潮時
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さてさて、魔族も排除したし食べ歩きを再開しますかね。
魔族を殺した直後だからかあんまり食欲湧かないけど、まあちょっと休めばまた腹が減ってくるだろう。
「それでは、これで失礼します」
「ま、待て! まだ話は終わっていない!」
「え? ああ、魔族の死体の処理の件ですか? こちらで処理してもいいのですが、街中に魔族が来ていたことを証明するためにそちらで処理してもらった方がいいと思うのですが、いかがでしょうか」
「いや、それはそれで重要なことだがそうではない!」
ああもうなんやねん。
こちとらさっさとこの血生臭い路地から出て新鮮な空気を吸いたいんだが。
「街中に魔族が紛れ込んでいるのをいち早く見抜き迅速に処理するその手腕、また過去にも魔族を討伐した実績を考えると、認めたくはないがお前は対魔族軍に入る資格が充分にある。いや、絶対に入るべき人材だ!」
「そうですか。でも今すぐ答えを出すのは難しいので返答はまたの機会で」
「それ実は軍に入る気が無いから適当にあしらおうとしているだけではないか!?」
うん、全然入る気無いよ。メンドイし。
「王国直下の軍に入れるのだぞ? それがどれほどの名誉か分からないのか!?」
「分かりません。いえ、魔族の脅威から人々を守るために日々命がけで任務を遂行している、とても勇気ある方々が集うところだというのは分かりますけれど」
「…魔族をあっさり排除できるお前にそう言われても、皮肉か嫌味にしか聞こえんぞ」
「皮肉でもなんでもありません。敬意を払うべき方々だと思っています。でも私は軍に入るよりも冒険者として自由気ままに生活していたいんですよ」
皮肉か、あるいはお世辞に聞こえるかもしれないが嘘じゃない。
民の安寧のために、命がけで魔族というテロリストどもに立ち向かうのはとても名誉ある仕事だろう。
でもそれと軍に縛られたくないってことは別問題だし。
「名誉より自由をとるのか。魔族を一刻も早く排除し、1日でも早く平和を取り戻そうとは思わないのか?」
「もちろん、魔族どもは早く消えてなくなればいいと考えていますよ。ただ、そのために同じところに所属する必要はないと考えています」
「…どういうことだ」
「冒険者として自由に活動しているからこそ、違った視点で魔族の脅威に気付くこともある、と言っているのですよ。今回だって、食べ歩きをしていたらたまたま魔族を発見できたわけですし」
「そ、それは……」
「ただの偶然かもしれませんが、軍に所属していないからこその結果だと思いますが、どうでしょうか」
……ちょっと無理がある言い訳かもしれんなー。
でもそれを真に受けて考え込む銀髪ポニテ。
単に軍に入りたくないから適当なこと言ってるだけやぞ、気付け。いややっぱ気付くな。
「私のような自分勝手な人間が軍に入っても軍紀を乱すだけだと思います。立場は違えど魔族を倒すという利害は一致しているわけですし、軍への加入の件は一旦保留ということにしていただけませんか?」
「……一理あるが、私だけの判断ではなんとも言えん。一度戻って隊長と相談することにしよう」
「なるべく否定的な感じでお伝えください。あと私が軍に入ったりしたらすぐに食料が尽きますよ」
「……そのように伝えておこう」
少し顔を引き攣らせながらも、こちらの提案を素直に了承してくれた。ちょっと意外。
俺のことが気に入らない様子だったし、こっちの言葉なんか片っ端から否定してくるんじゃないかって思ったんだがなー。
実際に魔族を仕留めた実績を見て、評価を改めてくれたのかな? 別にどうでもいいけど。
あ、とか思ってるうちにもういない。魔族の死体もアイテムバッグに入れたのか跡形もなくなってる。仕事早いな。
俺もさっさと行くか。まだ血の匂いが残ってて気持ち悪いし。
~~~~~銀髪ポニテ視点~~~~~
「……以上が、あの男に関する報告です」
「ふむ、まさか既に魔族を討伐した経験があったとはな。やはり、なんとしてでも軍に加入させるべき人材だったというわけか」
「しかし、軍に入ることに乗り気ではないようです。本人が言うように、一時保留という選択も」
「本人の意思などどうでもいい。我が部隊は有能な人材が足りておらんのだ、ならば少々強引にでも軍に入れてやれ!」
「それではあまりにも……本人も自分が入れば軍紀を乱す危険性があると言っているくらいに奔放な性格らしいですし、それに、連れている少女たちはあまりにも若すぎると……」
「性格に問題があるなら軍で矯正してやればいい! 連れのガキどももそこそこ役に立つ腕前なのだろう? ならば年齢など関係ない! 3日前は戦力が足りなかったが、今日の夜には第5部隊全員がこの街に集合する予定になっている。抵抗するようならば力ずくでも連れていける!」
「っ……! なぜ、そこまでして彼らを軍に入れようとするのです! 本人も言っていましたが、軍ではなく冒険者としての視点で魔族に対抗する者も必要です! 事実、今日だって自由奔放な者だからこそ魔族を見つけられたではないのですか!?」
「うるさい! 他の部隊に比べて人材も実績もないからと、後ろ指を指されるのはもううんざりだ! それもこれも全部貴様らが無能だからだろうが! そいつがいればようやく我が部隊にも箔が付くのだ、分かったらさっさとそいつらをとらえる準備でもしていろ!!」
ひとしきり怒鳴った後、乱暴にドアを閉めて部屋から退出した。
…どういうことだ。対魔族軍とは、民を魔族の脅威から解放するための軍ではなかったのか?
実績など、これから魔族を討伐していって積み上げていけばいいではないか。
今、バカにされているのは、事実魔族との交戦経験がないから仕方のないことだろうに。
先ほどの隊長の言い分だと、まるで実際に魔族と戦うことよりも実績だけが重要だと言っているようなものではないか。
……魔族に滅ぼされた故郷を見て、このような悲劇をこれ以上起こしてはならないと思い軍に入ったのに、今の状況はなんだ?
実績がほしいだけの隊長の言いなりになって、幾度も魔族を討伐したあの男を強引に軍に加入させるために走り回ることが、私のやるべきことか?
………
~~~~~~~~~~
「あーあー、聞いてらんねぇなぁ。やっぱダメだわアイツ。…あらら、あの黒髪のニイちゃんたちの泊まってる宿に行っちまった。チクる気マンマンだわあれ。……はぁ、仕方ねぇ。予定が早まったけど、それならこっちも裏切り者を排除する準備をしますかね」
~~~~~カジカワ視点~~~~~
晩御飯も済んで、一段落ついた。
一人で食べ歩くのも悪くないけど、やっぱ皆でワイワイ食べるのが落ち着くなー。
「街を散歩していただけだったけど、大きな風車とか時計塔とか、見てるだけで楽しい場所がたくさんあった」
「そうかー、普段行く場所が偏ってるから、たまには行ったことない場所を歩いてみるのも新しい発見があっていいかもな」
「自分とヒヨコちゃんは遊技場みたいな場所で、ひたすら的あてゲームやってたっす! 熟練度が溜まってたからか、1だけ投擲スキルレベルが上がったんすよ!」
『ピピッ!』
「そりゃよかったな。てかこの街、遊技場なんかあったのか。今度の休日に皆でスコアを競うのも面白そうだな」
「ヒカルはなにしてたの?」
「ひたすら食べ歩きしてた。あとなんか魔族がいたからちょっと消えてもらった」
「魔族が、この街に……?」
「魔族の扱い雑すぎじゃないっすか!? それ普通に事件なんすけど!」
「一応、あの対魔族軍の人に処理を任せたけど、今思うともっと手早く自分で片付けておいた方が良かったかなー。そのせいでやっぱお前軍に入るべきだーとか言われたし」
あの銀髪ポニテが上手いこと説明してくれてるといいが、さて。
念のため、あの3人から変なアプローチがこないか気を配っておかないと。
……。
とか思ってるうちに、なんかこの宿に銀ポニが入ってきたとマップ画面に表示されてるんですが。
なんかあったのかなー。やだなー。もう今日はさっさと休みたいんだがなー。
あ、向こうがこっちに気付いたっぽい。こっちくんなし。
「……夜分にすまない。少し、時間をもらえないだろうか」
昼間のような、どこかトゲトゲした雰囲気がなくなっている。
代わりにどこか申し訳なさすら感じるような、少ししょぼくれたような顔しとるな。どしたの?
「なにか御用で?」
「単刀直入に言おう。……軍に入りたくなければ、今夜にでも街から離れた方がいい」
…………。
Oh.この様子じゃ説得失敗したっぽいな。
はぁ、そろそろ頃合いかと思ってはいたが、こんな忙しなく移動するハメになるとはなー。ダイジェルから逃亡した時のことを思い出すわー。
お読みいただきありがとうございます。
>こういう勘違い君にこそあのハンマーを叩き込みたいもんだが…――
人間相手故致し方なし。暴力で全てを解決するのも手ではありますが、それは最後の手段と考えているようで。
……つまり、条件を満たせばあのハンマー持って大暴れする可能性も……。
>男かよ...(´・ω・`)――
なにを!? なにを3割以上するの!?
>男かよ・・・きもっ
辛辣で草。紛らわしい表現しててすみませんでした。




