医療都市到着
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3日ばかし馬車に揺られて、やってきました医療都市【フレイラック】。
途中で簡易の休憩所や宿があったとはいえ、3日間も馬車に乗りっぱなしだったのは正直こたえた。主に尻と精神面に。
「あ゛ー……やっと着いたなー……」
「ずっと馬車の上で過ごしてて、運動不足になりそうだった」
「まあ魔力操作の修業をしてたから、そんなに退屈でもなかったっすけど」
『ピピィ』
大っぴらに動けない状況でも魔力操作の修業ならできる。
暇つぶしも兼ねて、俺が魔力で作った的に向かって魔力弾を当てる的当てゲームとか、旗揚げゲームのように指示通りに魔力を指先でエネルギー変換するゲームとか、無駄にバリエーション豊かに修業方法を編み出してたな。
アルマとレイナが白熱しすぎて魔力切れになることもあったが、まあそれだけ楽しんでもらえたってことで。
結果として全員、感知と器用さが少し上がってたし割と有効な修業方法ではないだろうか。
「……小指・光!」
「! ……あ」
「はっ! つ、つい条件反射で……!」
『ピピッ!』
俺の掛け声に反応して、2人+1羽が魔力を小指の先で変換し、光らせた。いやヒヨ子は蹴爪の先だが。
反射的に魔力をエネルギー変換できるようになったあたり、実戦でもちょっとした牽制くらいには使えるかもな。
「ハハハ、もうすっかり身に沁みついちまってるな」
「むー! カジカワさん、親指・水! 人差し指・風!」
「中指・雷、薬指・火」
『ピピッ! ピピピッ!』
「はい、これでいいのか? ヒヨ子、小指・氷でいいんだよな?」
「あ、あっさり違う属性を同時に変換してるっす……」
「……魔力操作でヒカルに勝つのは難しい」
『ピピィ…』
ちょっと悔しそうな顔を見せたが、器用さが上がればみんなもこれくらいできるようになるってば。
俺が簡単そうに変換できるのは、よく一人遊びでふざけて魔力操作してるからだろうし。
医療都市を散策してみてるが、薬屋と薬草店が多い以外は特に他の街と大きな違いはなさそうだ。
てっきり住民全員が白衣とマスクでも着用してるのかと。……まあそんなわけないよな。
「この街では目ぼしい薬草や回復薬の補給、あと近くの魔獣のテリトリーで薬の材料の採集とかしてお金を稼ごうと思います」
「うん。ヒカルがいればすぐに回復してもらえるけど、万が一はぐれたりした時の緊急用に備えておきたい」
「状態異常の回復薬も手に入れておかないと。院長の受けた毒みたいに下級の薬だけじゃ治らないような毒や病気も怖いっすから」
『ピピィピピィ』
「はいはい、もちろん特産品の食材なんかも忘れずにね」
「……ナチュラルにヒヨコちゃんと会話してるのに最早違和感がなくなってきてるっす……」
さてさて、とりま冒険者ギルドへ行っていつもの魔獣討伐と薬草採取、あと依頼書の確認をして気になる依頼があったら受注してみるか。
この街にもあまり長居はできないし、パパっと済ませられるものにしておこうか。
「お、お願いします! どなたか、どなたか受注してください!」
「こ、困りますよお客様! 依頼書ならもう貼ってありますから、後はもう受注する人を待つだけで止めてください!」
「でも、もう何日も誰も受けてくださらないではないですか! このままでは、あの人が、う、ううぅぅ……!」
……ギルドの中に入った途端、なにやらヒステリックに騒いでいらっしゃる人が居ますね。どしたの?
銀髪ウェーブの女性が悲壮感たっぷりに半泣きで、依頼を受注してくれないかと騒いでいるようだ。
「報酬なら、充分過ぎるほどに提示してあるはずなのに、なぜ、誰も、受けてくださらないのですか……!?」
「いやいや、確かに500万エンは魅力的な値段だけどさ、件の果実を採りに行く場所が魔獣森林奥地の毒の森ってアンタ……」
「並の状態異常防止装備じゃまずもたないし、回復薬を使いながら無理して進もうにも限界があるだろ。生息してる魔獣も奥地はヤバすぎるし、割に合う合わない以前に無理だ」
「そ、そんな……!」
なんだか皆さん説明口調っぽくどういう状況かを伝えてくれてるな。
てか『果実』? メニューさん心当たりは?
≪……情報検索の結果、医療都市近辺の魔獣のテリトリー奥地に『完全回復薬』の原料となる果実が生る木が存在する模様≫
それっぽいかな。誰かが今すぐそのエリクサーを必要なくらいヤバい状態ってことね。
で、毒の森ってのは?
≪奥地には様々な毒素を含んだ胞子を放出する木々が自生しており、並の魔獣や冒険者では毒に侵され数分程度で死に至るレベルの危険区域。Sランク冒険者クラスの抵抗値がなければ採取は至難≫
……そりゃ誰も受けんわなそんな依頼。
てか500万エンあってもエリクサーって手に入らないの?
≪エリクサー自体の値段は300万エン程度だが、この都市にあるものは全て対魔族軍などに売却済みの模様。再入荷は未定≫
すぐに欲しけりゃ自分で材料集めて作るしかないってことか。
で、依頼を出してるけど誰も受けてもらえないと。八方塞がりですやん。
誰か採りに行けるような人とかいないの? Sランク冒険者とか。
≪この都市近辺にSランク冒険者相当の冒険者はいない。……ただし、1名例外アリ≫
え、誰よそれ。
≪梶川光流の能力値ならば、毒の胞子に充分抵抗可能。よって、現在果実が採取可能な人物は梶川光流のみと推測≫
……えー。
あのさぁ、いくらなんでもタイミングとか状況とかがご都合主義的すぎない?
どう考えても俺が行かなきゃいけないような依頼をギルドに入った直後に見かけるとか。幸運値先生仕事しすぎ。
だが、報酬500万エンは正直魅力的ではある。
こちらとしても手早く大金が手に入るのは渡りに船だ。
……もちろん依頼人さんの気持ちも考えてますよホントだよ。
≪ただし、魔獣森林奥地の魔獣は毒に対する抵抗値を十分に獲得しているほど成長している個体ばかりで、最低でもLv50以上の魔獣が徘徊するような場所なので、毒の脅威がなくとも危険度は高い。また、毒の影響があるため梶川光流以外のメンバーは立ち入ることができない≫
ダンジョンの時みたいに、魔獣を避けながら進むことになりそうだな。
……一人で行くことに一抹の不安を覚えるな。下準備はしっかりしておこうか。
お読みいただきありがとうございます。
>いつものように不憫な受付さんを見れたとこ――
本音だだ洩れで草。
レイナの新忍具や新技能は大会で披露されるんじゃないでしょうか。予定は未定。
>この物語、なぜか主人公が全裸になる展開を――
誰 得 。
カムイは地獄を見た体験からくる深みのある迫力で、読んでいるだけでも鬼気迫る姿に圧倒されますよね。
次にウチの主人公がキレるのはいつになるやら。




