再会と、数年ぶりの晩御飯
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今日の晩御飯の材料を選んでる最中に、同じく買い物中のレイナのお袋さんとエンカウント。
……お袋さん、だよな? レイナとそっくりっていうか、ぶっちゃけ双子の姉妹だって言われても信じるレベルで見た目が若いんですが。
いや、よく見ると若干こっちの方が雰囲気が大人びてるか? 本当に微妙な差だけど。
「……すみません、あまりにレイナにそっくりだったもので。ええと、初めまして。あなたがレイナのお母さんで間違いないですか?」
「……はい。あの、失礼ですがレイナとはどういう―――」
「あ、カジカワさん見つけたっすー。相変わらず広いお店で見つけるのも一苦労だった……す……」
……そして、このタイミングである。
運が良いのか悪いのか、お袋さんに挨拶しているところで合流とか。もう心の準備がどうとか言ってる場合じゃないぞ。どうする?
二人とも目を見開いて、互いの顔を見つめている。
「……お…………おかあ、さん……」
「……レイナ………」
レイナとお袋さんが、手を広げながら同時に駆け寄る。
「お母さんっ……!!」
「……おかえり、レイナ……!」
それだけ声を上げて、涙を流しながら、親子は再会を果たした。
くしゃくしゃの顔で嬉し泣きをしながら抱き合い、互いの存在を確かめるように背中をさすっている。
「うぅ……! うえぇ…………!」
「……元気そうで、よかった……無事で、本当に、よかった……!」
うん。ちょっと予定が早まったけど無事に再会できてなによりだ。
…できれば食材屋の店内なんかじゃなくて、レイナの実家で再会してほしかった気持ちもあるが。
無粋なこと考えてるようだけど、周りの目がね…。温かい目で見守ってくれてるのが逆になんかこう……。
「………レイナが、二人…?」
あ、アルマもこちらを見つけて合流できたみたいだけど、抱き合ってるレイナ親子を見て困惑したように首を傾げている。
見た目そっくりだからしゃーない。俺もメニューさんが教えてくれなかったら分からなかっただろうな。
ひとしきり泣きじゃくった後に、ようやく落ち着いたらしく涙を拭いながらこちらを向く二人。
泣いているところを見られたからか、ちょっと恥ずかしそうだ。
「す、すみません。人目があるのに泣いてしまったりして」
「お気になさらず。無理もありませんよ」
「……小さいころからよくここにお母さんと一緒に来てたけど、こんな遅くに買い物してて再会することになるなんて思わなかった」
「いや今も小さいだろ」
「シャラップ!!」
「ふふ、本当に元気そうでなによりよ。……あと、これでも背は伸びてる方なんですよ? 最後に見た時はこれくらい小さかったんですから」
「いやいや、膝の下じゃん! そんな赤ん坊みたいなサイズじゃなかったでしょ!?」
ジョークを言えるくらいには、不安はなくなったみたいだな。
……ところで、レイナの口調がいつもとなんか違うんだが。お袋さんの前だからか?
多分、これが院長の口調がうつる前の、レイナの元々の口調だったんだろうな。
「改めて、初めまして。レイナの母のフェリアンナと申します。あなた方が、レイナからの手紙に書いてあったカジカワヒカルさんとアルマティナさんでしょうか?」
「はい、初めまして。レイナとパーティを組んでいる梶川光流と申します」
「同じく、アルマティナです。よろしくお願いします」
『ピピッ』
「……お二人に拾われて冒険者になったと書いてあって、どんな方々かと思っていたけどとても優しそうな人たちね」
「うん。もう色々とお世話になりっぱなしだよ。毎日食べるご飯だってカジカワさんが作ってくれてるんだよ?」
「まあ、あなたは冒険者なのに料理が作れるのですか?」
「レシピを見ながらですが、一応は」
口調が変わるだけで、大分印象が違って見えるな。
お袋さんとレイナも同様。もしも服と口調が同じだったらほぼ見分けがつかん……。
今日くらいは晩御飯をウチで食べていきなさいと誘われたので、ごちそうになることに。
ただ、急に3人+1羽分も作る量が増えたから、一人で作るのは大変なので俺も手伝うことに。
「あの、手伝っていただくのはありがたいのですが、よろしいのですか?」
「ええ、お邪魔にならないように1品ほど簡単なのを作るだけですので。こちらこそ私たちの分まで作らせてしまってすみません」
「いえ、いつもレイナがお世話になっていますもの。これくらいしかできなくて……」
「いやいや、充分すぎますよ。いつも男手の雑な料理ばかりですので、ありがたくごちそうになります」
「いえいえ、御謙遜を。とても手慣れてるじゃありませんか」
いえいえ、いえいえ、と互いに気遣い合う無限ループ。誰か止めろ。
レイナのお袋さんことフェリアンナさんは主菜とスープを作るようなので、俺は副菜と作り置きのプリンをデザートに出すことに。
ちなみにバニソイ豆はケルナ村にファストトラベルして購入・補給済み。しばらくバニラ味のお菓子を作るのには困らない。
畑を放置してしまったことを謝罪したが、気にすることないよーと軽く許してくれた。いてぇ、逆になんか心がいてぇ!
その挙句、バニソイ豆もタダで持ってってもいいよーとどこまでも親切な対応をされて、罪悪感に押しつぶされそうになりました。
結局買い取る形で収穫した豆の半分を受け取り、放置した畑は今後も村の人たちが見てくれるそうな。……時々俺も様子を見に来るとしよう。
さて、副菜ですがスピナ(ホウレンソウモドキ)とハムのニンニク炒めでも作るかな。
……副菜なのに動物性たんぱく質がモロに入ってるなー。まあ少量だし許容範囲内やろ。うん。
スピナの束の石突を少し切り取ってから根元に細かく切り込みを入れて、ボウルに溜めておいた水で揉み洗いして根元に残った泥を落とす。
スピナの束は4等分くらいにザックリ刻む。ハムは1cm幅くらいに切って、ガリク(ニンニクモドキ)はみじん切り。
植物油とガリクのみじん切りをフライパンで炒めて、香りがしてきたらハムを入れて軽く炒める。
次にスピナを全部ぶちこみ、酒を加えてから箸で上下を返しながら全体に熱が通るように炒め続ける。
熱が通ってしんなりしてきたら、ソイソ(醤油モドキ)とごま油を少量加えて、少し炒めたら出来上がり。
……すっごく簡単な料理しか作ってなくて、なんだか申し訳ない気分だ。
「もう1品作ったんですか? 随分早く作ってらっしゃいましたが、料理スキルをお持ちなのですか?」
「いえ、持ってないです。レシピを見ながらですので、スキルが無くとも簡単な料理ならなんとか、といった具合ですよ」
「スキル無しであの手際の良さなのですか……」
フェリアンナさんはこう言ってるけど、手際の良さならこの人の方がよっぽどいい。
俺の倍くらいのスピードで調理を進めているのを見ると、やっぱ自分は不器用なんだなーと思わざるを得ない。ちくせう。
数十分後、出来上がった料理を食卓に運ぶ。
フェリアさんはラムチョップの香草ソースかけに、トマトシチューを作ってくれていた。
もうね、どっちも匂いだけでものすごく食欲が刺激されてくるんですよ。超美味そう。
主菜のベーグルっぽいパンを乗せて、食事の準備が整った。
「ふわぁ……! お母さんのラムチョップ、何年ぶりだろう……!」
「レイナ、ちゃんと合掌してからですよ」
「う、うん」
「それでは、フェリアンナさんに感謝を込めて。……いただきます」
「カジカワさんにも感謝を。いただきます」
「「いただきます」」
『ピッ』
まずは主菜のラムチョップからいただきますか。
う、美味い……! ラム肉独得の臭みがまるで感じられない。むしろ香草のソースの風味が香ばしくてたまらん。
筋斬りなんかが丁寧で、お肉もよく火が通ってるのに柔らかい。そのへんの料理店の料理なんか目じゃない美味さだ。
「もぐもぐ、んん……! あー、お母さんの料理を食べてると、なんかやっと帰ってきたーって感じだよー」
「ふふ、おかわりもあるから、思う存分食べなさい」
「トマトシチューも、優しい味でじんわりくる。とても美味しいです」
「ありがとう。アルマさんも遠慮なさらず沢山食べてくださいね。……あら、このスピナの炒め物、私のと比べて一味違って美味しいわ」
「いえいえ、ごくごく簡単な料理ですよ。あの、失礼ですがよかったら後でレシピの交換をしませんか? このお肉もシチューも美味しくて美味しくて手が止まりません」
「あら、ありがとう。もちろんいいですよ」
『ピピッ! ピッ!』
「よく食べるヒヨコさんですね。気のせいか、食べた量がヒヨコさんの身体よりも多いような……」
「……深く考えないほうがよろしいかと」
不思議そうに、晩御飯を啄むヒヨ子を眺めるフェリアンナさん。
俺が言えた義理じゃないけど、コイツの食べた飯ってどこに消えてるんだろうか。謎だ。
最後に食後のデザートにプリンを出してふるまうと、レイナと瓜二つの表情で美味しそうに食べてくれた。
あんまりにも美味しそうに食べるもんだから、ついついストックを全部出してしまった。…バニソイ豆は補給できたし、また今度作ろう。
……それにしても、おかわり含めて3つ食べるところまで再現するとはさすが親子だ。
食休みの後にレシピの交換をしてもらって、料理のレパートリーが増えてホクホクだ。
向こうもプリンのレシピを受け取った時に目を輝かせていたけど、そんなに気に入ったんだろうか…。
さて、晩御飯も済んだし、今後の予定なんかの相談をしますか。
レイナもせっかく故郷に帰ってきたんだし、しばらくここでのんびりするのも悪くなさそうだ。
……害獣駆除の依頼も忘れてないよ。ホントだよ。
お読みいただきありがとうございます。
コミカルな描写が多いのは、シリアスに書こうとしても書く手が拒否反応起こしてしまうので、どうしてもギャグ交じりになってしまうのです。これがネタを挟まないと死んじゃう病か……。
アルマ視点のワーム戦は書いててホントに辛かったです。




