祝勝パーティ、結成パーティ
感想、評価、ブックマークありがとうございます。
風邪も相まってテンション上がってさらにもう一話投稿するくらいにモチベが上がりました。
感謝感激です。
スタンピードによる戦闘は終わった。
魔獣の死体や素材なんかの後始末はギルド職員たちが担当し、後で討伐履歴を確認して報酬を分配してくれるそうだ。
魔物の持っていた強力なアイテムは倒した人間がそのまま持っていってもいいらしい。中には誰が倒したとかで揉めてる人たちもいたが、基本トドメを刺した人に所有権があるとかですぐ争いは収まった。
あんな戦いの後でよく喧嘩できるもんだ。元気だねぇ。
で、戦いの後のゴタゴタに巻き込まれる前に、速攻でギルドの本部に移動。
すぐにレンタルしてた装備品を返却し、宿に戻った。
労いとしてギルド負担の祝勝会が今夜あるらしいが、正直メンドイからパス。俺、戦いに参加してる扱いになってないし。
『飛行士』としてなら出てもいいだろうが、その際に余計なことを詮索されたくないしな。
ギルマスにも一応許可をとったし、飯食ってさっさと休もう。
晩御飯を作るためにキッチンに入り、作る前に座って少し一休み。
「あー、疲れたー…」
「お疲れ、ヒカル」
「ぬおぉうっ!? あ、アルマか。いつの間に近くにいたんだ?」
この子時々気付かないうちに近くにいることがあって少し怖いんですけど。
本人に悪意は無さそうだが、ビックリするわ。
「驚かせてごめんなさい。そろそろ戻ってくるころかと思って、先に帰って待ってた」
「あー、そうか。…とりあえず、お互い無事で何よりだ。お疲れ、アルマ」
「うん」
あんな規模の戦いはそう何度も体験したいものじゃないな。
あれに積極的に突っ込んでいくというアルマのご両親はやっぱ規格外というか人外というか。
「アルマは、祝勝会に行かないのか?」
「行かない。戦いが終わったあと、いろんな人から魔法剣のこと聞かれたり、パーティに入らないかって勧誘されたりして、戦い以上に疲れた。もう正直これ以上関わりたくない」
「そ、そうか。…勧誘されたのか? 返答はなんて?」
「全部断った。あの人たち、魔法剣とか、お父さんとお母さんの娘だっていうことばかり言って、私のこと自体はどうでもよさそうだったし、前に見習いパラディンだって分かったらすぐ追い払ってきた人たちばかりだったから」
…もしかして怒ってるのか?
顔は無表情のままだが、ちょっと声のトーンが低くて不機嫌そうだ。
「どこにも所属してないなんてもったいない、いくら強くても一人じゃ限界があるから入れって強引に誘われそうになったけど、フィフライラが怒って追っ払ってくれた」
「フィフライラ? どこかで聞いたような…………あ、え? もしかしてあの三人娘の赤髪の子か?」
そういえば冒険者たちのステータスをざっと確認した時に、そんな名前だったことを思い出した。
え、あの子がアルマを庇ったのか?
「追っ払ってくれた後、フィフライラからも勧誘されたけど」
「自分のパーティに入ってほしいから追っ払っただけか」
「でも、あの人だけは、他の人たちと違って、前から私に声を掛け続けてくれてたから、同じようで違うと思った。ちょっと意地悪なところもあるけど、本当はすごく優しい人」
あー、いわゆるツンデレか。
「で、どうしたんだ? その子のパーティに入るのか?」
「断った」
「え、どうして?」
「……」
「…アルマ?」
少し黙り込んだあと、静かに口を開いた。
「…わたし、私は、……ヒカルと、パーティを組みたい」
え、ええ?
「フィフライラのパーティは、女性限定らしいから、ヒカルは入れない。それじゃあ駄目」
「…え? お、俺のせいでパーティに入れなかったのか?」
「違う!」
急に、珍しく大きな声を上げられた。
顔を赤らめて、真剣な表情でこちらを見ている。
「ヒカルに会うまで、楽しいことなんてほとんど何もなかった。欲しいものは何一つ手に入らなかった。職業も、不遇職の半端者だって言われて、ずっと劣等感を感じてた。努力してるつもりでも全然駄目で、私は、どうしようもなく駄目な人間だって思い込んでた」
俯きながら、言葉を続ける。
「でも、ヒカルと会ってから、毎日が楽しい。ご飯が美味しい。修業が全然苦しいと感じない。むしろ夢中になって取り組んでた」
「そ、そうか?」
「ヒカル、私と、パーティを、組んでくれますか…?」
目を潤ませながら問いかけてきた。
おうふ、かなり破壊力のある表情だな。
「お願い、ヒカルには返しきれないくらい色々なものをもらった。これからちょっとでもお返しがしたいの。…それとも、迷惑?」
「いや、全然。むしろ助けられてるのはこっちの方だけど? むしろこっちが足引っ張らないか心配なんだが」
「そんなこと絶対にない。…なら、いいの?」
「あ、ああ。……今更って気もするが、パーティ組もうか?」
「う、うん!」
そう言うと、今まで見せたことないような満面の笑みを浮かべてこちらを見つめてきた。
ぐはぁっ! な、なんという威力だ! やべ、超かわいい。
俺、自分の理性に自信が持てなくなりそう。…下手なこと考えたらウェアウルフやゴブリンと同じく急所をやられそうだ。邪な考えはポイーで。
「えーと、それじゃ、これからもよろしくお願いします、アルマ」
「こちらこそ、よろしく」
うーむ、正直ここまで頼りにされてるとは思わんかったなー。
何をしても全然駄目ってのは俺が地球にいた時によく言われ続けてきた言葉だ。
まあその分真面目に働いて、辛うじて自分の居場所を作っていたが、いなくなったらいなくなったでどうとでもなる存在だったしな。
でも、アルマはそんな俺をいなくちゃいけない存在だと、必要としてくれてるのか。
…どうしよう、人からそんなこと言われたの初めてで嬉しいやら不安やらで思考が纏まらない。
ぐうぅ~…
内心混乱してる間に、腹の虫が鳴く音が部屋に響いた。
雰囲気ぶち壊しである。
「……ごめん、こんな時に」
「……ふふっ…」
あ、また笑った。
よく考えたら、アルマの笑顔を見るのって今日が初めてかもしれない。
いつも基本的に無表情だしなぁ。それでも可愛らしいと感じるからズルいわー。
「さーて、晩御飯はちょっと豪華にカツ丼でも作るか!」
「カツドン?」
「ああ、唐揚げみたいに肉を揚げたものを、アロライスに乗せて食べる料理だ。カツ、って響きから、本当は大きな戦いなんかの前に食って勝つためのゲン担ぎをするもんだが、順序が逆になっちまったな」
「じゃあ、これは勝ったドン?」
「いや、カツ丼です。戦いの前でも後でも勝っても負けてもカツ丼です。結果で名前は変わりません」
勝ったドンなんて言葉初めて耳にしたわ。どっかの音ゲーのマスコットが言いそうなセリフだなオイ。
さーて、それじゃあさっさと二人分作りますk――
バァンッ!!
「アルマちゃああああああん!!」
「娘よ無事かあああああああ!!」
訂正。追加で二人前入ります。
派手な音を立てて宿の扉が開く音と、アルマのご両親の叫び声が聞こえた。
いや、あんた方は今回の主役でしょうが。祝勝会にお二人が居ないのはまずいですって。
「…ヒカル、材料足りそう?」
「まあ、なんとか…」
「ああ!やっぱりキッチンに居たわ! ここから気配がしたもの!」
「おお! ヒカル君も無事なようで何よりだ!」
迷いなくキッチンに来たな。てか気配で分かるのかよ! 怖いわ!
お二人とも、怪我どころか衣服の乱れすらほとんどない。やっぱり楽勝だったみたいだな。
…やっぱ一人くらいは雑魚の掃討に回っても良かったんじゃ…。
「二人とも、お疲れ」
「お疲れ様でした。あの、祝勝会にお二人は行かれなくてもよろしいのですか?」
「アルマちゃんが居るところが私たちの祝勝会場です」
「正直、ああいった冒険者同士の飲み会も嫌いではないがな。今日はあえてパスした。面倒なことはギルマスに丸投げしてきたから問題ない」
問題しかねぇ!
ギルマスの胃腸の具合が心配だ。
「あの、これから晩御飯を作るところですが、良かったら」
「「是非! 頂きます!」」
「そ、そうですか」
めっちゃ期待されとる。まあ、唐揚げが好評だったし多分大丈夫だろう。
さて、料理に取り掛かりますかね。
あー、こうしてるとやっと日常に戻れた気がするわー。
お読み頂きありがとうございます。




