裏切り者
新規の評価、ブックマーク、誤字報告、感想をいただきありがとうございます。
我ながら似たような誤字を何度も連発してるなぁ(;´Д`)申し訳ない。
お読みくださっている方々に感謝します。
あと、今回人が死ぬ描写があるので、苦手な方は閲覧注意です。
晩御飯が済んだ後の食休み中に、銀髪ポニテ青年ことナクラムラダが訪ねてきた。
いわく、軍に入りたくなければ今すぐ街から出てった方がいいとか。ちょっと話が急過ぎんよー。
「い、いきなり夜に訪ねてきて、なに言ってるんすか…?」
「……すまない。隊長には、君たちを軍に入れるのは保留するべきだと伝えたのだが、まるで聞く耳をもってもらえなかった」
「それで、あの隊長さんはなんと?」
「第5部隊、つまり我々の部隊が今日の夜、この街に集合することになっている。大体30人強ほどの部隊で、それだけの人数がいれば君たちを力ずくで連れていくこともできると考えているようだ」
「……随分、強引な話」
アルマが軽蔑の混じった低い声で、呆れ半分に呟く。
あのおじじ隊長、部下よりレベルが低いから頭脳労働専門なのかなとか思ってたけど、おつむの方もガチガチのダメ上司だったのか?
なんか日本で勤めてた工場の上司を思い出すわー。いやあの人、他人よりも自分に厳しい人だったからまだマシか。でもサビ残を強制させ続けてたことは許されざるよ。
「なぜ、そのことを教えてくれるんですか? あなたの立場上、私たちにそんな話をするのはまずいんじゃ……」
「……私はただ、魔族の脅威から人々を守りたいだけだ。魔族の恐怖から人々を解放したかっただけだ。だから、対魔族軍に入ったというのに、これでは人々を守るどころか自分たちの都合を押し付けているだけじゃないか。そんな命令には、従えない」
俺の中での銀ポニの好感度が上がりました。
今後は敬称をつけて銀さんと呼ぼう。万事屋に非ず。
「部隊の全員が集まるまで、あと2時間程度しかない。それまでになんとか街から出る準備を――」
「いや、もう遅い」
「……なに?」
「この宿の周りに、戦闘職らしき人間の気配が集まり始めてる。30人以上いるということは、おそらくあなたの部隊の人たちだろう。あなたが宿に入った直後くらいから、な」
「な、なに……!?」
……演技とかじゃなくて、本気で驚いているようだ。
どうやら、俺たちにチクることを見越してつけられてたみたいだな。
今日まで俺をストーキングしてたのに、自分が尾行されていたことに気付かなかったのか。まあしゃあないか。
「アルマ、レイナ、今すぐ荷物をまとめろ。整理なんかしなくていいからとにかく全部持ってくるんだ」
「分かった」
「了解っす!」
各自、部屋に置いている私物を取りに部屋へ向かっていった。
荷物の大半はアイテム画面に収納してあるけど、身近なものはそれぞれで管理してるからな。
「すまない…! 忠告をするつもりが、このような事態を引き起こす結果になるとは…! わ、私が正面で囮になるから、その隙に裏口から脱出を――」
「いえ、結構です。正面から、堂々と、逃亡させていただきますよ」
「む、無茶だ! 君たちが実力者なのは聞いているが、Lv40近い戦闘職の人間が30人以上いるんだぞ!? まともに逃げ切ることなどできるはずが……!」
「ヒカル、荷物まとめ終わった」
「こっちもOKっす!」
「ほいほーい。全部収納するぞー」
荷物をカバン越しにアイテム画面へ収納し終えてから、銀さんへ最後の挨拶を。
「では、これにておさらばです。あなたも、軍に身を置くことに疑問を持っているのなら、今一度自分のやるべきことではなく、自分のやりたいことを考えてみるといいかもしれません」
「お、おい!」
「では、失礼」
「ひ、ヒカル? なんで、私とレイナを抱えているの?」
「な、なにする気なんすか!? ま、まさか、ちょっと、あの、やめ……!!」
『……ピピッ』
玄関を開け、外に出た直後、縮地モドキこと超低空魔力飛行で高速移動!
「うぅぁぁあああ!!?」
「に゛ゃぁああああああやっぱりぃぃぃいいい!!!」
通行人に衝突しないように注意を払いながら街の外までとにかくぶっちぎる!
向かう方向は、ニューシーナ方面とは逆方向。
ファストトラベルを使うのはまだ早い。少なくとも街から出て誰にも見られていない場所に着くまで移動しなければ。
それまで耐えろ、二人とも。ふぁいとー。
……後が怖いなー。
~~~~~銀さん視点~~~~~
玄関から出たかと思ったら、少女二人を抱えながら信じられないほどのスピードで走り抜けていったのが見えた。
まさか、【縮地】か? いや、スキルを使えないという情報だったはずだが、やはりなんらかの方法でステータスを誤魔化していたというのか?
……いずれにしても、あれほどのスピードで逃げられては追跡するのは難しいだろう。無事、脱出できそうだな。
「ナクラムラダぁ!! 貴様、よくも情報を漏らしおったなぁ!!」
隊長の耳障りな怒号が宿に響いた。
宿の客たちは怪訝そうにこちらの様子を見ている。お騒がせして、申し訳ない。
「なんのことでしょうか?」
「しらばっくれるな! 宿の中であのパーティに今夜我が部隊が集まることを伝えおっただろう!」
「私がそのような真似をしたという証拠はあるのですか?」
「貴様のような裏切り者の対策に、盗聴用の魔具を剣の鞘に仕込んでおいたのだ! 先ほどまでの会話は全て記録してある、言い逃れはできんぞ!」
剣の鞘をよく見てみると、底の方に目を凝らしてようやく分かるレベルの小さな球体が付着しているのが見えた。
これが盗聴用の魔道具か。……気付かなかったな。
「プライバシーの侵害ですよ? 確信もなくそこまでするのはどう考えても軍規に違反しているでしょうに」
「現に、貴様は裏切り、その結果としてあのパーティは逃亡した! それが全てだ! これは重罪だぞ!!」
気持ち悪い。
もう、自分が処分を受けることを受け入れたうえでこの人を見た印象は、それだけだった。
自分が正しいと信じて疑わず、それを証明するために自らが過ちを犯していることに気付いていない。
あるいは、私もそうなのかもしれないが、な。
「なにを突っ立っておる! さっさとこいつをしょっ引かんか!!」
唾を飛ばしながら、傍に立つ隊員に指示を出す隊長。
昨日までは、この怒鳴る姿に威厳すら覚えていたのに、今では薄っぺらいものしか感じられない。
…それを見抜けなかった、私も薄っぺらい人間だったということか。
指示を出された隊員が、乱暴に私の両腕を拘束したところで、隊長の後ろから誰かが近付いてくるのが見えた。
……アイツは……?
「ああ、いたいた。隊長、こんな夜遅くにそんな汚い怒鳴り声上げてたら近所迷惑になりますよぉ?」
元冒険者の隊員、ジャングラジマー。
金の長髪を靡かせながら、いつもの軽い口調で隊長に声をかけている。
「やかましい! 貴様、今までどこをほっつき歩いておった! さっさと【縮地】で奴らを追ってこい!」
「いやー、オレの縮地じゃスタミナもたないって。それに今更追ったところでもう捕まえるの無理無理」
「ええい、どいつもこいつも! 裏切り者に無能ばかりで役に立たん奴らめ! だからこそあのパーティが必要だったというのに!」
「んー、一応、裏切り者をしょっ引くための人員を20人くらい集めていたんですがねぇ。これでも仕事してるんですよぉ?」
「バカか貴様は! この裏切り者を拘束するための人員ではなく、もとはあのパーティを力ずくで連れていくための――」
「いやいや、合ってますって」
「なにを、貴様、は……!?」
隊長の怒鳴り声が途切れた。
その首元には、ジャングラジマーの槍が突きつけられている。
「裏切り者はアンタだって言ってるんですよ、ヘイゲルダラー隊長殿」
普段不真面目なジャングラジマーが、これまで見せたことのない、いつになく真剣な表情をしているのが見えた。
その声は、これまで聞いたことのないほど、低く、重い。
「な、な、なにを、言って……!?」
「……アンタ、オレが軍に入った理由を覚えてるか? 戦力が足りずに魔族に攻め込まれた街を守り切れなくて、もう二度とこんなことにならないように、デカい力を持った組織をつくるためだって聞いたことなかったか?」
「お、覚えておる! だからこそ、各地でパーティをスカウトし、戦力の増強を図っているのではないか!」
「ならなんで、アンタは第3部隊からの人員再配置を拒否したんだ?」
「っ!?」
第3部隊からの、人員再配置?
そんな話、聞いたことが無いぞ。
どの部隊も、自分たちの管轄を守るのが手一杯で人員を譲る余裕などないという話だったはずだ。
そう、隊長は、言っていたはずだ。
「ああ、ところで第2部隊への部隊費の一部が、なぜか第5部隊の方へ流れているみたいですが、心当たりは?」
「し、知らんぞ、そんなこと」
「へぇぇ? こちらに再配属されるはずだった第3部隊の人員が、なぜか第2部隊へ再配属されて、しかもその分部隊費がかさむはずなのになぜかその分の費用がこっちに回ってるのに、それを知らないと? 少し調べればオレでも分かったことなのに、アンタが知らねぇはずがないでしょう?」
「なっ…! ぐっ……!?」
どういう、ことだ。
なにを、言っているんだ。
「アンタ、第2部隊の隊長から賄賂をもらって、こちらに配属される人員を第2部隊に回すように工作したんでしょう?」
「な、なんの証拠があってそのようなことを!!」
「自分の剣の鞘を見てみたらどうです?」
「なっ……!? ま、まさか……!!」
隊長が、自分の鞘を見て驚愕の表情を浮かべている。
鞘の底に、極々小さい塵のような球体が付いているのを見て、顔を青くした。
「アンタもやったことです。まさか軍規違反とか言わないでしょう?」
「き、き、貴様ぁあああああっっ!!! よくも、よくもぉっ!! この裏切り者がぁああああ!!!」
「だーかーらー、裏切り者はアンタだっつーの。オレらを裏切って、私腹を肥やそうとしたアンタに言われる筋合いねぇよバァァカ」
「許さん!! 死ぬがいいこの若造がぁぁあ!!!」
顔を真っ赤にして怒りに身を任せ、ジャングラジマーに斬りかかっていった。
「あーあ、素直に罪を認めて捕まってりゃ懲戒程度で済んでただろうに」
面倒くさそうに、ゴミでも見るかのような目で、斬りかかってくる隊長の剣を容易く躱し
「死ぬのはテメェだクソ老害が」
「が……ヒュッ…?」
隊長の額を、槍で貫いた。
なにが起きたのか分からない、と言いたげな呆けた顔のままで、崩れ落ちた。
……正当防衛とはいえ、たかだか賄賂の着服程度の罪で命を落とすとは、なんとも言えない感情がこみ上げてくる。
「はい、というわけで不正を行なった挙句不当な理由で隊員を殺そうとした元隊長は今、殉職されました。で、一応本部にも確認と許可はもうもらっていますから、宣言しますね」
槍の石突を力強く地面に突いて、高々と声を上げた。
「今より、対魔族軍第5部隊隊長は、このジャングラジマーが務める。文句があるなら遠慮せずに言え。無いのなら、今すぐ全員かしこまれぇっ!!」
ジャングラジマーの号令に、その場にいた部隊員、ジャングラジマーが集めた人員たち、私を拘束していた二人すら、全員が背筋を伸ばして『気を付け』の体勢になった。
元・隊長の怒号が赤子の泣き声にすら思えるほどの迫力。これが、本当の隊長の風格というものなのだろう。
気が付けば、自分も他の隊員たちと同じように背筋を伸ばしていた。
「さーて、そうと決まれば早速戦力の編成やらこっちに回されるはずだった人員の再配置の申請やら、やることが山ほどあるな。やれやれ、めんどくせぇが仕方ねぇ、気合入れてくかね」
普段の不真面目な態度は、演技だったのか?
あれほどの情報を容易く収集し、隊長の不正を暴き、その功績をもって隊長に成り代わる。
実に鮮やかな手腕だ。……隊長の罠に気付かなかった私とは、まるで違う。
彼ならば、今度こそ。
今度こそ、対魔族軍を名乗るのに恥ずかしくない部隊をつくれると、確信めいた予感を抱いた。
「ナクラム、なにボーっと突っ立ってんだ。さっさと死体やらなんやら片付けて撤収すんぞー」
「は、はい……!」
「……なに泣いてんだ? キモいぞ」
やっと、自分のついていくべき人を見つけたと、感極まって涙ぐみながら返事をしてしまった。
もう、迷う必要はない。この人に、この隊長についていき、魔族を打ち倒していこう。
そう決意した直後、宿の裏口から出てきた鬼が いや宿の女将が怒りの形相でこちらを睨んでいるのが見えた。
「アンタたち! さっきからうるさいよ! これ以上騒ぐと憲兵にしょっ引いてもらうよ!!」
「あーごめんなさーい! すぐに帰りますんでそれはマジ勘弁で!」
先ほどまでの威厳はどこへやら、女将に平謝りしながら全速力で逃げ帰る隊長。
……た、多分、彼ならば大丈夫だ。うん。……多分。
お読みいただきありがとうございます。
>カジカワさんもだいぶあしらうの慣れたね...――
何事も慣れです慣れ。
3人ともある意味全員裏切り者だったという罠。伏線なんか全然張ってないから急展開にしか見えませんが(;´Д`)




