ネズミ崩落
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「このぉ! レイナを解放しろぉ!」
「ふはははは! 取り戻したければ我を打ち倒してみせるがいいー!」
「……なにやってるの?」
「カジカワさん、なんでノリノリで悪者役やってるんすか……」
はいどうも、ただいま害獣駆除のためにギルドから説明を受けて、魔獣の巣へ向かう道中です。
で、その途中でレイナの幼馴染らしい赤髪少年『アンヴィルン』君と、同じく赤髪の『マルティアンヌ』ちゃんという少女に逢いまして。
どうにも、この子たちはレイナの事情を中途半端に知っているらしく、『レイナの父親が自分の腕を治すためにお金を稼ごうと、レイナを売ろうとした』『レイナと同行しているということはきっとその売りに出した相手に違いない』と思い込んでるようでして。
……フェリアンナさんも近所の奥様方には事情を話してあるらしいが、その子供たちにまで詳細が伝わっていないようだ。
まあよそ様の家庭の事情を言いふらすようなことはしたくなかったんだろうけど、そのせいでこっちにとばっちりがくるのはちょっと……。
で、『レイナを自由にしろー!』と木刀片手に襲いかかってくるアンヴィルン君に、つい悪ノリして『よかろう、ならば我を倒して力ずくで奪い取ってみせるがいい!』とか言っちゃってチャンバラ状態になってるのが現状です。
どう考えてもちゃんと事情を話さず悪ノリした俺が悪いですね、はい。
「ふっ! はぁ! だあぁぁあ!!」
「おいおい、大した隙も無いのに大振りすると、スカッた時に反撃を喰らうぞ。こんなふうに!」
「いってぇえ!! ま、まだまだぁっ!!」
気合を入れて大振りをかましてきたアンヴィルン君の攻撃を避けて、無防備な状態になった頭にものすごく手加減をしたデコピンを当てた。
痛みに涙目になりながらも、怯まず攻撃を続けるアンヴィルン君。なかなか根性あるな。
「アンヴィ! どいて!」
「え、ちょ、あ、危ねっ!」
「こらこら、町中で攻撃魔法を撃つのはやめなさい。もしも人や家に当たったりしたらイタズラじゃ済まないぞ」
「ふぁ、ファイアーボールを素手で掴んで、握りつぶした……!?」
マルティアンヌちゃんの方は攻撃魔法スキルを取得しているようで、後方から火球を放ってきた。
火事になるからやめなさいって親御さんから言われてないのかな?
「コラァッ! アンヴィにマルティ! お前らなにやってんだ!」
「げっ! と、父さん……!」
「まずいわ! ここは戦略的撤退よ!」
「ま、待ってろよレイナ! すぐに自由にしてやっからな!」
「はいはい、それはもういいから大人しく捕まっとくっす」
「うわぁっ!?」
「は、速っ!?」
逃げようとする二人を、クイックステップで距離をつめて捕まえるレイナ。
がっちりと腕を掴み、踏ん張る二人を無理やり親父さんのもとへ引きずって運んでいる。
……こうして見ると、レイナも見た目の割に筋力強いよなぁ。なんだかシュールだ。
「すみません、冒険者さん。ウチの子たちがご迷惑を……」
「いえいえ、こちらもからかうような真似をして申し訳ありませんでした。その、あの子たちをあまり責めないであげていただけませんか? レイナのことを本当に大事に思ったうえでの行動だと思いますので」
「いえ、きっちり躾けておきます。ほら、二人とも。ちゃんと謝りなさい!」
「なんでだよ! こいつはレイナを金で買い取りやがった最低な奴なんだぞ!」
「レイナお姉ちゃんを返して!」
「アンヴィ! マルティ! いい加減にしなさい!」
「あはは……」
「なんか苦笑いしてるっすけど、カジカワさんがちゃんと事情を話さなかったのが原因っすからね?」
「いやー、でもあの様子を見る限りじゃ、事情を話しても納得してくれたようには思えないんだが」
「それとこれとは話が別っす!」
サーセン。メンゴメンゴ。
しかし、成人前からあれだけの動きができて、友達のために勇気を出せる子たちなら将来はきっと立派な剣士と魔法使いになれるだろう。ガンバ。
さーて、俺らはさっさと害獣駆除に向かいますかね。
依頼に書いてあった害獣は、どうにもネズミ型の魔獣らしい。
小さくてもヌートリアくらいの大きさはあるらしく、農作物や飼っている家畜なんかを襲って巣に持ち去っていく姿が見られたとか。
町の戦闘職の人たちで駆除に乗り出そうとしたこともあるらしいが、なんでもかなり強力な個体が何体か混じっていて手に余るらしい。
Lv20台の戦闘職の人たちで駆除できなかったとなると、最低でもLv30以上はあるかな。一応、これCランク以上の依頼らしいし。
なんだかケルナ村での狩りを思い出すなー。あの頃はジェットボア一体に苦戦してたっけ。
「ネズミたちはどうも山の斜面に洞窟を掘って巣を作っているらしい」
「巣の大きさはどれくらいのもんなんすかね?」
「人が通るには充分な広さがあるらしい」
「そうなると、相当大きな魔獣もいるのかな?」
「かもな。まあ洞窟の中ならこっちに分があるから大丈夫だろ」
「? どういうことっすか?」
「精霊魔法」
「……ああ、なるほど」
精霊魔法と聞いて、これからなにをしようとしているのか察したのか、顔を引き攣らせながら納得するレイナ。
お、あれがネズミの巣か………入り口デカくない? 高さ3m、横幅5mくらいあるんですがそれは。
アレくらいデカい穴が開いてないと出られないナニカがあの巣の中にいるってわけか。……こりゃLv30どころじゃないかもしれない。
んー、魔力感知をしてみたがかなりの数だな。200匹はいるんじゃないかこれ。
もしもこの数が一斉に出てきたりしたらちょっとしたスタンピード騒ぎになりかねないぞ。
やっぱ予定通り、一気に潰すべきか。
「アルマ、魔力を譲渡するから思いっきりぶっ潰してくれ。町からは結構距離があるし、山が崩れても被害は出ないだろう」
「分かった。『リトルノーム』、仕事。あの巣の中を崩落させて」
〈ひっでぇなあんたら! じひはないのかー!?〉
〈あ? ねぇよそんなもん。いままでなにをみてきたんだおまえ〉
〈ぜぇぜぇ、ち、ちょっとしんどすぎるだろこのしごと!〉
〈まりょくはいっぱいもらえるけど、それいじょうにつかれるわー……〉
いつものように愚痴を言いながらも懸命に働く精霊たち。がんばえー。
精霊魔法の影響で、山全体が震えているのが分かる。これだけの力を行使できるのにLv1の魔法だと言うんだから恐ろしい。
今じゃ精霊魔法スキルLv2まで上がってたっけ? 次はなんの精霊が召喚できるんだろうか。
お、洞窟の中が崩れ始めたのか、入り口から音が響いてくる。もう少しで完全に――
ズガガガァンッ!! と洞窟が崩れるのと同時に派手な音が鳴り響いた。
山全体が崩れるようなことにはならなかったが、洞窟の中は完全に埋まってしまったようだ。
「う、うわぁ……容赦ないっすね……もうちょっと手心とか加えてあげても…」
「言っとくが、あそこに巣を作ってるのレイナの故郷を荒らしてる害獣だからな? 最悪、フェリアンナさんに危害を加えることもありえるんだぞ?」
「やっぱ一匹残らず死ねばいいっす」
変わり身はやぁい! 手のひらくるっくるやぞこの幼女。
「あ、レベルアップした。相当な数を倒せたみたい。でも、全部仕留められたかは分からない」
んー、大丈夫だとは思うけど、念のため魔力感知を……。
……げっ!
『クギギギャァァァアアアッッ!!!』
体長5mはある巨大なネズミ魔獣が、崩落した洞窟の入り口を突き破り脱出してきた。
それに続いて、2~3m近い大きさのネズミも10匹程度出てきた。
……大部分はさっきの崩落で仕留められたようだが、高レベルの魔獣だけ生き残ったみたいだな。
『グギャア! クギャアァアっ!!』
『『『ビャアアアアア!!』』』
脱出したネズミどもは、ボスと思われるデカネズミの指示を受けてどこかへ向かって一斉に移動を開始した。
あの方向は……まさか。
「あ、あいつら、町の方へ向かってるっす!!」
……まずいな。
あのデカブツは恐らくLv50台、その取り巻きはLv30~40くらいだろう。
あんなのが町に入ったりしたら………最悪、町が全壊しかねない。
とりあえず、ファストトラベルで町へ戻ろう。避難勧告と、迎え撃つ準備をしないと。
……これって、やっぱ依頼失敗扱いになるんだろうか。
いや、それより早く戻らないと!
お読みいただきありがとうございます。




