船旅最終日前日
新規の評価、ブックマーク、誤字報告、感想をいただきありがとうございます。
新キャラの名前を二度も間違えるとか我ながらアホかと。ご指摘ありがとうございます。
お読みくださっている方々に感謝します。
第5大陸に着くまであと1日。
さすがに半月もの間ずっと船の上にいるのは退屈だった。
時々魔獣が襲いかかってくるのを撃退するのが、もはや数少ない娯楽と化すぐらいに。
一応、1日だけ途中で中継の島へ燃料なんかの補給に錨を降ろすことはあった。
その間にファストトラベルでゲン工房に事情を説明しに顔を出したり、1週間近く放置してて不機嫌になってた鬼先生に肉料理やカニ料理を差し入れに行ったりしてた。
もう1週間ほど会えなくなるから、その間に食べられるように肉の燻製や干し肉みたいに長持ちする加工品を渡しておいたけど、あの食いっぷりじゃ下手したら1日で全部食い尽くしてそうだなー……。
「的当てゲームも悪くないけど、毎日やってると飽きてくるなー」
「カジカワさん、毎回ビリだからってそんないじけなくても」
「いじけてないよホントダヨチクショー」
「大ガニ魔獣相手だとあんだけ滅茶苦茶な暴れ方してたのに、こういうゲームにゃ弱いんだねアンタ」
赤斧さんことヒュームラッサが会話しつつ弾を投げる。
魔獣を討伐して以来、こうやって一緒に遊んだり運動場でトレーニングや組手の相手をするようになった。
レベルが2、3回りも上の先輩から学ぶことは多く、特にアルマとレイナにはいい刺激になっているようだ。
「投擲スキルが無いって言ってたけど、ホントに投げるの苦手なんだね」
「これでも真面目に投げてるんですけどね……」
「それなら、もう逆に不真面目に投げたらいいんじゃないっすか? 真面目にやってこれならまだそっちの方がよく当たるかもしれないっすよ?」
「言ったなてめぇ。分かった、じゃあ適当に投げるぞー。やああぁぁぁ………」
「……すごくゆっくり投げてる」
「不真面目にもほどがあるっすよ」
「あああぁぁぁ……っと」
死ぬほど遅く投げられた弾は、ものすごく遅いスピードのまま前へと進んでいく。
まあ魔力を纏わせてゆっくり進むように操作してるだけなんだけど。
「おっそ!? いやいやいや、なんだいアレ!?」
「あんまりにもやる気がない感じで投げたから、投げられた弾もヘタってるんでしょうねー」
「なわけないだろ! どうなってんだ、歩くより遅い速さのまま前に進んでるんだけど!? なんで落ちないんだよ!」
赤斧さんが困惑しながらツッコミを入れる。
魔力操作を知らないから無理もないけどな。
「ネタばらしすると、今のは投げる物をものすごくゆっくり進ませる付呪つきの指輪を装備してただけですよ。使い捨てだし、失敗作のジョークグッズですが」
「そ、そうなのかい? いや、でもゆっくり何十個も武器を投げつけて、弾幕の壁をつくったりとかできたら結構有用じゃないかい?」
「残念。なにかに触れた時点で下に落ちるので攻撃には使えません」
「ホントに役に立たないねその指輪……」
本当のことを話してもややこしくなるだけなので、なんの付呪もしてない指輪を着けつつ適当な嘘を吐いて誤魔化しておく。
不義理なようだが、まあ特に誰かが損するような嘘でもないし許してや。…だったら最初っからあんなことするなって話だが。
「船旅も今日で終わりかぁ。始めの数日は退屈だったけど、アンタたちとこうやって駄弁ったり組手の相手をしてたらあっという間だったねぇ」
「そう言ってもらえると、嬉しい」
「こっちもヒューラさんとの組手をしていて、すっごく勉強になったっすよ!」
「あはは。アンタらも、Lv30前後とは思えないくらい強くて正直驚いたよ。まだまだ負ける気はしないがね」
「武術大会で当たったら、負けない」
「あー、そりゃ難しいんじゃないかね。あの大会って確か、見習いとか中堅とかある程度のランク分けがされているはずだからね」
「まあ、そうじゃないと上級職以上の面子ばっかり勝ち進んで、若い世代が活躍できないから当然といえば当然でしょうね」
「ランクごとに優勝賞品が出るあたり、フィリエ王国の気前の良さが分かるね。大会の集客効果なんかを見越しての投資でもあるんだろうけど」
となると、そもそも中堅職とか上級職とか分からない俺には参加資格があるかどうかすら怪しいわけだ。元々出場する気無いけど。
正直言って、アルマやレイナがいい成績残すと悪目立ちして変なトコからスカウトとかこないか心配だが、まあいざとなればファストトラベルでエスケープすりゃいいか。
「……ところで、船での組手でアンタとやり合ってないんだけど、最終日だしちょっと付き合ってくれないかねぇ?」
「いやぁ、私なんかよりもアルマやレイナとしていただいた方が……」
「たまにはヒカルもやるべき。最近、組手自体あんまりしてないみたいだし」
「ヒューラさんとの組手は新しい発見の連続だったっす! カジカワさんも是非やるべきっすよ!」
「…そうだな。…………では、運動場へ行きましょうか?」
「お、やっと重い腰を上げる気になったのかい? いやぁ、期待してるよリーダー君」
組手の相手をするのに重い腰もなにもないだろうに。
まあ、ここ最近鬼先生と組手……というか数合打ち合ってすぐぶっ飛ばされるだけのやりとりばっかだったし、能力値の近い相手との攻防の経験も大事か。
「あ、やっと投げた弾が落ちた」
「今さら!? てかまだ飛んでたのかい!?」
見た目バーバリアンなのに、ツッコミのノリがいいから好きだわこの人。
運動場には他の戦闘職の客もトレーニングをしている。
腕立て伏せや腹筋、走り込みなんかの基礎トレとか、俺が夜にやってるメニューと似たような感じ。
人目があるところで組手するのはなんか恥ずかしいなー…。
って赤斧さん、なんで大斧を構えているんですかね?
「さて、じゃあ始めようか」
「…武器アリでやるんですか?」
「なにか不都合でも? まさか今更怖いとか言わないよねぇ?」
「えーと、私の武器をここで振り回すと色々不都合が…ちょっと試しに出してみますね」
カバンを介して、アイテム画面から爆裂大槌を取り出す。
すると、俺の足元からメキメキと床が軋む音が聞こえてきた。
「アンタの足元から、なんか嫌な音が聞こえるんだけど……」
「この武器重すぎて、多分持ちながらちょっと踏み込んだだけで床が抜けてしまうと思うのですが」
「ちょっと持ってみていいかい? ……うわ、お、おっも……!? こ、こんなもん振り回してたのかい?」
そう言いながらも、素の能力値で辛うじて持ち上げられてる赤斧さんも充分すごいと思う。
俺も気力操作無しじゃまともに振り回せないし、重そうにしてるのも無理はない。
「まあ、そういうわけなので武器無しの素手で相手をしてもらえると助かるのですが」
「…分かった。やれやれ、そうなると武器の補助なしの素早さでアンタとやり合わないといけないのか。正直、不利だねぇ」
拳法や格闘術のスキルがないから、そうでもないけどな。
ちなみに赤斧さんのスキル欄には拳法Lv8があったりする。斧術だけじゃなくてフィジカルもなかなか鍛えてますねこれは。
さーて、久々の鬼先生以外の人との組手だ。吸収できるところは貪欲にとりこんでいこう。
拳法のスキル技能も見てみたいしな。…鬼先生は全然使ってくれないし。
お読みいただきありがとうございます。
>初手料理で笑う。想定してたけどね――
あれでカニ料理作らないのはこれまでの流れ的にまずないですからねー。
あと、新しい武器のアイデアですがすごく参考になります。多分、似たような発想の武器が今後出てくるんじゃないでしょうか。予定は未定ですが。
>早いうちに勇者の方と合流しますね――
主人公的に勇者は世界を救う役目を押し付けられたちょっと可哀そうな人くらいの認識で、応援はするけど基本的には積極的に関わる対象でもないかなーくらいの考えです。
実際に逢う機会があればなんだかんだ仲良くなれそうではありますが、さて。
ちなみに勇者もライス中毒の模様。日本人特有の病だからね仕方ないね。




