第5大陸上陸
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「う、うあぁ……」
「い、痛ぇ……!」
「ば、バケモンだ……」
後ろからなんか呻き声が聞こえるけど無視。どいつもこいつもバケモンバケモンうっさいわ。チンピラの語彙力の低さよ。
さっさと用件を済ませよう。
「第4大陸より参りました、パーティ『希望の明日』と申します。今後ともよろしくお願いします」
「は、は、はいぃ……」
……受付嬢が、今にも泣きそうな顔でこちらの挨拶に応えた。
そんな肉食獣に睨まれた小動物みたいな顔しなくてもええやないですかー。
はいどうもコンニチハ。
とりあえず、冒険者ギルドに顔を出してみたが、早くもトラブル発生。
なんでも、『第4大陸からくる冒険者は大体雑魚ばっか』という認識が第5大陸の、というかこの港町のギルドの冒険者の間での常識らしく、早速俺たちにちょっかいかけてこようとする奴らに絡まれました。
こちらを雑魚扱いするだけのことはあり、平均Lv30以上でそこそこの強さの野郎3人組にカツアゲされそうになったけど、まあ、その、後ろの惨状を見ればどうなったかは察してほしい。
「い、いてぇ……! まさかあんなチビのガキにやられるなんて………!」
「こないだ入ってきた緑髪のガキもだったが、最近の第4大陸の奴らヤベェな……」
「いま、チビって言った人。もっかいぶん殴るっすよ?」
「ひいぃっ! すんません! もう勘弁してください!!」
レイナも大分物騒な感じになってきたなー。
いったい誰に似たのやら。あのクソオヤジか? いやこんな迫力満点じゃなかったはずだが、不思議だなー。
「いやー、レイナ怖いわー」
「カジカワさんにだけは言われたくないっすよ!」
「どう考えても、ヒカルの影響だと思うけど……」
「えぇ……? 俺、そんなに怖く見えるの?」
「うん」「はいっす」『ピッ』
「いやいやいや、アルマとレイナはぶん殴ってたのに対して、俺はデコピンで済ませてあげたじゃん。優しさに満ちてるよー」
「そのデコピンを受けて、吹っ飛んで泡吹いて気絶したのがいるんだけど」
「ぶっちゃけその人が一番重傷っぽいんすけど。まだ自分のパンチのほうが優しいっすよ……」
「……はがが……うあぁ……」
後ろで額から血を流しながら白目で呻き声を上げてるのが、俺がデコピンしたヤツね。
死なない程度に手加減したし、脳細胞とか特に損傷はないみたいだからへーきへーき。
ここから王都へ向かう順路の中で、比較的安全なルートを教えてもらった。
用件が終わった後に出ていこうとする俺たちを見て、受付嬢が心底安心したような表情をしていたのがなんか解せなかったが。
さてさて、王都までの行き方は分かったし、今日はもう宿へ行って休も――
「ギャアアアァァァアアッ!!!」
「な、なんだ!? 宿のほうから誰かぶっ飛んできたぞ!?」
「赤髪の女に喧嘩売った冒険者が殴り飛ばされたらしい! 第4大陸から来た女だそうだ!」
「また第4大陸のヤツかよ!? どうなってんだ最近のあの大陸は!」
「あの女、暴れ狂って手が付けられねえ! 誰か止めろぉ!!」
……もうちょっと街中を見て回ってからにしようそうしよう。
船で別れてから次に会うのはひと月後に王都でって言ってたけど、案外早く再会しそうだなー……。
「ヒューラさんも派手にやらかしてるみたいっすねー」
「つーか絡んでくるやつ多すぎだろ。治安悪いわー」
「常に人の目を気にしてないといけないのは疲れる…」
さっきギルドで絡んできた奴らで既に2回目。
1回目は船から降りた直後に、俺を海に突き飛ばしてアルマとレイナを攫おうとしたヤツらがいた。
まあ明らかに挙動不審な動きしてたし余裕で対処はできたけど。
ちなみにそいつらは海に向かって思いっきりぶん投げてやった。多分、今も海の上で陸を目指して海水浴やってると思う。岸まであと何百メートルだろうね、ガンバレー。
第5大陸へ着いて、最初の町【ヒェルンエリン】 ランドライナムから半月ほど船に乗って着く港町だ。
散策してみてるが、ランドライナムと似てるようで中身はまるで違う。
まず港の規模。ランドライナムに比べて軽く3倍近い広さがある。
停泊している船の大きさもデカいのばっかだし、出入りする船と人の数も段違いに多い。
店売りしてる物の質。ランドライナムも決して品揃えが悪かったわけじゃない。むしろ他の街に比べてもかなり種類が豊富だった。
しかし、この町で商売やってる店は第1~5まで全ての大陸から入ってくる商品を並べているっていうんだから、もう品揃えがいいとかそういうレベルじゃない。
RPGなんかだと、もう終盤にさしかかったあたりで訪れる町って感じだ。
店に並んでる装備品なんかもAランク相当のものがチラホラ見えるし。値段もヤバいが。
そしてなによりも食材! 調味料! 香辛料!
山海の珍味、豊富な種類のソースやスパイス、農作物はもちろん天然物の貴重な食材までより取り見取りだ。
さすがに他の大陸から取り寄せたものは保存がきくものか、冷凍保存されたものばかりだがそれでも素晴らしい品揃えだ。
「うおおお……! バジルだ、これがあればジェノバソースが作れるぞ! ピザとかパスタの味付けのレパートリーが、っておおお? なんだこれ、栗、いやウニ? 中からハマグリみたいな貝が覗いてるけどなんだこれ?」
「……まるでおもちゃ売り場にきた子供みたい」
「あんな目をキラキラさせてるカジカワさんそうそう見られないっすねー」
『ピピ……』
やばい、下手したら食材売り場を覗いてるだけで朝から晩まで時間が潰せそうなんですけど!
前の大陸じゃ手に入らなかった食材や、味や食感の想像がつかないようなものが当たり前のようにズラッと並んでいる。
もう並んでる食材全部買って帰りたいくらいだが、さすがにそこまでお金に余裕がありません。新しい武器作ってもらった後、次の依頼出したばっかだし。
でも、いつまでもここに留まるわけにもいかない。他のメンバーがまるで洋服店をいつまでも覗いてる彼女を待ってる彼氏みたいな雰囲気を醸し出してるし。……立場逆じゃね?
仕方ない、目についたのを2、3個買うぐらいで止めておくか。
……ところで、これって栗なの? ウニなの? それとも貝なの? 分からぬ。
さて、本当ならこの町でしばらくのんびりしていたいところではあるが、そうもいかない。
武術大会が開かれる王都まで、最短でおよそ2週間。もうひと月を切っているのにボヤボヤしてると間に合わない。
となると、この町にいられるのは長くても3日くらいか。その間に近くのテリトリーで魔獣を狩って路銀を稼いでおかないと。
でも、この町の近くにあるテリトリーってこの大陸で一番弱い魔獣ばっかり生息してるエリアらしいし、大して稼げないだろうなー。
「まあいいや。弱い魔獣しかいないならその分討伐数を増やせばいい」
「うん。Lv10~30程度なら一人でも軽く50体はいける」
「……近日中にテリトリーの魔獣が死滅しそうっす……」
『ピィ……』
魔獣にまで気を使ってたらなにもできないだろうに。
それに魔獣は繁殖するだけじゃなくて自然発生するケースもあるらしいし、仮に全滅させたとしてもすぐに数を増やすだろうし問題ないない。多分。
「そろそろ宿の騒ぎも収まったころだろうし、今日はもう休もうか」
ヒューラさんも同じ宿に泊まっているなら、また晩御飯に誘ってみるのもよさそうだ。
……ちょっと気まずいかもしれんが。
お読みいただきありがとうございます。
>ハチャメチャ奇天烈集団が新大陸上陸――
全員ヤベーやつばっかだけどぱっと見弱そうに見えるから早速絡まれてますね。
で、結果は見ての通り。合掌。
受付嬢はとりあえずまだ無事です。まだ、今は。
>あれ? レイナ達に鬼先生のことを伝えた描写ありました?――
レイナの故郷を襲ったネズミのボスと戦ってる間にチラッと先生のことを言ってます。
まあ詳細までは伝えてませんがカジカワが手も足も出ないということは絶対ヤバいということを察しているようです。
書いてる期間は1年以上経っているのに作中の時間は数ヶ月程度という。リアルの月日の経つ早さよ。
感想は一つ一つ拝見させていただいております。本当にありがとうございます。
>ついに到着!多分、アルマと勇者は戦う展開になるだろうし――
どうなるんでしょうね。
勇者は勇者でクソチート性能ですので格上相手にも充分勝てるのですが、アルマたち相手では、さて。
勇者たちがどれだけ鍛えられているのか、大会までのお楽しみ。
>とりあえず一言――
まだ大丈夫です。多分。おそらく。きっと。大丈夫じゃないかな。でもちょっと覚悟は(ry




