次の機会に
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ネズミのボスを駆除した後、脅威の排除を完了したことを憲兵に伝えた。
心底安心した顔を見せた後に、避難していた人々にもう大丈夫だと連絡してくれて、ようやく騒ぎは収まった。
さて、今回受けた依頼の反省点をあげようか。
まず巣から町に魔獣を侵入させてしまった件について。
巣を崩落させた時に、ボス含む生き残りが這い出てくることを想定していれば町まで侵入してくることはなかったはずだ。
入り口側から出てきたところを火力を爆上げした攻撃魔法で狙撃したりとか、出口に罠を仕掛けておいたりとかいくらでも対策はできたのに、それを怠った。要反省。
そして、ボスを相手にしていた俺。自分の都合で倒すのに時間かけすぎ。
今思うと、ちゃっちゃとトドメをさして町に侵入した魔獣の駆除に回るべきだった。
レイナが言うにはあの赤毛少年少女たちがネズミ魔獣に襲われてて、あとちょっとでも助けるのが遅れていたら危なかったらしい。
ボス以外の魔獣は他2人+1羽に任せていたから、俺がしゃしゃり出る場面じゃないと判断しての行動でもあったし、結果としては被害はゼロだった。
でもだからといって自分の都合、すなわち今の自分の拳法モドキがどこまで通用するか試したかったという欲を出したのは正直いただけない。
仕事はあくまで仕事。私情を交えて修業なんかしてないで、町の人々の安全第一で行動するべきだったんじゃないかとも思う。
……冒険者としてもリーダーとしてもまだまだ未熟だな、俺は。
反省すべき点は、挙げればきりがない。ウジウジ悔やむより次の機会に活かそう。
そして最後に、ボスを駆除した時に遠くからなんか嫌な気配を感じとった。
放置するのも気持ち悪かったから、飛んで行って確認しようとしたけどすぐに気配は消えてしまった。
あの禍々しい魔力は、多分……
「ヒカル、どうかしたの?」
「……いや、今回は反省することが多いなーって自分で思って悲しくなってきてな。ボス相手に遊んでてホントにごめん……」
「あの大きなネズミ相手に遊んでるって時点で、なにかがおかしい気がするんすけど……」
『ピピッ』
そうか? 確かに図体はデカかったけど、強さはオーガとどっこいどっこいってとこだったんだが。
多分、俺じゃなくてアルマがソロで戦っても勝てたと思う。レイナとヒヨ子にはまだちょっとキツそうだけど。
「レイナ!」
こちらを見つけたフェリアンナさんが、娘の名前を呼びながら駆け寄ってきた。
……何度見てもレイナがもう一人いるように見えて、ちょっと混乱しそうになるな。
「お母さん、ただいま」
「おかえりなさい、レイナ。怪我はない?」
「全然。ちょっとお腹が空いてるけど、かすり傷一つしてないよ」
「よかった……」
心配そうにしていたが、ピンピンしているレイナの姿を見てようやく安心できたようだ。
はたから見てると、むしろフェリアンナさんの方が心労で体調を崩しやしないかと心配になる。
少し遅れて、赤毛のチャンバラ少年の、……誰だっけ? もうチャンバラ君でいいか。と一緒に居た赤毛の少女がこちらに近付いてきた。
魔獣の巣へ向かう前には敵意剝き出しでこちらに喧嘩売ってきていたが、今はションボリとした表情で申し訳なさそうな顔をしている。
「れ、レイナ。さっきは、本当に助かったよ。俺がでしゃばったりしなかったら、あんな危ない状況にはならなかったのに………ごめん」
「ご、ごめんなさい、レイナお姉ちゃん……」
「このバカ息子とバカ娘がこうやって五体満足でいられるのも、レイナちゃんのおかげだ。……本当に、ありがとう!」
父親と思しき男性も一緒に頭を下げて礼を言う。
うんうん、ちゃんと反省して感謝してくれているのなら、もうそれで充分だろ。
ただ、問題があるとすれば……
「あの、私はレイナではなくて……」
「……え?」
「レイナはこっちっすよ!」
「す、すみません、あんまりにもそっくりなものでつい…」
頭下げる相手間違えてて台無しってことかな。バカス。
服とか見れば見分けつくでしょ。わざとやってんのかこの3人。
「コホンッ、…まあ、アンヴィたちがあんな無茶をしたのは、私のことを心配してくれたうえでの行動だってことは分かってるよ。だからあんまり強く責めたりするのは気がひけるからやめとく。でも、二度とあんな危険な真似しちゃダメだからね!」
「う、うん」
「……悪かった」
プンスコ怒りながらも、どこか優しい表情をしている。なにこれ微笑ましい。
「あと、カジカワさん、だったっけ。レイナを買ってこき使ってるなんて決めつけて失礼なこと言って、ごめんなさい……」
「気にしてないよ。こっちこそ悪ノリしてゴメンネー」
「カジカワさんが一番反省してないように見えるっす……」
「それにしても、こうして見てるとちゃんと年上相応の叱り方してて、立派に育ってるなぁって思ったよ」
「そ、そうっすか?」
「背はアンヴィ君たちの方が大きいから、見てるだけじゃ分かりづらいかもしれないけど」
「アンヴィ、この人やっぱ悪い奴だからタコ殴りにしていいっすよ」
「……せっかく誤解が解けたのに、台無し」
漫才じみたやりとりを見ていて、呆れたようにアルマが呟いた。
うん、正直スマンかった。
「……さて、依頼も済んだし、あとはギルドに報告するだけだな」
「うん」
「…そうっすね」
「もう、行っちゃうの?」
「せっかく久しぶりに故郷に帰ってきたんだから、もうちょっとゆっくりしてけばいいのに」
「んー、それもそうか。じゃあ、出発は3日後くらいにしとこうか?」
「それでいいっす。あんまり長居しちゃうと、離れるのがつらくなっちゃうっすから…」
「孤児院でもそれ言ってたな」
本当は依頼を達成したなら早くギルドに報告すべきだ。
他の冒険者がこの依頼を見て、時間がかかっているから加勢しようかとか言ってきそうだし。
でも依頼達成までの期間が短すぎたりしても不自然だし、本来ファストトラベル無しでかかる帰りの馬車の時間を考えると3日くらいなら妥当なところだろう。
「それに、このあたりの食材にも興味があるしな。あの空飛ぶエビとか」
「結局食い気優先なんすか……」
「美味しいご飯は明日への活力ですからー」
「……一理ある」
「…うん、まあ、そうっすね」
「ふふ、よかったらまた一緒に晩御飯を作りませんか?」
「是非」
そうと決まれば、今日こそはエビフライ作るぞー。
こないだは副菜とプリンしか出せなかったし、お互いの主菜を食べ比べてみるのも面白そうだ。
え、お前いつも揚げ物ばっか作ってるなって? うるせぇエビフライぶつけんぞ。
一抹の不安はあるが、急を要するものではないのかそれほど嫌な予感はしない。
でも、念のため今後は定期的にこのあたりの様子を窺うようにするか。
もしもこの町の人たちになんかちょっかい出してきたら、今回のネズミのように1匹残らず駆除してやるぞクソどもが。
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「あーあ、せっかく養殖してたのに潰されちまったの? 管理が甘いから溢れた分が町に漏れるんだろうが。機が熟せばそこそこの被害が出せただろうに」
「苦肉の策だが、本当は巣に入った時点で一斉に襲わせようと思っていたんだ。まさか巣そのものを潰されるとは予想外だ。…クソ! スタンピードの直後にでも町に向かって放てば、住民もそこそこ強力な冒険者にも被害が与えられただろうに……!」
「あんな田舎町なんかどうでもいい。養殖場は他にもあるんだろ?」
「まあな。いくつか既に潰されてしまっているところもあるようだが、全体から見れば極々微々たるものだ」
「第3大陸はこの手で上手く堕とせたな。もっとも魔獣が比較的弱いこの大陸では不向きな戦法なようだが」
「それでもLv50を超える魔獣を作り出せただけでも上出来だろう。せめてあと5、6体だけでも同じレベルまで育てられていれば……いや、過ぎたことか」
「そう、過ぎたことだ。今は遅効性の毒のように、ヤドリギのように、癌のように、ジワジワと水面下で根を張り、機会を窺えばいい」
「だな。ではまた次の機会に」
「おう、次の狩場で会おうぜ」
「ああ、次の人狩りで、な」
お読みいただきありがとうございます。
>有能なじいさん >>> 無能なギルマス―――
鑑定師おじいちゃんがスペック高すぎるだけで、ギルマスもそこそこ頑張ってはいます。一応。
パラディンのことを知らなかったのは、アルマがジョブチェンジするまでの時点でパラディンになれた人が一人もいなかったからですね。
恋愛云々は……うん、日本の倫理観が捨てきれていないからあと一歩が踏みこめない様子。いつまでこの状態なんだろうね。
>やっぱり主人公は婆さんとの砕けた言い方の方が良い―――
元・社畜ですので。多分自分でも気持ち悪いと思いつつも癖が抜けきらないんでしょうねー。
>武器の注文キャンセルで良くないか?
大丈夫。武器を持ったらもっとヤバくなる予定だから。……大丈夫、か?




