戦いではない、一方的な捕食だ
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『ジャブヴァヴァヴァヴァアァァアアア!!!』
大ガニが、泡を吐きながら咆哮を上げる。
カニに発声器官なんかあるのか? とか一瞬どうでもいいことを考えてしまった。ホントにどうでもいいな。
「はっ、随分活きのいいカニだねぇ! まずは足からいただこうか!」
三白眼の目を見開き、口角を釣り上げながら斧を振りかぶる赤斧さん。
カニの方がひと回りほどレベルが高いのにもかかわらず、まるで怯んでいる様子が無い。
「ドゥリャァァア!!」
女性が出しちゃいけないような雄々しい咆哮を上げながら、カニの足に向かって斧を振り下ろす。
不意打ち気味に攻撃されて対応に遅れたのか、カニは防ぐ素振りすら見せない。
だが
ギャガギィンッ!! と鈍さと鋭さが入り混じったような、耳をつんざく金属音。
甲殻にほんの少しヒビが入ったが、まるで応えた様子が無い。
攻撃を受ける際に、一瞬だけカニの甲殻が金属のような光沢をもったように見えたが、アレは?
≪甲殻獣Lv8技能【メタリック・シェルガード】ほんの数秒間ほど自身の防御力を2倍にまで上昇させる技能。発動に必要な魔力は極微量≫
「か、かってぇぇ……!! まるでアダマンの塊でもぶっ叩いたみてぇだ……!」
あまりの衝撃に腕が痺れたのか、顔を顰める赤斧さん。
…防御力が4600以上まで上昇したカニの甲殻にヒビ入れるだけでも大したもんだと思う。この人も充分人外だ。
……って、あれ? なんか、ヒビが治っていってないか?
≪マスタースキル【リバイバル・クロー】『爪』の判定を受ける部位を自然再生させることができる技能。この魔獣の場合、足とハサミ全体が該当する。たとえ足を切断したとしても数分程度で再生すると推測。ただし、再生する範囲が大きいほど、消費するSPが増える≫
な、なんだと!? つ、つまり……!
あのカニの足だけを狙えば、いくらでも足肉を手に入れられるということじゃないか!
「ふ、ふふふ……素晴らしい、今晩はカニ食い放題だ……!」
「か、カジカワさん、完全に捕食者の目になってるんすけど……」
「…ヒカル、もうカニのこと食材としてしか見てない……」
『ピピ』
さて、いくとしますか。
なんか横からちょっと引いたような声が聞こえるけどキニシナイ。
天駆に見せかけた魔力飛行で、こちらもカニに急接近。
瞬く間に赤斧さんの近くまで移動した。
「! ……アンタも天駆が使えるくらいには強いみたいだね」
「ええ、まあ」
「けど、さっきの見ただろう? アタシはかなり本気で斬りつけたのに、足の一本すら斬れやしねぇ。アンタ、なんか考えでもあるのかい?」
「はい。早く足肉食べたいと考えています」
「…は?」
「いえなんでもないですハイ。……そうですね、一人じゃちょっと難しいですけど、ヒューラさんが攻撃を続けてくれれば充分倒せる相手ですよ」
「ええ? 確かにちょっとヒビは入ったけど、すぐに再生しちまっただろ?」
「それでいいんです。まあ疲れてるなら私一人でもなんとかなるかもですが」
「ほほーう、言うねえ。さっきも言ったがアタシは連携なんかできないからな。やるならアンタも勝手にやりな」
「ええ、それでいいですよ」
「さぁて、続きといくかねぇ!」
会話を終えると、再びカニに突進していった。
しかし、不意打ち気味に斬りつけた初撃とは状況が違う。
『ゲヴャィジャヴァッ!!』
「うおっ!?」
10本の足を総動員して、【魔爪・遠当て】を赤斧さんに向かって放つ大ガニ。
しかも攻撃判定を増やす鋭爪術スキル【魔爪分閃】を同時に使って、さながらSTGのボスのように弾幕を張ってきた。
「クソッタレがぁ!!」
赤斧さんもやられっぱなしじゃない。まるでアルマの【大地剣】のように巨大化させた魔力の斧で、弾幕を斬り裂き攻撃を防いだ。
…あの技、普通の斧術や上位派生の轟斧術じゃないな。なんというか、独特だ。
≪マスタースキル【天震斧撃】斧術をLv10にまで高めた者が取得するマスタースキルの一つ。魔力で巨大な斧を形作り、絶大な質量を攻撃に乗せる。ただし、消費する魔力が激しいので乱発は不可≫
火力特化の大技、言わば必殺技か。
一発使うのに魔力を2~3割近く消耗するようだ。回復なしで使えるのはあと2発が限度かな。
「くっそ、こんなことなら最初の不意打ちでコイツを使っとくんだった!」
悪態を吐きながらも、弾幕の穴を抜けてカニ魔獣の真正面まで接近することができた。
まだ天震斧撃の効果が残っているうちに本体に攻撃を当てるつもりのようだ。
「本体を真っ二つにされれば、再生なんかできねぇだろっ! くたばれぇ!!」
カニの頭目掛けて、斧を振り下ろす赤斧さん。
あれをまともに喰らえば、さすがの大ガニも無事では済まないだろう。
『ギヴァッ!!』
だが無防備のまま喰らうほど愚鈍でもない。再び【メタリック・シェルガード】を発動させて、ハサミを構えて防御の姿勢をとった。
斧とハサミがぶつかり、響く金属音。初撃よりもさらに大きく鳴り響いて耳が痛いほどだ。
「グギギギギギ………!! こんの野郎……!!」
カニのハサミに深々と魔力の斧がめり込むが、本体は全くの無傷。致命傷には程遠い。
だが、それでいい。
だが、それがいい!
【メタリック・シェルガード】が解除された直後、アイテム画面から『真・エクスプロージョンバスター』こと爆裂大槌完成版を取り出し、カニの左側面を狙う!
カニの真上から足を狙い、槌頭を爆発させながら一気に急降下っ!!
「おおりゃああああああっ!!!」
バキバキと甲殻が砕けて次々と左側の足が切断されていく。
ハサミも含めて、しめて5本もの足が本体から切り離された。
『ギギャヴァギャアアアアアッ!!?』
足を一気にもぎ取られた激痛からか、悲鳴を上げながら狼狽える大ガニ。
ほんの数秒だけ防御力を倍にできるが、その技の発動直後は元の防御力のままだ。
なら充分切断は可能。……まさか左側の足を全部もぎ取れるとは思わなかったが。
「あ、アンタ、とんでもないね……」
「ヒューラさんの攻撃を防御した直後だからこそできたことです。私一人ではとてもとても」
「……謙遜してるようにしか聞こえないよ。って、まずい! 足が再生していってやがる! 根元からもぎ取っても治るのかよ!」
「そうですね。足肉取り放題で嬉しいです」
「いやなに言ってんだアンタ!?」
「おっとつい本音がゲフンゲフンッ。……見る限りだと、際限なく再生できるわけじゃなさそうですね。スタミナが切れたらそこで打ち止めのようです。……もったいない」
「……もしかして、最初っからアイツを飯としてしか見てなかったのかい……?」
「いえいえ、恐ろしい強さを持った魔獣だと思っていますよ。コワイナー何度も再生するなんてなんて恐ろしい魔獣なんだー」
「棒読みで言ってるアンタの方がよっぽど怖いよ……」
「さて、あと何本『採れる』かな?」
『ギ、ギヴャアアアアアアアッ!!』
悲鳴にも似た咆哮を上げながら、高速で明後日の方向へ移動する大ガニ。
「に、逃げた……?」
おい、待て。待ってくれ。まだ1回しか足を採れてないんだぞ。
もっとだ、もっと寄越せ! 足肉おいてけ!
「待ぁてえぇぇぇええええ!!」
『ピギャアアアアアアアアア!!!!』
向こうも決して遅くはないが、こちらの方が速度は圧倒的に上。すぐに追いつく、逃げても無駄だ!
『ピガボブブブブ……!!』
い、いかん! 海中に沈んで海底まで逃げる気か!
まずいな、俺一人でさっきの攻撃を当ててももぎ取れるか微妙だ。
なら、アレを使うか。アレなら、いくら防御力が倍になろうとノーダメージじゃ済まないはずだ。
頭にブチ当てて気絶させて、その隙に採れるだけ採る作戦でいこう。
大槌の柄に、生命力と気力をふんだんに混ぜ込んだ魔力の縄を纏わせる。
元が俺の魔力だから、伸縮させたりすることも自由自在だ。
で、10mほどの長さまで伸ばしてから、爆発させる!
ドンッ! ドゴォン! ズガァンッ!! と何度も何度も爆発音が鳴り響く。
魔力で方向を微調整しつつ、まるでハンマー投げのように俺を中心にどんどん遠心力が増してとんでもない運動エネルギーが大槌に溜まっていく。
魔獣山岳の山の一つを、一撃で3割消し飛ばすほどの威力。
これを受ければ、【メタリック・シェルガード】で防御力が4600まで上がろうとただでは済むまい! 喰らえっ!!
「くらえやぁぁああ!!!」
『カボグビェァ!!?』
思った通り、スキル技能で防御力を強化して防御したが、ハサミ二つを軽々と砕き、脳天に大槌をブチ当てることに成功した。
やった! 上手く当てられたぞ! よし、ピクリとも動かないあたり完全に気絶したみたいだな。
さーて、後は足を採れるだけとって……。
…あれ? 俺、なんで魔力と生命力が全快してんの?
レベルアップしたのか? なんで?
ま、まさか……!?
≪対象、死亡した模様≫
ああああああ! な、なんてことだ!
あと2、3回は足を採れると思ったのに、なんてもったいないことをしちまったんだ!
しかも、胴体が抉れて海にカニ味噌が、カニ味噌がー!
「あああ、なんてことだ……! 足肉……カニ味噌……」
「……あんなバケモンを倒したっていう達成感より食い気の方が先なのかい……?」
呆れたような声でツッコむ赤斧さんの声が聞こえるけど、本当にショックだ。
……もういいや。残った部分だけでも結構な量だし、今晩はもう作れるだけカニ料理を作りまくってやる! ヤケ食いじゃー!!
お読みいただきありがとうございます。
>蟹にはハンマー。目眩を起こす!(なお目眩どころではない)
まさにその通りの結果に。なんてグロいモン〇ンなんだ……。
>うわーすごく強いカニだー怖いなぁー(棒)――
まんじゅうこわい。カニもこわい。
皆様のコメントもこわいです。いつもありがとうございます。
>すごく今更な質問ですが、ヒカルがたまに使ってる関西弁って――
ノリで言ってるだけです。勇者も同様。
そこまで笑っていただければ、暇つぶし小説筆者冥利につきるというものです。ありがとうございます!
>多分新鮮な状態でカニを食べるだろうからカニの足とかは生で食べるのかな?――
もはや戦闘よりもその後の料理に関するコメントが主で草。
きっと思いつく限りの方法で調理するでしょう。……一品だけでいいから自分で作って食べてみたいなー(;´Д`)




