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スタンピード④~戦いの終わり~

ウェアウルフが震えながら蹴られた部分を手で押さえて蹲っている。

うん、まあ、あの痛みと絶望感は経験者なら誰でも共感できるだろう。いやむしろ叫喚?

ていうかいつの間にウェアウルフの後ろにいたのやら。


ゴゥッ と音を立ててアルマの剣が青い炎を纏った。

その剣を蹲っているウェアウルフの頭に向かって振り下ろすが、危機を察したウェアウルフがゴロゴロと体を転がし、辛うじて避けた。

あの状態で動けるのか…。コイツも中々根性あるな。



「お前は、見習いパラディンの……その剣はなんだ!?」



ラスフィーンが目を見開いてアルマの火炎剣(バーナーブレード)を凝視しながら驚いている。



「もう見習いじゃない。それより、アレを早く倒さないと」


「あ、ああ。…お前、レベルは?」


「さっき魔獣を倒した時に一つ上がって、11になった」



そういえば、スパークウルフの角の光に目が眩んで墜落したブレイドウィングが何匹かいたけど、もしかしてそいつらにとどめ刺したのアルマだったのか?

経験値をそれで稼いで、雑魚を何匹か狩ってレベルが上がったからかMPも大分余裕があるな。



「アレを相手取るには、少し低いな…。無理せず下がって、ぐっ…!?」



言い終わる前に、ラスフィーンが地面に膝をついた。

もうMPもSPも残り僅かで、運動機能に支障が出始めているようだ。



「その状態じゃそっちの方が無理。アレは私が倒す」


「し、しかし…」



話している間に、ウェアウルフの口に魔力が集まっていくのが感じ取れた。

あれは、さっきの【バーサークハウリング】の予兆か。

そういえば、いつの間にか周りの魔獣達の暴走状態が解除されている。

時間経過による状態解除か、それともさっきの金的蹴りを見て思わず正気に戻ったのかな…。



「させない」


『ウォオウッ…!?』


「な、なんだあの速さは!?」




アルマの剣から炎が消え、その直後凄まじい速度で咆哮を上げようとしているウェアウルフを斬り付けた。

はっや!? なんだあれ、俺が全速力で飛んだ時に匹敵するくらい速いんだけど!

…ん?アルマの剣から何か妙な魔力の動きが感じられる。原因あれか?



≪魔法剣Lv2技能:【暴風剣(テンペストブレード)】剣に風を纏わせ、風属性を付与したうえでAGIにINTの半分の数値を、ATKにINTの10%をプラスする技能。 『追記:魔力の直接操作を習得済みであれば魔力を追加で消費し、さらに速度と威力の底上げが可能』≫



あれも魔法剣か。

風属性だから見た目の変化が分かり辛いが、身体の動きが通常時とは比較にならないほど速くなっている。

あれならウェアウルフの速さにも対応できるだろう。


そして、バーサークハウリングを使い損ねたということは周りの魔獣たちは通常状態のままだ。

掃討するなら今がチャンス!



「魔獣たちの暴走状態が解除されている! 今のうちに一気に攻めて仕留めろっ!!」



戦場の冒険者たちに大声で叫んだ。

またいつ咆哮を上げられるか分からないし、やるなら今しかない。


叫んだ甲斐あってか、徐々に魔獣たちから冒険者たちの方に流れが戻りつつあるようだ。

時間が経過するごとにどんどん魔獣の数が減ってきている。

これなら、後はウェアウルフをなんとかすれば勝負は決するだろう。



『グルアアァァッ!!』


「ふっ! はぁっ!」



で、そのウェアウルフはアルマと鎬を削るような攻防をしている。

レベルが一回り近く違うのに、ほぼ互角の様子だ。


だが、このままじゃまずい。

魔法剣にさらに魔力を追加しているのか、みるみるアルマのMPが減っていっている。

速度が上がっても攻撃力はさほど上昇していないし、決め手に欠けている状態でガス欠も時間の問題だ。

俺も加勢するべきだろうが、でもどうする、俺のステータスじゃできることなんか…。



(こんな状態でもせめて盾にぐらいはなれるだろ!)



ふと、バレドの言葉が頭に響いた気がした。

盾、か。


仕方ない、根性出しますか!




ギュンッ とアルマとウェアウルフに向かって高速移動し、両者の間に割って入った。



『グガァウッ!?』


「ひ、ヒカ」

「飛行士だ」



名前を呼びそうになったアルマに食い気味に訂正を入れる。危ない危ない。



『ギャグゥゥアアッ!!』



少し驚いたようだったが、すかさず両手の爪をこちらに向かって振り下ろしてきた。


ガシッ ガシッ と振り下ろされた両手を掴む。



『グルアアァァッ!?』



怪我しないように魔力の緩衝材を手に纏わせた状態なのでノーダメージ。

まさか魔刃の失敗作がこんなところで役に立つとは。



『グルルル………!! グゥッ…!?』



爪が通らないと見るや、今度は強力な腕力で手を振りほどこうとしているが、無駄だ。

俺の腕力だけなら簡単にどうとでもなるだろうが、手に纏わせた魔力を操作して、まるでSFに出てくるパワードスーツのように掴む力を強化しているからだ。

もう俺の残り魔力も余裕がないから、お前の身体を持ち上げて突き落したりはできないが、少しの間動きを止めることくらいはできる。

さて、この状態だとお前は身動きが取れないよな?



「今だ、やれ!」


「!………はあぁっ!」



再び火炎剣を発動し、青い炎、もとい魔力操作によって強化した白い炎が刀身から噴き出した。

そして、身動きが取れないウェアウルフの胴体を、その白い刃が貫いた。



『グウウウギャアアアァァァァァァアアァアアッッ!!!』



傷口から泡立った血液が滴り落ちていく。

さらに目や口からも赤く染まった涙や涎が流れていく。真正面から見るとなかなかグロい。うっぷ。

掴んでる腕からも段々力が抜けていくのが分かる。それでもこちらを睨みつける眼光は鋭いままだ。ああ、うん、お前はよく頑張ったよ。

だが、もう休め。そして死ね。



『グ…ガフッ……クゥゥッ……』



そして、ウェアウルフのステータス画面の色が青から赤に変わり、力なく地面に体を預け、死亡したのを確認した。



「や、やったのか…!?」



ラスフィーンが不安そうに呟く。

それフラグだからやめなさい。いや死んでるけどさ。



「ああ、無事仕留めたようだ」


「…すまん、正直助かった。二人が居なければどうなっていたか」


「それはこっちのセリフ。貴女と槍使いの人がウェアウルフを押さえてくれなかったら、もっと被害が出てた」


「まったくだな。ああ、因みにバレドは命に別状はない。ポーションを飲ませたら意識も回復して、すぐにこちらに向かおうとしたくらいだ。まだ回復しきっていないから止めておいたが」


「そうか…ありがとう」


「さて、残りのザコも片付けるか」



さっきのウェアウルフを倒した時に、魔力が全回復した感覚があった。

またレベルが上がったのか。バレドを回復したのと、ウェアウルフを拘束してたから経験値が入ったのかな。

とか思っていると、急に目の前にメニュー表示が現れた。ビックリするからこういうのやめろと言いたい。

ん?



≪レベルが一定の数値に達したのを確認。メニュー機能のアップデートを開始≫



は? なにこれ?



≪アップデート完了。新たに【アイテム画面】を追加≫


≪【アイテム画面】:基礎レベルが10に達した時点で解放される、持ち物を自由に画面内に出し入れできる機能。収納出来るアイテムは、梶川光流が持ち上げることができる非生物に限定される。収納したアイテムは時間経過による影響を受けない。収納できる量はほぼ無制限≫




え、あ、はい?

アイテム画面? 収納無制限?

ちょっといきなり出てきて何が書いてあるか分からんけど、要するにアイテムボックスとかインベントリ的な機能が使えるようになったってことか?



≪肯定≫



…。

その機能もっと早く欲しかったわー。

その辺の石とか岩とか大量にその中に入れて、上から絨毯爆撃しまくってればもっと楽に終わっただろうに。

まあ、ものすごく便利そうだから嬉しいけどさ。なんだかなー。

まあいいや。これから有難く活用させてもらうとしよう。



あ、そうだ。ついでにステータス確認しとくか。

能力値とかどれだけ上がったか見てみたいし。

ステータスオープン。



梶川 光流


Lv10


年齢:25


種族:人間


職業:ERROR(判定不能)


状態:正常



【能力値】


HP(生命力) :100/100

MP(魔力)  :69/69

SP(スタミナ):0/30


STR(筋力) :56

ATK(攻撃力):56(+30)

DEF(防御力):56(+5)(+20)(+15)

AGI(素早さ):55(+30)

INT(知能) :57

DEX(器用さ):58

PER(感知) :64

RES(抵抗値):54

LUK(幸運値):54



【スキル】


※取得不可※



EXP(トータル経験値) :2078

NEXT(次のレベルに必要な値):2500



装備


鉄剣 

ATK+30


幻惑の仮面

DEF+5


矢避けの外套

DEF+20


疾風のブーツ

DEF+15 AGI+30




うおぉ、一気に上がったな。

いや、元々の数値がショボすぎるから上がったと言ってもせいぜいゴブリン並みのステータスだが。


ふむ、レベルアップ以外で全く鍛えられてない幸運と抵抗の数値を見る限り、やっぱり達したレベルと同じ分だけ能力値がアップするみたいだな。

1~10を足した数値は55で、Lv1の時点じゃ0だったから1を引けば54だし。確定だろう。

気のせいか、戦いが始まる前に比べて体が軽い気がする。いやホントに気のせいかもしれんが。


さて、確認も済んだし残りのザコを片付けますか。





そうして、消化試合と化した戦いがしばらく続き、数十分後には生きている魔獣はいなくなった。


ウェアウルフなどによって重傷を負ったものも何人かいたが、回復薬が豊富に準備してあったので迅速な治療が可能だったこともあって死亡者はなんと0。奇跡的な成果だ。

ネイアさん、顔を土気色にしながら薬草を鑑定した貴女の頑張りは確かに実を結びました。今後も頑張ってください。

あ、なんかネイアさんの悲鳴が聞こえたような気がしたが、きっと幻聴だろう。


雑魚の掃討が完了したのとほぼ同時に魔獣森林の上空から黒雲が四散し、消えてなくなった。

あちらも無事に親玉を撃破したようだな。

無事にスタンピードを乗り越えられた。それもいろいろボーナス付きで。うははは。笑いが止まらんとはこのことだな。

今夜は宴だー……あ、飲み会とかはかえって疲れるんでやっぱいいです。


お読み頂きありがとうございます。

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