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親子の選択

新規の評価、ブックマークありがとうございます。

お読みくださっている方々に感謝します。



どうもこんばんは。夜も更けてまいりました。

食休みの後に、これまでの旅の経緯やら今後の相談をしています。

大体のあらましはレイナから定期的に送られてくる手紙を読んで知っていたようで、比較的スムーズに話を進められた。



「……数えきれないほどお世話になっているようですね。特にあの人、『ギルカンダ』の件は本当にすみませんでした」


「いえ、ほんの少し力を貸しただけですからお気になさらず」



ギルカンダってのはレイナの父親の名前だな。

自分の子供を売りに出そうとするとか、片手が無くなってどこか心の大事な部分が壊れてしまってた結果なのかもしれないが、それでも許されることじゃない。

……今はレイナの蹴りで身体の大事な部分も使い物にならなくなってるかもしれんが。ガクブル。



「今なら、もうレイナの力だけでもギルカンダさんとも向き合えるでしょう。数年後に檻から出てきたとしても、心配はいりませんよ」


「これまでアイツから逃げてばっかりだったけど、もう逃げないよ。何度でもぶつかってやれるくらい強くなったんだから!」


「……たくましくなったわね。でも、無茶しすぎるのもよくないわよ。できるだけ安全第一で、ね?」


「…うん」



うん、まあ、冒険者なんて商売やってたら危険と隣り合わせになるのは当たり前のことだが、わざわざ危険すぎる道を行く必要もないと警告してくれているな。

ある程度命の危機が身近にあることは理解してくれているようだが、やっぱ心配になるか。



「…これまで何度も危ない場面はありましたし、今後も危険はないと約束することもできません」


「そうでしょうね。……あの人が腕を失った時に、それをよく理解しました」



無責任に、『絶対に大丈夫』と言うだけなら容易い。

でも実際は違う。地域によって環境や治安の違い、また魔獣の強さもピンキリだしな。

しかも、最近は魔族があちこちでヒャッハーしてやがるらしいから、安全なところなんて厳密に言えば皆無だろう。

無論、この町も例外じゃない。『冒険者なんて危険な職業じゃなくて、地元でまた静かに暮らそう』と言わないのは、そういったことを分かっているからかもしれない。



「ですが、レイナが自分の身に降りかかる困難に立ち向かえるように強く、たくましくなれるように鍛えることくらいはできると考えています」


「レイナ一人で乗り越えられない状況なら、できる限り手助けしますし、またこちらが力を貸してもらうことも多々あると思います」


「実際、この子がいなかったら死んでいたって状況も何度かありますしね」


「……カジカワさん、アルマさん……」



納得しかねるかもしれないが、俺たちにできることはそれぐらいなもんだ。

もしもダメだとおっしゃるのならば、何日でも説得して同行を許してもらおうと考えている。

フェリアンナさんは、しばらく俺とアルマの顔を見つめた後に俯き、小さな声で口を開いた。



「……正直に言って、レイナにはもっと安全な働き口を用意してあげたかったと考えていました」


「親なら、当然でしょうね」


「ですが、お二人と実際にお話をしてみて、短い時間でもよく分かるくらいに、親切な方々だということがよく分かりました」


「いえ、そんな……」


「……すみません、一晩、レイナと一緒に過ごすことを許していただけますか? 二人きりで話したいことがまだ沢山あって、私自身、気持ちの整理も必要みたいですので……」


「ええ、もちろんです。……どうぞ、ごゆっくり。アルマ、ヒヨ子、宿に行こうか」


「……うん」


『ピ』


「それじゃあレイナ、また明日な」


「……はい」



レイナもお袋さんも、きっと本心ではまた一緒に暮らしたい気持ちが強いんだろう。当たり前か。

あーもー、こんな寂しそうな顔されたらまた連れていくことにすごい罪悪感あるやないの。

……最悪、一旦ここに預ける選択肢も考えるべきか? でもなー。

明日、フェリアンナさんとレイナからもう一度今後どうしたいかを聞いてから決めようか。









~~~~~~~~~~




「レイナ」


「なに?」


「毎日、楽しい?」


「……うん。すごく、楽しい。カジカワさんとアルマさんに会えたことを考えると、これまでのことも全然不幸なんかじゃないって思えるよ」


「そう。……よかった」


「お母さん、ごめんね。家を出てからずっと心配させちゃって…」


「ううん、またレイナの元気そうな顔を見られて、本当に安心したわ」


「……ごめんね」


「ふふ、謝ることなんかないってば。……レイナは、これからどうしたいの?」


「………正直、ここでまたお母さんと暮らしたい気持ちも、あるの。……だけど」


「…」


「カジカワさんと、アルマさんと、ヒヨコちゃんと、一緒に色んなところに行ってみたい。遠くまで旅をして、見たこともないものを見て、色んなものを食べて、聞いたこともないようなものに会ってみたいの」


「……そう」


「…」


「なら、もう答えは決まっているのね」


「…」


「…」


「うん」




~~~~~~~~~~














『ピッ』



眠い。後にしろ。



『ピピィッ!』



すまん、せめてあと5分…




『コケコッコォォォオオオッ!!!』



うるせぇよ!! 他の客の迷惑になんだろーが!



『コケッ! コケェッ!』



……ああ、うん、おはよう。分かったから上に乗るな。重いわ。

モーニングコールはもうちょっとボリューム小さめでオナシャス。耳が痛いから。

ああもう、飯ならすぐ作るからちょっと待ってろ。

はぁ、結局昨晩はよく眠れなかったなー。自分でも驚くほど、レイナのことが気にかかってるみたいだ。



洗顔歯磨きを済ませてからキッチンに向かうと、アルマが既に食堂で待機していた。

……ちょっと寝不足っぽく見えるな。あっちもよく眠れなかったのかな?



「おはよう、アルマ」


「……おはよう」


「すぐに朝ごはん作るから、待っててくれ」


「うん。……ヒカル」


「ん、なに?」


「レイナ、どうするかな」


「……本人が決めることだ。どんな選択でも、許してやってほしい」


「……分かってる。残るにしても、また一緒に行くにしても、後悔しない選択をしてほしい」


「だな。……さーて、朝ごはんは玉子焼きと生野菜サラダでも作るか」




一人分、いつもより少なめに作るだけで、どこか寂しさを感じてしまう。

やっぱ、レイナが居ないだけで喪失感デカいわー。

……フェリアンナさんも、レイナと別れてからこんな気持ちだったんだろうか。

またこんな気持ちにさせてしまうと考えると、すっごい罪悪感ががが……。


……ん、待てよ……?







朝食を済ませて、一段落してからフェリアンナさんとレイナの実家へ。

日が昇ってから大分経つけど、もう起きてるかな?


とか思ってたら、家の扉から二人が出てくるのが分かった。

さて、答えは出たかな?



「おはようっす!」


「おはよう、レイナ」



()()()()()調()()、レイナが元気よく挨拶をしてきた。

それを見守るフェリアンナさんの顔は、微笑みの中に少し寂しさが混じっているように見える。



「おはようございます、カジカワさん、アルマさん」


「おはようございます」


「…一晩話し合って、私もレイナもようやく気持ちに整理がつきました」


「……そうですか」



フェリアンナさんが、頭を深々と下げて、覚悟を決めたようにはっきりとした口調で口を開いた。



「ふつつかな娘ではありますが、どうか、今後もよろしくお願いします」


「……それで、よろしいのですね?」


「はい。レイナが、決めたことですから」



涙を流さないように、耐えながら必死に微笑みを崩さないようにしているのが見ていて痛々しい。

……宿を出る前にあのことに気付いて良かったわー。



「確かに、承りました。……ところで、こちらからも提案があるのですが、少々よろしいですか?」


「…はい、なんでしょうか?」



手を差し出しながら、言葉を続ける。



「ちょっと手をお借りしても?」


「……はい?」


「ええと、嫌ならなにか箒とかで私に間接的に触っていただくだけでもいいのですが……」


「い、いえ、別に嫌だとかそんな気持ちは……これでよろしいのですか?」


「はい、ありがとうございます。フェリアンナさんは、『ランドライナム』という町をご存じですか?」


「え? あ、はい。海がよく見える、港町だと聞いたことがありますが……?」




メニュー、『ランドライナム』まで、ファストトラベル。


≪了解≫




了解と表示がされた直後、周りの景色が静かな田舎町から、潮の香りと波の音が響く港町へと変わった。



「……え? あれ、え、ええええ!?」



それを見たフェリアンナさんが目を見開いて仰天している。無理もないか。



「ごらんの通り、ここは先ほど話していた港町、ランドライナムです」


「ど、ど、どうなってるんですか、これは……!?」


「どこまでレイナから聞いているか分かりませんが、私は一度訪れた街などに時間をかけずに移動することができるんですよ。仲間や接触している人も一緒にね」


「く、空間魔法かなにかでしょうか……?」


「まあ似たようなものです。で、一度訪れた街へすぐ行けるということは、当然ディオルゴも例外ではありません」



再びファストトラベルを使って、ディオルゴへ移動する。

急にまた景色が変わって困惑しているようだが、話を進めよう。



「レイナはまだ成人したてですし、不安で寂しい気持ちもよく分かります。そこで今後は、最低でも月に1度はレイナと一緒にお邪魔させていただこうと思うのですが、いかがでしょうか?」


「え、ええと、正直まだ理解が追いついていないのですが……。要するに、定期的に今みたいにこの町まで来ることができるということなのでしょうか……?」


「はい」



頭の中を整理しているのか、額を押さえながら少し悩んでから、口を開いた。



「……正直、願ってもいないお話です。レイナをここに縛り付けることなく、なおかつ時々でも身近にいてくれるのなら、こんなに嬉しいことはありません……!」


「そうですか、よかった。……あと、今起こったことはどうか他言無用でお願いします」


「承知いたしました。……しかし、レイナの言う通り、カジカワさんは常識というものを軽々と壊して、自分の理想を叶える方なのですね」


「……どんな内容の手紙だったのか、伺っても?」


「…ふふ、プライベートですので、どうかお控えください」



…きっと『あの人ヤバい。常識壊れる。アタマおかしい』とか書いてあったりして、ロクな内容じゃないんだろうなー。

自覚するくらいにはおかしいのは分かってますよ。ホントだよ。




さて、レイナのお袋さんとの再会も無事に済んだし、後は害獣退治といきますかね。

この近くで魔獣が巣を作ってて、巣から出てきた魔獣が町の周りの農場とかを荒らしてるって話だったが、さて。



お読みいただきありがとうございます。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
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