勇者の武器か、それとも
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「……俺はこんなもんを作るのに手を貸しちまったのか……」
「……いや、これダメだろ。人類が扱っていいもんじゃないだろ。世界滅ぼす気かアンタ……」
「ふ、ふはは……! 予想以上、いや、予想の遥か上だな。感無量と言うべきか! ……それともこのような物を生み出してしまったことに恐怖するべきか?」
はいどうも、鍛冶職人3人がなんか白目剥きながら呟いてるのを尻目に試運転を終えたところです。
その視線の先には、頂上からおよそ3割くらいが粉々に砕けて消えてしまった一つの山。
……いやー、ジュリアンも言ってるけど、予想以上にヤバいわコレ。
最初は魔力も気力も使わず振り回してみたけど、せいぜい叩きつけた地面が槌頭の形に凹むくらいだった。
次に魔力パワードスーツモドキと気力強化の状態で高速でぶん回しながら山に向かって叩きつけてみると、めり込んだ槌頭部分から半径5mくらいにビッシリとヒビが入った。
もうこの時点で既にヤバい。オーガくらいならこれで軽く殺れるレベル。
問題は爆発させることを試したあたりからだ。
予想以上に爆発の威力が上がっていて、コツを掴むまで片手じゃ扱えないほどの反動が襲いかかってきた。
なんとか試作品の時のようにある程度自在に振り回せるようになるまで、数十分程度の時間を要した。
連続で爆発させながら、制御できるギリギリまで遠心力を増して地面に向かって叩きつけた結果、地面にクレーターができてそれを中心に数十メートルほど深いヒビが雷のように走っていった。
これだけでも必殺技と言うにふさわしい威力だ。そう、これだけでも。
でも、グルグルと振り回している最中に気付いた。気付いてしまった。
もっと威力を上げて、かつリーチを伸ばして扱いやすく振るう方法を。
まあ単なる思い付きなのですが。
で、それを試した結果が職人3人が眺めている無残に崩れてしまったお山、というわけだ。
……多分、当たれば鬼先生でもただじゃ済まないんじゃないかな。これアカンやつや。
しかもあんだけの破壊をしてもなお、爆裂大槌には傷一つない。頑丈さも折り紙付きだなこれは。
「あらら……山岳の景観を少し壊しちまったなー……」
「……ダンジョンで、この武器があれば楽にあのワームも倒せたと思う……」
「いやアルマさん、これ気安く使っちゃダメなヤツっす。もうこれを適当に振り回してるだけで街の一つや二つ簡単に滅ぼせそうなんすけど……」
『ピピ……』
「あ、レベル上がった。今のに魔獣が何体か巻き込まれたっぽいわ」
嬉しいけどその反面複雑な心境です、ハイ。巻き込んでしまった魔獣たちマジすまぬ。
他に人が居なくてよかった。いや巻き込まないように、人の気配が近くにいないことを確認してから試運転してたから当たり前ではあるが。
「ジュリアンさん、これ勇者の武器っていうかもう魔王の武器って感じなんすけど……」
「……う、うむ。我ながら反論の余地が無いな。……自らの理想を貫いた結果、勇者の武器を超えたと考えられなくも……無理があるか」
珍しく狼狽えながらジュリアンが呟く。
今更になって、自分の作った武器のポテンシャルにビビってるのか。……無理もないか。
「安心しろジュリアン。オリジナリティと破壊力だけ見れば間違いなく他の追随を許さない武器だ。誇っていいと思うぞ」
「それを言うなら我の武器より君の方が非常識だろう。……いや、我の武器とマイ・カスタマー。この二つの要素が巡り合った結果か……」
「非常識と非常識がかけ合わされば常識的なものになるかと思ったら、もっとひどいものになっちゃった感じっすか」
合体事故起こしたみたいな言い方はヤメロ。
目の前の山の惨状は事故に見えるかもしれんが。
「マイ・カスタマー、こんなとんでもない武器を振り回して君はいったい何と戦う気なのかね?」
「んー、とりあえず今の目標としてはドラゴンをぶっ倒して、そのお肉をいただくことが目標だけど」
「…ふむ。ドラゴンと言ってもピンキリだが、どれほどの相手を想定しているのかな」
「あー、えーと、フィリエ王国ってとこのブラックドラゴンとか?」
「ぶっ!? ……ふ、ふはは! あのような怪物と戦う気なのか!? いったいなぜそのような目標を掲げているのかね?」
噴き出した後に、呆れたように笑いながらさらに疑問を投げかけてくるジュリアン。
そういえば、コイツの実家ってフィリエ王国の公爵家だっけ。
となると、あのクソ黒竜がどれだけ強いかくらいはなんとなく知っていてもおかしくないか。
「ちょーっと前に、そいつの飼い主が舐めた真似しくさってきやがってな。そのせいでアルマやとあるパーティが危うく死ぬところだったんだ」
「その復讐ということかね?」
「復讐なんて物騒なもんじゃないけどな。向こうが素直にそのことを詫びてくれればそんな大ごとにするつもりはないけど、まあしらを切るだろうな」
「で、そのための武器がそれというわけか」
「別にそのためだけのもんじゃないつもりだけどな。だが、これは間違いなくドラゴン相手の切り札として申し分ない武器だ」
「こんなもので引っ叩かれる竜に同情するわい……」
「ふふふははは! もしも本当に竜を仕留めたのならば、是非御馳走してくれ!」
「おう。そんときゃこいつの名前もドラゴンバスターとかに変えてみるか?」
「うむ、シンプルだがなかなかパンチのあるネーミングだな」
なんだかだんだん会話が益体のない内容になってきたから適当に切り上げておこう。
「さて、試運転も済んだし、特に不具合もなさそうだから今日はもう帰ろう」
「なんだかんだ言いながら一日中振り回してたっすね…」
「環境破壊……」
「調子に乗り過ぎてたのは自覚してます、ホントごめん。さーて、新武器完成祝いに今日の晩御飯はちょっと豪華にしてみるかな」
「あ、我にも食べさせてくれ! ここのところ潤いのない食事ばかりで飽き飽きしていたのだ!」
「おう、ついでに俺らにも食わせろ! お前さんの飯はうまいうまいと何度もこいつから聞かされて気になっとったんだ!」
「え、ええ。別にかまいませんが、あまり期待しすぎない方が……」
…今日の晩御飯は7人前か。作るの大変そうだなー……。一人前ずつ作ってたら時間もかかりそうだし、まとめて作れる料理にした方がいいかな。
さてさて、となれば前から作ろうと思っていたカレーライスでも作ろうか。
……見た目が茶色いドロドロだから、食べてもらえなかったりしたらどうしよう。泣くぞ俺。
~~~~~リングラナイタ近辺のダンジョン前にて~~~~~
「つい最近、このダンジョンを踏破したパーティが数年ぶりに現れたそうだな」
「え? ……あの、失礼ですが、あなた方は……?」
「おっと、こちらこそ挨拶が遅れてすまない。王国直下の対魔族軍の者だ。よしなに」
「王国直下……!?」
「ああ。ほら、最近各地で魔族どもが好き放題暴れまわってるのは知っているだろう?」
「は、はい」
「で、魔族に対抗するのにはそれ専門の戦力が必要なわけで、あちこちスカウトして回ってるってわけだ。正規の王国軍だけじゃ人員も質も不足だしな」
「……我らの国の軍を侮辱するか、貴様」
「おおっと、そんなつもりはありませんよ部隊長殿。正規軍には正規軍の役目があるので、単に魔族にまで手が回らないのを説明したかっただけで」
「もうよい。まったく、元冒険者なぞどいつも礼節に欠けたものばかりだな」
「じゃあこのパーティを誘うのもやめときます? Lv60を超える魔獣を討伐した実績があるのに、勿体ない」
「……これほどの逸材は滅多におらん。多少の無礼は目を瞑ろう」
「じゃあ、スカウトするってことで?」
「スカウトではない。なんとしても軍に加入させるぞ」
「了解でぇす」
お読みいただきありがとうございます。
>とうとう主人公に最凶の武器が―――
はい、きてしまいましたね。
ちなみに鬼先生、ノーダメージとはいかないでしょうが、多分その気になればこの大槌を破壊することもできるくらいには強いです。ぶっちゃけラスボスとは別の裏ボス的なキャラですし。
二つ名は……まあそのうち付くことがあれば参考にさせていただきます。はい。




