ついに完成
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ディオルゴの魔獣駆除から3日が経過した。
予定通り、リングラナイタのギルドへ報告へ戻らなくてはならない。
……名残惜しいが、レイナはもっと、だろう。我慢我慢。
いやでもやっぱ久しぶりに帰ってきた故郷を離れるのはつらいだろうな……。
「それじゃあ、いってきます!」
「ええ、いってらっしゃい」
と思っていたけど、思ってたよりあっさり別れの挨拶を済ませて出発準備完了してるみたいだ。
お、おう。暗い顔で別れるよりは後味がいいけど、それでええんか?
「月に1回は帰ってこれるんだし、無駄に悲壮感漂わせることもないっすよ」
「ふふっ、レイナのお土産話を楽しみに待っているわ」
ポジティブだなー。やっぱこの二人親子やわー。
変に気遣ってた俺がバカみたいやないの。
あるいは、暗い雰囲気にならないようにお互いに気を使っているだけかもしれないが、そこまで追及するのは野暮だろう。
さーて、別れの挨拶も済んだことだし、そろそろファストトラベルしますか。
「では、また近いうちに」
「ええ、カジカワさんとアルマさんもお気をつけて。あとヒヨコさんもね」
「はい」
『ピッ』
軽く礼をしてからファストトラベルを実行。
周りの景色がリングラナイタのギルド前へ変わった。
フェリアンナさんからしたら、目の前にいた俺たちが急に消えたように見えるんだろうな。
……しかし、我ながら別れの余韻もへったくれもない移動方法だと思うわー…。
冒険者ギルドへ報告・報酬受け取りに入った。
それにしても、どの街のギルドもこのキコキコ鳴るウェスタンドアになんかこだわりでもあるんだろうか。別にいいけどさ。
「お、お疲れさまでした。すごい早さで依頼を達成されましたね。帰ってくるのは早くともあと1週間は先のことかと思っていたのですが……」
受付嬢が少し引いたような顔をしながらこちらに労いの言葉をかけてきた。
3日も余分に滞在していたのに早いと言われた。まあ精霊魔法無しでチマチマ駆除していたらもっと時間がかかっていただろうし、納得できるか。
「普段魔獣討伐ばかりやっているからやりやすい依頼でしたが、魔獣のテリトリー以外にも巣ができることもあるんですね」
「はい。本来なら稀なケースのはずなのですが、最近になって町はずれにはぐれた魔獣の巣ができてしまっているケースがポツポツと報告されているんですよ」
「へぇ……」
……巣のボスを駆除したくらいになーんかヤな気配を感じとったんだよなー。
あれだ、魔族が意図的に魔獣を養殖して、なんか悪さしようとしてたんじゃないかというのが俺とメニューさんの見解なのですが。
確証も無いのにそんなこと言って、無駄に混乱させるのもアレだから黙ってるけど、似たような巣があったら積極的に潰しておこうかな。
え、まだなにもしてないのに一生懸命生きてる魔獣を虐殺するのはどうなんだって? 人間だって生き延びるのに必死じゃわい。
「あ、そうそう。留守の間、カジカワさん宛てに伝言が届いていましたよ」
「伝言? どちら様からでしょうか」
「ゲン工房のヒグロイマさんという方から、『武器が完成したから受け取りに来てほしい』とのことでした」
おおー、とうとう完成したか!
試作品はダンジョンで壊しちまったし、頑丈に出来上がってることを期待しよう。
「……しかし、正直言ってあなたに武器が必要なのか疑問なのですが。Lv50を超える大型の鼠魔獣を素手で殴り殺したってどういうことですか……」
「えーと、適当に突き出した拳がたまたま急所に当たったというか……」
「急所に当たっても、上半身が弾け飛んだりはしないと思うのですが……」
鑑定スキルでどんな倒し方をしたのか見たっぽいな。そのせいで秘孔でも突いたみたいな言い訳に聞こえてそうだ。
もう誤魔化すのも面倒だしさっさと会話を切り上げて工房へ向かおう。
ゲン工房の前まで来たが、いつもの喧騒が聞こえない。
なんかトラブルでもあったのか? ……トラブルがある方が静かだってのもおかしな話だが。
「どうもー、武器が完成したと聞いて受け取りに来ました」
軽く挨拶しながら中に入ったが、人影が見えない。
どこいったんだろうか。
「あれ? 誰もいないっす」
「いや、下の階にある鍛造用の工場に3人ともいるみたいだ」
「でも、金属を打つ音なんか聞こえないけど……」
なにやってるんですかね。
仕方ない、勝手ながらちょっとお邪魔させてもらいましょうか。
「ふんん゛ぬぁぁああああ……! お、おいヒグロぉ……! もっと力入れろや゛ぁあああ!!」
「入れてるっつの゛……! つーかこんな重いもん地下の鍛造所で作んなや! 重すぎて上まで運べねーじゃねーか!!」
「ウグググ……!! ふ、ふはは……!! これだけ重ければまず壊れることはないほど頑丈ということだろう! ……問題は本当にこんな重量物を扱えるかということなのだが……!!」
…ゲンさんとヒグロさん、そしてジュリアンの3人が死にそうな形相で何かを運ぼうとしているのが見えた。
……ってあれが、真・エクスなんちゃらこと爆裂大槌の完成版か!
アダマンタイトの柄は俺の腕くらい太くて、少しでも持ちやすいように滑り止めにグリップを巻いてある。
そして槌頭部分は亀の甲羅柄が無くなっていて、まるで金属かと見紛うほど磨き上げられている。
そして、その槌頭部分の側面上下にバイクのマフラーのような排気孔が付いているのが見えた。光沢からして槌頭部分と同じ素材が使われているみたいだな。
3人がかりでも持ち上がってるのは柄の部分だけで、槌頭部分は引き摺るのが精一杯のようだ。
どんだけ重いんだか。常人じゃまず扱えないだろうなこりゃ……。
「あのー、武器が完成したと聞いて受け取りに来たのですが……」
「あ゛ぁんっ!? 今それどころじゃ……ってカジカワじゃねぇか! 数日前にディオルゴまで魔獣の駆除に向かったばっかだって聞いてたんだが、もう帰ってきたのか?」
「はい。ついさっきギルドまで戻ってきまして、伝言を聞いてきました」
「お、おう。お疲れさん。……ところで、武器が完成したのはいいが俺たち3人がかりでも引き摺るのがやっとなんだが、本当にこんなもん振り回せるのか?」
「爆発機関に使う魔石もAランクのものを使用して、さらに出力と魔力変換効率を上げてあるが、そもそも持ち上がるかどうかが疑問なのだが……」
とりあえず、素の状態で持ってみるか。
うわ、すっごい重い。両手で持って辛うじて振れるかどうかって具合だ。
まず槌頭部分が滅茶苦茶重い。分かっていたけどクッソ重い。
さらに柄の部分もこんだけ太いとかなりの重量だ。合計数百kg以上あるんじゃないかコレ……。
で、普通に考えたらそんなもの俺の体重じゃまず持ち上がらないはずなのに、辛うじてだが振り回すくらいはできそうだ。
……今更だけど、能力値の補正って物理法則を完全に無視してるよね。
「うおぉ……! お前さん、マジで持ち上げおったのか……!」
「お、おい、大丈夫か? 無理して腰でも痛めたらシャレになんねぇぞ!」
「確かに重いけど、扱えないほどじゃないな。……すみません、ちょっと早速試運転してみても?」
「工房の中でやるのはやめてくれ。おそらく耐えられずに建物ごとぶっ壊れちまう」
「というか、街の中じゃなくて思いっきり暴れられるような場所で試運転した方がいい。正直、どれほどの威力に仕上がっているのか未知数なのだ」
未知数て。どんだけ強力な武器なんだコレ……。
「あと、試運転するなら我らも連れていってくれ! 君がどんな風にそれを振るうのか是非見てみたいのだ!」
「大丈夫だとは思うが、なんか不具合があったりしたら調整が必要だしな」
「……えーと」
どうしよう。魔力を直接操れることを知ってるジュリアンはともかく、ゲンさんたちにまで見せてもいいものなんだろうか。
「……マイ・カスタマー、ゲダガン殿とヒグロイマ君は信用できる。それに君の事情もある程度は察しているようだ」
「スキル無しで、かつ魔石も使わずこいつの試作品をボコボコ爆発させていたって話だ。となるとお前さんにはスキル以外のなにか特別な力があるんだろう?」
「……」
「別に答えたくなきゃそれでいい。俺が知りたいのはお前さんの事情じゃなくて、お前さんがそれをどう振るうかだ。都合が悪いなら一切他人にお前さんのことを話さないと誓う。信用できないなら誓約書でも書いて、違反したらなんでも条件をのんでやらぁ」
………
正直、魔力の直接操作とかのことはあんまり言いふらしたくないんだけどなー。
でも、この人は他人に厳しい分自分にはそれ以上に厳しいタイプだと、俺の直感が告げている。
なんせ、日本での俺の上司もこのタイプだったからな。なんとなくそのへんピンとくるものがある。
しょうがない、このさい一緒に魔獣山岳で試運転してるところを見てもらいましょうか。
お読みいただきありがとうございます。




