カニ尽くし
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熱を通したフライパンにバターを投入し、溶けたら薄くスライスしたロックオニオンを投入。
少し炒めて熱が通ったら一旦火から遠ざけて小麦粉を入れてまんべんなく念入りに混ぜる。
混ぜ終わったら牛乳を入れて再び火にかけながらさらに混ぜる。
ホワイトソース状になったらカニのほぐし身と塩コショウを加えて、混ぜながら煮詰める。
水分がとんでコロッケのタネに丁度いい粘度になったら、バットに移して粗熱をとった後に魔力変換でしばらく冷ます。
冷蔵庫があればそっちに入れるんだが、船の冷蔵魔具は有料だしセルフでいいや。
で、冷めたタネを俵型に成形し、小麦粉をまぶして溶き卵に浸してパン粉をまぶす。
小麦粉を付けすぎると揚げる際に爆発する危険性が高くなるのでほどほどに。
で、中温~高温まで熱した植物油にタネを投入。
1分ほど揚げて、ひっくり返してさらに1分揚げて、きつね色になったら取り出して、油をよく切ったらカニクリームコロッケの出来上がり。
……俺の作る料理、やっぱ揚げ物ばっかだなー。
他にもカニしゃぶとか塩ゆで、足肉を甲殻ごと焼いたやつとか、足肉無限採取に失敗した悔しさにまかせてヤケクソ気味に料理を作りまくったが、それでも足1本すら消費しきれていない。
まあ、料理しようとアイテム画面から1本丸ごと取り出したら、それだけで船が傾いたくらいの量があったしなー。
「ふぅ、こんなもんかな」
「……料理してる間、すごく機嫌悪そうにしてたけどやっと落ち着いた」
「鬼気迫る勢いで料理してたっすね……」
「てか量多いねぇ。食べきれるのかい?」
「ああ、もしよければヒューラさんもいかがですか?」
「いいのかい? そんじゃ、お言葉に甘えるとするかねぇ」
赤斧さんが隙をつくってくれたからこそ、楽に大ガニの足をもぎ取ることができたしな。
俺が単騎であの斬撃の弾幕を切り抜けて攻撃しようにも、致命傷を与えるのはちと厳しかっただろう。
最後の一撃を当てられたのも、向こうが勝手にパニック起こしてたからだしな。
「それじゃあカニに感謝を込めて、いただきます」
「「「いただきます」」」『ピッ』
ヒューラさんもちゃんといただきますって合掌するんだな。
見た目バーバリアンだから、てっきりすぐさま殻ごとバリバリ食うのかとごめんなさい冗談です。
「美味いな。なんの味付けもせずに殻ごと焼いただけなのに、噛むたびに濃厚な旨味が溢れ出てくる。まるで新鮮な牡蠣みたいだ」
「しゃぶしゃぶ……しゃぶしゃぶ……ヒカル、これって必ず言わないと駄目なの……?」
「丁度良く熱を通すためには声に出すのが確実だからな。熱を通し過ぎると一気に味わいが変わっちまうから必須です。ええ、本当に」
「……めっちゃ嘘っぽいっす」
「でも美味しい。ダシの風味とタレの味が、カニの身によく合ってる。……しゃぶしゃぶ……」
しゃぶしゃぶと律義に声に出してるアルマ可愛い。
なお2、3回食べたあたりで面倒くさくなって誰も言わなくなる模様。
「あんぐっ……もぐもぐ……んー! 塩茹でもすっごいボリュームで食べ応え抜群っす! こんな贅沢な食べ方、滅多にできないっすよ!」
「豪快だなー。俺もこんなにカニを食うのは初めてだよ」
『ピピッ! ピピピッ!』
「ちょっと、ヒヨコちゃん! 自分が食べてる反対側から食べ進めてこないで!」
仲いいなこのマスコットたち。
いいコンビだ。
「おおっ!? このコロッケ美味いじゃないか! 外はサクサクしてるのに、中はまるでグラタンみたいだねぇ」
「ちょっと細長くて変わった形」
「ああ、丸形にすると揚げてる途中で爆発しやすくなるらしいからな。本当かどうか分からんが、この形なら均等に熱が通るとかなんとか」
「中がトロトロのシチューみたいで、外側の衣が香ばしくてアクセントきいてるっす。もう一個いただくっすー……ぶっ!? な、なんすかこれ、すっごい生臭いっすー!!」
「ああ、言い忘れてたけど青い薬味をまぶしてあるのはカニ味噌入りだから注意してくれよー」
「早く言ってくださいっす!! うぐぐぐ、口の中がにがしょっぱいっす……」
やっぱカニ味噌苦手な人にはちょっとキツいか。
俺も子供のころは苦手だったなー。
「カニ味噌の単品もあるけど食べるか?」
「遠慮しておくっす……」
「生臭いけど、美味しい。慣れれば病みつきになりそう」
意外にもアルマには好評のようだ。大人舌だねぇ。
『ピギャッ! ペッ!』
……ヒヨ子はお気に召さなかったようだ。なにも吐き捨てなくてもいいだろうが。
野生の魔獣なら好き嫌いなんかせずなんでも食べるんだろうけど、コイツもすっかり人間らしい味覚になっちまったようだ。
「んー! ヤバい、酒飲みたくなってきた! おーい! 火酒を4人前くれー!」
「あ、私、酒ダメなのでキャンセルで」
「自分はいただくっす!」
「お前、こないだ二日酔いで死にそうになってただろうが。飲むのはいいけど飲み過ぎるなよ」
「私もやめとく。飲むとすぐに眠くなっちゃうし」
「つれないねぇ。じゃあ、その分レイナの嬢ちゃんに飲んでもらうかね」
「ほどほどでお願いしますね……」
万が一、急性アル中なんかになったりしたら魔力操作で吐かせてでも回復させよう。
てかこの人、火酒を水みたいに飲んでるけど大丈夫なのか?
「んんー! やっぱカニ味噌の生臭さには火酒が合うねぇ」
「おふひひひ、あんななまぐさいののよくたべられるっすねーへへへ」
そして一口飲んだだけでこの有様である。
……こりゃまた二日酔いかな。
皿が大方空になったところで、だし汁に味噌とカニの身を加え、アロライスをぶちこんで雑炊を作ってみた。
やっぱ締めはお米だよね。
「あー、やっぱ米にもよく合うなーこのカニ。美味すぎる」
「……ふぅ、一杯食べたらもうお腹いっぱい」
「おお、確かにアロライスも美味いじゃないか。シメにゃぴったりだね」
「ぬふーふふふ、カジカワさんホントにアロライスだいすきっすねーえへへへへ」
「大好きなんじゃない。定期的にライスを食べないと死んじゃう病なだけだ」
「そんなびょーきないっすよー」
「いやぁ、その食べっぷりを見てるとあながち冗談にも聞こえないねぇ。いったい何人前食べるんだいアンタ…」
大カニ戦で結構気力を消費したからね。魔力を気力に変換してもいいけど、たまには思う存分食べたい。
あの大槌を振り回すのは、まだ気力操作を使わないと難しい。
地力である能力値が上がればそのうち気力が無くても振るえるようになるかもしれないが、さて。
「しっかし、あのデッカいハンマーはとんでもない威力だったね。アタシの斧も真っ青さ」
「いえいえ、そちらの攻撃にカニが釘付けになっていたからこそ上手く当てられたんですよ」
「ははっ! 最後はほとんど一人で仕留めてたクセによく言うよ。ところで、もしかしてアンタらも武術大会に参加するためにフィリエ王国へ向かってるのかい?」
あー、そういえばあとひと月ちょっとで、フィリエ王国主催の武術大会が開催されるんだっけ。
「いえ、たまたまですよ。ヒューラさんは参加するおつもりですか?」
「ああ。第4大陸じゃあそうそう強力な魔獣や手練れの冒険者には逢えないしね。王国主催の武術大会なら、世界中の強いやつとやりあえるだろうし、参加しない理由は無いよ」
「武術大会……」
「んふふふふ。じぶんたちもさんかしてみたいっすー」
「別にいいけど、俺は出ないからそのつもりでな」
「えー? アンタならかなりイイ線いくと思うのに、もったいない」
「下手に目立ちたくない経緯がありまして」
「気が変わったらいつでも待ってるよー。アンタとも戦ってみたいしねぇ」
そうならないことを祈るよ。アンタめっちゃ強いし怖いわ。
「ヒカル、私、その大会に出場してみたいんだけど、駄目?」
「ん? いや、いいけど。……正直、意外だな」
「今の私が、どれだけの相手に通用するのか、試してみたいの。さすがに優勝なんかできないだろうけど」
「そうか。なら、第5大陸に着いたら早速特訓かな」
「うん。頑張る」
「じぶんも、じぶんもやるっすー! ……う、ぎ、ぎもじわるいっす……!」
はよトイレ行ってこい。ここでリバースはやめろ。
せっかく作った料理を吐かれるのは正直複雑な心境だが、まあ今回は大目に見るか。
しかし、王国もこのご時世に武術大会なんか開くかね普通?
恒例行事だから欠かせないのか、それともなんか目的があるのか。
……どんな実力者が存在してるのか、確認するためにはもってこいの行事だな。王国にとっても、俺たちにとっても。
さて、どんな人たちが参加するのやら。……レイナ、吐いてスッキリしたからってすぐに食い始めるのはヤメロ。また吐くぞ。
お読みいただきありがとうございます。
>海と言ったら魚介。魚介と言ったら甲殻類と――
最初、さらにタコが乱入してくる構想でしたが進行のテンポの都合上割愛。
予想されていてちょっとびっくりしました。
>とりあえず...「カニのライフはもう0よ!」――
なお直喩。ネタセリフがそのまま使える例ですね。
楽勝っぽく描写されてましたが、実際二人がかりじゃなければ苦戦していたと思います。
>今日はがに漬けの作り方の紹介――
ダイナミックがに漬け。これだけ大きいと何人前になるんでしょうか。
ちなみにカニ味噌の半分近くは海に溶けてしまった模様。




