足でまともに歩くことも難しい。街まで戻れるか分からない、と思ったけど、その男性が持っていたもぎたてのエフィの実を渡してくれて、魔力を回復できた。

もぎたての天然物は高級品なのに、あっさり二つもくれた。久しぶりに、美味しい物を食べた気がする。

たまには、人を助けるのもいいかもしれない。そう思えるほどの味だった。

男性に自己紹介をすると、男性も『カジカワヒカル』という名前を教えてくれた。

カジカワは姓で、ヒカルが名前らしいから、ヒカルと呼ぶことにした。


自分の住んでいた所の場所が分からない、これからどうしよう。と困っている様子だったから、とりあえず街まで案内して、今後のことを考えることに。

職業を聞いてみたけど、分からない、と言われた。

その時は、私みたいな不遇職で、人に言いたくない職業なのかと思って深くは聞かなかった。

街の門で鑑定してもらった時に、本当に職業が分からなくて何のスキルも持ってない、それどころかこれからスキルを新たに獲得することもできない、と言われているのを聞いた。

…本当に、分からなかったんだ。そのうえスキルがないって、自分のことを不遇職だと嘆いている自分が馬鹿らしく思えるほどに、ヒカルのステータスは酷いものだった。

気の毒なんて言葉すら出ない。こんなステータスじゃ赤ん坊にすら負けるだろう。



あれ?ならどうしてゴブリンを倒せたの?

この人、正直に言って、変だ。

もうなにがどう変なのか上手く言えないくらい、すごく、変だ。

お読み頂きありがとうございます。


シリアスな話ずっと書いてると拒否反応起こしそう…。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[良い点] アルマ視点でこれまでの流れを一通り俯瞰できるのが、ストーリーに厚みを持たせていると思います。 この後の続きも同様の感想です。
2023/01/23 21:59 退会済み
管理
[一言] パパさんも被害にあってそう(草 〉その隙に襲い掛かってきた奴はお母さんから教わった護身用の技、…急所を蹴るだけだけど。を浴びせた後、胸を刺して殺した。
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