ネズミ、駆除
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今回はチャンバラ赤毛少年こと、アンヴィルン視点からです。
「あ、アンヴィ! みんなもう避難所に行っちゃったよ! 私たちも避難しようよ!」
「だ、ダメだ! レイナがあの黒髪たちに使われて、魔獣と戦わされてるんだぞ! お、俺が助けてやらないと!」
「私たちじゃ魔獣なんか倒せないよ! いいから逃げようよ!」
「なら、俺だけでも行く! お前は安全なところまで避難しろ!」
「アンヴィを置いてなんか行けないよぅ!」
分かってる、今の俺じゃ魔獣なんか倒せないことなんか分かってるんだよ!
でも、それは成人して間もないレイナだって同じはずだ。あいつはまだ成人してからふた月くらいしか経ってない。
多分、まだLv10にも達していないだろう。Lv30を超える魔獣の相手なんか無茶だ!
だから、早く見つけてやって、避難所まで一緒に逃げないと……!?
『クグルルルルゥゥ……!』
ヤバい……!!
ネズミ型の魔獣って聞いてたから、てっきりもっと小さいヤツかと思ってたけどとんでもない。
まるで牛みたいにデカいネズミが、こちらを見て唸っているのが見えた。
「あ、あ、アンヴィぃ……!!」
「さ、下がってろ! 俺が引き付けるから、お前は逃げろ! 早くっ!!」
「アンヴィッ!」
「このネズミ野郎ぉっ!!」
木剣なんかじゃ歯が立たないだろうけど、怯ませることくらいはできるかもしれない。
なんとか目を狙ってその隙に……!
ボキィッ! と、嫌な音を立てて、手に持っている木剣が折れた。
ガリガリと折れた木剣を齧る魔獣。いつの間にかこっちに攻撃をしてきて、木剣を折ってやがった。
う、動きが全然見えなかった……! だ、ダメだ、こんなもん太刀打ちできるわけない……!
『プグルルルル……ギギィッ!』
今度は俺を食おうとしているのか、こっちを睨みつけながら鳴き声を上げている。
「く、くるな! くるなぁあっ!!」
「あ、アンヴィから離れろぉ!」
『グギャっ!?』
俺が情けない声を上げながら腕を振り回してると、側面からマルティがファイアーボールを魔獣に向かって放った。
魔獣の顔面に上手い具合に当てられたみたいで、魔獣が大きく怯んだ。
「早く! 今のうちに逃げよう!」
「くっ……! ごめん、マルティ!」
情けない……! 魔獣を引き付ける役は俺じゃなかったのかよ!
いや、そもそも、レイナを助けるためにこんなところに残ってたんじゃなかったのかよ……!
俺は、なんて情けないんだ! 俺は、なんて、弱いんだ!
「こっち! この先に避難所がある! あとちょっとだから走って!」
「う、うん、……!?」
マルティに引っ張られるように一緒に走って、曲がり角を曲がった先には
さっきと同じ魔獣が2匹も待ち構えているのが見えた。
「う、うそ、でしょ……」
「くそ……!」
ダメだ、こうなるともう二人とも助かるなんて絶対無理だ……!
……ごめん、マルティ。お前だけは、俺が死なせないから。
「うあああああああっ!!」
「あ、アンヴィッ!!?」
魔獣に向かって大声を上げながら突っ込む!
ほら、餌だぞ! 俺の方が活きがいいぞ! だから、マルティの方へは行くな! 行かないでくれ!
『『ギギキャガァァアアッ!!』』
よし、俺の方へ2匹とも目がいってるな。……よかった。
マルティ、なんとかお前だけでも逃げてくれ………。
あ、もう、だめだ、食われ――――
「うおりゃぁぁあああああっ!!」
『ゴケェェェエエエエエエッ!!』
『『ビェビャアアアアっ!!?』』
「……え?」
あとコンマ数秒で食われる、というところで、誰かの叫び声と、ニワトリの鳴き声が聞こえた。
それと同時に、ネズミたちが胴体真っ二つになって倒れたのが見えた。
この声は、あの金髪は……!
「レイナ……!?」
「れ、レイナ、お姉ちゃん……!」
呆然としながらレイナを見る俺たちを、レイナが見つめている。
その顔は、とても厳しい表情をしていた。
「なんでまだこんなとこほっつき歩いてんだアンタらはっ!! さっさと避難所に行けって言われなかったのか!?」
これまで見せたことのないような怒りの表情で、雷が落ちたんじゃないかと錯覚しそうになるくらい大きな声で怒鳴られた。
「ご、ご、ごめんな、さいぃ……! ふえぇ……!!」
「お、俺が悪いんだ! 俺が、レイナを探そうなんて言ってあちこち見て回ったせいで……」
「どうでもいいわそんなこと! 邪魔だから早く避難所まで走れバカっ!!」
「「は、はいぃっ!!」」
……うん。改めてよく分かった。
俺はバカだ。大馬鹿だ。
あんなに強いレイナを、俺なんかが心配すること自体がおこがましかったんだ。
あんなに立派に、誰かのために怒ることができるレイナが、あの黒髪のいいなりなんかになってるはずがなかったんだ。
「ヒヨコちゃん、あと2体残ってるみたいっすからちゃっちゃと仕留めるっすよ!」
『コ、コケッ……』
ちょっとレイナを怖がってるように見えるニワトリと一緒に、他の魔獣を仕留めに行くレイナの背が大きく見える。
俺よりも背が小さいのに、よっぽど頼りになる背中だ。
……ホント、なにやってるんだろ、俺……。
~~~~~フェリアンナ視点~~~~~
レイナと子供たちの無事を祈りながら待っていると、入り口の方から小さな二人分の人影が見えた。
「お父さぁーん!」
「ご、ごめん父さん。俺が、レイナを探そうなんて馬鹿なことやってたせいで……」
「なにやってんだこのバカ!! もしもお前らになにかあったらって、どれだけ心配かけたと思ってやがる!!」
怒鳴りながら、それでも優しく二人の我が子を抱きしめながら号泣する男性。
よかった、無事に避難できたのね……!
「あのね、ここに来る途中で、大きなネズミに襲われたの……」
「なっ!? ど、どこか怪我したりしなかったか、大丈夫なのか!?」
「う、うん。レイナが、魔獣をあっという間に倒してくれたから、怪我はないよ」
「れ、レイナが……?」
相当強力な魔獣が侵入してきているという話だったはずなのに、それをレイナが……?
……レイナは、私が想像している以上に強くなっているみたいね。
ありがとう、レイナ。どうか、あなたも無事で……。
~~~~~レイナ視点~~~~~
「ふはははははぁいっ! これでトドメっすー!」
『コケェエっ!!』
『ビャグッ!? ビャアバッ!!』
ヒヨコちゃんと丁度挟み撃ちになるカタチで、ネズミ型の魔獣を伸魔刃と伸魔爪で十字斬り。
ふふふ、はたから見てたらさぞかしカッコいい絵になってたに違いないっす。……ギャラリーなんか一人も居ないっすけど。
「町の中に入ってきた魔獣はこれで全部っすねー。あとは街の外でカジカワさんと戦ってるおっきな魔獣だけっす」
『コケッ。……ココッ!』
「ん、ヒヨコちゃんどうしたんすか……あ、アルマさん、お疲れさまっすー」
「お疲れ、レイナ。ごめん、何体か逃して町の中に侵入させてしまった……」
「誰も怪我してないし、結果オーライっすよー。まあちょっと危ない場面もあるにはあったっすけど」
アルマさんも他の魔獣の駆除を終えたところみたいっすね。
見る限りじゃ全然余裕そうっす。こっちはちょっと疲れてきてるのに。
「それにしても、カジカワさん珍しく苦戦してるんすかね? 魔力感知してみたっすけど、なんだか妙に時間がかかってるみたいっす」
「あれだけ大きい相手だと、ダメージを与えるのが大変なのかも。すぐに手伝いに行かなきゃ」
「了解っす。影潜りで建物や木々の影伝いに移動しましょう」
こないだみたいに半身潰れるようなことになってなきゃいいんすけど、まあ多分大丈夫っしょ。カジカワさんだし。
さーて、さっさと移動するっすよー。
カジカワさんのもとまで影潜りで移動して、最初に目に映ったのは、半身が潰れた身体だった。
いや、カジカワさんのじゃなくて、大きなネズミの方がね?
「んー、違うなー。今のどんくらいの完成度なの? え、拳法Lv3相当? しょぼいわー……」
『ギ、ギギギャアアァァアア!!!』
「遅い遅い。鬼先生に比べたら遅すぎるぞ君ぃ。さて、これはどうだっ!」
『ギャアアアアアアアッッ!!!?』
……カジカワさんが、なんか独り言を呟きながら魔獣の攻撃を避けつつ素手で攻撃し続けている。
魔力はおろか、気力すらほとんど操作していない。素の状態で戦っているのが感じ取れた。
「え、今の拳法Lv2くらい? さっきよりダメじゃん……なになに、腰の動きがズレてるせいで関節の連携駆動が台無し? 難しいなー……」
「……ヒカル、お疲れ。なにやってるの?」
「あ、お疲れアルマ、レイナ、ヒヨ子。いやー、ちょっと素の状態で格闘術とかを再現できないか試してたんだけど、なかなか先生みたいに上手くいかなくてさー」
「いや、先生って誰っすか……?」
「機会があったらいつか紹介する……いや、やっぱ危険だからしばらくは無理かな」
「え、先生って誰か知らないけど危険人物なんすか!?」
「危険人物って言うか……危険生物?」
「……人じゃないの?」
もうカジカワさんがなに言ってるのか理解できないっす。
そしてやってることも訳分かんないっす。なんでこんな強そうな魔獣にわざわざ素手で挑んでるんすか!
いいから早く倒して依頼を終わらせてほしいっす!
『ビ、ビャアアアアアアアォ!!!』
「……ヒカル、危ないからそろそろ真面目にやって」
「はいすみませんでした。……ふっ……!」
アルマさんに平謝りした後、気力操作で膂力を強化していくのが分かった。
自分も気力を使いこなせるようになってきたからこそ分かる。
ヤバい。自分とは比較にならないくらい、カジカワさんの力は強すぎる。
『ビャガァァアアアアッ!!!』
「はぁっ!!」
その巨体で圧し潰そうとするネズミを、カジカワさんは正拳突きで迎撃する。
普通に考えたら、カジカワさんがそのまま潰されてしまうだろう。
結果は正反対。カジカワさんの拳が、ネズミの上半身を粉々に弾き飛ばした。
……やっぱ、この人ヤバいっす。ホントに人間なんすかね……?
「おし、手応えあり! 今の結構いい感じじゃなかった? え、威力は高いけど身体の動き自体は拳法Lv4相当? ……要修業ですねこれは……」
そして、今の一撃にも納得していない様子。これ以上強くなられると怖いんでもうそのままでいいっすよ……。
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