出港出航シュッポッポー
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「……ヒカル、なんで宿の中でファストトラベルしなかったの」
「人目が多かったのと、こっちの方向に逃げたってことをアピールするためだ。……説明もなく急に抱えて高速移動したのは謝る」
「ま、まだ頭がクラクラするっす……」
『ピ』
はい、こんばんは。ただいまニューシーナとは反対方向の街道の途中です。
もう街が豆粒ほどの大きさに見えるくらい遠くまで離れた。ここまでくれば追手も撒いたとみていいかな。
「これからどうするんすか? こっち側の次の街はまだまだ先っすよ?」
「……できれば、またあんな無茶な速さで移動するのは勘弁してほしい」
「あー、こっち側に逃げたのはカモフラージュのためだからもうファストトラベルで移動する。だから安心してくれ」
「どこへ行くの?」
「港町のランドライナム。王国直下の部隊だって言ってたし、多分この大陸にいる限り、どこまでも追ってきそうだからもういっそ他の大陸へ行ってみようかなって」
「ほ、他の大陸っすか!? ず、随分と思い切った判断というか、なんというか……大丈夫なんすか?」
「戻ろうと思えばいつでもファストトラベルで戻れるし、そんなにビビる必要はないぞ」
逆にファストトラベルが使えなかったら、一番ビビってたのは俺かもしれないけどな。
日本でも海外旅行なんか行ったことないし、異世界ならなおさらだ。
周りに誰もいないことを再確認してから、ファストトラベルでランドライナムへ移動した。
夜で周りが見えづらいが、潮の香りと波の音でここが港町だということが分かる。
「おおー、ちょっと前までこの町にいたのに、なんだか懐かしいっすー」
「今日はもう遅いから、明日出航する便で行こう」
「どの大陸へ行くの?」
「この港から他の大陸へ出てる便は、第3大陸と第5大陸の二つだな。第3大陸はもう滅びかかってるらしいから危ないし、ここは第5大陸へ行こうと思うが、どうかな」
「…第5大陸。フィリエ王国が治めてる大陸だね」
「ジュリアンさんの故郷でもあるっすねー。一緒に連れていってあげてもよかったんじゃないっすか?」
「本人はもう戻る気はないらしい。それに下手に実家の近くなんか行って、まだ生きてることが弟さんにバレたら今度こそ殺されかねないぞ」
「兄弟なのに、仲が悪い」
「仲が悪いって言うか、弟さんが一方的にジュリアンを嫌ってる感じだけどな」
落ち着いたら、一回事情を説明しにゲンさんの鍛冶屋に行こう。
さて、急に部屋をとることになって迷惑かもしれんが、まあ知らない仲でもないし以前この町で泊まってた宿に行きますかね。
で、翌朝。
運良く朝に出る便があって、さらに都合のいいことに空いてる部屋がまだ残ってたらしいので切符を購入。
黒竜が守っているから比較的安全だからか、それとも近々武術大会が開催される影響か、最近は第5大陸に向かう客が多いらしい。
船に乗り込む際に、誰もがまじまじとその巨体を見上げている。
「綺麗で、立派なお船」
「お、おっきな船っすねー……。軽く1000人は乗れそうっす」
まるでタイタニック号みたいだな。……この例えはなんか縁起が悪いからやめとこう。
万が一同じような状況になっても、全員で手を繋いでファストトラベルすれば脱出できるけど、そうならないように祈っとこう。
個室が三部屋とれてよかった。
もしも3人で雑魚寝しなきゃならんような状況だったら、便を遅らせでもしないと色々問題が生じてただろうなー。
でも出発が遅れればその分追手に勘付かれる危険性があるし、本当に運がよかった。これも幸運値の影響だろうか。
個室に荷物を置いてしばらく待っていると、汽笛の音が鳴り響いた。
出航の合図かな。これでしばらくこの大陸ともお別れか。
……今更だけど、船酔いとか大丈夫かな。馬車や獣車に比べたらまだマシか。
船は大きいが、豪華客船というほどでもない。
まあ海外のバラエティー番組で見るような、一回で数万ドルもの乗船料を払うような船と比べるのは酷だろうが。
それでも食堂や娯楽場なんかあるから、この世界基準で見ればまあまあリッチじゃなかろうか。
第5大陸に着くまでおよそ2週間ほどかかる予定だ。
直で行くんじゃなくて、途中で燃料や物資の補給をするために中継の島に止まるらしいが、それ以外はずっと船の上。退屈だわー。
まあ、それならそれでしばらくゴロゴロしてますかね。
とか思いながらダラダラと個室で寝っ転がってると、ドアからノック音が。どなた?
「ヒカル、ちょっといい?」
「カジカワさん、娯楽場に色々面白そうな施設があるっすよー! 一緒に行きましょうよー!」
……せっかくのお誘いだ。退屈してたし、行くとしよう。
久々にゴロゴロできると思ったのにとか残念になんか思ってませんよホントダヨ。
娯楽場へ行くと、案外広いスペースがあって随分賑やかだ。
カードゲームなんかのボードゲーム、ダーツのような的当てゲーム、そして戦闘職用の運動場まであるとは。
これなら船の上で身体が鈍ることもなさそうだな。
「賑やかな場所…」
「おお、的当てゲームの設備があるっす! カジカワさん、皆でスコアを競うの面白そうだって言ってたっすよね、是非やりましょう!」
「おう。……俺だけ投擲スキルが無いから、お手柔らかにお願いしますよ」
「手加減しない」
「えー…」
「ふふふ、たまには自分に活躍の場を与えてもらうっすよ……!」
『ピピッ!』
俺以外の3人気合入り過ぎやろ。頼むからちょっとは手心を加えてくださいよー…。
ちなみに最近、ヒヨコも『投擲』スキルを獲得したらしい。あの手というか翼でどうやって物を投げてんだ……?
この的当てゲームの設備は、地球のダーツの公式ルールみたいに複雑な順番なんかはないようで、的の中心に近ければ近いほど高い得点を獲得できる至ってシンプルなものだ。
直径50cmほどの的で、外周にヒットで1点、途中のラインより内側なら3点、中央の●印が5点、さらに中心のビー玉ほどの範囲に命中すれば10点、といった具合だ。
投げる場所から的までの距離は子供向け、大人向け、戦闘職向けの3つのラインがある。俺らは戦闘職向けで投げることに。
順番で10回ほどダーツによく似た弾を投げて合計得点を競い、一番得点の高かった人には最下位の人が食堂のメニューを1品奢るといった条件付き。
……どう考えても俺が奢るハメになる流れです。本当にありがとうございました。
「一番手はカジカワさんっすよーガンバッテー」
「やる気のない声援ありがとう、見てろよこの野郎。せいっ!」
まず俺の一投目。……投げた弾は的に届かず、途中で床に墜落しカランカランと空しく転がる音が寂しく響いた。0点である。
「……ヒカル?」
「……ゴメンナサイ。俺の投擲技術なんかこんなもんです。はい」
「カジカワさん、そんな落ち込まなくてもブフッ」
「なに噴き出してんだ! 次はよ投げなさい!」
「はいはいっすー。とりゃっ!」
続いてレイナ。何気にこの中で一番投擲スキルのレベルが高かったりする。
中央の●印近くに命中したが、惜しくも外側。3点。
「ああ、惜しいっすー!」
「ドンマイドンマイー」
「半笑いで慰めるのやめてっす。てか的に当たらなかった人に言われたくないっす」
「次、投げる」
「おう。頑張れー」
3番手、アルマ。レイナほどじゃないが、何気にそこそこ投擲スキルも育ってたりする。
結果、途中のラインにピンポイントで命中させるある意味すごい技を見せてくれた。
幅わずか数ミリ程度のラインなのによくあんなとこに当たったな……。
「……これ、何点?」
「ラインに命中した場合は3点らしい」
「同点っすね。これは自分とアルマさんのトップ争いになりそうっす」
「ん、負けない」
スキル持ちはやっぱ強いなー。肩身狭いわー。
魔力を纏わせた弾なら自由に軌道を修正できるけど、ゲームだしそんな反則してまで勝ちたくないから素の状態で投げたけど、こんなに当てるの難しいのね。
……ん? そういえば、次の順番は――
『コケッ!』
ヒヨ子が鳴き声を上げた後、トスッ と的に弾が突き刺さる音が聞こえた。
蹴爪で投げたのか、片脚を上げているのが見える。翼じゃなくてそっちで投げるのか。
で、見事に的の中心に命中させているのが見えた。まさかの10点である。
「「……」」
『ココッ』
呆然とそれを見つめるアルマとレイナ。
思わぬダークホースが居たもんだ。
……誰に奢ることになるのかなー……はぁ。
お読みいただきありがとうございます。




